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元オウム・上祐氏絶賛コメントにみる「見たいものしか見ない」人々と、たけし軍団としてオウムを語る困難【連載】藝人春秋FINDERS(3)
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  • 2021.12.16
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元オウム・上祐氏絶賛コメントにみる「見たいものしか見ない」人々と、たけし軍団としてオウムを語る困難【連載】藝人春秋FINDERS(3)

Illustration by Makoto Muranaka

水道橋博士

お笑い芸人

1962年岡山県生れ。ビートたけしに憧れ上京するも、進学した明治大学を4日で中退。弟子入り後、浅草フランス座での地獄の住み込み生活を経て、87年に玉袋筋太郎と漫才コンビ・浅草キッドを結成。90年のテレビ朝日『ザ・テレビ演芸』で10週連続勝ち抜き、92年、テレビ東京『浅草橋ヤング洋品店』で人気を博す。幅広い見識と行動力は芸能界にとどまらず、守備範囲はスポーツ界・政界・財界にまで及ぶ。

「街録ch」への出演。そして元オウム・上祐史浩との対談へ

『街録ch〜あなたの人生、教えて下さい〜』という人気YouTubeチャンネルがある。ちなみに「街録」はテレビ業界用語で「街頭録音」の略だ。既に登録者数が50万人を超える大人気チャンネルではあるが、2020年3月に開設されたばかりで、まだ歴史は浅い。

1987年生まれのフリーランスのテレビディレクターの三谷三四郎が街頭へ出て、ただひたすらインタビューをするというシンプルな構成だが「あなたの人生、教えて下さい」というサブタイトルからも分かる通り、そのひとの生い立ちや過酷な育ちや、時には犯罪歴など、かなりネガティブなことすらも、本人が赤裸々に語るのが目を引く。

一般人でも、かなり“理由”(わけ)ありで特殊な環境にあり、地上波テレビのコンプライアンスでは登場できないような人物が続々と登場するのが特徴とも言える。そこでは武勇伝、ド貧乏話、暴露系下ネタ、非合法的な話も多く、三谷はテレビではすでにタブーになってしまったアウトローや下世話な話にあえて執拗に食いついていく。そして素人ばかりではなく、2020年9月には三谷と旧知のタレント東野幸治が出演した。それが転機となり、吉本芸人の出演が解禁され、一般人ばかりではなくタレントも次々と出演するようになり、番組の知名度は急上昇した。

その後、ボクにも出演依頼があり、今年の5月6日──。新中野駅前の杉山公園で三谷と待ち合わせ「街録ch」デビューを果たした。初対面であったこの時の収録でボクが気になったのは、インタビュアーが下調べを一切しないというスタイルだった。それは両義的な意味で印象的だった。

ボクは25歳年下の三谷Dに、例えば1986年の「ビートたけしフライデー襲撃事件」などを、正確とは言えないまま一から語らなければならなかった。また彼が事前に何も知らないからこそ、個人情報的なデリケートな話題にもズケズケと土足で踏み込むようなところもあり、忖度がまるで無い、かつて一度も味わったことがない新鮮なインタビュー体験に相成った。

ボクの芸人としての指針は「自らが晒すことによって他人を照らす」だ。聞かれて困ることなど何も無い。また、この回はノーギャラ出演であり事務所を一切通していなかったので撮影後は全てがノータッチだった。この日の収録は、その後2本の動画に分けてYouTubeにアップされた。

一本目、動画のサムネイルに記されたタイトル(編註:動画のタイトルではなく、サムネイル上に記載されたもの)は、「フライデー事件の最中……免許証偽装で逮捕、20年 ダウンタウン共演NGの訳」。

2本目は、「DHC会長差別発言追求で地上波テレビ追放……幻冬舎・箕輪に歯折られ鬱病」。

それぞれに40万回前後の再生回数なので数字としては上出来だろう。

しかし、YouTubeの常ではあるが、サムネイルのタイトルは扇情的で、もちろんボクが付けているわけではないので、初めて見たときには流石に「なかなかだなぁ……」と唸った(ちなみに「免許証偽装で逮捕」ではなくて、正確に言えば「変装免許証事件で書類送検、罰金刑が確定して前科一犯に」が正しい)。

そして「街録ch」の新企画として『あわせたい2人』が立ち上がり、その候補としてボクに元オウム真理教信者の上祐史浩と会って欲しいという依頼があった。

蘇る「ああ言えば上祐」。事件の「風化」と「懐古」に抗うために

最初のオファーがあった際に一度は断った。今までにも何度か、上祐氏との対談は他の媒体からもオファーがあったからだ。上祐氏は1962年生まれの同じ歳で、同時代を過ごし、しかも、ボクの中学の同級生にオウム信者がおり、死刑囚となり、死刑が執行されていた。この話は何度も媒体に書いている。

出演依頼の後、調べたところ、上祐史浩氏はすでに単独で5月に「街録ch」に出演していた。その再生回数は100万回を超えており、街録chのなかでも記録的上位だ。

コメント欄の多くの視聴者が、上祐の罪の懺悔を受け止め、尊師であった麻原彰晃死刑囚からの洗脳が解けたことを認めている。そして、彼の説明能力や地頭を称賛するコメントに溢れかえっていた。しかし、ボクが映像を観て思った感想は、純粋に聞き手である三谷は若すぎて無知であるが故に上祐氏に一方的に話をさせ続けていると感じた。同時代を生きたひとなら、誰しもが“詭弁の天才”であった、あの頃の「ああ言えば上祐」が蘇ったはずなのだ。

再度のオファーが有り、熟考した末に対談を引き受けたのは、三谷ではなくボクが聞き手になるからだ。そして、ボクの中学時代の同級生がオウムに居たように、彼の高校時代の同級生に、ボクが親しい同学年の映画評論家の町山智浩が居るということが判明したので、そのことを訊きたいという動機があった。全員が1962年生まれだ。

1995年にオウム真理教信者が主犯となる地下鉄サリン事件が起きた。この社会的な大事件に絡んで、ボクらもさまざまな漫才のネタを作ったが、基本的にいまだに苦しむ被害者がいる戦後最大のテロ犯罪事件であることは大前提だ。

この事件が過去として語られることがあっても、事件を風化させることも、上祐が脱会したからと言って朗々と語ることにも、道義的にも心理的な抵抗がある。

対談日は9月29日──。

収録場所はいつものような公園ではなく、大久保駅前のレンタルスタジオに決まった。前日までに、自宅にあるオウム関連資料は当ったが、まだ物足らず、前日には中野中央図書館に赴いた。受付でオウム事件の関連書籍は200冊を超えていることがわかり、そのなかでよりすぐり貸し出し上限の15冊を持ち帰った。

それでも、まだ何かが欠けているという思いがあり、上祐史浩本人の著作である『17年目の告白』(扶桑社・2012年)を求めて、杉並成田図書館へ赴いた。出版社の説明にはこのように書いている。

この本は、2012年―平田信、菊地直子、高橋克也とオウム特別手配犯が全員逮捕され、オウム事件にひとつの区切りがついた。それを受け、麻原の側近として、教団のスポークスマンとして世間を騒がせた上祐史浩氏が今まで語れなかった真実を告白。オウム真理教はいかにして地下鉄サリン事件を引き起こし、信者たちはなぜ麻原を盲信してしまったのか。その内実を綴った一冊です。

この本に「検証」として上祐氏と対談している現・参議院議員の有田芳生氏は、事件当時はオウム追求の急先鋒のジャーナリストだった。事件当時からマスコミに何度も対談の席を設けられたが、地下鉄サリン事件には無関係とはいえ、道義的に上祐を許すことが出来ず同席しなかったが、17年の月日を経て、ようやく語り合うことになった趣旨が述べられている。

ほぼ徹夜で関連資料を読み、『17年目の告白』は完読して、メモと年表を作った。

対談当日、現場に入ると、三谷だけではなくてカメラマンが数人いた。皆、若者だった。上祐氏がスタジオに入る前なので、彼らに向かってボクが、「今、貴方達がやっている撮影はボクからすると危険極まりないものです。オウムの地下鉄サリン事件は今も被害者が苦しむ犯罪事件です。昔を懐古したり、なごやかな話にしてはなりません。ボクは職業がお笑いだから客観的事実として、当時のネタも再現するし、それはお笑いとしての事件への『昇華』です。でも、この現場では絶対に笑わないでください。ここで上祐さんが居る前で笑う話ではない。それから上祐さんの言うことにも割ってひとつひとつ入っていきますので……」と概ねこのようなことを宣言した。三谷を含め、全員が頷いた。上祐氏がスタジオに入ってから、同じ趣旨を上祐氏にも伝えた。

そして、和やかさなど一切無い緊張感のある対談が始まった。

人は見たいものしか見ない

一部始終は、映像を見ていただくことにして……。

ボクのことを対談時点まで知らなかったこと。そして、町山智浩氏の存在を今もって知らないことには、正直驚いた。「人は見たいものしか見ない」は、今回の対談で何度も引用される上祐氏のフレーズであったが、その言葉は上祐氏にお返ししておきたい。

動画が公開されると、コメント欄はボクに対して優しくない書き込みが続いた。そして案の定、心配になるほどの上祐代表への礼賛が書かれている。異例に感じた三谷側は、コメント欄の最上部の固定に今もこの一文を貼り付けてある。

博士がオウムの外からの視点を捕捉しつつ自らの弟子入り体験と相対する事により、いつでもどこでも起こりうる問題であるという認識で上祐の話を聞いているから成立している対談なのに、コメント書く人には伝わっていなくて驚き

この処置はボクには救いであるし、三谷氏はわかってくれていると信じるが、ボク側の事情を言えば……。

まず、オウム真理教について語ることが、如何にたけし軍団に於いてタブーであるかは、その凶悪性が明らかになる前に、師匠ビートたけしが麻原彰晃と対談をしていた事実があり、評論家の江川紹子氏は事あるごとにこの点を批判している。

どれだけの若者が当時、影響を受けたかと。しかし一方で、それは師匠のみならず、麻原を扱った当時のテレビ、雑誌を含むメディア全体、ジャーナリスト全員への咎でもあったはずだ。このような批判のベースメントが自分の師匠にあるにも関わらず、ボクがこの対談オファーを受けること、不必要にオウム問題に関わることの是非、この心の葛藤がまずひと悶着であるし、そしてひとたび上祐代表と対面すれば、ボクは個人史、同時代史として「入信と弟子入り」の類似性のようなものを取っ掛かりに対話を構築せざるを得ないに決まっているのが自分自身でよく分かっている。

上祐氏を、そして元教団を否定しつつ、対談としてはスイングしなければならないジレンマが待っている。

そもそも、帰依尊崇の熱量に類似性があるとは言え、「オウムとたけし軍団なんかぜんぜん違う」という動画コメント欄の書き込みも至極まっとうである。たけし軍団は、芸能の一門として、任侠団体的な命令絶対性とは通じる余地はあるが、人を殺めるような宗教的な司令への盲従性もなければ、そもそも我が尊師がそんなことを決して言わないのは、弟子の我々が一番理解している。

そしてボク個人については、中学の同級生がオウム信者となり、結果、死刑囚となったという大きな棘がある。映像でも語っているが、長らくそのことを、ある時は漫才のネタに、ある時は執筆作品の話題にしてきたが、麻原らと共に彼の死刑が執行され、彼の家族も区切りとなり(決して被害者ご遺族に終わりはないが)、何より事あるごとに同校の出身であることを蒸し返される学校教職員、OB、在校生、受験生にも、もう迷惑な話だろう。

ボク自身は、彼の死刑執行を契機にもうこれ以上、公に母校の同級生ネタを封印しようかと、昨今の「忘れられる権利」の台頭も勘案している(無論、これらはTPOによるので言質とはしないで欲しいが……)。

確かに、対談で上祐代表の話を何度も遮ったのは良くなかったかも知れない。とりわけ、教団内部の状況など彼自身しか知り得ないファクトについて伝聞文字情報をもとに、それを断定的事実として割って入るのは良しとは言えまい(逆にお笑いマニアがボクの前でビートたけしエピソードをさも見てきたかのように語ったら失笑ものであるのと同じことだ)。

しかし、上祐史浩ワンマンショーになりがちな危険性を逐一摘んでいかなければならなかったボクの立場もある。『ひかりの輪』は、オウム後継団体の中では最も麻原信仰から脱し、元信者の洗脳解除の役割や、被害者への賠償金の支払いも担っている穏健派である一方で、炭疽菌テロの開発に携わり、それが失敗に終わったがために、彼は死刑を免れているだけだという側面もあるだろう。上祐氏が、生かされたからこそ、二度と過ちを繰り返さないための重大な責任を負った語り部であることは誰もが理解するところだ。しかも、上祐氏は圧倒的に頭が切れ、ディベートの達人なのだ。そこに、その彼の我田引水に対峙しなければならない重大な責務がボクの側にはあの日あったのだ。

彼のオウム時代の広報活動をリアルタイムで見てきた世代は、理路整然であるが故の危険性を即座に見通すことが当たり前にできるが、そうでない世代に警戒心を伝えるには、対談下手と言われようが、あれ以上の方法がなかった。

ただしその結果、ますますもって、恐らく若い閲覧者たちのコメントが総じて「博士邪魔、上祐の話もっと聞きたい」化してしまったのは正直忸怩たる思いだ……。

一方で、上祐代表の言う「見たいものしか見ない」世の中という指摘は正しく、警鐘でもある。人々がネットやSNSだけで情報を取り始めると保守でもリベラルでも、右左に関係なくエコーチェンバー化が発生する。つまり、陰謀論に染まりやすく、邪悪な新興宗教に傾倒し易くなる下地が今の世の中においてすでに完成されすぎている。

動画内でボクたちが、麻原彰晃現象と陰謀論とトランプ元大統領の類似性を説明したが、そこへの異論も理解する。何故ならアメリカには選挙もある、ジャーナリズムもある、麻原のように独裁はできない。むしろそこで名前を出すべきは側近粛清と核開発を繰り返す某半島や、民族浄化政策の疑いがある巨大国の〝尊師〟ではないかという批判も理解する。

それでも、「水道橋博士の話が邪魔」というコメントを書き込む前に、そのこと自体が、上祐代表の言う「見たいものしか見ない」世の中に自分が染まっていることを悟って欲しいのだ。

あの映像を見た若い人にこそ、この文章に辿りついて読んで欲しい。

そして、未来を送るべき、「あなたの人生、教えて下さい」──。

もう一度、自分の見識と見聞を広げて、オウム事件とは何かをFINDして欲しい。


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