CULTURE | 2023/05/31

消せるボールペン「フリクション」が売れた理由は「面白さと言い訳」のバランスではないか、という話

6回目となる「高橋晋平のアイデア分解入門」。普段はおもちゃやゲーム、遊びを作り出す仕事をしてる私、高橋晋平が、身の回りに...

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6回目となる「高橋晋平のアイデア分解入門」。普段はおもちゃやゲーム、遊びを作り出す仕事をしてる私、高橋晋平が、身の回りにある物から、アイデアや工夫、発想の種を見つけ出そうという連載です。

今回のテーマは「フリクションボール」。書いても消せるボールペンの登場は、世界を驚かせました。僕も長らく愛用しています。国内に限らず海外での人気も高いフリクションボールペン、大ヒットの所以を僕なりの視点で紐解いてみましょう。

高橋 晋平 (たかはし しんぺい)

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おもちゃクリエーター、アイデア発想ファシリテーター。秋田県生まれ。2004年に株式会社バンダイに入社。第1回 日本おもちゃ大賞を受賞し、発売初年度に国内外累計335万個を販売した「∞(むげん)プチプチ」など、イノベイティブトイの開発に約10年間携わる。14年に株式会社ウサギを設立。玩具・ゲームの考え方を活かした事業を企業と共同開発し、企画アイデアの発想セミナーやワークショップを全国で実施している。得意なのは笑い・遊びのある企画を作り、話題にし、販売につなげること。TEDxTokyoでのスピーチは累計200万回再生。近著『1日1アイデア』(KADOKAWA)など、著書多数。

構成:北村有

売れた理由は「消せる」だけじゃない

「フリクション」サイトより

書いても消せるボールペンって、画期的で便利でしたよね。でもフリクションボールペンが出回りはじめたころって、利便性よりも「面白いから」って理由で売れていたように思います。「書いても消せるボールペンって面白いよね!」って理由で買われている。つまり消せることの利便性を見ているのではなくて、「ボールペンなのに消せる」ことに

面白みを感じているのではないか、ということです。この違い、伝わりますかね?

もう一つ、フリクションボールペンを語る上で外せないポイントが「インクの減りの早さ」。普段から使っている方はわかると思いますが、一般的なボールペンと比べてかなりの早さです。これはもう特徴と言ってもいいかもしれない。

替え芯の売り場も結構充実してたりして、頻繁に買いに行くことになるんですが、これが不思議と嫌じゃないんですよ。むしろちょっと嬉しいぐらい。一般的にはネガティブな要素だと思うんですけど。

これも「ボールペンなのに消せる」に近い理由で、「ボールペンなのに使い切れる」から、だと僕は思うんです。なぜなら普段の生活の中で「ボールペンを使い切ったこと」が一度もないから!みなさんはありますか?ボールペンを使い切ったこと。僕はボールペンを使い切ったら思わず人に話したくなっちゃいます。

フリクションボールペンの開発は、インクを含めて約30年の月日がかかったそうですが、いくら30年もかかっているとはいえ、開発過程においてここまで計算はしていないと思うんです。

でも計算や計画では辿り付けないような所へのジャンプがあったからこそ、これだけの人気と売上を誇る製品にまでなったと僕は考えます。

人は言い訳でお金を出す

このフリクションボールペンのように、ほとんど無意識的に「面白さ」や「意味」を感じてしまうプロダクトはこれからの時代、非常に強いと思います。あらゆるプロダクトの機能が飽和しているからこそ、やっぱりエンターテイメント(=楽しさ・面白さ)にたくさんお金を払う時代になっているのではないでしょうか。だからこそ、作り手も面白がりながらものづくりをする姿勢は大切にしたい。

でも、人の気持ちは複雑で、機能性0%:面白さ100%の比率だったら多分お金を出しません。「面白そう」で終わっちゃうと思うんです。僕が思うに、人は面白そうだからお金を出すんじゃなく、その面白さに「適当な言い訳」を思いついたときにお金を出しているように見える。

例えば、持っているスマホがまだまだ現役で使えたとしても、新しいモデルが出たらすぐに買っちゃう人って結構いますよね。「買うべき理由」が明確になくても「電池の減りが早くなってきた気がする」「高画質で動画を撮らなきゃいけないときが来るかもしれない」みたいに言い訳を考えて自分を正当化するわけです。

ものづくりにはエンタメ要素が必要かもしれませんが、実際に売るためにはこの「言い訳=正当化の理由」を用意してあげるのが大事なのかもしれません。「これがあったら便利かも」と思わせる実用・機能性=言い訳、そして面白さ・楽しさ=本質。言い訳になる実用性と、本能に訴えかける面白さ。この2点で現代の“売れる”プロダクトは成り立っていると思います。


過去の連載はこちら


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