毎週1社ずつ、気になるスタートアップ企業や、そのサービスをザクッと紹介していくシリーズ「スタートアップ・ディグ」。第2回は「核融合発電」の実用化・商用化を目指す、2019年創業の京都フュージョニアリング株式会社を紹介していく。
文:赤井大祐(FINDERS編集部)
核分裂と核融合は違う
「核融合発電」とは、現在世界中で行われている原子力発電とは似て非なるもの。原子力発電は原子核の「分裂」によって発生するエネルギーを利用するのに対し、核融合は文字通り原子核同士を「融合」させることでエネルギーを生み出す。これは太陽が輝いているのと同じ原理だ。ちなみにガンダムのエネルギー源も核融合なんだとか。
分子の核を扱うという点において同じであっても、核融合は原子力発電における臨界事故やメルトダウンを起こす危険性は原理的にありえず、高レベル放射性廃棄物も生まれないらしい。
京都フュージョニアリング社のHPより
他にも原子力発電に用いられるウランはおよそ100年で枯渇するとされているけれど、核融合発電に用いられる重水素は海水から取り出すことができるので、ほとんど無尽蔵。ちなみに化石燃料に関してはこのままのペースで採掘が続くと石油と天然ガスは約50年、石炭は130年ほどで枯渇してしまうとされている。新しいエネルギー源の確保は喫緊の課題であることは間違いないため、世界的に注目が集まっている。
半世紀以上にわたり研究が続き、未だ実用化の目処はたっていないけれど、実用化すればエネルギー情勢を大きく変える可能性を秘めた、まさに人類の未来をになう技術だ。
京都大学がエネルギー問題を解決するのか
京都フュージョニアリング社は、そんな核融合炉の実用化、商用化を目指し、核融合炉に関する装置の研究開発・設計・製造、装置・コンポーネントの輸出を行う、京都大学発のスタートアップ企業。
同社が主に打ち出している技術は2つ。「ブランケット」と呼ばれる、発電に必要な熱を取り出すと同時に、燃料となるトリチウムを製造するための装置と、核融合反応時に発生するヘリウムやその他の不純物を除去、分離する「排気系」の製造だ。
どちらも核融合炉の中核を成す装置であり、稼働時に高温などの極端な条件に曝されるため、非常に高いクオリティが要求されるそう。そのうえ、交換が容易であることなどメンテナンス性も求められる。これらを向こう数十年にわたり継続的に製造・納品していくことで核融合炉の商用化に貢献するということだ。
技術開発は京都大学エネルギー理工学研究所内の小西哲之教授を中心とする核融合装置とエネルギー利用に関する研究がベースとなっており、京都大学宇治キャンパス内にオフィスを構える。またCEOの長尾 昂(ながお たか)氏は、京都大学大学院工学研究科機械理工学専攻出身であり、京都大学が100%出資するベンチャーキャピタルの京都大学イノベーションキャピタル社が主な株主と、まさに京大一丸となって挑戦するプロジェクトと言えるだろう。
さらに、今年1月には、ベンチャーキャピタルのCoral Capitalから約1.2億円の資金調達を実施。6月にはテレビ東京などが主催する、REVERSIBLE WORLD 2021のGreat Entrepreneur Award 「社会的に異次元なインパクトを与える可能性のあるスタートアップ企業」カテゴリにおいて1位を受賞するなど、社会からの期待も大きい。
AI、VRやAR、ブロックチェーン、ロボティクスなど、どれだけテクノロジーが先鋭化しようと、それを動かすエネルギーがないことには始まらない。同時に次世代のエネルギー産業を握ることは世界の覇権を握ることにも通じるだろう。その是非はともかく、各国がますます力を入れることは間違いない。引き続き注目したい分野だ。