文:舩岡花奈(FINDERS編集部)
2023年10月に虎ノ門ヒルズ ステーションタワーが開業し、高層階には約10,000㎡の複合施設「TOKYO NODE」が姿を現す。様々なイベントスペースや、屋上ガーデン、4つのレストランに加え、クリエイターと共同開発できるラボを併設する複合施設だ。
虎ノ門ヒルズエリアの象徴として、領域や分野を超えて結びつき、そこから新たな出会いが生まれることを目指す。新たに生まれるTOKYO NODEはどういった施設なのか、東京から何を発信していくのか。本施設の責任者である杉山央氏に話しを聞いた。
杉山 央|Ou Sugiyama
森ビル株式会社 新領域事業部。2018年「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」室長を経て、2023年10月に開業する虎ノ門ヒルズの文化発信拠点「TOKYO NODE」の企画を担当。2025年大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「いのちのあかし」計画統括ディレクター。祖父は日本画家・杉山寧と建築家・谷口吉郎、伯父は三島由紀夫。
アート、エンタメとも、企業イベントとも言えない「まだ名前の付いていない、新しい何か」を発信する
ーー TOKYO NODEは「情報発信拠点」を謳っていますが、具体的にどんなジャンルの何を発信していく施設になるのでしょうか?
杉山:単語のNODEとは何かと何かを繋げる「結節点」を意味します。アート、エンターテイメント、ビジネスなどが、それぞれの領域を超えて結びつくところに新しいものが生まれます。都市にはこのような場所が必要だと感じ、施設コンセプトをつくり名称にしました。
©DBOX for Mori Building Co., Ltd.
都市の魅力というのは、いろいろな人々が出会い、互いに刺激を受けて、新たなビジネスやクリエイティブ、エンターテイメントが生まれる場所であるということだと思っています。住むところ、働くところ、遊ぶところ、食べるところが複合的に存在していて「遊ぶ」だけを見ても多様な選択肢が都市にはあります。
僕自身のバックグラウンドを少しお話しすると、学生の頃は街を舞台にしたアート活動をしていました。2000年に森ビルに入社してからは、テクノロジー×アートの祭典「Media Ambition Tokyo」や、お台場にあるチームラボの常設拠点「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless(22年に閉館)」の立ち上げなどに携わり、都市の魅力を高める、まちづくりとアートの結節点になるような仕事をしてきました。
Ⓒチームラボ
そうした中でずっと感じてきたことなんですが、本当に新しい物事って、アートとかビジネスとか一つのジャンルで言い表せないかたちをしていることが多いんです。
例えば、ロボットを使った新しい発表をしたい案件があるとします。企業がもつ最先端の技術を利用した場合は「ビジネス」の発表という側面もある一方、音楽などの演出にアーティストが参加すれば「アート」作品にもなる。そしてより多くの人を喜ばせるショーにしたいということであれば「エンターテイメント」になるわけです。
でもこれって、企画する側にまわると「一体どの会場で発表するのがベストなのか」を考えるのが結構大変だということがわかるんです。劇場なのか、美術館なのか、最新テクノロジーがきちんと使えるハコなのか、キャパシティは多すぎず少なすぎずな場所があるのか。TOKYO NODEはそうしたあらゆる「まだ名前のない何か」を受け止められるような自由な発表ができる場所にしたい、また虎ノ門エリア全体としてもそうした街にしていきたいと思っています。
ーー 46階にある「TOKYO NODE HALL」ではステージ背面が3層吹き抜けの巨大な窓で東京の街を見下ろせるのが印象的です。音楽ライブにも対応するホールを高層階につくるのはなかなかハードルが高そうだなと想像します。
杉山:そうですね。音漏れや、ジャンプした時の振動の問題があるので大抵は地下に作る施設です。ただ東京タワーにも近いですし、海外の方からも「ここは東京だ」「虎ノ門で行われている」ということが分かる画作りができるステージにすることを重視しました。
「TOKYO NODE」メインホールイメージ Ⓒ DBOX for Mori Building Co., Ltd.
構想の実現のためにハード面での挑戦もしています。高層階に音楽ホールをつくるべく、振動問題は「BOX in BOX構造」という建物の中にもう1個の空間を作ることで振動が伝わらないような建築工法を採用したり、46階まで機材や車などを運び込めるような巨大リフトを通すなどしています。
また、デジタルとリアルの融合にも力を入れていきます。会場に足を運んでいない人にも、会場の熱狂や体験を伝えていく先端テクノロジーの仕組みを導入しています。
ライブパフォーマンス以外でも、クリエイターと一緒に新しい体験を作ろうと試みた際にどうしても空間作りに制約が出てしまうことがありました。
そうした問題を解決させる方法のひとつとして、スプリンクラーではなくガス消火を採用することで表現の制約が少なくなりました。より表現が自由になって空間を使ったダイナミックなドラマチックな体験を作れる会場になっていると思います。
「TOKYO NODE」GALLERY B(イメージ) Ⓒ DBOX for Mori Building Co., Ltd.
選ばれる都市、選ばれる施設になるために
杉山:森ビルは東京を世界から選ばれる都市にしたいと思っています。そのためには、この街に来ることでしか得られない新しい価値を生み出さないといけません。
ーー それはどういうことですか?
杉山:街づくりにおいて、大家とテナントという関係だけでは街に独自性を持たせることが難しくなってきていると感じています。そのためには不動産デベロッパー自ら床を活用しコンテンツをプロデュースする能力が必要です。またビジネスのスキームも多様化(BtoB→BtoC)させることにより、新たな街づくりの可能性を広げたいと考えているんです。
僕が現在所属している「新領域事業部」は3年前に生まれた新しい部署なんですが、まさにそういう観点で新しいことにどんどんチャレンジする、というミッションを与えられています。
2018年にお台場に森ビルとアーティスト・チームラボとの共同事業で実現した「teamLab Borderless」のプロジェクトも単に床貸しするだけでなく、チームラボとひとつの事業体を作って「ここに来ないと得られないリアルの価値をどう作るか」を考えてきました。TOKYO NODEも同じように、森ビル単独ではできないことを追求していきたいと思っています。
ーー なるほど。2022年にKDDI、日本テレビ、キヤノンなどが11社(当時。2023年9月時点では16社)が参加する「クリエイティブエコシステム構築に向けた共同プロジェクト」のプレスリリースが発表されていて何をするのかずっと疑問だったのですが、このお話につながってくるわけですね。
杉山:はい。この取り組みを「TOKYO NODE LAB」で展開していきますし、現在は参加企業がもっと増えています。
街全体を使って、クリエイター、アーティスト、企業と一緒にチームを作り、ここでしか体験できないサービスやエンターテイメントを生み出していくための座組みです。
ーー 当初は協業相手が通信事業者、映像機器メーカー、メディアプラットフォームなど、クリエイティブのインフラ面を担う企業が多く、IPホルダーが少ないのは何故だろうと思っていたのですが、今回のお話をうかがってその意図がわかってきました。
杉山:テレビ局や通信事業者は、先端テクノロジーを使った新しい演出の研究をしていますが、それを発表するリアルの場が少ないという課題感を持っています。同時にコラボレーションの相手を探していることもわかりました。
なので共同で「場」づくりを進めつつ、ゆくゆくは出版社や映画会社などIPを持っている企業にも参加してほしいと思っています。
ーー 確かに最先端テクノロジーを使ったクリエイティブは開発にも実演にもお金がかかりますし、それを担う場としてのTOKYO NODEは貴重な存在であり、今後重要な役割を担っていくかもしれないと思えます。
杉山:ここ20年ほどのクリエイティブの多くは、モニター画面の中で収まるものが多かったと思うのですが、技術や機材の進歩によって画面の外、リアル空間に飛び出す表現が可能になってきました。あとはそれを実施する場所だけが足りなかった。
森ビルはクリエイター、アーティスト、企業に対して街の空間をどんどん開放していくべきだと思っています。開かれた街になることによって新しいコンテンツが集まり、それが結果的には街の価値の向上につながると考えているからです。
オープニング企画にライゾマ×MIKIKOの新作公演が決定!
ーー TOKYONODEを使った展示やイベントは既に決まっているんですか?
杉山:はい。オープン日の10月6日から11月12日までの間、「“Syn : 身体感覚の新たな地平” by Rhizomatiks × ELEVENPLAY」という開館記念企画を実施します。真鍋大度と石橋素が主宰するRhizomatiksと、演出振付家のMIKIKO率いるダンスカンパニーのELEVENPLAYがタッグを組み、エンターテイメントとしてのテクノロジー表現を、これまで見たこと・体験したことのないパフォーマンスとして展開する企画です。
総面積1,500㎡の巨大展示空間を舞台に、24名のダンサーが登場し、AI、MR、ロボティクスなど様々なテクノロジーを駆使して、作品のストーリーの中に入っていくような没入型のダンスパフォーマンスになっています。
観客が会場へ入り込むことで変容していく空間と、目の前に現れる24人ものダンサーを通して、AI時代に変化する“人間の感覚”を改めて問い直す、そんなストーリーを観客のみなさんが目撃するような体験を堪能していただけたらと思います。
ーー まさしく、ここに来たからこそ味わえる体験になっているわけですね。
杉山: TOKYONODEは、アートなのかエンターテイメントなのかまだわからないような新しいアイディアをどんどんここで発表し挑戦できる場所にしたいと考えています。そんな場所を森ビルだけではなく、そういった活動やアイディアを通じて、共感いただける企業やアーティストの方々と一緒に、どんどん開かれて繋がっていくような、「結節点」となるような場所にしたいです。