経済産業省では、長期的・持続的な日本経済の発展のため、大学や高等専門学校等の機関を中心とした研究拠点の中から、企業ネットワークのハブとして活躍している産学連携拠点を評価・選抜(国際展開型と地域貢献型の2類型)する 「J-Innovation HUB 地域オープンイノベーション拠点選抜事業」
を令和2年度より行っている。また、令和5年度より「地域の中核大学の産学融合拠点の整備」についての補助事業終了後から新たにプラットフォーム型としての選抜も始まっている。
令和7年度についても、令和7年7月18日から8月27日までの間、公募期間が設けられ、第7回目となるJイノベ 地域オープンイノベーション拠点として、国際展開型3拠点、地域貢献型4拠点が選抜された。
本連載では、新たに選抜された拠点の取り組みを紹介する。
Jイノベ 地域オープンイノベーション拠点選抜制度
J-Innovation HUB 地域オープンイノベーション拠点選抜制度 国際展開型拠点~九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)
九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER:アイスナー)は、2010年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択され設立された研究拠点であり、世界で初めて「カーボンニュートラル」の名を冠した研究機関として知られる。気候変動問題の解決に向け、CO₂排出量の大幅削減につながる基礎科学の深化と革新的なエネルギー技術の創出に取り組んでいる。
研究分野は、水素エネルギー、次世代燃料、二酸化炭素の回収・資源化(CCUS)、触媒・材料科学など多岐にわたり、エネルギー変換や貯蔵に関わる基盤研究から社会実装を見据えた技術開発まで幅広く推進している。海外研究機関とも連携し、国際的な共同研究体制のもとで学際的な研究を進めている。
2020年にはWPIアカデミーへ移行。現在は福岡市の九州大学伊都キャンパスを拠点に、カーボンニュートラル社会の実現に向けた研究を進めるとともに、産学連携や人材育成にも取り組んでいる。
水素からCO₂回収・貯留・変換まで、カーボンニュートラル技術を総合的に研究
I²CNERでは、「物質変換科学」「エネルギー変換科学」「マルチスケール構造科学」の3つの研究ユニットを軸に、カーボンニュートラル社会の実現に向けた基礎研究と技術開発を進めている。物質変換科学では触媒や材料設計を通じてCO₂や水素などの分子を効率的に変換する反応プロセスの解明に取り組み、エネルギー変換科学では水素エネルギーの製造・貯蔵・利用技術や次世代燃料電池など、エネルギー利用の高度化を目指した研究を推進している。マルチスケール構造科学では、原子・分子レベルからデバイスレベルまでの構造や反応を解析し、材料性能の向上につながる基盤的知見の獲得を目指している。
研究テーマは、水素エネルギーの製造・貯蔵・利用技術、次世代燃料電池、CO₂の回収・貯留・変換(CCUS)、革新的太陽電池や光触媒の開発など多岐にわたる。三井化学との組織対応型連携によるカーボンニュートラル技術の社会実装に向けた研究や、大気中のCO₂を直接回収するDAC(Direct
Air Capture)技術の開発、国内研究機関と連携した高速変換技術の共同研究などにも取り組み、基礎科学から産業応用まで一気通貫の体制を整えている。
外国人研究者56%の国際研究環境。世界トップ大学と結ぶ国際連携ネットワーク
I²CNERの大きな強みの一つは、世界トップクラスの国際研究環境にある。所属する研究者147名のうち外国人研究者が56%を占め、主任研究者25名のうち48%が海外から招聘された研究者で構成されるなど、多国籍の研究者が集う国際的な研究拠点となっている。
また、米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校にサテライト拠点を設置し、日米をまたぐ研究体制を構築している。この関係は、大学間の連携へと発展し、2019年には九州大学との間で戦略的パートナー協定を締結するなど、I²CNERに端を発した連携は、さらに強固になっている。
さらに、マサチューセッツ工科大学、インペリアル・カレッジ・ロンドン、チューリッヒ工科大学をはじめとする世界の主要大学・研究機関と広範な国際連携ネットワークを構築している。こうした連携のもと、化学、物理、材料科学などの自然科学に加え、エネルギー政策や経済分析といった社会科学も含めた学際的な研究を進め、カーボンニュートラル社会の実現に向けた国際共同研究を推進している。
論文4,200報超、トップ10%ジャーナル論文比率はハーバードに匹敵
研究面での実績も際立っている。設立以来の累積論文数は4,200報を超え、累積特許出願数は427件に達するなど、基礎研究から応用技術まで幅広い成果を積み重ねてきた。特に、被引用数などを基準に評価されるトップ10%ジャーナルに掲載された論文の割合では、ハーバード大学やプリンストン大学といった世界のトップ大学と肩を並べる水準に達しており、国際的にも高い研究力を示している。
代表的な研究成果としては、近赤外光を用いて水から水素を生成することに世界で初めて成功した光触媒研究、水素と一酸化炭素を燃料とする燃料電池触媒の開発、常温条件下で水素から電子を取り出して貯蔵できる新しい水素エネルギーキャリアの開発などが挙げられる。これらの研究は、再生可能エネルギーの利用拡大や水素エネルギー社会の実現に向けた重要な基盤技術として注目され、国際的にも高い評価を受けている。
「高速変換」をキーワードに、脱炭素の未来を切り拓く
I²CNERは今後、これまで推進してきた効率的なエネルギー変換科学に「高速変換」という新たな視点を加え、十分に活用されていないエネルギーにも着目した分野融合研究を進めることで、新たな学問領域の構築を目指している。
今後の展望について、石原達己所長は次のように述べている。
「カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)は、2010年にWPI(World
Premier International Research Center Initiative)の拠点として採択され、『カーボンニュートラル・エネルギー』の名を冠した当時唯一の研究所として設立されました。2020年にはWPIアカデミーへ移行し、研究活動を継続しています。I²CNERでは、カーボンニュートラル・エネルギーを基盤とした環境調和型で持続可能な社会の実現に向けて、高効率で炭素排出量が少なく、コスト面でも実現可能なエネルギーシステムの構築を目指しています。エネルギー変換効率の向上を通じてCO₂排出量の削減につながる科学技術や社会システムを提案していきます。」
効率と速度の両面からエネルギー変換の可能性を広げるI²CNERの研究は、脱炭素社会に向けた新たな科学基盤の形成につながるものとして、今後の展開が期待されている。
九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)
https://i2cner.kyushu-u.ac.jp/ja/
Jイノベ選抜拠点の記事一覧はこちら
https://finders.me/series/kqJTU6YwMDMwNTU