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「日本の伝統が破壊される」「なぜ反対か意味不明」噛み合わない夫婦別姓問題、改革派にあと一歩「アップデート」して欲しい理由【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(22)
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  • 2021.09.24
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「日本の伝統が破壊される」「なぜ反対か意味不明」噛み合わない夫婦別姓問題、改革派にあと一歩「アップデート」して欲しい理由【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(22)

3:なんでそんな面倒なことを!と思うかもしれないが…

Photo by Shutterstock

こういう話をすると、「なんでそんな面倒なことを!」と嫌がる人も多いです。

「欧米じゃあ当たり前の事がなぜ日本でできないのか!?」と憤る気持ちもわかる。

しかしね、「欧米じゃ当たり前」って言うけど、アメリカではその「意識高い系の改革」を無理やり推し進めた結果、それに大反発する勢力で国が二分されてしまって、国会議事堂が占拠されるほどの事態になっていますよね?

そういう人たちのことを全部「馬鹿だよねえ」で済ませてたら、結局最後は「民主主義なんてもうやめちゃえばいい。エリートが全部決める社会にすればいい」っていう方向に行くのを止められなくなるわけですよ。

もっとマクロな視点で、タリバン政権の復権や、それよりはだいぶマシですけど中国政府の強権的姿勢を見れば、

「欧米的理想を大上段に構えて糾弾しまくる」方式だけでは、人類社会の1割の特権階級にすぎない欧米社会の「外側」にまでちゃんとその理想を普及させていけない情勢

に今後どんどんなっていくのは明らかです。

先日の私の「バイデン大統領の演説を関西弁で訳してみる」というご好評いただいた企画↓を読んでもわかるように、「アフガン女性の人権のために米軍兵士を犠牲にしたりはしない」と大統領が堂々と宣言してしまったりする情勢の中では、世界の人権尊重のムーブメントのうち「アメリカ軍の銃口の威圧力」で維持されていた部分は、今後どんどん退潮していくわけですよ。(下記ツイートから連続ツイートツリーになっていて読めます。ツイッターが見れない方はこちらのブログ形式でどうぞ)

「アメリカ軍の銃口の威圧力で維持されていたムーブメント」は、「より相互を尊重しあった対話」で置き換えないと吹き飛んでしまう時代になっていくんですね。

そのあたり、「人類一強のアメリカのやり方に人類社会全員が無理やり合わせる時代」だった過去30年の「平成時代の外部環境」とは大きく変わってきているわけですよ。

4:「アメリカという劇薬の副作用」までちゃんと考える

「戸籍制度」にしてもそうなんですが、日本の方が欧米よりもちゃんと「個(特に特別な才能とかがない普通の人)」を大切にしている制度は沢山あるんですね。

アメリカ的な制度になればなるほど、「都会のアクティブなインテリ階級」の「個」は無制限にエンパワーされるけれども、その「スポットライト」が当たっていない人への扱いは果てしなくザツになっていく。

「別になんということもない個人(金持ちでもないし特殊な才能もないし家柄も庶民)」でもちゃんと幕末生まれの人まで先祖を辿れる制度…というのは、「よっぽどそれを重視する精神」を共有していないと吹き飛んでしまうわけですよ。

そしてそういう「共有の精神の土台」があればこそ、アメリカなんかでは崩壊状態とされるような「僻地や貧困地域の基礎教育」みたいなものを「日本人ならこれぐらいはね」的にギリギリまで維持しようとする関係者の尋常ならざる努力を引き出すことができている。

アメリカでは貧乏人はマトモな医療が受けられない事例が多いが、日本ではそこのところを関係者の必死の過重労働でギリギリ持ちこたえている。

「みんなへの義理」をなんとか崩壊させずにいるから、ギリギリ保たれている日本社会の最低限の防波堤は沢山あるわけです。

それを尊重した上で崩壊させないように、アメリカンな個人主義者も問題なく活躍できる算段をしていきましょう…ならいいんですが、単に頭からそういう「日本的な紐帯」をすべて否定するような論調でぶちあたったら国論が二分されてどちらにも進めなくなるのは火を見るより明らかです。

私立医学部の男子優遇問題を解決したいなら、単に「男社会のゲスさ」を非難するのでなく、「それによって保たれている日本の医療のクオリティ」への敬意を持った上で、女性医師が増えても崩壊しない「仕組みづくり」について知恵を絞らないといけない。

「アメリカみたいに貧乏人はマトモな医療が受けられない社会」にならないように土俵際で踏ん張っている力こそが、その「性差別(に見えるもの)」の背後にあるものなので、単に「日本の男社会」を攻撃するだけだとどちらも譲れないので果てしない相互憎悪が募るだけです。

よく言われている急性期医療の集約化や、日本人が受け入れられる範囲での「コンビニ診療」の抑制など、制度全体を見たバランス調整がいくつも必要でしょうけど、それをちゃんとやるには、そもそもまず「差別があるのは日本の男がゲスいから」みたいな認識では「問題の核心」に迫っていけませんよね。

フェミニストに限らず多くの「改革を迫る側」があと一歩、その「日本の保守性の背後にある配慮」が支えているものへの敬意を持って「仕組みづくりで代替」できるようになれば、延々とSNSで男女問題で罵り合いを続ける必要がなくなるわけですね。

そういう「アメリカという劇薬の副作用を緩和しようとする日本社会の必死な試み」みたいなのを全部「時代遅れの差別主義」と切り捨てようとするから、保守派だって果てしなく過激化せざるを得なくなるわけですよ。

そういうのにこだわるのはいかにも「前時代的」に見えるし、彼らが「夫婦別姓になったら家族の絆が壊れる!」とか「個人レベルのこと」でしか反論できていないので余計にバカバカしく見えてしまう情勢ではある。

しかし、例えばアメリカが占領した結果「民主主義」がちゃんと根付いたのは日本ぐらいだ…とか言われますけど、イラクやアフガニスタンの混乱状況と日本との違いは、非常に高度な政治的判断によって天皇制が温存されていたことが大きいのは間違いないですよね。

「欧米的理想」と「現地社会の伝統」とを対等に尊重して落とし所を探ったからこそ、戦後の混乱を乗り切りつつ協力して再建を果たすことができた。

そういう「欧米的理想と現地社会の伝統とをちゃんと等価に見た敬意」の上での改革要求であるのなら、実質的に通称で生きている女性がこれだけ多いこの社会で、選択的夫婦別姓がここまでこじれることはなかったかもしれません。

「アフガン米軍撤退以降の世界」=「人類社会における欧米のシェアが果てしなく下がっていく米中冷戦の時代」

に合わせた、

「改革を“迫る側”の価値観のアップデート」こそがあと一歩必要

な時代なのだと私は考えています。

ある意味でこの「戸籍制度の普遍性」みたいなものにちゃんと敬意を払って尊重する姿勢さえあれば、その上で

「同性婚や夫婦別姓、外国人帰化など」も「同じ土台の上で尊重できる制度であるべき」

という議論なら乗ってこれる保守派の人も多いだろうと思います。

次ページ 5:オードリー・タンの深い知恵に学ぼう

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