LIFE STYLE | 2019/09/25

国境なきリモートワーク「マッキャン・ノマド」をやってみた【連載】マッキャンミレニアルズ松坂俊のヘンなアジア図鑑(2)

聞き手・構成:神保勇揮

松坂俊
マッキャンマレーシア、デジタル クリエイティブ ディレクター
1984年、東京...

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聞き手・構成:神保勇揮

松坂俊

マッキャンマレーシア、デジタル クリエイティブ ディレクター

1984年、東京都生まれ。イギリスで美術大学を卒業後2008年、外資系広告会社マッキャンエリクソンに入社、媒体本部に配属。2013年に制作本部に転籍。2015年、マッキャン・ワールドグループ国内外の1980年~2000年代前半生まれのメンバーで構成されるユニット「マッキャン・ミレニアルズ」を立ち上げる。ONE JAPANではグローバル・クリエイティブ担当の幹事。現在は日本とマレーシアの2拠点生活を送りながら、国内外の様々なプロジェクトをリードしている。

「世界中どこでも働けるインフラ」を実際に使ってみる

前回の連載でお話しした、世界各国のオフィスで仕事ができる「マッキャン・ノマド」制度のテスト運用が終わったので、今回は実際にやってみてどうだったか、という話をしたいと思います。

改めて制度の内容を説明しますと、日本・タイ・シンガポール・オーストラリアの4カ国でそれぞれ1名の志願者を選抜し、この4カ国内であればいつどこで仕事をしていても良い、各国のマッキャンのオフィスはどこに行っても受け入れるというものです。今回はテストだったので飛行機代・宿泊代は会社持ちで、各国に5日ずつ順番に滞在し、週末に移動しながら3週間過ごしてもらいました。

以下の画像は日本から参加した若手プランナー・澤田直幸くんが作成した社内向けレポートより

応募は各国合計で30名ほどで、タイとオーストラリアの人が多かったですね。日本はそれよりちょっと少ないかなという感じでした。

そもそもなぜマッキャン・ノマドをやるのかという話ですが、現在のビジネス環境として、パソコンと電源とWi-Fi環境があれば大抵の仕事ができてしまいますし、マッキャン内でもバイリンガル、トリリンガルの人も珍しくなく、東京の会社から大阪の会社に転職する感覚で働く国を変えちゃう、なんてことを当たり前にやってたりします。

加えて前回も話しましたが、自分と同世代、あるいは自分より下の世代の日本人は「ビジネスパーソンとして、日本の市場だけにしか対応できない人材でいいのか」ということを悩んでいる人って結構多い。それであれば、マッキャンは世界100カ国超にオフィスがあって環境が整っているし、「会社の制度を少しだけ変えてもっと魅力的なものにして、優秀な人に働き続けてもらおう」という意味では会社にもメリットがある取り組みだろうということで提案してみました。

日本からは、入社5年目の若手プランナー・澤田直幸くんに行ってもらいました。彼は外資系企業を中心に、広告ブランディングのコンセプトづくりなどを担当しています。彼はマッキャン・ミレニアルズの中核メンバーの1人であり、実は今回のノマド制度の設計にも携わっていてアジア太平洋地域の社長や人事トップとも折衝していたのですが(もちろん彼が応募した後の選考プロセスには関与しておらず、公平に選びました)、彼はもともとシンガポールに15年住んでいた経験もあり、入社当初から海外でも働くキャリアを志向していました。

今回は一部彼のインタビューも交えながら進めてみたいと思います。

同じ会社でも、国によって文化がまったく違う

日本代表としてプログラムに参加した澤田直幸くん。愛称は「サワディー」

―― 実際に行ってみてどうだった?

澤田:まず実感したのは「同じ会社でも国が違うとこんなにも環境が違うのか!?」ということですね。たとえば、シドニーとバンコクだと社員のファミリーネスみたいなのにすごく感動しました。シドニーだとランチタイムのタイミングで社員同士が、ある一角で毎日恒例でSYDNEY MORNING HERALD(現地の新聞)に掲載されているクイズ (Trivia Session)をカジュアルに話し合いながら解いたりしています。満点を取ると解答用紙を額に入れて飾ったりもしてるんです(笑)。卓球大会も不定期に実施していて、仕事もあるのにいつ作ったのか疑うくらい洗練された告知のビジュアルやトーナメント表まで作成している。

卓球大会の告知ビジュアル

バンコクにいたときは、ある日、デートに行く女性をチームの女性全員がエールを送っていたり、不定期ですが、社員全員金曜日に集まって一緒にご飯を食べたりしていて、日本と比較してもお互いの距離がすごく近いと感じました。他にもシンガポールは、社員同士ちょっと悪口も絡めながら会話をしていたりして、ある意味人間味を良い意味で一番感じたかもしれないです(笑)。

あと、少なくとも僕がいる間はシドニーでは絶対に17時半にはみんな帰ってたのも驚きでした。

シドニーのオフィスではランチタイム時、みんなで新聞のクロスワードに挑戦

―― クリエイティブの人も帰ってるの?

澤田:はい。僕は初日に18時ぐらいまでいたんですけど、隣の先輩に「もうあなたしか居ないよ」と言われて周りを見渡したら本当に誰もいなくて。でもバンコクとシンガポールでは日本同様に結構ハードワークでした。

―― ざっくりだけど、アジア人と白人の仕事観の違いもあるかもしれないね。

澤田:実感としてはあると思いますね。あと印象的だったのは「スタッフがみんな若い」ということです。一番顕著だったバンコクで僕はプランニングチームと一緒に働いていたんですが、30代前半が2人、リーダーの女性が40歳ぐらいで、他は全員20代でした。それからバンコク・シドニーともにCEOをはじめリーダーやディレクターに女性が多かったのも印象的でした。

バンコクオフィスはとにかくスタッフがみんな若い!

―― ちなみに一緒にプログラムに参加した他のオフィスの3人はどうだった?

澤田:他の3人は全員基本的な能力が高く、テストトライアルに最適なメンバーが選抜されたと思います。他のオフィスの社員とスムーズに打ち解けるためには英語ができるのはもちろんですが、さまざまな環境や文化に対応して受け入れる能力が重要で、それを十分に持っていると感じました。全員がオープンで明るい性格で、新しい人々との出会いや交流を戸惑いなくできていたので、このメンバーと一緒にトライアルができて本当によかったと思います。

―― リモートで、しかも海外で働いてみて大変だったことはあった?

澤田:大前提として、東京オフィスがリモートワークに対応した組織かつ、フリーアドレスで働いていたので、大変だったのは時差の関係で24時からテレビ会議で打ち合わせしなきゃいけないっていうことぐらいでしたかね。

フリーアドレスだと、日本でもチームメンバーと毎日近くの場所にいるわけではないですし、チャットアプリでの連絡と、週1回の進捗報告ミーティングにテレビ会議で出ていれば問題なかったですね。ただ、これは日本人同士でもそうですけど、それができる環境を作るためにはテキストベースの会話だけでも意思疎通ができるぐらいの関係性を構築している必要があると思います。

―― 確かにそうだね。今回テストケースとして体験してみて、課題があるとすればどこだと思う?

澤田:まず感じたのは、今回の場合1つの国で5日間働いて、週末に移動するっていうローテーションを組んでいたんですが、やっぱり最初の3日間ぐらいは自分も向こうの人たちも「はじめまして」という感じで距離があって、残りの2日間で距離が縮まってくるんですが、すぐに次の国に行かなきゃいけないのが残念でした。交通機関の乗り方とか宿の取り方とかも全然文化が違う国に連続で行くとなると、いちいち調べるのも結構大変ですし。でも他の国のメンバーはその辺りもスピーディに調べられていて、みんな旅慣れているんだなと驚きました。

各国のオフィスでは「東京オフィスからの疑問に現地スタッフが答える」という企画も実施

あとは行く国のオフィスによっては「今週は日本から人が来るよ」ぐらいしか情報が伝わっていないところもあって、来た目的の説明とか、この日はここに連れて行くみたいなプランをあらかじめ設計しておいても良いのかもしれないと感じましたね。

―― なるほど。確かに期間はもう少し長めでも良かったかもしれないけど、現地で何をするかをあんまりガチガチに決めすぎちゃうと、ノマドというより交換留学みたいになってきちゃうとは思うな。受け入れる側にしても、例えば毎週新しい人が来たらその都度飲みに連れていかなきゃいけないのか、ってなると負担になっちゃうし。

……という感じで、澤田くんや他のメンバーとも報告書をつくったところで、これからの制度をどう設計していくか考えていきたいと思います。ちなみに、今回澤田くんと一緒に各国をまわった他のオフィスの3人のコメントも紹介します。

シドニーオフィスから参加していたマット「マッキャン・ノマドはアジアにあるオフィスを体験するのにすばらしいプログラムだった!これがなかったら出会うことがなかった同僚に出会えて、彼らの経験からさまざまなインスピレーションももらえた。そして東京のオフィスはすばらしかった。ワークライフバランス重視というモダンな働き方の価値観を取り入れて実行している日本のマッキャンはリーダー的な印象を受けた」

シンガポールオフィスから参加のアイリーン「まず東京に来るのが初めてだったこともあって、景色や音を体験するだけでも印象的だった。 空港からホテル、ホテルからオフィスに移動しただけでも、東京は美しくて活気のある街であるのが分かった。一緒に参加したオーストラリアのマットと東京オフィスに着いたとき、東京のチームがすごく暖かく歓迎してくれたのは日本のホスピタリティの高さを感じ、プログラムを始めるのに良いスタートだった。また日本のマッキャンオフィスの協力的なワーキングスタイルのレイアウトやウッドなトーンがすごく印象的だったし、スタッフ全員がすばらしいホストで日本の文化や場所をたくさん教えてくれたのもすごく自分のためになった。最終的には、たくさんのマッキャンの同僚に出会って各オフィスの独自の文化を受け入れることができて自分にとってすごくためになったプログラムだった。体験したことを 私が働いているシンガポールのオフィスにうまく取り入れていきたい」

タイオフィスから参加のペア「東京のオフィス自体がすごく大きく、さまざまな年代の人々が働いている印象を受けた。環境としては結構静かでみんな仕事に集中していて、仕事中はスタッフ同士あまり交流がない印象だった。ただ夜は一緒に出かけたりして私に東京の色んな側面を紹介してくれて、同僚の気遣いやホスピタリティの高さを感じた。また東京オフィスは自身のスキルアップのために、ワークショップやチーム会、ツール紹介など実施していて良いなと思った」

「転職・独立しないと実現できないこと」を少しでも減らす

今回の企画は、「まずは東京オフィスの上長に話を通して…」という進め方ではなく、僕らマッキャン・ミレニアルズのメンバーが直接各国の人事トップと社長に交渉することで実現しました。その下地には前回もお話ししたように、マッキャンというグループがどの国であっても若手からのポジティブな提案を歓迎してくれるというカルチャーがあるのが本当に大きいと思っています。

日本でも規模の大小を問わずリモートワークを取り入れる企業が増えていますが、距離だけでみれば、東京から沖縄に行くより韓国に行く方が近いわけです。だったら文化も環境も違う海外に行った方がクリエイティビティを養うという意味でも絶対に刺激になりますし、マッキャンの場合はクライアントがグローバル企業で国をまたいで同じプロジェクトに携わっているというケースも珍しくないので、チームワークを強化するという意味でも効果は高いと思っています。

あとはマッキャンだけでなく広告業界全体の課題ですが、若手でも「同じ会社に3年居れば長い方」という風潮があります。グローバルマインドを持った優秀な人材は制度を柔軟にすることで「転職あるいは独立しないと実現できないこと」を少しでも減らしていって、経営者も従業員も互いにメリットがある仕組みに育てていきたいですね。