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批判殺到「GoToキャンペーン」はどうすれば良かったのか。制度の改善策と「観光産業の生き残り戦略」を木下斉さんに聞く
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  • 2020.07.22
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批判殺到「GoToキャンペーン」はどうすれば良かったのか。制度の改善策と「観光産業の生き残り戦略」を木下斉さんに聞く

「その支援が新事業や経営改善に結びつくのか」という視点も重要

―― 地方の観光産業は今回の一件をどのように受け止めているのですか?

木下:ホテル・旅館で言うと、3つのグループに分かれると思います。

1つがインバウンド増加で新規参入をした層。この層は参入後初めて直面する不景気ですし、壊滅的な状況に陥っています。業界全体で「政府の補償とインバウンド回復をとにかく要請しよう!」という空気も感じているのですが、歴史を紐解けば口蹄疫や新型インフルエンザ、リーマンショックなど景況が下向き、数カ月単位で閑古鳥状態になってしまったことは一度や二度ではなかったはずで、今も残る事業者たちの多くはそこから持ち直してきたじゃないかと思ってしまう部分も正直あります。

次が数十年、あるいは100年以上続く老舗です。老舗の方々に話を聞くと、口を揃えて言うのは「観光は生活必需品ではない」ということです。好景気の時にキャッシュを稼いで貯めていますし、銀行とも良好な関係を築いています。ですので今回も補助金頼りというよりは充実した緊急融資プログラムを活用し、「ソーシャルディスタンスが確保できるアクティビティ」「野外の公園に隣接した飲食店」というような新事業・プログラム開発に充てたりですとか、個室で食事が楽しめるようにする、貸し切りOKにするといった「新しい生活様式」に対応するための費用に充てていますね。こうした企業はそれ以前から多角化を進めていることも多く、別の事業がStay Home文脈で売上が大幅アップし、グループ全体の売上は微減に留まっているケースも少なくありません。

最後がコロナ禍関係なく経営危機に陥っていた層です。この層はインバウンド大幅増で多少復活していたところがあったんですが、融資・補助金があっても現状維持に留めるのがやっとで、支援が途切れた瞬間に廃業・倒産に陥ってしまうと思います。

―― これらの3分類で、一番多いのはどの層なのでしょうか?

木下:やはり地方では最後の「コロナ禍関係なく経営危機に陥っていた層」だと思います。長年積み重なった負債が重くのしかかり、就業形態もブラックであることが多く、社員募集をしても集まらない。たとえ新型コロナが発生しなかったとしても、中韓との関係が悪化するなどしてインバウンドが途切れたら危なかったであろうところは数多くありました。

―― 今回のキャンペーンをどんな制度設計にすべきかという議論も多少出ていますが「消費者マインドが冷え込んでしまった以上、事業者への直接給付しかない」という考えと、「消費者がお金を出した方が経済効果が大きくなるんだから、消費者への割引の方が良い」という考えがあります。木下さんはどう思われますか?

木下:制度論だけで言えば確かに後者の方が経済効果は高いと思います。この数年、地震・台風など大型自然災害のあった地域への旅行料金を割引する「ふっこう割」が各地で実施されてきましたし、それと同じ考えでGo Toキャンペーンも設計されたんだと思います。短期的経済効果、カンフル剤の効果は確実にあります。

ただし、この「ふっこう割」のような考えについて、事業者側を見ていると功罪の「罪」の部分もあるなと感じてしまうところもあります。先ほど話したような「災害関係なしに経営が危なかった事業者」も支援の対象になるわけですが、そうした事業者も「経営が落ち込んだのは、何もかもあの災害が起きたせいだ」とある種の責任転嫁をしやすい構造を生み出します。

国・自治体の支援が入ったとしても、経営改善がなかなか進まないケースも少なくないですし、その後に何が起こるかというと「またあのキャンペーンをやってくれ」と延々要望し続けることになってしまいます

―― その話に関連して、木下さんのnote記事「GO TOキャンペーンは、まずは地元割財源として都道府県に支給し、そのかわりに各都道府県は県内割に割り当てるはずの予算を別用途で活用させるのが良い。」についてお聞かせいただきたいです。

木下:「県内割」の開始当初は「まだ早いんじゃないか」っていう意見もあったようですがそれも慣れてきて、県内移動があったから感染者が爆発的に増えるわけではないということもわかってきました。そうした状況下で第2弾、第3弾を企画している自治体も結構あったんです。noteに書いた提案の内容を大まかに言うと、もう既に動いている既存の枠組みがあるんだから、それを使いながら「誰がそのお金を実際に振り込むのか」というようなロジスティクス、事務局機能の構築も含めて各地域に委ねてはどうか、という話です。

持続化給付金もそうでしたが、「国主導で一律でゼロから制度設計」となると、まず事務作業を委託する業者をどうするのかという話になり、国会で揉め、実行スピードが落ちてしまいますよね。加えて今回の場合、支援対象に航空会社・鉄道会社なども入っていることから「移動することがマスト」となり、ややこしくなってしまっている部分もあると思います。こうした必須インフラは産業再生機構のようなかたちで一時国有化も視野に入れることを含め、別の支援方法を考えた方がいいんじゃないでしょうか。

―― 確かに事務局機能も各地域に委ねれば「地方創生プロジェクトなのに、結局大半は東京の大企業グループが受託して終わりじゃないか」という問題をクリアする余地も出てきますよね。

木下:そうですね。今回、Go Toキャンペーンとは別に国の「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(民間・公共機関問わず新型コロナ対策や新しい生活様式対応などにかかる費用を補助する制度)」が第1弾・1兆円、第2弾・2兆円の規模で始まるわけですけど、それも地方自治体による県内割、事業者支援などの原資に使われます。なのでその予算を国がカバーしてくれるとなれば、地方自治体はその予算を別のことに使えますよね

なるべく既存の枠組み、申請制度を流用した方が、申請する事業者としても「え、また別フォーマットの申請書類があるの!?」と混乱せずにスムーズに進められると思うんです。これまでにふるさと納税の返礼品として宿の宿泊券・割引券をラインナップしていたところも数多くありますし、積極的な自治体は独自にそうした取り組みを企画してもいいでしょうし。

―― もし国も自治体も事業者も三方良しで手続きが簡単なやり方があるならばそうすべきだと思うのですが、そうしたことを考えている政治家・官僚はいないのでしょうか?

木下:もちろんいると思うんです。でも「とにかく急いで全国で一律に始めなければならない」ということを前提に今まで動いてしまったという流れがあったので、中央集権でそれをやろうとなると最終的には大量動員の人海戦術になってしまいます。ただそれは非効率だから地方分権を進めていこうという動きがあったわけですよね。

今は自治体の各首長が「うちには来てほしい」「うちには来ないでくれ」とバラバラに言っている状況で、これから結論を出すのは本当に難しい舵取りになると思います。どちらの結論を出したとしても議論が二分されてしまうのがわかりきっていますし。でも、自治体によって温度差があっていいと思うんです。全国一律かつ、同時にやらなければいけないという方がむしろリスクは高いです。「リゾート法しかり、地域振興券しかり、そうした中央集権的な地方活性化政策それ単体だけで上手くいったことがありましたか?」とは言いたいですね。

次ページ:危機下では「地元ファンが根付いている企業」が強い

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