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なぜ東海テレビは、映像的に伝わりづらい「発達障害」のドキュメンタリーCMを制作したのか?|桑山知之(東海テレビ)
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  • 2020.03.12
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なぜ東海テレビは、映像的に伝わりづらい「発達障害」のドキュメンタリーCMを制作したのか?|桑山知之(東海テレビ)

昨年発表された東海テレビの公共キャンペーン・スポット「見えない障害と生きる。」は、部屋が片付けられない女性、文字の読めない教師、自閉症のラッパーなど、見た目では分からないさまざまな発達障害を抱える6人が登場するドキュメンタリーCMだ。

YouTubeにアップされるやいなや大きな注目を集め、今年1月にはJAA広告賞 消費者が選んだ広告コンクールで経済産業大臣賞に選出された。

元々、『ヤクザと憲法』『さよならテレビ』監督の圡方宏史さんが手掛けてきた企画であり、2014年からドキュメンタリータッチに変更。戦争・環境問題・LGBTといった社会的課題を取り上げ、私たちに問いかけてきた。

2018年から同企画のプロデューサーを務める桑山知之さんは、なぜ今回「発達障害」という、映像的には伝わりづらいであろう題材を、CMのテーマに選んだのだろうか? 話を伺った。

聞き手・文・構成:岩見旦 写真:神保勇揮

桑山知之

東海テレビ放送 報道部 記者/ディレクター

平成元年愛知県名古屋市生まれ。慶應義塾大学経済学部在学中からフリーライターとして活動。2013年に東海テレビ入社後、東京支社営業部を経て、報道部で遊軍記者/ディレクター。2018年から公共キャンペーンのプロデューサーとして「いま、テレビの現場から。」や「見えない障害と生きる。」といったドキュメンタリーCMを制作。受賞歴は、日本民間放送連盟賞CM部門最優秀賞、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSゴールド、JAA広告賞 消費者が選んだ広告コンクール経済産業大臣賞、ギャラクシー賞奨励賞など。

テレビ局制作CMで初の快挙

―― この度、「見えない障害と生きる。」がJAA広告賞 消費者が選んだ広告コンクールで経済産業大臣賞に選ばれました。テレビ局制作のCMでは初の快挙です。おめでとうございます。

桑山:ありがとうございます。放送直後からすごく反響があって、結果が付いてきたというか、ご褒美みたいな感覚です。もちろん単純に嬉しいというのはありますが、これが決して僕らの目的ではありません。あくまで「発達障害」というものを皆さんに知ってもらって、より多くの人に多様性を伝えたいというのがあるので、まだ道半ばです。

―― どういった点が評価されて受賞されたと思いますか?

桑山:テレビ局が制作した作品がCMの広告賞に出品しており、いわばフィクションばかりが並んでいる中で、ドキュメンタリーという異色のものが目立ったというのはあったかと。

あと、このCMは電通と一緒に作っているので、テレビと広告の相乗効果もあったと思います。僕たちが普段やっている報道や嘘がつけないドキュメンタリーというところと、広告特有の演出が合わさったものが作れたのかなというのはありますね。例えば、聴覚過敏の男の子が周囲の音に襲われる演出や、GOMESSさんのラップは、ニュースではやらない手法です。

―― 桑山さんはプロデューサーという立場ですが、作品に対して具体的にどのような関わり方をされたのでしょうか?

桑山:おそらく世間のプロデューサーのイメージとはかけ離れていると思います。テーマの発案だけでなく、ブッキングやリサーチも行っています。現場もGOMESSさんのラップの撮影以外はすべて行きましたし、インタビューの聞き手を務めるのはもちろんのこと、演出に入り、カット選びからコピーなど、すべてに対して詰めの作業をしました。

沖田×華さんとの出会いで得た気付き

―― 今回「発達障害」を題材にしましたが、どこから着想を得たのでしょうか?

桑山:2018年9月に、『透明なゆりかご』などを描かれている漫画家の沖田×華(おきたばっか)さんに取材したのがきっかけです。彼女は自閉スペクトラム症、ADHD、学習障害という発達障害があるけど、漫画にはすごい才能を発揮していて。僕は「発達障害」をという名前だけしか知らず、その時初めて勉強しました。いざ学んでみると、驚きの連続でした。普通病気って大抵同じ症状が出るのに、人によって症状が違うとか。

加えて、沖田さんに実際にお会いしたら、彼女がめちゃくちゃ魅力的な方で。この時、「発達障害」というある意味パンチの強いフレーズと実際は乖離があるのかなというのは感じていました。

―― 「発達障害」は「見えない障害」と謳っている通り、映像で表現するのはかなり難しいように感じました。

桑山:沖田さんを取材した時は、彼女がサファイアブルーの服ばかり買ってしまうところや、家具のこだわりといった映像化しやすい部分を取り上げました。ただ、発達障害について勉強していくと、どうしても彼らの苦しみって分かりづらくて、テレビであまり取り上げられてないと思いました。

もちろん新聞とか他のメディアではやっているかと思うのですが、テレビもマスコミとして「他人事じゃないとみんなが思えるようなこと」に対して向き合わないのはおかしいと思ったんです。すべてを映像化できなくても、出すことに意義があると思い、なるべく分かりやすくしたんですが、これで伝わらなくてもそれは仕方ないと思える、ある種の開き直りがありました。

(c)東海テレビ放送

「発達障害」を取り上げる上で、お涙頂戴のチャリティー番組のようには絶対にしたくないというのがあって。あなたの気持ち分かっていますよというナレーションと、泣くところですよという音楽の演出って違うと思うんです。

今回スタッフにも言ったのですが、「めちゃくちゃカワイイ方々ばかりで、彼らが魅力的に映るように絶対したいし、編集するとどうしてもそうなってしまうと思う」と。普段の僕のスタンスでもあるんですけど、取材を受けてくださった方は、基本「おいしく」映ってほしいっていうのが毎回のテーマとしてあるので、そこは今回の作品もそう考えました。ただその意味では、聴覚過敏の子は唯一浮かばれない展開になってしまったので、お母さんとは結構密にお話をしました。

―― 桑山さんは普段、報道部で記者をされていますが、普段手掛けているテレビ番組とCMの制作する上での違いをどのように感じましたか?

桑山:テレビはある程度分かりやすさを重視しなければなりません。ナレーションを丁寧に当てて説明して。しかしCMは秒数が限られているので、そこはなるべくコンパクトに、削ぎ落とすことは意識しました。

例えば、文字が読めない先生が、レストランでメニューに紙ナプキンを当てているシーンがありますが、特に説明はしていません。あれは文字情報を減らして、一行ずつ理解しようとしているんです。でも、分からないじゃないですか。でも分からない方が得策かなとさえ思ったんです。

コンプレックスも視点を変えるとチャームポイントに

―― 「発達障害」というテーマが決定するまでに100個もアイデアがあったとのことですが。

桑山:まず企画段階で僕が最初にテーマを考えて、電通のコピーライターの高阪まどかさんとブレストしながら絞っていきました。最終的に「発達障害」と「カワイイ」が残って、「発達障害」に決まりました。僕は「カワイイ」推しだったんですけど(笑)。

―― 「カワイイ」ってどういう内容ですか?

桑山:僕の中では「発達障害」も「カワイイ」もコアの部分は一緒で、他の人と違ってもいいよねとか、コンプレックスに感じているところって、別の人から見たらチャームポイントになったりするよね、というような話ができるといいなと思ったんです。本当は脇毛をはやした女性とかを取材できれば面白いなと思っていました(笑)。

―― 桑山さんの視点には、常に「多様性」というものが軸としてあるんですね。

桑山:僕自身がコンプレックスの塊なので。3年半報道部にいるのですが、政治とか事件とか本来やってしかるべき風潮のある記者業をやってこなくて、遊軍記者として柔らかいネタばかりやってきました。ずっとドキュメンタリーを作ってきた報道部長の伏原健之(『人生フルーツ』監督ほか)は、僕に「桑山はできないことを無理にできようとしなくてもいいんじゃないか」って言ってくれて、それがすごく心の中に残っているというのはあります。

『さよならテレビ』とシンクロする視点

―― 東海テレビは毎年このCMシリーズを続けていますが、どのような経緯でスタートしたのでしょうか?

桑山:これがめちゃくちゃ恥ずかしい話、日本民間放送連盟賞という賞があり、この賞を狙って半ば業務的に作り始めたのが最初なんです。だけど、せっかく作るのならいいものを作ろうということになり、紆余曲折経て現在のタッチになりました。

―― 桑山さんは2018年からプロデューサーとしてこのプロジェクトに関わっていますが、初めて手がけられたのが、テレビ報道の現場にカメラを向けた「いま、テレビの現場から。」ですね。

桑山:マスコミに対する世間のイメージと、実際の自分が身を置いている報道現場に結構乖離があるなと思い、企画しました。マスコミは正義感を振りかざしていると思われがちですけど、言葉遣いとか映像の使い方とか、実はめちゃくちゃケアしていて。もちろんそれでもミスは起きたりしているんですが、あのCMは報道する側、報道される側は迷っているという部分を出したいと思いました。

―― 同じく東海テレビ制作の映画『さよならテレビ』ともシンクロする視点だと感じました。

桑山:『さよならテレビ』の監督の圡方宏史はこの公共キャンペーンCMの元プロデューサーで、私がプロデューサーになってからも常に相談しながら企画を進めてきました。

企画段階からすでに『さよならテレビ』のクルーは報道部に密着していたので、着想に影響がなかったかというと嘘になります。『さよならテレビ』は1年7カ月間取材していたのですが、僕の「いま、テレビの現場から。」は2018年4月と5月の2カ月間なので、アウトプットが違うといえど、作り手として恥ずかしいことだと感じたこともありました。ただ、そのことを圡方に相談したら、「お前がやりたいことをやるのが一番いいよ」って言ってくれて、踏ん切りがつきました。

―― 東海テレビはこのCMシリーズや、ドキュメンタリー番組の映画化など、他局にはない独特の存在感を放っておりように感じます。桑山さん自身は、東海テレビのイズムというものをどのように感じていますか?

桑山:それは基本的にタブーなしっていうところだと思います。ただ、それはどこにも配慮はしませんっていうこととはまたちょっと違っていて、一番伝わる方法でドンと出すっていうことをシンプルにやるっていうことだと思います。

―― 今後もCMシリーズ制作に関わっていく予定ですか?

桑山:先日まさしくその話をしていて、今年も担当することになりました。今後も多様性というところはずっと追っていきたいと思っています。最近でいうと、ブラック校則やMeToo、に注目しています。加えて、東海テレビ報道部がこういうスタンスで行くんだというものを表明するようなものにしたいと思っています。

やってみたいテーマは無限にあります。どんなことでも、テーマになりうると思っています。できればずっと携わりたい仕事ですが、だからこそ保持するのではなく後輩に受け継いでいきたいとも考えています。


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