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PR ITイノベーションを活用して、沖縄で新たな価値創造を実現する産業を共創していくことを目指したい| 一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)理事 盛田光尚氏
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  • 2018.06.29
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ITイノベーションを活用して、沖縄で新たな価値創造を実現する産業を共創していくことを目指したい| 一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)理事 盛田光尚氏

2018年6月14日、Interop Tokyo 2018のAITACブースにおいて「沖縄ITイノベーション戦略センター(略称ISCO)の紹介について」と題する講演が行われた。登壇したのはISCOの理事に就任したばかりの盛田光尚氏。沖縄の情報通信関連産業が置かれた現状から、ISCO設立に至る背景、経緯、将来に向けた展望などが紹介された。講演後に行った盛田氏への取材からの補足も加えながら紹介していこう。

取材・文:伊藤僑 写真:神保勇揮

第2のリーディング産業へと成長したIT産業

沖縄ITイノベーション戦略センターは2018年5月に設立され、7月に本格的に活動を開始する。その事業内容は、ITイノベーションを沖縄県内の各産業分野へ応用し、実証事業や事業マッチングを通じて得た新ビジネス、新サービスを創出することだ。ITが横串となって経済成長を支えるプラットフォームを形成し、沖縄全体の生産性と国際競争力を向上させることを目指している。

沖縄を代表する産業として誰もが思い浮かべるのは観光産業だろう。2017年に沖縄を訪れた観光客の総数は957万9,900名にのぼり、すでにハワイの観光客数を凌いでいる。本年度には1,000万の大台を超える見込みだ。

しかし、観光産業は気候変動や政情などに影響を受ける不安定な面もあるため、沖縄では第2のリーディング産業を育てるべく模索してきた。そして目をつけたのが情報通信関連産業だ。

今では県内における情報通信関連産業の売上規模は約4,200億円へと拡大。6,600億円規模の観光産業に次ぐ産業へと育っている。参考までに紹介すると、大きいと言われる基地関連収入でも約2,200億円にとどまる。

ISCO開設の経緯

沖縄県の情報通信関連産業を振興させるための取り組みは、1997年から始まっている。同年には、21世紀・沖縄のグランドデザインを提起する「国際都市形成構想」の実現に向けて、新しい産業の創出と振興を図るべく、「国際都市形成基本計画」を策定。1998年には「マルチメディア・アイランド構想」を立ち上げ、情報通信関連産業の振興に注力してきた。

「IT産業は通信インフラさえ整っていればどこでもビジネスができます。そこで、首都圏と同じ条件で沖縄でも仕事ができるように、県が通信インフラを整備し、通信回線を安く使える環境を整えました。当時は、30歳未満の若年層の失業率がとても高かったこともあって、多くの雇用が見込まれたコールセンター中心に企業誘致を進めていました」と盛田氏。

2012年には、従来の下請け中心の受注型モデルから、高付加価値のサービスを提供する提案型ビジネスモデルへの転換を目指した「沖縄21世紀ビジョン基本計画」を、2013年には、沖縄経済の自立に貢献する情報通信関連産業の実現に向けて、「おきなわSumartHub構想」を策定している。

盛田氏によれば、企業誘致の主軸を、高度な技術を必要とするソフトウェア開発やコンテンツ制作へとシフトさせることで、産業の高付加価値化を目指したという。

2011年の東日本大震災の後には、沖縄県内のデータセンターへの引き合いが急増する。

「日本のデータセンターのおよそ7割が、首都圏に集中しているといわれています。直下型地震がいつ起きてもおかしくないといわれる中で、膨大なデータを管理する多くの企業は、同時被災リスクを低減したいと考えており、データをバックアップするための施設を設けるなら沖縄か北海道が最適と判断したようです。実際に震災後には、数千件の問い合わせがありました」(盛田氏)

2015年には、情報通信関連産業の中長期的な戦略を構築するための、産官学一体となった司令塔として「沖縄IT産業戦略センター(仮称)」の開設に向けた構想が始動。アジア有数の国際情報通信拠点スマートハブの形成を目指した「沖縄県アジア経済戦略構想」(2015年)や、「沖縄21世紀ビジョン基本計画改訂版」(2017年)にも重点施策として、後にISCOとなる「沖縄IT産業戦略センター(仮称)」の設置が明記された。

有識者からなる設立検討委員会も開催。同センターの役割・機能・組織などを策定するための検討を重ね、2016年11月には委員会から知事への提言書がまとめられた。これを踏まえ、センター設立の目的・理念・基本的考え方などの基本方針が固まり、2017年には県庁内にプロジェクトチームを立ち上げている。

ISCOの目指すもの

一般財団法人であるISCOの出者には、沖縄県のほか、那覇市や県内のIT団体、通信事業者、IT企業、電力会社、地銀などが参画し、官民一体で立ち上げていることがわかる。

職員数は30~35名を予定しており、現在採用活動中。事業拠点は「那覇市IT創造館」というインキュベーション施設の4階だ。

ISCOのコンセプトは、「ITがもたらすイノベーションを、沖縄の強み・特色産業である観光業、物流業、製造業、農業、金融業など各産業分野へ応用し、産業全体の振興を図るとともに、実証事業や事業マッチングを通じて得た新ビジネス、新サービスの全国、全世界への展開を目指す」というもの。

世界初のデジタル身分証明システム「e-Residency」を導入したエストニアや、ドローンで血液を運ぶための配送センターを「Zipline」が開設した東アフリカの小国・ルワンダ、ハードウェアのシリコンバレーといわれ、スタートアップ企業や投資マネーが集積する中国・深センなど、ITイノベーションを活用したビジネスは世界中で加速している。

日本でも、人とモノ、情報等がつながり新しい価値サービスを創出する、スマート社会「Society 5.0」の実現に向けた取り組みが動き出している。

これを受け、沖縄県では今年度からスマート社会を目指す取り組み「Okinawa 5.0」をはじめている。ITイノベーションで創造される新たな価値を新ビジネス、新サービスに活用し、経済的発展と社会的課題の解決を目指すものだ。

「各産業分野の方々がISCOを利用してできることには、シンクタンク機能、事業プロデュース機能、人材育成・スタートアップ機能をあげることができます。このうち人材育成に関してはAITACと連携していきたいですね」と盛田氏。

ISCOが重点的に取り組む7つの領域には、(1)AI、IoT、(2)サイバーセキュリティ、(3)ツーリズムテック、(4)フィンテック、(5)ロボティスク、(6)シェアリング・エコノミー、(7)データドリブン・エコノミーがある。

「我々が目指すのは、アフリカのケニアで起こった、現金決済やクレジットカードを一気に飛び越え、ブロックチェーン技術をベースに効率的で安価な国際決済を実現する「BitPesa」が普及したような、破壊的イノベーションです。ITイノベーションを活用して、破壊的創造を行うような産業を共創していくことを目指しています」と盛田氏は講演を締め括った。

盛田氏がISCOに参画した経緯

一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)理事 盛田光尚氏

講演後に行った盛田光尚氏への取材では、同氏がISCOに参画した経緯や、沖縄における情報通信インフラの整備状況、情報通信関連産業の先進事例についてもお話をうかがった。

盛田氏は琉球大学の建築系学科を卒業し、昭和60年に沖縄県庁に入庁している。

土木建築部に配属され、営繕工事関連業務に長らく携わった後、観光リゾート局へ異動。沖縄サミットでは第三セクターのマスターデベロッパーの一員として、名護市のブセナ岬一帯の開発に参加した。その後、米軍から返還された基地の跡地利用計画などを経験している。

盛田氏が情報通信関連産業の振興に興味を持ち始めたのは、沖縄に企業誘致を行う部署の東京事務所へ配属されたことがきっかけとなった。平成22年のことだ。そこで、本庁に戻る際に産業振興をやりたいと希望を出し、情報産業振興課の基盤整備班長に抜擢される。

その後、情報通信関連産業を誘致するために、再び東京事務所へ異動。1年間務めた後に、情報産業振興課長となる。盛田氏によれば、「ISCO設立への動きがはじまったのは、ちょうどそのころ」だという。

およそ3年の準備期間を経て創設された沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)。盛田氏は、そのキーマンは「計画を牽引してきたプロジェクトチーム室長の谷合誠氏」だと語った。

巨大なアジア市場を睨んだ基盤整備

沖縄では情報通信関連産業を振興させるために、インフラ整備にも力を入れている。平成27年には公設民営のデータセンター「沖縄情報通信センター」を開設し、県内にある民間のデータセンターや沖縄科学技術大学院大学などと、ループ化した光ファイバーで結んでいる。

首都圏、シンガポール、香港をダイレクトに結ぶ高速大容量の国際海底ケーブルも敷設。事業者が低価格で利用できるように県がキャリアから20年間の使用権を購入している。(容量600ギガ)。首都圏だけでなく、シンガポールや香港への回線を確保したのは、アジアの巨大マーケットを睨んでのことだ。「沖縄の事業者が制作したコンテンツを、アジアへ配信するための基盤を県で準備しておこうと考えた」(盛田氏)そうだ。

情報通信関連のベンチャー企業を育てるためのインキュベーション施設は、県だけでなく、那覇、浦添、宜野湾、沖縄、名護などの各市町村も開設している。

盛田氏は、「民間企業が運営しているスタートアップカフェ・コザのような施設とも連携を模索していきたい」という。このような行政の努力もあって、427社もの情報通信関連企業を沖縄に誘致することができた。県内の企業も加えると800社以上になる。

IoT活用など先進的な取り組みも

ISCOが目指す、沖縄の特色産業と最先端の情報通信技術を組み合わせる試みもすでにはじまっている。

そのひとつが、沖縄が収穫量国内1位を誇るマンゴー生産へのIoT活用だ。

マンゴーの生産は天候に左右されるところが大きい。そこで、KDDI、沖縄セルラー電話、スカイディスク、琉球大学は、2017年4月、IoTを活用したマンゴー栽培の実証実験を開始した。

マンゴー栽培の課題である、ハウス内の異常高温や低温、乾燥、高湿度、日照不足、生育不足といった栽培状況をIoTセンサーデバイスを使って測定し、タブレットで監視。状況に応じて、生育の阻害要因をLED補助光や二酸化炭素の局所添加で補おうという試みだ。

漁業分野では、IoTをサンゴの飼育にいかす試みもはじまっている。

これは、遠隔地からでもサンゴを飼育する水槽内の状況を把握し、サンゴにとって適切な飼育環境を維持しようというものだ。

ISCOが本格稼動することで、このような沖縄の特色産業と最先端の情報通信技術を組み合わせる試みも、ますます加速していくに違いない。

盛田光尚氏講演後の村井純氏との対談

最後に、冒頭で記したInterop Tokyo 2018での講演「沖縄ITイノベーション戦略センター(略称ISCO)の紹介について」では、AITACの理事長で「日本のインターネットの父」とも呼ばれる、 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科委員長 兼 環境情報学部教授の村井純氏と、ISCOの今後をめぐる対談も行われており、その模様を紹介したい。

村井氏:ISCOが考えるイノベーションの主体は誰なのでしょうか。

盛田氏:ISCOの役割はイノベーションを創造できる環境をつくることであり、県内はもちろん、県外や海外のIT企業にも参画していただきたいと考えています。

村井氏:県外や海外からもIT企業を呼び込みたいということであれば、税制上の優遇や働きやすい環境の提供など、なんらかの支援策が欲しいですね。沖縄は物価が安くて暮らしやすいと言われていますが、今でもそうですか。

盛田氏:沖縄の物価は首都圏に比べて7~8割と言われています。

村井氏:IT企業がスタートアップしやすい環境づくりについてはいかがですか。起業した最初の2年間は税金を納めなくていいとか、分かりやすい優遇策があるといいですね。

盛田氏:沖縄は唯一の経済特区ですから様々な税制上の優遇もあり、すでに県外から400社以上が進出しています。

村井氏:これは私が以前から妄想していることなんですが、日本標準時であるUTC+0900を、沖縄はUTC+0800に、北海道はUTC+1000に変更できれば面白いことが起こるぞと。

シンガポールは本来、UTC+0700なんですが、あえてUTC+0800にしている。それは、中国のマーケットと同期させるためなんですね。だから沖縄もUTC+0800に変更できれば、中国のマーケットを狙ったビジネスがやりやすくなります。

それに、日本国内でも時差があることになれば、あらゆるソフトウェアの修正が必要になり、ITバブルも起こるでしょう。

盛田氏:沖縄を中心とした4時間圏内に20億人の巨大マーケットがあり、その6割を中国が占めています。私たちが狙っているのは、まさにその市場であり、村井先生の構想と一致します。

村井氏:沖縄がUTC+0800になって中国マーケットと同期したら、企業は集まりますよ。ぜひやりたいですね。今度は北海道にも声をかけないと。そして、AITAC中心に日本列島を改造しましょう。

でも、どうやったらタイムゾーンて変更できるのかなぁ(笑)。

盛田氏:沖縄UTC+0800計画、村井案。素晴らしいですね。

一般社団法人 高度ITアーキテクト育成協議会(AITAC)理事長 /慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科委員長 兼 環境情報学部 教授 村井純氏

村井氏:もうひとつ提案があります。ゆるキャラをつくりましょう!

盛田氏:村井先生命名のISCOちゃん、ぜひつくりたいですね。

村井氏:会場で意見がある人はいませんか。

来場者:私は大学の教員なんですが、私たちにも協力できることはあるでしょうか。

盛田氏:大学や研究機関との連携は色々できると思います。沖縄にIT産業をもっと集積させるためにも、人材育成など多様な分野で協力をお願いしたいですね。

村井氏:AITACとしては、人材育成の連携をまずやらないと。

IT産業が発展するための条件のひとつに、地元のいい大学との連携があります。大学にはネットワークがあるから、得られるメリットも大きい。

沖縄にある大学との連携はどうなっていますか。

盛田氏:評議員には、琉球大学、沖縄国際大学、東京大学、元慶応大学の教授に参加していただく予定です。ISCOに多角的なアドバイスをいただこうと思っています。

村井氏:なんだかいい感じになってきましたね。お話をうかがって夢と希望が湧いてきました。ぜひがんばっていただきたいです。


沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)

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