少年期の記憶が象徴する「ひとり」と「だれか」
2025年7月19日から水戸芸術館現代美術ギャラリーにて、アーティスト・日比野克彦の活動を総覧する展覧会「日比野克彦 ひとり橋の上に立ってから、だれかと舟で繰り出すまで」が開催される。本展では、少年時代から現在に至るまでの60年以上にわたる歩みを、170点以上の作品と豊富なエピソードを通して紹介する。
日比野は、幼少期に橋の上で「ひとり」を実感した記憶を原点に、絵を描くことを「だれかと出会い、つながるための行為」と捉えてきた。本展はその思想を軸に、個人としての内面の掘り下げから、社会との関係性を築いていくアートプロジェクトへと至る日比野の実践を立体的に描き出すものである。
1980年代、東京藝術大学大学院在籍中にダンボールを用いた作品で頭角を現した日比野は、80年代アートシーンの寵児として一世を風靡した。しかし、本展はそれを単なる出発点と捉え、90年代の内省的な模索期、2000年代以降の関係性を重視したアートプロジェクトへの転換、さらには2010年代以降、美術館館長や大学長としての役割を担いながら、美術と社会を結びつける実践へと広がっていく日比野の活動を総体として捉える。
注目すべきは、作家本人の手つきや振る舞いに注目しながら、形や物として残らない活動までも掬い上げている点である。代表作である「明後日朝顔プロジェクト」や「こよみのよぶね」などの地域密着型プロジェクトも、絵本作家・大橋慶子による絵本化や、漫画家・宇佐江みつこによる描き下ろし漫画によって再構築され、その魅力が新たな視点から語られる。
また、本展のために制作された日比野年譜は、関係者のコメントとともに日比野の多声的な活動を時系列で可視化する。美術表現に限らず、福祉、医療、行政、企業との連携を含む幅広い社会的実践を網羅し、観る者に「芸術とは何か」という根源的な問いを投げかける内容となっている。
日比野克彦の「ひとり」と「だれか」のあいだを往還する芸術観は、現代におけるつながりの在り方を静かに、そして力強く問い直している。
ぜひ会場へと足を運んでいただきたいと思う展覧会だ。

日比野克彦 ひとり橋の上に立ってから、だれかと舟で繰り出すまで
会期:2025年7月19日(土)~10月5日(日)
開場時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー
休館日:月曜日(ただし7/21、8/11、9/15は開館)、7/22、8/12、9/16
入場料:一般900円、団体700円、高校生以下・70歳以上・障害者と付添1名は無料
年間パス:2,000円 (1年間有効)
特別割引:毎月第一金曜日は学生証・65〜69歳の方100円(8/1、9/5、10/3)
主催:公益財団法人水戸市芸術振興財団
助成:公益財団法人小笠原敏晶記念財団
協力:岐阜県美術館、熊本市現代美術館、東京藝術大学、レンゴー株式会社、サントリーホールディングス株式会社
企画:竹久侑(水戸芸術館現代美術センター芸術監督)
関連リンク
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5358.html