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サウナでトランスする「ととのう」とはどういうことか。温泉に詳しい医学博士に聞いてみた
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  • 2018.10.16
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サウナでトランスする「ととのう」とはどういうことか。温泉に詳しい医学博士に聞いてみた

Photo By Shutterstock

取材・文:石水典子

肩こりの改善や疲労回復といった健康効果が見込めるサウナ。愛好家の中にはサウナ室と水風呂を往復する「温冷交代浴」で得られる「ととのう」爽快感にハマる人も多い。

この「ととのう」という状態は、感覚的にはなんとなくわかるものの、具体的にどのようなメカニズムで起こっているのか、温泉を活用した健康増進にも精通する、医学博士の一石英一郎先生に見解を伺った。あわせて、集中力を向上させるサウナの適正な入浴の方法や、サウナ室でのマインドフルネス瞑想の効果についても紹介する。

一石英一郎

医学博士/国際医療福祉大学病院内科学教授

京都府立医科大学卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻修了。日本内科学会の指導医として医療現場の最前線を牽引する一方、伝統医療と西洋医療との知見の融合や統合医療研究、医工学研究、最新の遺伝学にも造詣が深い。温泉入浴指導員の資格も有するなど、温泉を活用した健康増進にも精通する。著書に『医者が教える最強の温泉習慣』(扶桑社)がある。

3つの脳内物質が人間を「ととのわせて」いる

サウナと水風呂を交互に入ると頭がスッキリし、身体の感覚が鋭敏になってトランスしたような状態になることがある。サウナ大使で漫画家のタナカカツキ氏はこの「ととのった」状態について、著書『サ道〜マンガで読むサウナ道〜(1)』(講談社)の中でこう記している。

サウナと水風呂を何度か往復したら身体をタオルでよく拭いて、イスに深く腰かけたりベンチに寝たりして休憩する。サウナの醍醐味はここからである。じーんと身体がしびれてきて、ディープリラックスの状態がやってくる。血流が身体中を駆け巡り脳に酸素がゆきわたる。やがて多幸感…サウナトランス

医学的な立場から見た「ととのう」メカニズムについて、医学博士で国際医療福祉大学病院内科学教授の一石英一郎氏は他の専門家による知見や各種医学論文・研究報告を引きながら、サウナ浴中に分泌される脳内ホルモンの存在を指摘する。

一石英一郎氏

「サウナ浴で、脳内ホルモンであるβ-エンドルフィンが分泌されることが確認されています。またネコやネズミなどの脊椎動物にも、水風呂に相当する10℃の寒冷浴や42℃の温熱刺激を行うことで、おなじく脳内ホルモンのオキシトシンや、神経伝達物質のセロトニンが上昇することが証明されています」

β-エンドルフィンには、ガン治療で使用されるモルヒネのような鎮痛作用や不安軽減作用があり、オキシトシンにはストレスを緩和し幸せな気分をもたらす効果が、セロトニンについてはうつ状態を改善し、精神を安定させる効果があるとされている。

ただし、こうしたβ-エンドルフィンの働きについて現在、人間の身体への鎮痛効果や疲労感の軽減は証明されているが、脳に及ぼす快楽については専門家の中でも仮説段階で研究途上の分野なのだそうだ。

「β-エンドルフィンはジョギングやマラソンで経験する『ランナーズハイ』を引き起こす物質として世界的に有名になりました。しかしその後の研究で脳まで到達しないことが分かり、その高揚感のメカニズムについて見解が混迷しています」(同氏)。

サウナ浴は瞑想に似た効果がある?

一種のトランス状態を起こすサウナ浴は、メンタルヘルスへの効果も期待できる。不眠や食欲不振の解消、ストレス解消といった心の安定に寄与することがわかっている。

「サウナ浴による精神安定作用や心理的効果は30年前からその可能性が報告されています。これについては近年、主に脳内セロトニン、オキシトシン、血中のβ-エンドルフィンの作用が、中枢神経や自律神経系に連動している事が次第に明らかになって来ています。免疫機能にも影響を与えるので、風邪を引きにくい体質になるかもしれません。これは昔からあるかんぷ摩擦や、修行僧が病魔退散、風邪防止になるとして滝行を行う伝承的な医療にも通じるかもしれません。現代医学ではこれを、神経系と内分泌系、免疫系の相関のメカニズムとして注目しています」(同氏)。

瞑想や座禅を行って雑念を捨てることで脳が活性化し、直感力や集中力、情報処理能力が増すといわれる「マインドフルネス瞑想」が最近日本でも話題だ。脳内ホルモンの分泌や、精神の安定をもたらすサウナ室で瞑想を行えば、より高い効果が得られるということは考えられるだろうか。

これについて一石氏は「私は座禅修行を受けた事がありその瞑想状態に入るプロセスについて体感した事があります。私の感覚では全く動けないし足はとても痛い。しかしそのような拘束疼痛環境下で何故か瞑想と呼べるような感覚に入っていくのです。ネズミによる実験でも、狭い所で動けなくして電気で痛みの刺激を与えると脳内セロトニンが大きく変動することが分かっています。またサウナの水風呂に相当する寒冷水浴を行う動物実験でも、脳内セロトニンの大きな変動が証明されています」と指摘する。

人は座禅することで脳内のセロトニンが上昇すると考えられている。つまり座禅のような拘束的な動作と痛みは、水風呂による水浴刺激と似たような脳内セロトニンの変動が起こっており、サウナ浴で座禅のような瞑想に近い状態を作り出せる可能性が考えられるという。

「サウナと水風呂の温冷交代浴によって分泌されるオキシトシン、β-エンドルフィンのいずれも瞑想状態に寄与している可能性が考えられます。これは一部の仏教やアーユルヴェーダにおいて、性行為と瞑想の関連性や協調性を教えるものがあり、それはオキシトシンやβ-エンドルフィンが同様に性行為を通じても分泌されることから、その作用に着目したものであることが想定できます」(同氏)。

温冷交代浴の注意点。「サウナ5分+水浴1分」を3セットまでに留めよう

ここまでサウナと水風呂の温冷交代浴のメリットを紹介してきたものの、注意したいのは温冷交代浴が身体に負荷のかかる入浴法であるということだ。サウナは高血圧や心疾患をもつ人の慎重な利用が求められているが、健康で血圧が正常であっても、無茶な入り方で気分が悪くなることがある。力が入らずクラクラとして、息苦しさなどを感じるもので、前出のタナカ氏はこれを「バッドトリップ」と呼んでいる。

この「バッドトリップ」については、「急激に血圧が変化する『血圧サージ』や『ヒートショック現象』によるものである可能性が高いですね。血圧の急激な低下により、各臓器が酸欠になり機能不全に陥ります。脈拍が上がって心臓は苦しく、不快感や吐き気を感じ、朦朧として意識も薄れている状態かもしれません」(同氏)と説明する。

温冷交代浴には血管のマッサージ作用によって脳内の酸素や栄養、老廃物などの新陳代謝が促進されるメリットがある一方で、血管の急激な伸縮が起こることを考慮する必要がある。

「中高年や高齢の方は血管が破れたり、血管の血栓がはがれて詰まる可能性があります。脳卒中や心筋梗塞のリスクも高まりますので、サウナと水風呂の間にかけ湯を行うなど急激な温度変化を避けた方がよいでしょう。かけ湯は入浴中のエチケットにもなりますよ」(同氏)。

一石氏によると「サウナ5分、水浴1分でこれを3セット以内にする」ことが、温冷交代浴の安全で適正なサイクルとなる。血圧が正常であっても体調が思わしくない場合は無理に行わないようにしよう。

さまざまな効果が指摘されるサウナ。「ととのう」状態の医学根拠をすべて説明することはまだ難しいが、サウナ浴が私たちの脳の働きを活性化させ、能力を引き出す力はおおいに期待できそうだ。


【出典】
Oxytocin mediates stress-induced analgesia in adult mice.
Robinson DA, et al. J Physiol. 2002.

Oxytocin release via activation of TRPM2 and CD38 in the hypothalamus during hyperthermia in mice: Implication for autism spectrum disorder.
Review article
Higashida H, et al. Neurochem Int. 2018.

That warm fuzzy feeling: brain serotonergic neurons and the regulation of emotion.
Review article
Lowry CA, et al. J Psychopharmacol. 2009.

The effect of physical therapy on beta-endorphin levels.
Review article
Bender T, et al. Eur J Appl Physiol. 2007.

The sauna and sauna bathing habits--a psychoanalytic point of view.
Sorri P. Ann Clin Res. 1988.

サウナ入浴法の検討 : 入浴時間の設定が生体諸機能に及ぼす影響
体力科學  体力科學 24(3), 100-107, 1975-09-01  日本体力医学会

Involvement of serotonergic receptor subtypes in the production of antinociception by psychological stress in mice.
Tokuyama S, et al. Jpn J Pharmacol. 1993.

Prior cold water swim stress alters immobility in the forced swim test and associated activation of serotonergic neurons in the rat dorsal raphe nucleus.
Drugan RC, et al. Neuroscience. 2013.

拘束ストレスラットでの鍼通電刺激の脳内モノアミンに及ぼす影響
加藤 麦
明治鍼灸医学 27巻  p27-45(2000)

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