EVENT | 2025/03/12

日本の格闘技界からヒーローを作りたい!
アジア最大の格闘団体CEOが「ONE 172: 武尊 VS ロッタン」
開催を控え緊急来日

ONE Championship 会長兼CEO チャトリ・シットヨートン氏インタビュー

聞き手・文:徳重 龍徳 写真:Kyohei Kimura 編集:カトウワタル(FINDERS編集部)

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3月23日、さいたまスーパーアリーナで4度目となる大会を開催

取材場所に現れたONE Championshipの会長兼CEOであるチャトリ・シットヨートン氏は黒のTシャツ一枚というラフな格好だった。Tシャツの胸には「ヘンゾ・グレイシー柔術アカデミー」と英語で書かれていた。PRIDEで桜庭和志とも戦ったヘンゾ・グレイシーが開いたブラジリアン柔術道場で、チャトリ氏は2005年からヘンゾに師事し、昨年には黒帯となった。

取材の前日には、5月4日に東京ドームで開かれる「THE MATCH2」の目玉カードである朝倉未来と平本蓮戦が平本のケガにより中止となることが発表され、話題となっていた。同じ格闘技の興行主としてどう思うかと質問すると、顔が少し険しくなった。

そのことは、あまり知らないんだ。他団体のことではなく、このインタビューはONE Championshipについてフォーカスしてほしい」

取材後にスタッフへ話を聞くと、本当に情報を入れていないようで、朝倉VS平本戦の中止を知ったのは発表があった翌日だったという。

ONE Championshipはシンガポールを拠点とする国際的な格闘技プロモーションだ。MMAだけでなく、ムエタイ、キックボクシング、サブミッショングラップリングなどの格闘技イベントも行っている。

タイ人の父と日本人の母のもとに生まれたチャトリ氏は、ハーバード・ビジネススクール卒業後、ウォール街でヘッジファンドを立ち上げるなど成功を収めた。2011年7月14日にシンガポールでONE Championshipを設立。現在は190カ国以上で放送され、Forbes誌が昨年発表した「最も企業価値の高いコンバットスポーツ団体ランキング」ではアメリカの総合格闘技団体「UFC」、アメリカのプロレス「WWE」「AEW」に次ぐ4位にランクインした。

「日本VS世界」がテーマの大会

ONE Championshipが日本で初めて上陸したのは6年前。3月23日にはさいたまスーパーアリーナで4度目となる大会を開催される。この大会について、チャトリ氏のテーマは「日本VS世界」だと話す。

ONE Championship 会長兼CEO チャトリ・シットヨートン氏

日本のトップクラスのキックボクシング選手と世界の強豪と対戦するカードが並び、日本の格闘技ファンの注目度は高い。チャトリ氏は今大会のカードに自信をみなぎらせる。

「RIZIN、K-1、RISEなど、今の日本の格闘技団体は国内を中心に日本のトップ選手を育成する素晴らしい大会だ。けれどONE Championshipは国際的な舞台を提供する。世界中の団体から選手が来て、日本からも武尊、野杁(正明)、KANAと日本のベスト・オブ・ベストの選手が出場する。みんなオリンピックでの金メダルのようにONE Championshipのベルトを取りたいんだ」

特に日本のファンの関心が高いのはメインカードに組まれた武尊VSロッタン・ジットムアンノン戦だ。

「井上尚弥と那須川天心と武尊。この3人が日本で一番有名な格闘技の選手だ。井上はもう世界中どこでも知られている。天心は今、ボクシングでそこに向かっている。ただキックボクシングでは世界の舞台には行かなかった。彼は、日本の中のベストを成し遂げたのだ。武尊はONE Championshipに入ったことで世界のベストの選手と戦える。今回のロッタン戦がまさにそうだ」

ロッタンは2018年に現在はボクシングに転向した“神童”那須川天心とRISEの舞台で戦い、判定で敗れている。ただチャトリ氏は違う見方をする。

「ロッタンと天心の試合は海外の格闘技関係者の中でも『ロッタンが勝った』と話をよく聞いたし、私もそう感じた。でもあの試合は日本で行われたから、日本人有利のジャッジになったのかもしれない。ボクシングでもこの間の試合(ジェイソン・モロニー戦)は、アメリカ人のレポーターたち界隈では物議を醸した様子だった」

「開催国によって基準がずれないようフェアにするというのは、選手にとっては本当に大事なことだ。私の視点では、ロッタンは天心に勝った。天心は武尊に勝った。もし武尊がロッタンに勝ったら、“ジャンケン”みたいで面白いね。武尊にとってこのロッタン戦は本当に大きいんだ。勝利すれば、彼にとってのレガシーになるよ」

日本の格闘技に夢を再び〜国際舞台との距離を縮める

チャトリ氏は日本の格闘技界は今"国内完結型"になっていると語る。「30年前、日本は格闘技で世界No.1だった。K-1、そしてPRIDEがあった。ただPRIDEが様々な問題でイメージが低下したことでテレビはスポンサーから離れ、大きなスポンサーも離れていった。そこから格闘技ビジネスは変化し、日本人選手の国際的な活躍の機会も限られていった。私には半分日本人の血が流れている。だから絶対に日本人のヒーローを作りたい。世界の強豪と戦って、尚且つ勝利するヒーローだ。武尊もロッタンに勝てるかはまだわからない。ただ武尊の人生において23日の大会は一番大切な日になるはずだ」チャトリ氏は日本と世界の差を何度も口にした。どのくらいの差があるものなのだろう。

「ONE Championshipに参戦した日本人のMMAの選手、キックボクシングの選手の悔しい結果になっている。パンクラス王者でも、修斗の王者ともサインしたけれど(ランキング入りしている選手やタイトル戦になると)大半が苦戦してしまう。武尊や野杁、KANAだってONE Championshipの最初の試合では負けてしまった。日本の大会と国際大会との対戦環境の違いが明らかになった」

「現に日本の立ち技格闘技の選手からONE Championshipへ参戦を希望する選手が多くなっている。日本の団体を制して、世界一になるチャンスを掴みたいんだと思う。選手の立場になればよくわかる話だ。もし競技者として20年以上格闘技に打ち込むのなら、世界一を目指したくなる。けれど日本の団体には国内での活躍を重視する傾向がある。でも人生は一回しかない。だからチャンスが欲しいとONE Championshipに来るんだ」

2019年に日本で初大会を開いたONE Championship。当時はMMA(総合格闘技)のカードがメインだったが、今大会ではキックボクシングが中心となっている。この変化はなぜ起こったのだろうか。

「日本の総合格闘技団体のチャンピオン、パンクラス、修斗のチャンピオンが参戦したが成功しなかった。ONE Championshipのレベルが高すぎたんだ。ONE Championshipが一番大事にしているのはどの格闘技でも世界中でベストであること。そう考えた時、日本のMMAは世界レベルに向けて発展途上の部分もあるし、ONE Championshipで王者になるのも難しい。けれど立ち技は違う。日本には空手という立技の歴史があるし、キックボクシングジムはMMAのジムよりもたくさんある。土台があるんだ。だから私は武尊や野杁がチャンピオンになって、ヒーローになる可能性はまだあると思っている」

選手にとってチャンピオンベルトという栄誉とともに欲しいものがお金だ。チャトリ氏はその点でも日本は問題を抱えていると話す。

「日本の団体と世界の舞台とでは、ファイトマネーの規模が変わる。今、武尊がONE Championshipの試合でもらっているファイトマネーは具体的に言えないが国内とくら比べると数十倍だろう。桁が違ってくる。日本でも野球やサッカーであれば成功すればドリームを掴める。でも今の日本の格闘技は難しいだろう。チャンピオンになっても、格闘技だけでは生活できない選手が多いと聞く。だから将来に夢を描けない。でもONE Championshipで成功すれば、ファイトマネーは数十倍になるんだ」

さらにもう一つ大きいのがファンベースだという。

「ONEにどうしてみんな入りたいのか。一番はファイトマネーだが、その次が簡単に世界中にファンベースが作れる点だ。195の国に生放送され、SNSは10億人がフォローしている。ファンベースにすると40億〜50億人だ。選手にファンができれば、そこにスポンサーもつく。だからファイトマネー以外でも収入が増える。ここは日本の団体と全然違うところだ」

日本人選手の中からヒーローを作りたい

現在、アジア最大の格闘技プロモーションとなったONE Championship。チャトリ氏は今回の日本大会について、以前とは違う手応えを感じていると話す。

「23日の大会が本当に嬉しいのは、日本のファンが『このカード見たい』『この選手見たい』とSNSに書き込んでいて、大会にも足を運んでくれることなんだ。私は半分日本人だけれど、日本人のファンはずっと私のことを信じてくれていなかった。いつも『チャトリは外人』と言われていた。でも23日の大会で、初めて日本人のファンから感謝された気がするんだ。5年前の両国での大会の時はデメトリアス・ジョンソンやエディ・アルバレスと海外のスター選手が中心で、日本人の選手にはストーリーがなかったからあまり日本のファンに応援してもらえなかった。やっぱり日本人は日本人の選手が好きで、日本人選手が世界で活躍するストーリーが大好きなんだ」

だからこそ、今後は日本人選手の中からヒーローを作りたいと話す。

「私はいくら失敗しても日本を助けたい。盛り上げたいんだ。日本には長い武道の歴史がある。その中で格闘技が人気がなくなっているのは残念に思っているんだ。私の夢は日本人である母に『見て、ONE Championshipで大谷翔平のように、世界で活躍する日本人チャンピオンが生まれたよ』と話すことなんだ。そしてONE Championshipのことを日本のファンがみんな大好きになってくれる。それが夢なんだ。今回の大会にも出る陽勇(ひゅう)にはすごく期待しているんだ。彼はフルコンタクト空手のチャンピオンで100%日本人。22歳とまだ若いんだけど、すごく真面目な選手。そしてグッドルッキングガイなんだよ(笑)」


ONE 172: 武尊 VS ロッタン
日時:2025年3月23日(日) 開場14:30・開始16:00・終了予定22:00
会場:さいたまスーパーアリーナ(埼玉県さいたま市中央区新都心8)
主催:ONE Championship

公式サイト
https://www.onefc.com/jp/events/one172/

チケット情報
https://eplus.jp/sf/word/0000129910