EVENT | 2019/08/05

行き先はどちらですか?電気自動車と自動運転が社会にもたらすもの。【連載】デジハリ杉山学長のデジタル・ジャーニー(12)

デジタルハリウッド大学学長・杉山知之さんの連載第12回は、各社がしのぎを削って開発競争に勤しむ、電気自動車と自動運転のテ...

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デジタルハリウッド大学学長・杉山知之さんの連載第12回は、各社がしのぎを削って開発競争に勤しむ、電気自動車と自動運転のテクノロジー。だが、それらがもたらす社会的な変容やインパクトについては、まだ十分に認知されていないのかもしれない。リアリティ豊かな未来の語りに“相乗り”してみれば、見える風景も変わるはず。

聞き手:米田智彦 構成:宮田文久 写真:神保勇揮

杉山知之

デジタルハリウッド大学 学長/工学博士

1954年東京都生まれ。87年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年 日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月 デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、同大学・大学院・スクールの学長を務めている。2011年9月、上海音楽学院(中国)との 合作学部「デジタルメディア芸術学院」を設立、同学院の学院長に就任。VRコンソーシアム理事、ロケーションベースVR協会監事、超教育協会評議員を務め、また福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議会長、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員など多くの委員を歴任。99年度デジタルメディア協会AMDアワード・功労賞受賞。著書は「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」(祥伝社)、「クリエイター・スピリットとは何か?」※最新刊(ちくまプリマー新書)ほか。

10年前、初めてテスラに乗った“衝撃”

2010年のTED×Tokyoの際だったと思いますが、テスラに乗せてもらった時のことを強烈に覚えています。テスラが最初に生産した、ロータス社エリーゼのプラットフォームを使って電動にした「テスラ・ロードスター」ですね。何に驚いたかというと、まずは走行音ですね。匕ューン匕ューンという音で近付いてきて、目の前でシューンという音で止まったのです。これぞ漫画でみた21世紀と感じました。

戦後の車文化の中で、ブルブルブォーン!!!というエンジンの音で育ったので、衝撃でしたね。それから数年後、テスラと言えば、ダッシュボードの真ん中大きなタッチスクリーンがシンボルのようになり、皆が「走るスマホだ!」だと表現をしました。その延長として内部もそして外部もすべてディスプレイで覆われているような未来の車が見えてきました。

電気自動車の生産拠点は「どこでもいい」

地球温暖化防止のため、ドイツ連邦議会が「2030年までにエンジン車の発売を禁止する」という決議案を採択したことが話題になっていますね。各メーカーによる電気自動車の開発競争は、今後ますます過熱することでしょう。

そこで重要な観点は、「生産拠点」です。いや、電気自動車の生産拠点は「どこでもいい」、ということこそが大事になってくるはずです。パーツの生産はその国の産業構造そのものが大きく影響します。それぞれ高性能かつ安価で大量に作ることができる国がある。それらのパーツを集め工場で組み合わせれば世界中どこでも電気自動車が作れる環境なのです。これは、その国の気候・風土・文化・用途に根差した電気自動車がどこでも自在に作れる時代が来たということです。

モーターはもちろん、電池、CPU、ディスプレイ、カメラやセンサー……こういった部品の生産や組み立てが何らかの条件に左右されずどこでだって同条件でできるようになれば、これまでとは異なる時代が訪れるのではないでしょうか。

超高齢化社会に、いち早く自動運転と“暫定処置”を

一方の、自動運転に関してはどうでしょうか。特に日本においては、昨今の痛ましい高齢ドライバー事故の報道を見聞きしていると、自動運転への社会的なニーズが一気に高まったように感じます。もう、法規制がどうといっている場合でさえないような、超高齢化社会における自動運転の圧倒的なニーズですね。地方の過疎地でも、お年寄りを毎日バスで移動させるわけにはいかないでしょうから、全国的に必要になるはずです。

そこで鍵になってくるのが、完全自動運転が可能になるまでの間に何ができるか。具体的にいえばこれからしばらくは、「既存の車体に後付けでテクノロジーを装備することができる」ベンチャーなどが興隆すると思います。排出ガス規制の時にもよくあったケースです。

今の車であればアクセルとブレーキを制御する回路は、それぞれ別になっていますから、後付けで何かしらの装置をつけるのは難しくないはずなのです。たとえば、目の前に歩行者などが現れた場合には自動的に車がアクセルを離す、というようなものですね。少なくとも、混乱した高齢者がブレーキと間違えてアクセルを踏み続ける、なんていう事態は避けることができる。現実的にこうした処置をひとまずしながら、他方で自動運転技術を高めていけばいいのだと思います。

自動運転車内に広がるワンダーランド

では、未来において完全自動運転が実現したら、私たち人間は車内で何をしているのでしょうか。自分が機械をコントロールする、人馬一体のような超人感は、そこでは失われています。その代わりに、何を得るのか。

もちろん、何もしない、という選択肢もあります。自分の家、自分の部屋のようなものですから、金曜の夜にオフィスから乗り込んで寝て、朝には離れたリゾート地で目を覚ます、なんてこともできる。重いキャリーバッグをガラガラと引きずって、新幹線へ、レンタカーへなどと移動することなんて必要がなくなってきます。

ビジネスの打ち合わせも、移動しながらできるでしょうね。オフィスの中で切羽詰まった状態でやるよりも、気分を変えながらの会議のほうが、良いアイデアが出るかもしれません。

もしディスプレイやVRの技術が発展すれば、外の景色を他のどこかの風景のように見せてしまう、ということもできるかもしれません。今日はアルプスの山々、明日はハワイのビーチ、というような。あるいは、同じ時間に走行している世界中の友人と、それぞれの車外の風景をインタラクティブに交換するのも面白いかもしれない。

個人的に楽しみなのは、食事です。車が走っている途中でドローンが飛んできて、Uber Eatsのように食事を届けてくれる。ルーフトップを開けたら、ヒューッとピザが届くなんていいじゃないですか(笑)。

昔の電車にあった食堂車もそうですが、移動しながら、そして景色を眺めながらの食事は心躍るものです。その景色も自由に入れ替えられるのなら、たとえ家族で東名高速を移動していても、楽しい食事になるはずですよ。

食事もとれるとなったら、いよいよ車を自分の家や部屋にする人が増えてくるかもしれません。いずれにせよ、私たちにとっての移動の価値というものが、がらりと変わってくるのです。


次回の公開は8月31日頃です。

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