EVENT | 2018/05/02

ゼロから宇宙事業をスタート。エリジウムスペース社・金本成生氏の挑戦

アメリカ発・宇宙葬サービスの日本展開を手がける、エリジウムスペース取締役の金本成生氏。
「誰もが気軽に宇宙にまつわるサ...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

アメリカ発・宇宙葬サービスの日本展開を手がける、エリジウムスペース取締役の金本成生氏。

「誰もが気軽に宇宙にまつわるサービスを利用できる社会をつくりたい」と語る金本氏は、自身がそれを有言実行するように航空宇宙関連の企業・機関での勤務経験のない、全くの“外部”から取り組みを始めた人物だ。

同社のサービス内容についてはもちろん、「どんな経緯でここまで至ったのか」という部分も詳しくうかがった。

聞き手・文:米田智彦 写真・構成:神保勇揮

金本成生

スペースシフト代表取締役/エリジウムスペース取締役

1975年鳥取県米子市生まれ。神戸大学工学部卒。小学校2年の頃にハレー彗星に興味を持ち宇宙に目覚める。少年時代は天文学者を志すが、大学在学時代にITベンチャーを起業。その後音楽業界、IT業界を経て2009年、宇宙ベンチャー「株式会社スペースシフト」を起業。代表取締役に就任。 衛星キット開発や衛星データ解析ソフトウェア開発、非宇宙企業への宇宙ビジネスコンサルティングなどを手掛ける。2013年には宇宙葬事業を展開する米ベンチャー企業、エリジウムスペースの取締役に就任。総務省「宇宙×ICTに関する懇談会」「宇宙利用の将来像に関する懇話会」構成員などを務める。

夢に描いた「宇宙を仕事に」を実現

―― 金本さんは宇宙葬事業を行うエリジウムスペース社の取締役と、スペースシフト社の代表取締役を兼任しています。それぞれの会社について簡単にご説明いただけますか?

金本:まずスペースシフトは2009年に私が作った会社で、宇宙関連事業のコンサルティングと衛星データの処理ソフト開発をやっています。もともとはガラケー向けのコンテンツを作る会社をやったりしていたのですが、子どもの頃から宇宙が好きで、やはり宇宙の仕事をやりたいということで33歳のときに会社を設立しました。

スペースシフトの公式HP。http://www.spcsft.com 本稿では触れていないが、2016年には超小型の人工衛星開発キット「ARTSAT KIT」を開発、クラウドファンディングで100万円の調達に成功している。

―― ロサンゼルスにもいらっしゃったことがあるとうかがいましたが、アメリカにいたことと宇宙事業は関係があるんですか?

金本:もともと学生時代からさっきのガラケー向けコンテンツとは別に大阪で起業していて、ネット系の会社でウェブ制作とかサーバーを立ち上げたりしていたんです。でも「大阪にいても意外と仕事が広がらないな」という感覚があり、ちょうどネットバブルでもあったので「アメリカに行こう!」とLAに行きました。もちろんシリコンバレーも行きつつ、LAベースでエンジニア、プログラマーとして就職活動をしましたね。1999年ぐらいで23、24歳の頃の話ですね。

それで一応就職が決まったのですが、そこが喜多郎という有名な日本のキーボーディストのマネジメントをやっている会社だったんです。ただLAで就職したはずが、翌年には東京に支社を作ることになって日本に戻ってきてしまいました。

「宇宙×エンタメ」で人脈をつくる

―― そこから宇宙ビジネスの起業にはどうつながるんですか?

金本:東京に戻ってから、iモードで“癒し系”の着メロなどのコンテンツを配信するプロデューサーをしていました。2000年頃にブームがあって、ヒーリングミュージックが流行ったりしてたじゃないですか。あとは「携帯と話すことで癒される」というコンテンツも作っていました。今で言えばAIと話せるみたいなやつですね。実際はエクセルで5万個くらいのパターンを作って、それが対話しながら出てくるというものなんですけど。寂しい人の話し相手に携帯がなってくれて、最終的に着メロとか壁紙を利用してくれるというものでした。月額300円だったんですけど。累計で5万人くらいが使ってくれましたね。

そのコンテンツのユーザーから感想のお手紙をいただくこともあったんですが「おかげで死ぬのを思いとどまりました」みたいな内容もあったりして。おそらく5~6人くらいの命を救っていると思いますよ(笑)。

―― まだ宇宙とは全然関係ないですね(笑)

金本:関係ないです(笑)。でも宇宙に関しては、シリコンバレーに行っているときからイーロン・マスクなんかがやっていることもずっと横で見ていたわけですよ。イーロンも昔はPayPalみたいなITサービスをやっていたわけで、それに比べると「自分も宇宙が好きなのになんだか遠ざかっているな」という気持ちがありました。

それで設立したのがスペースシフトです。今まで自分がコンテンツに関わるビジネスをしてきたので、まずは「宇宙×エンタメ」という分野で取っ掛かりができないかと思い、いろんなイベントを開催していました。Sonar Sound Tokyoというクラブミュージック系のフェスで松本零士先生を招聘したトークセッションをやったりだとか、JAXAの職員の方とのトークセッションとDE DE MOUSEのライブを一緒にやる、という「SPACE SHIFT O」というイベントをやってみたりだとか。

DE DE MOUSEによるDJプレイ

トークイベントの様子

この頃はまだIT・ウェブ関連の仕事も並行しながら、だんだんと宇宙の仕事を増やしていくようにしました。例えばJAXAからフェアリングというロケットの先端についている衛星を守る部分を譲り受けたので、こんなこともやっていました。

ウチュウガチャの中身

―― おぉ、ガチャガチャですか?

金本:実際に宇宙に行ったロケットの部品の破片を「ウチュウガチャ」として日本未来科学館で売っているんです。証明書も付いています。衛星が打ち上がるときに宇宙で分離した後、破片が海に落ちるんです。それをJAXAが回収して私たちが製品化するという権利を得て、デザイナーと組んで製作しました。

―― これは1個いくらですか?

金本:1個500円で、今でも買えます。これまでに2万個くらい売れました。あとは、打ち上げられた小型衛星の内部にデジタルサイネージを載せて、地球や宇宙をバックにメッセージや広告が掲載できます、というサービスもやっています。

実際に衛星の内部から撮影した画像

―― これはどうやって撮影しているのですか?

金本:衛星の中についているカメラで撮っています。衛星と言っても50cmくらいの大きさで、窓のスペースが10cm角なんですよ。1年独占で1億円なんですけどいかがですか?(笑)。

―― 手持ちがちょっと足りなくて(笑)。では、スペースシフト設立から結構順風満帆に事が運んでいっていたのでしょうか?

金本:ただ残念ながら、あんまりお金にはならないんです(苦笑)。例えばウチュウガチャは2万個売れても利益は何十万円という感じです。イベントもいろいろと協賛を募るために営業をかけると「宇宙はやっぱり面白い」と言って喜んでくれるのは嬉しいですしやりがいもあるのですが、これも莫大な利益が上がるというものではありませんし。

「宇宙ベンチャー」はどうやって稼ぐ?

―― でも、こうして今も諦めずに続けているわけですよね

金本:はい。私自身もエンジニアとしてソフトウェアを作っていたわけですから、そこに立ち戻って考えようかと思い直したりもしました。

宇宙事業の中でも、ロケットや衛星の打ち上げみたいな目立つところはたくさん動きがありますし、それらに基づくデータを使う企業、例えばGoogleとかFacebookなどといったプレーヤーも増えています。でも「データ処理をする」ということに関してはあまり新しい技術は出てきていないんです。

最近だとAIを使ってうんぬん、ということはあるんですけど、そもそも衛星のデータ処理自体が古い技術でやっているので、たくさん衛星が飛んでデータがいっぱい来たとしても、処理の仕方が変わらないと利用の幅も広がらない。なので、今はAIを使って衛星からのデータを自動的に解析し、どういう変化が起きているのかを自動的に検出するソフトを開発しています。

―― 宇宙事業は比較的投資額が高いことに加えて「果たしてこの取り組みは成功するのか」「一体いつになったら儲けが出るんだろう?」っていう不安があったりしませんか?

金本:確かに、内容によっては利益度外視というか、永久に利益が出ないような事業もあるわけです。でもそれは投資家から見ると「新しい技術を産むから意味があるんだ」とか「どこかに買収されればそれでいい」とか、そういう話も多い。

加えて、衛星データであればすでにデータ自体はたくさんあるので、それを今使っていないところに展開していくことはできます。スペースシフトは、宇宙以外のビジネスも組み合わせることで「早期から利益を出す」というコンセプトでやっているので、そこはいわゆる宇宙ベンチャーとは違うかもしれません。

宇宙葬を利用するのは「普通の人」

―― それでは、もう1社のエリジウムスペースについてお聞きしたいと思います。2013年3月にサンフランシスコで設立された会社ですよね。

金本:創業者はトマ・シヴェというフランス人で、今はアメリカ人になっているんですが、彼は10年くらいNASAに所属する技術者として「ハッブル宇宙望遠鏡の観測計画を無駄なく最適化する」といったプログラムを書いていました。彼も「身近な人が利用できる、サービスとしての宇宙事業がやりたい」ということで2013年に起業して、紹介されて会ったんです。

エリジウムスペース創業者のトマ・シヴェ氏

宇宙葬自体は実は20年以上前からあるサービスなんですが、日本には代理店しかなく、値段も高すぎたので、意気投合して「日本は俺がやるわ!」という話になって自分も出資して参加したんです。

―― 宇宙葬は宇宙ビジネスにおける数少ないBtoCのサービスですよね。1回いくらぐらいで利用できるんですか?

金本:30万円です。また、まだ打ち上げは実現していませんが、120万円で月面に専用カプセルを安置する「月面供養」の受付も始めました。注文後は、1cm四方の小型カプセルをお送りし、遺灰を入れて返送してもらいます。最大480個のカプセルを10cm四方の人工衛星に搭載して打ち上げます。その後宇宙でこれをばら撒くのではなくて、衛星そのものが周回します。打ち上げ時にはライブ映像を送り、打ち上げた後はスマホのアプリで衛星がどこにいるのかわかったりしますというサービスです。

宇宙葬を申し込むと、写真のボックスが送付される。左の小さなキューブに遺灰を入れ、返送する仕組み。

スマホを空に掲げて「おじいちゃんはここにいるな」っていうことがわかるというわけです。衛星は小さくて目視はできないので、こういうアプリで空にいることを感じてもらえたらと思っています。

エリジウムスペースのモバイルアプリ。iOS・Android両方に対応している。

地図上で衛星がどこに飛行しているかが一目でわかる。

―― 衛星は半永久的に地球の軌道を回っているのですか?

金本:今回は2年から3年くらい周回して、最後は大気圏に突入するので流れ星になって燃え尽きます。

―― なるほど。打ち上げはどのぐらいのスパンで行われるんですか?

金本:米国の商業衛星打ち上げ会社のスペースフライトサービスというところと提携し、他の衛星と一緒に定期的な打ち上げ機会を確保しています。1年に1回ぐらいのペースまで早めることができました。今は2018年、19年にそれぞれ1回予定しています。

公式サイトに掲載されている打ち上げスケジュール(2018年2月8日時点)。http://elysiumspace.com/ja/launch-schedule-jp

―― すでに打ち上げの実績はありますか?

金本:2015年に一度実施しましたが、残念ながら計画した軌道に達することができず、失敗してしまいました。ですがその場合、すでに申し込み済のお客様に関しては、成功するまで無料でサービスをさせていただきます。

―― アフターケアの部分も整えられているわけですね。ところで、2013年に日本でサービスを開始した時の利用料金は20万円で、今は30万円にアップしています。これはコスト的な要因なのでしょうか?

金本:そうですね。あとは申込みの初動も欲しかったので、キャンペーン的に挑戦的な価格を提示した部分もあります。アメリカだと他の競合の価格が5,000ドルぐらいなんですよ。アメリカでは「競合の半額!」ということで2,499ドルでやっていて、日本では競合価格が95万円くらいなので、今でも1/3ぐらいの値段です。

―― 確かにそれは安いですね。申し込んでいる人はどんな人ですか?

金本:2018年2月時点で、全世界で150弱くらいの申し込みがあります。「JAXAで働いていました」みたいな人しか申し込んでいないというわけではなくて、「宇宙が好きだ」「死んでからでも宇宙に行きたい」とか「死後、送られるなら夜空がいい」といったロマンを持つ人たちですね。

―― そのうち日本人は?

金本:1/3くらいです。なかには法律上国外に遺灰を郵送できない国の方からのオーダーがあったりするので、そういう場合は直接アメリカに持ってきてもらうといった方法をお願いしています。

宇宙に行くのはもう夢ではない

―― 今後について教えてください。

金本:起業から最初の打ち上げまでに2年、次はまた3年と時間がかかってしまったので、まずは毎年上げられるようにすることと、お客様を安定的に増やすことが最初のステップだと思っています。2018年の打ち上げはイーロン・マスクが設立したスペースX(スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ)のロケット、ファルコン9に搭載してもらえることになりました。

やっぱり一番の課題は打ち上げなんです。ロケットの打ち上げ回数自体は増えてきてはいるんですけど、宇宙葬自体がまだ市民権を得ているかどうかと言われるとまだそうではありません。現状、日本からは打ち上げてもらえないですし。まずは打ち上げをスムーズかつ、どこからでも打ち上げられるようにしたいですね。

―― 日本にはロケットを打ち上げてくれる民間の会社がないということですか?

金本:日本では小型のロケットを開発している民間企業はいますが、今のところ打ち上げサービスは始まっていないです。JAXAは国家予算で運営されているので、プライベート・趣味的なことであったり、とくに宇宙葬は宗教を特定していないのですが、特定の宗教に基づくような利用はできないようです。

これもひいては「宇宙葬が一般化していない=特殊なことである」という部分があると僕は思っているんです。まずは打ち上げをしっかり成功させ、事例を積み上げていくしかないですね。

―― 今、打ち上げに成功する確率ってどのぐらいなんですか?

金本:どの時期から統計を取るかにもよるのですが、打ち上げ自体が始まってからですとおおむね失敗確率が5~10%ぐらいです。スペースXの打ち上げは2017年には失敗していないですが、その前の年は2回失敗していたり、まだまだ不安定な部分があります。

ちなみになぜ打ち上げが失敗するかというと、ロケットは燃料を燃やして爆発する推進力で宇宙に向かっていくんですが、その制御が現状難しく、失敗すると爆発します。ただこれまでと違った燃料やエンジンを使っていこうという動きもあるので、技術の発展によって遠くない未来に飛行機事故ぐらいの確率には抑えられるんじゃないかと思います。

宇宙で死んでみたい

―― 金本さんは生きている間に宇宙に行けたら行きたいと思っていますか?

金本:そうですね。私の予定としては宇宙で死のうと思っています。ただ今は倫理的にも生きて帰ってくる前提じゃないと宇宙に行けないんですけど、これから民間の宇宙旅行や宇宙開発が進めばそれも可能になると思うんですよね。

―― 今まで考えたことがなかったんですが「宇宙で死ぬ」とはどういうことなんでしょうか?

金本:寝たきりで地上に居るのって苦しいじゃないですか。僕は父親をガンで亡くしているんですけど、家族に最期の姿は見せたくないんですよね。トイレにも行けないし見た目も変わってくるし。

でも宇宙は無重力なので、自分の身の周りの世話ぐらいならできるわけですよ。地上にいると重力があるのでトイレには一人で行けないし、非常に惨めな思いをする。それに比べると宇宙の無重力な空間で何でもある状態にできる。例えば寿司の出前だって、今の技術だとやろうと思えば地球から30分くらいで届くわけですよ。1回50万円くらいかかるかもしれないけど(笑)。

―― 普通の出前寿司よりも早いかもしれないですね(笑)

金本:なので僕としては、最終的に「宇宙なら何の不自由もなく楽な状態で死を迎えられる」という夢のようなサービスを作りたいと思ってます。死んだあとは宇宙の彼方に送ってもらってどこか新しい文明に体が辿り着いて、そこで復元されてまた新たな惑星で人生が始まるかもしれない。“クローンの自分”が100万人に増殖して地球に戻ってくるかもしれない(笑)。そういうのが考えられるくらいのが楽しいじゃないですか。