CULTURE | 2021/09/07

野球ファンとサッカーファンの舌戦はネットの伝統芸? 究極の不毛な議論を論点整理してみた【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(27)

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中川淳一郎
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中川淳一郎

ウェブ編集者、PRプランナー

1997年に博報堂に入社し、CC局(コーポレートコミュニケーション局=現PR戦略局)に配属され企業のPR業務を担当。2001年に退社した後、無職、フリーライターや『TV Bros.』のフリー編集者、企業のPR業務下請け業などを経てウェブ編集者に。『NEWSポストセブン』などをはじめ、さまざまなネットニュースサイトの編集に携わる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)など。

サッカーファンが「サカ豚」と呼ばれる理由

ネットでは「〇〇派」同士が罵倒し合う文化がある。その中でも一体なぜこの人達はここまでいがみ合っているのか? と不思議なのが「野球ファンvsサッカーファン」の不毛な争いだ。

完全にいがみ合っているというわけではなく、若干「プレイ」や「作法」「伝統芸」としてやっている面が強いのだが、毎度毎度よく飽きずに彼らは罵り合うことができるものだと感心する。野球かサッカーのスレッドで意見が書き込まれる中、時々アンチ野球・アンチサッカー派ともにやってきて嘲笑的意見をそのアウェイの場所に書いていくのだ。

直近の例では、9月2日、サッカーカタールW杯のアジア最終予選で日本代表は0-1でオマーンに負けたが、この後のことだ。大事な初戦、しかもホームゲームで格下のオマーン相手の試合は絶対に勝たなければならない“must win situation”である。しかし負けた。森保一監督は次の中国戦に負けたら更迭論も出るなど、突然崖っぷちに立たされた。匿名掲示板・5ちゃんねるでは、関連のスレッドに意見が次々と書き込まれたが、この中に野球ファンと思われる書き込みもあった。

〈サッカーとかいうゴミしかいないゴミスポーツどうでもいい〉

〈サカ豚がオリンピックの時に、野球アメリカ代表には無職がいるとか言って勝ち誇ってたけど、サッカー日本代表にも無職がいるじゃねえか〉

〈野球は大型化してスラッガー増えてるのに、サッカーはいつまで立っても前にチビ揃えて時代遅れのパスサッカーだもんな 世界の潮流に乗れなきゃ日本経済みたいにずっと停滞し続けるだけだ〉

〈こんなアスリートもどきに、野球含めて本物のプロアスリートを馬鹿にされたくはないわな普通に〉

これらの中で2つ目の「サカ豚」とは、狂信的野球ファンのことを「焼き豚」と揶揄することに反論すべく登場した言葉である。元々野球選手は肥満体の選手が時々いることや、選手が「焼肉10人前食べた」などと焼肉好きを公言することなどからこの言葉が生まれた。

そうした意味では肥満体選手がほぼいないサッカーで「サカ豚」は正しい用法とは言えないものの、「焼き豚」に引きずられる形で定着した。

なぜ、野球ファンがここまでサッカーを見下すのかといえば、「世界一になったことがない」「大谷翔平やイチロー、野茂英雄、佐々木主浩のように海外リーグ屈指の選手がいない」「日本ではもっとも身体能力の高いアスリートが野球に行く」「イチローはMLBのシーズン安打最多記録を持っている」「観客動員数でサッカーより圧倒的に多い」といった点が挙げられる。一方、サッカーファンが野球を見下す根拠は「世界ではマイナースポーツである」「デブでもできる」「動きが少ない」といったところか。そして「やきうw」とバカにするのである。

まさにザ・不毛、といった争いだが、そうした中、5ちゃんねるでは大谷が活躍すると「大谷すごい、俺すごい」と書かれることが定番になっている。これも恐らくはサッカーファンが、大谷がMLB1年目からホームランを連発した際に「大谷スゲー」などと書きこむ野球ファンに対して「大谷はすごいが、別にお前を含めた日本人がすごいわけではない」と揶揄したことがきっかけではないか。

とにかく大谷関連のスレに入り込むと、この書き込みを見ることができる。今後、サッカー日本代表が負け続けた場合、野球ファンの勢いが増すことが想定できる。同じ国の代表で、本来は応援すべき立場だというのに「野球派」「サッカー派」は国籍を超えてそのスポーツを応援・罵倒する奇妙な事態になっているのだ。

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