ITEM | 2023/08/29

本は全部を読まなくてもいい。書店にも「歩くコツ」がある。現役書店員が教えるビギナーズガイド

「本を読みなさい」
多くの人が、親や教師、会社の上司から言われてきた言葉でしょう。そして、その言葉の裏には「もっと勉強...

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「本を読みなさい」

多くの人が、親や教師、会社の上司から言われてきた言葉でしょう。そして、その言葉の裏には「もっと勉強しなさい」といったメッセージが込められていたと思います。

ですが、どの本を読めばいいのか。その「選び方」を教えてもらった、という人はどれだけいるのでしょうか?連載『READ FOR WORK & STYLE』特別編。今回はそんな書店での本の「選び方」について、代官山 蔦屋書店の書店員にしてコンシェルジュの私、岡田基生が、感覚や憶測に頼らない、失敗しない本の選び方を詳しく解説していきます。

岡田基生(おかだ・もとき)

代官山 蔦屋書店 人文コンシェルジュ。修士(哲学)

1992年生まれ、神奈川県出身。ドイツ留学を経て、上智大学大学院哲学研究科博士前期課程修了。IT企業、同店デザインフロア担当を経て、現職。哲学、デザイン、ワークスタイルなどの領域を行き来 して「リベラルアーツが活きる生活」を提案。寄稿に「物語を作り、物語を生きる」『共創のためのコラボレーション』(東京大学 共生のための国際哲学研究センター)、「イーハトーヴ――未完のプロジェクト」『アンソロジストvol.5』(田畑書店)など。
Twitter: @_motoki_okada

そもそも、本は最後まで読まなくて良い

まずお伝えしたいことは、「本は最後まで全部読まなくても良い」ということです。最初にこの認識から変えていきましょう。「本を読め」と言われると、1冊まるごと読まなければならない、とつい考えてしまうのですが、むしろ本の良さは、内容をつまみ食いできるところにあると思います。

本を手に取ったら「おもしろそう」と思える場所だけ読んでしまえばよくて、「読破」や「読了」といった言葉に惑わされる必要はありません。書店員である私でさえ、手に取った本に対して、「読破」する本の割合は1〜2割ぐらいです。どの本を読めば「知りたい情報にアクセスできるか」をわかっていることが何より大切なのです。

こう考えると「本を読む」ことのハードルが大きく下がったような気がしませんか?気になった本の気になる部分だけ、さらっと読む。それ以上は読みたければ読めばいいし、興味がなければそのまま本を閉じればよいのです。もちろん難解な本を我慢しながら読むことで見えてくるおもしろさもありますが、それはある程度慣れてきてから。最初のハードルは低くいきましょう。

そもそも本当に本を読むべきなのか。YouTubeやネットの情報ではだめなのか?という疑問もありますが、私はそれぞれ異なる特徴を持っていると思います。

YouTubeやウェブメディア(この記事もそうですね)は、入口として最適だと思います。基本的に無料ですし、気軽に、知りたい情報にアクセスできます。一方で、もう一歩深い情報を得たり、まだ知らない周辺の情報を得たりするには本が最適。本は出版するだけでも大きなお金が動くので、出版社は内容の質を高めることで、なるべく多く売ろうと考えます。つまり、著者や編集者の持つありったけの情報や知見が詰まっており、それだけのものに1000円や2000円でアクセスできることは、コスパの面でも優れていると思います。それぞれの使い分けが大切になるのです。

書店のメリットは「売れてる本」がすぐわかること

ここからは本を選ぶための「本屋の歩き方」、そして本を手に取った後の「良い本の見極め方」をお伝えします。今はAmazonで本を買う人も多いと思いますが、わざわざ書店に出向いて本を買うメリットがあるのか気になるところですよね。解説していきましょう。

売れる本しか置いていない。

書店の最大の強みはこれだと思います。当然ですが、書店は本の数ではAmazonにまったく敵いません。しかし、それは悪いことではないのです。書店は物理的なスペースに限りがあり、なおかつ新刊が発売し続けるため、常に置く本を厳選しなければなりません。裏を返せば質の低い本や全く売れない本を置いておく余裕がないのです。

もちろん書店の種類も影響します。各地にチェーン展開するような一般書店は、より「売れ筋」を重視しますし、個人でやっているインディペンデント系であれば、その人の思想や考え方が色濃く反映されます。ちなみに代官山 蔦屋書店はちょうどその中間ぐらいを意識しており、売れ筋も大切にしながら、書店員一人ひとりの考えなどが強く反映されています。

さて、次は書店の棚の見方をご紹介しましょう。あまり書店に慣れていない方だと、店内のどこから見て回ったらいいものかわからず、そのままお店を出てしまうこともあるはず。最初から自分の足で見て回るのもありですが、まずは書店の「誘いに乗ってみる」のもおすすめです。

「本の並び方」を通じて書店員はオススメ本を猛プッシュしている

書店内のレイアウトは主に5種類。上から順に書店が力を入れているものだと考えて貰えればと思います。

フェア
書店としては最初に見てもらいたい場所。各コーナーで特にオススメしたい新刊、あるいは多くの人が興味を持つ時事ネタに関連する本などを起点に、選書や雑貨を並べたりと準備コストも場所も存分に使っています。 

このフェアでは原瑠璃彦『洲浜論』(作品社)を中心に、関連書籍やグッズが展開。同書は古代から日本文化の各所で継承されてきた日本特有の海辺の表象「洲浜」の全貌に迫る、壮大で画期的な文化史です。

多面展開
平積み、面陳などのかたちで、本を一箇所だけでなく多面的に展開すること。スペースを圧迫するので書店は覚悟とコストをかけています。

平積み
力を入れてプッシュしたい本を、棚ではなく平台に陳列しレコメンドしているものです。

面陳
表紙が見えるように棚に並べてあるもの。基本的にイチオシと考えてもらってOKです。

棚差し
これが最も一般的な並べ方で、ほとんどの本は棚差しで陳列されています。

基本的にはどの書店もこの5つの分類に分けて考えることができるはずです。

書店によっては、出版社別、著者別、判型(本のサイズや型)別など、「見つけやすさ」を意識した作りになっています。

代官山 蔦屋書店では「文脈」を強く意識しています。例えば岩手県の旅行ガイドの横に、岩手出身である宮沢賢治の詩集を置いてみたりと、お客さんの思わぬ発見を促すような作りになっています。

買う前に目を通すべき3つのポイント

書店で観るべきポイントがなんとなく掴めてきたでしょうか?それでは実際に本を選んでみましょう。特に実用書やビジネス書は実際に「使えるか」が大切なので、購入前に「自分に合った本」を見極めることをおすすめします。手にとって店頭でチェックするべきポイントは3箇所です。

1.「はじめに」
多くの本は、冒頭で「はじめに」と題して著者の挨拶を兼ねた本の自己紹介=何が書かれているかの短いまとめが載っています。この「はじめに」を読んであまりピンとこない場合は、素直につまらない本、あるいは今の自分とあまり関係ない本かもしれません。反対に、「はじめに」で、他では目にしないような問題提起がなされていたり、ワクワクできるのであれば、きっとあなたが今求めている本だと思います。

2.「目次」
目次はその本に書いてあることが具体的に示されています。タイトルや帯でそれらしいことを言っていても、自分が求めている内容がピンポイントで載っているとは限りません。なんとなく良さそうだな、と思えたら目次を確認してみましょう。1つか2つだけでも気になるトピックがあれば、その部分だけつまみ食いしてしまえば良いのです。

3.「あとがき」
「あとがき」は基本的に本の最後に載っているので、最後に読むものと思われがちですが、私はこれを先に読むことをおすすめしたいです。著者の個人的な思い出や、本を書こうと思ったきっかけなど、非常にパーソナルな著者の「人柄」にふれることができるからです。そして本を読む上で著者の人柄はとても大切です。仕事でも、「あの先輩の言うことだから一度聞いてみよう」と思うことはありませんか?本も同じように、「この人は信用できそうだ」という印象を持ってから読み始めると、内容の受け取りやすさは大きく変わります。

この3箇所をざっと読んでみてピンとくる本であれば、きっとそれはあなたが手に取るべき本だと思います。

他にも本を選ぶ際の基準として、例えば、「奥付け」を確認する方法があります。奥付けは本の一番うしろの方にあるページで、タイトル、著者名、出版社名、発行年月といった本の発行に関する情報が書かれています。

ここでは「発行年月」と「刷数」をチェックできます。「刷数」とは本の発行回数のようなもので、一刷りにつき、3000〜5000部程度の本が印刷されるのが一般的です。こうして全国に出荷された本が続々と売り切れていくと、「増刷」ということになり、数字が増えていく、ということです。

つまり非常にシンプルな話で、発行年月が古く、刷数が多い本はそれだけ「売れ続けている」ということです。いわゆるロングセラーですね。瞬間的に売れた本が良い本とは限りませんが、「売れ続ける本」は、必ずなんらかの面で優れた本であるはずです。

「著者の経歴」もとても大事です。著者は、どんな分野で経験を積んできたのでしょうか。それによって、本の信頼性や特色がわかります。ある分野を極めてきた人なのか、アーティストから経営者に転身した、などユニークなキャリアの持ち主なのか。そこに優劣はありませんが、扱われているトピックを語る人として納得感があるかを見極めましょう。

そして「読みやすさ」。文中に図や写真を用いているかどうかも判断のポイントです。テキストが主ではありますが、本当に読者のことを考え、配慮の行き届いた本は視覚化も怠っていません。同時に思考の鋭さも現れているように思います。

ロングセラーは狙い目

個人的な狙い目は「平積み」の「ロングセラー」です。新刊は売れるかどうかわからない試用期間。ですが、面陳されているタイトルの中で発行年が1年以上前のものは良書の可能性が非常に高いと考えられます。そもそも書籍化された時点で、出版社の企画を通っているわけですから、ある程度はそのときのトレンドに沿ったものでしょう。そんな本が次々と出てくる中で売れ続けるロングセラーで、なおかつ書店が場所を大きく使ってアピールするような本は、やはりそれなりの理由を持ったものなのです。

最後に、是非活用してもらいたい、とっておきの方法があります。それは「書店員におすすめを聞く」です。書店員は基本的に本好きばかり。特に代官山 蔦屋書店を含め、大きい店舗であるほど、一つのジャンルに特化した人も多くなってきます。そして僕たちは意外と相談されることが少ないので、たまに「このジャンルのオススメはありますか?」「こんな著者が好き/このテーマについて調べているのですが、何を読めば良いでしょうか」などと聞かれるのが嬉しかったりもします。張り切ってお手伝いさせていただくので是非気軽に声をかけてください。


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