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待てど暮らせど、先回りしない限り未来はやってこない【ブックレビュー】
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  • 2018.04.10
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待てど暮らせど、先回りしない限り未来はやってこない【ブックレビュー】

神保慶政

映画監督

1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏や南アジアを担当。 海外と日本を往復する生活を送った後、映画製作を学び、2013年からフリーランスの映画監督として活動を開始。大阪市からの助成をもとに監督した初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」は2014年に劇場公開され、国内主要都市や海外の映画祭でも好評を得る。また、この映画がきっかけで2014年度第55回日本映画監督協会新人賞にノミネートされる。2016年、第一子の誕生を機に福岡に転居。アジアに活動の幅を広げ、2017年に韓国・釜山でオール韓国語、韓国人スタッフ・キャストで短編『憧れ』を監督。 現在、福岡と出身地の東京二カ所を拠点に、台湾・香港、イラン・シンガポールとの合作長編を準備中。

http://y-jimbo.com/index.html

これからは「国家」ではなく「民間」の時代

佐藤航陽『未来予測の技法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、解体されていく社会をそのまま傍観するのではなく、どのようにその再構築に加わることができるのかを私たちに教えてくれる。

著者は、人工知能を活用したアプリ・マネタイズ・プラットフォーム「Metaps」や、オンライン決済サービス「SPIKE」を主力事業としているメタップスの代表取締役社長である。シンガポールで創業し、中国、韓国、アメリカ、イギリスなど複数箇所に拠点を置き、冷静な視点で国内外の様々な変化に目を向けている。

たとえば、エストニアでは、大統領選挙をスマホから投票できるようにし、国家運営を大幅に効率化しています。選挙にかかるコストを削減できればその予算を他に回すことができますから、国の競争力を高めることにつながります。シンガポールも、政府が積極的に投資事業を行い、資源と領土の少なさを補ってアジアでは高い経済成長率を維持しています。(P26-27)

近代国家は権力を行使し、この100年だけでもさまざまな悲劇を生み出してきた。だが絶対であるように思われてきた国家の権力は徐々に解体され、民間の役割が重要になってきているというのが著者の主張だ。日本でも様々な分野の民営化の是非が議論されているが、国家のしていることに民間が関わる、もしくは民間にバトンタッチさせることが必要なのだと語る。

事業も社会も、先に何が起こるかわからなくて当たり前

変化は時に恐れや戸惑いを伴う。人生の節目で言えば、転職、結婚、移住、出産などは期待とともに不安がつきものだ。技術面で言えば、今まで人間がしていたことが機械化された時の戸惑いもある。筆者も、シンガポール・チャンギ空港での出国審査の時、パスポートをかざして自動ドアが開くだけという審査だったときは、思わずいつもは早足で通り抜ける出国審査を、ゆっくりと後ろを振り返りながら通り抜けたことがある。

国営事業が民営化される大きなメリットとして、「競争が発生する」ということがある。競争というと、弱肉強食の世界を思い浮かべてしまうかもしれない。しかし、ここでいう競争とは、緊張感を生み出し、良いクオリティのものを生み出す動機づけとなる、ポジティブな意味合いのものである。

世の中で「失敗すること」が当たり前になった時、負け組という言葉はなくなるのかもしれない。起業家たちの創業エピソードからも自明の通り、失敗は多くのことを教えてくれる。「わからない」「できない」「うまくいかない」という経験が奨励されるような社会を著者は志向しており、刻々と状況が変化していく投資の世界では、そのことは当たり前の前提であるという。

事業の成否は事前に予想できるというスタンスのプライベートエクイティが衰退し、そもそも予測など不可能という前提で投資するベンチャーキャピタルが大きなリターンを得る。この産業構造の変化は、市場の変化のスピードの向上を象徴しています。(P48)

会社組織も中央集権型から分散型へ移行する

では、私たちは何を頼りに重要な判断をしていけばよいのだろうか。著者は、物事の根底にあるパターンを知り、それにより「不確実性」を減らすことが可能なのだと主張する。今までの社会は斬新さや、技術の高さが重視されてきた。これからの社会はパターンを熟知した上で、様々な人や物をまとめることや、個々人にフィットする余白が保たれているサービスが価値を生み出すのだ。

さまざまな人々と会って話をしていると、性格も趣味も外見的な特徴も、多様性にあふれていると感じます。まさに「十人十色」です。しかし、何千万人におよぶユーザーを「まったく同じ条件下でどんな反応を見せるか」という観点で分析してみると、国や文化がまったく異なるにも関わらず、ヘビーユーザーの反応パターン、あるいは、離脱するユーザーの反応パターンがほとんど変わらないのです。 (P66)

著者は「会社」や「社員」など、当たり前と思われている概念を疑ってかかり、「中心型」と「分散型」と類型化し、近年の働き方がどのように変化してきたかの特徴を説明する。従来の本社から支社へ、上司から部下へという中央集権型ではなく、様々な中心、さまざまなリーダーが必要な社会になってきているのだ。

その人にしかできない仕事があれば、企業に所属しなくてもいくらでも仕事は降ってきます。「社員」というのもまた、テクノロジーにより解体されうる、過渡期のシステムにすぎないのです。(P146)

「オフィス」という絵を描くように言われたとすると、読者の皆さんはどのような絵を描くだろうか。おそらく多くの方は、人々が自分のデスクで仕事をしている光景を描くだろう。近年では「デスクがない」という状態、いわゆるフリーアドレス制が普及してきた。自分の特定の席が決まっておらず、デスクに自分のものは置けず、常に移動することが求められているようなシステムだ。

これも、オフィスや自分の席というものを中心にして仕事をするのではなく、自分自身を中心にして何かを広げていくことが求められているような風潮を表しているのではないだろうか。

未来はわからないからこそ、おもしろい

私たちにどのような未来が待っているのか。冒頭に述べたような、国の役割が民間に取って代わることの行き着く果てとして、著者はベーシック・インカムの例をあげている。北欧では高い税率のかわりに、ベーシック・インカムとはいかないまでも社会保障などが充実している。それを企業が行うという考え方だ。

Googleのサービスしか使ってはいけない、そしてあらゆるデータはGoogleに渡さなければいけないという条件で、Googleがユーザーに住居や食事を無料で提供することも将来的には十分考えられます。これはまさに企業によるベーシック・インカムに他なりません。(P441)

総じて、著者は画期的な何か、イノヴェーションを起こすことではなく、題名が示す通り「これから起こる何か」を予見して先回りすることの重要さに焦点をあてて話題を展開している。先回りしていく中で自分を変化させていくことの難しさ・楽しさを、本書は教えてくれる。

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