FINDERS

『エルデンリング』はなぜ1200万本売れたのか。「難しさ」もシェアするSNS時代のゲーム論【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(13)
  • CULTURE
  • 2022.03.19
  • Twitter
  • facebook
  • LINE
  • はてブ!

『エルデンリング』はなぜ1200万本売れたのか。「難しさ」もシェアするSNS時代のゲーム論【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(13)

「難しいゲーム」と「情報共有」のシナジー

このような「SNSでのバズに期待する流れ」にあって、実は『エルデンリング』には直接的に「シェアさせる要素」がほとんどない。今では多くのゲームに搭載される「フォトモード」もないし、ダークファンタジーの重厚な世界観は(筆者にとっては最高に美しいが)インスタにアップして「映える世界」でもない。

さらに、『エルデンリング』は現代の大作ゲームとしては難易度がとても高い。本作には各地に無数のボスが待ち構えているのだが、その多くがプレイヤーを殺す手練手管に長けており、故にプレイヤーは何度も死に、心が折れそうになる。特に序盤の難敵「忌み鬼マルギット」は本作の登竜門として知られ、多くのプレイヤーを屠ってきたことで話題となった。

このように決して簡単とは言えない本作だが、その分、非常に多様かつ自由な攻略方法が用意されているのも特徴だ。特に本作は従来のリニアな進行から、オープンフィールド(≒オープンワールド)といって、広大なマップの中から自由にルートを編み出すことも可能な構造となっている。よって、どうしても倒せないボスはスルーすることができたり、簡単にキャラクターのレベルを上げたり、強力な武器を得ることができる。すると、あっさりと難敵を打開できたりする。

かくして自然にSNSに溢れるのが、膨大な攻略情報だ。どの敵にはどのように対処すればいいとか、この場所にこんな強いアイテムがあったなど、攻略において有用な情報がSNSでは出回る。難しい場面で詰んでいるプレイヤーほど、貪るように情報を集め、さらに拡散してくれる。

本作は確かに難しい。だがその分、打開するための手段も豊富にある。そのため、難所や難敵など「共通の敵」を見出したプレイヤー同士で盛り上がり、彼らを打倒するには具体的にどうすればいいのかと攻略情報を共有する愉しみが見出せる。さらに無関係なプレイヤーも、こうしたプレイヤー同士の議論を見聞きすることで断片的に作品を知り、自分もこの議論に参加したいと考える。

このように、『エルデンリング』はその難易度と自由度が相まって、結果的にプレイヤーが思わず情報を交換したり、攻略を議論するような「シェアしたくなる魅力」に満ちている。これがSNS上で『エルデンリング』が話題を作り出せたきっかけの一つだ。

ゲームプレイそのものが「物語」

もう一つ、『エルデンリング』の魅力といえば、あのアメリカを代表する作家ジョージ・R・R・マーティンも手掛けたストーリーだ。2019年に先駆けて公開された「デビュートレーラー」では、真っ先にディレクターの「HIDETAKA MIYAZAKI(宮崎英高)」と共に「and」と「GEORGE R. R. MARTIN」の名前が記載されるなど、本作の宣伝にもマーティンの名は一役買った。

しかし、本作のストーリーをマーティンが直接描いたわけでは、実はない。マーティンは作品の前日譚となる「神話」を描き、それを読み込んだ宮崎らフロムのスタッフが、本作の舞台を描いている。

具体的には、マーティンは「エルデンリング」に制御される超自然的な世界を描き、宮崎らはその「エルデンリング」が砕かれたことで、崩壊へと突き進んでいく世界をゲームの舞台としている。宮崎は冗談めかして、「マーティンは自分が作ったキャラクターたちの末路を知ってショックを受けるかも」とも語っている。

従ってプレイヤーは、マーティンが描く豪華絢爛な神話から一転、ポストアポカリプス的な世界を冒険する。この世界にはそれらしい大義も、もっともらしい目標もない。よって本作のストーリーはキャラクターの僅かな台詞、膨大なアイテムの説明文など、断片的に語られていくのみであり、プレイヤーは自身の選択と感性によって物語を紡いでいく。

一見すると、カットシーンなどをリッチに盛り込んだ現代の大作ゲームと比べれば「ストーリーが薄い・弱い」と考えられる本作だが、実際にはマーティンの描く神話に加え、多様な信仰や文化が混ざる重層的な群像劇として鑑みれば、本作の物語は質・量ともに膨大だ。

それでもあえて、本作が断片的な語り方を好むのは、ゲーム体験と共にプレイヤー自身で物語を発見する喜びを尊重しているからだろう。

つまり、「エルデンリング」が砕かれ、理性を失われた過酷な世界、残酷な運命といった「客観的な物語」と、プレイヤー自身が体験する強大な敵に何度も蹂躙され、その度に挫折し、冒険を繰り返して強くなり、やがてその強大な敵に復讐するといった「主観的な物語」が重なり、画面内のキャラクターではなく画面の前にいるプレイヤー自身が、今まさに冒険をしているのだというロールプレイに繋がる。

具体的には、この過酷な世界でどんな壁にぶつかり、どんな対策を打ち立て、そして乗り越えていったのか。そこでどんな人物と語り、どんな武具を手に入れていったのか。全てが自分ごととして吸収され、それ自体がストーリーとなる。その万人が紡ぐ、万通りのストーリーがSNSで共有され、それぞれが興味深いものとして語られるのである。

このような「自分ごと化できるストーリー」が最も顕著に現れるのが、今まさに話題となっているYouTubeやTwitchでのゲーム実況だ。今や「大手」と呼ばれる、登録者100万人を超えの国内外の実況者、配信者の多くが『エルデンリング』をプレイし、その様子を外部に配信している。例えば大手配信サイトTwitchでは『エルデンリング』のタグは33万人にフォローされており、数あるゲームタイトルの中でも特に配信が盛り上がった作品だ。

断っておくとゲーム実況がどこまでマーケティングに影響を及ぼすのか、その影響がポジティブかネガティブかは、作品や分析によって変わる。だが『エルデンリング』はまさにここで述べた、恐ろしくも美しい世界を冒険し、強大なボスと何度も戦い、作中の人物たちとの絆を深めていく過程に、実況者ごとに発見や感情が反映されていくことで、実況ごとに物語が築かれていく。

これはまさに、SNS時代において求められる「個人の物語」の風潮と奇跡的にマッチしている。

今、SNSや動画サイトを通じてそれぞれが自分の物語を語り、企業においても「ブランドストーリー」が求められるようになった。『エルデンリング』の物語とゲームプレイの重畳は、まさにSNS時代において求められる「個人の物語」を、極めて独自かつ高度に達成しうるのである。

次ページ:アーケード時代のコミュニケーションと非同期型ネットワークに見る、ヒットの予見

< 1 2 3 >
  • Twitter
  • facebook
  • LINE
  • はてブ!
  • FINDERS_twitter

SERIES

  • 大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記
  • あたらしい意識高い系をはじめよう|倉本圭造|経営コンサルタント・経済思想家
  • ゲームジャーナル・クロッシング|Jini|ゲームジャーナリスト
  • 高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」|高須正和|Nico-Tech Shenzhen Co-Founder / スイッチサイエンス Global Business Development
  • 阿曽山大噴火のクレージー裁判傍聴|阿曽山大噴火|芸人/裁判ウォッチャー
  • 幻想と創造の大国、アメリカ