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「日本の伝統が破壊される」「なぜ反対か意味不明」噛み合わない夫婦別姓問題、改革派にあと一歩「アップデート」して欲しい理由【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(22)
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  • 2021.09.24
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「日本の伝統が破壊される」「なぜ反対か意味不明」噛み合わない夫婦別姓問題、改革派にあと一歩「アップデート」して欲しい理由【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(22)

5:オードリー・タンの深い知恵に学ぼう

以前詳しく述べた記事があるのでそちらを読んでほしいのですが、台湾で同性婚が導入された時、台湾では最初改革派勢力が無理やり通そうとしたんですが否決されたため、オードリー・タン周辺が「保守派を警戒させない魔術的な提案」をしてスルリと通したことがあったんですね。

中国語の「婚姻」の「婚」はパーソナルなものであり、「姻」は一族同士が結びつくという意味がある

ので、だからこそ

「婚ではあるが姻ではない」という別立ての制度(結婚不結姻)

という「建前」を作った事で法案を通したそうです。

中華文明に属する台湾の「保守派」にとって「家」という制度は非常に重要なものであり、そこにノイズを入れたくない…という反発があった為に、そこを巧妙に回避するような魔術的な提案をしたんですね。

これは「保守派の世界観で彼ら保守派が一番警戒している部分を侵す存在ではない」ということを「保守派の世界観の上で理解できる言葉と用法」で「保守派の文脈に乗っかる形で」展開したところがメチャクチャ魔術的にすごい配慮だったと思うわけです。

そして同時に、上記記事には「改革派」の人からの批判が殺到したんですが、それを受けて追加で書いたこの記事で触れたように、その「改革派」の人たちはオードリー・タン周辺の「魔術的な知恵」のことについてほとんど意識してないように見えるところがさらに「魔術的」な知恵だと感心しました。

同じように、日本における保守派が警戒するのは「戸籍」でありそこと紐付けられた「天皇制」であり、そしてそれが生み出す

アメリカ的文化ではないがしろにされがちなタイプの人も“一員として”尊重する連帯感の源

のようなものである…ということを考えてそこを尊重していく姿勢を「改革派」が見せれば、選択的夫婦別姓や、その後は同性婚や外国人差別問題など…の課題も解決が見えてくるでしょう。

戸籍のようなものはちょっと「個人主義的な人」から見ると「めんどう」なものですが、しかしこういうのは網羅性があることでやっと意味を持つ制度であることは尊重されるべきだと思います。

この記事冒頭で紹介したNewsPicksの動画では、今後徹底的に通称使用が認められて不具合が解消されたなら、最後はもう戸籍にファミリーネームなんていらないんじゃないか…という気持ちになると浜田氏が述べたのに対して、片山氏が「実際の使用には全然問題がなくなっても最後の最後で書類上はソレを残しておきたいのが保守派の譲れない線なのだ」という話をされていました。

片山氏は夫婦別姓を使用したい人向けに、戸籍にも「通称」を書き込む法改正について検討しているそうで、浜田氏は「そこまで認めるなら別姓認めればいいのにって思っちゃいませんか?」と笑っていましたが、しかしそこで「笑っちゃうほどのこだわり」が理屈を超えたものとして存在すること、そしてそれが日本社会の「保守派」にとってはものすごく重要なことであり、「アメリカならどんどんザツな扱いになっていく」ような辺境的な領域までちゃんと「日本的なクオリティを行き渡らせる」ために重要な紐帯の源泉であることなどを、あと一歩尊重する気持ちがあってもいいのではないでしょうか。

そして、「改革派」の人はその保守派の「笑ってしまうほどの理屈を超えたこだわり」に対しては譲るからこそ、「現実的な運用における不具合」は徹底的に解消してもらうからな!という形で仁義を切らせる…そういう「手打ち」のあり方こそ、この幸薄い宗教論争を延々続けるて疲弊することがない解決のあり方ではないでしょうか。

総裁選候補の高市氏は総務大臣時代に1123件もの通称使用上の問題点について法改正を一気に行い、そしてもし首相になったらもっと徹底的にやるとも言っていました。この流れは、高市氏よりは選択的別姓制度に前向きな他の三氏誰になっても似た動きが起こるでしょう。

改革派が問題視する「パスポートの通称併記は海外で理解されてないので身分証確認時にトラブルが頻発している」ことなどについても、もういっそ通称を「メイン」に表示して海外で誤解を生まないような表記にするとかいった徹底的な問題解決を、「保守派が戸籍にこだわる部分」を容認する代わりに引き出していくことができるはずです。

そして、「手続きの簡単さ」も大事ですよね。結婚関係でのいろいろな金融機関その他への届け出を、せっかく作ったマイナンバーを使ってネットで一括処理してくれるようにできればいいですね。

もちろんそれらが実現する過程で、改革派がギリギリまで「妥協しないぞ」と突き上げ続けることの意味だってあったでしょうし、今後も「ちゃんと徹底的に使いやすい制度」になるまで批判し続けることも大事ですが、しかし最終的な解決という意味では、「宗教レベルの論争」で延々と揉め続けるよりも、「保守派側の最終防衛ラインは認めてやるんだから、徹底的に使いやすい制度にしろよ!」という「手打ち」に持ち込む方が得策ではないでしょうか。

私としても、将来的にはともかくとりあえず直近で言えば、その片山氏の言うように

とりあえず「紙ペラ一枚のこと(それでも一応最後まで残っているもの)」

にしていくことが、アメリカ社会で起きているように、そしてマクロに見ればタリバンや中国政府の強権が問題になってしまうように、社会が果てしなく二派に分断されてちょっとした事でもバックラッシュが起きる危険性と隣合わせになる…ようなことがないようにするための、「人類社会における欧米のシェアが下がり続ける時代」の「これからの改革のあるべき姿」だと考えています。

そういう「どちらも尊重する日本のあり方」こそが、「欧米文明側の事情もわかるし、欧米文明にのしかかられている側の非欧米社会の気持ちもわかる」特殊な国として、これからの「人類社会」にとても重要な価値を持ち始めるでしょう。

「欧米文明の理想を振りかざす勢力」が、一度そのあり方は「欧米文明中心的な差別思考」を含んでいるのではないか?と毎回自省することで、「ローカル社会の保守派」を完全に「敵」に追いやってしまわずに、その土地土地の伝統と欧米的理想を“地続き”に溶け合わせる新しい社会運営を生み出し、果てしなく激化する米中冷戦の時代のど真ん中の希望となっていく未来を私は描いています。

感想やご意見などは、私のウェブサイトのメール投稿フォームからか、私のツイッターにどうぞ。

この連載の趣旨に興味を持たれた方は、コロナ以前に書いた本ではありますが、単なる極論同士の罵り合いに陥らず、「みんなで豊かになる」という大目標に向かって適切な社会運営・経済運営を行っていくにはどういうことを考える必要があるのか?という視点から書いた、「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」をお読みいただければと思います(Kindleアンリミテッド登録者は無料で読めます)。「経営コンサルタント」的な視点と、「思想家」的な大きな捉え返しを往復することで、無内容な「日本ダメ」VS「日本スゴイ」論的な罵り合いを超えるあたらしい視点を提示する本となっています。

連載は不定期なので、更新情報は私のツイッターをフォローいただければと思います。


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