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EVENT | 2023/03/21

カロリーゼロの「希少糖」を世界で戦えるビジネスに育てる 香川大学 国際希少糖研究教育機構

希少糖を用いて開発された食品
文:伊東孝晃
希少糖の価値を発信する世界で唯一の研究拠点

秋光和也氏
希少糖は...

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希少糖を用いて開発された食品

文:伊東孝晃

希少糖の価値を発信する世界で唯一の研究拠点

秋光和也氏

希少糖は、地球上の糖の9割を占めるブドウ糖などと化学構造は似ているが、自然界に微量にしか存在しない希少な単糖とその誘導体の総称であり、長らくその価値に着目されず、科学の世界でも研究が放置されてきた。香川大学農学部の名誉教授である何森健教授は、この微量にしか存在しない単糖に可能性を感じ、独自の研究を開始。学内で採取した微生物が大量にあるブドウ糖を希少糖に変換する酵素を持っていることをつきとめ、産業レベルでの生産方法を確立した。

香川大学内に設置されている記念モニュメント。学生からはパワースポットとして親しまれているとのこと

基本的に代謝を促さない希少糖は、摂取するとすべて体外に排泄されるためカロリーはゼロ。食後の血糖値の抑制や脂肪の燃焼の促進など、抗肥満の効果があるが、ブドウ糖と比べても遜色ない味質の甘みを持つ。2015年に雑誌『Newsweek』で大々的に紹介された頃から注目を集めるようになり、世界で唯一の希少糖研究拠点として香川大学が設立した国際希少糖研究教育機構には、海外からも共同研究や提携の申し出が集積することとなった。現在、飛躍的な発展を遂げている希少糖研究の概要について、副機構長 秋光和也教授(写真)に話を伺った。

「何森先生が研究を始められた頃は、予算やサポートが付くこともなく、大変なご苦労の中で研究をされていたと伺っています。やがて希少糖の価値や研究内容が認知されるようになり、2001年には本学に本部を置く国際希少糖学会が設立されました。2〜3年に1度開催される国際会議は、これまでの8回すべてが高松で開催され、世界各国の研究者により、食品分野にとどまらない幅広い産業での希少糖利用の可能性が模索されています。当機構は2016年4月に設立され、これまで積み重ねてきた希少糖研究の成果を基に、幅広い分野の産業に向けて高付加価値素材として供給し、新たなイノベーションの創出拠点となることを目指しています」(秋光氏)

食品分野におけるビジネスモデルを確立

希少糖研究の基本となる「希少糖の生産」に関する研究と教育を行うべく「香川大学希少糖生産ステーション」を2006年に設置

国際希少糖研究教育機構は、機能性食品素材として加工デンプンのナンバーワンメーカーである松谷化学工業と提携し、すでに大規模な希少糖生産を可能にしている。シンクタンクやコンサルタント企業のサポートにより、海外もターゲットとした積極的な事業展開に取り組んでいる。

「商品展開の第一歩は食品関連でした。松谷化学工業との製品開発で、2014年にブドウ糖・果糖に希少糖が加わった含有シロップをマーケットに投入。2019年には低GIの機能性表示食品として含有シロップがリニューアル投入され、これまでに約3500品目以上の食品で使用されています。2021年には希少糖D-アルロース100%の純正パウダーの全国展開も開始されました。海外市場の動向から、食品の成分表示の区分で希少糖が従来の糖質区分から外れることが、市場拡大へのターニングポイントとなる事が分かって参りました。糖質区分から外れたアメリカ、メキシコ、韓国では、既に市場拡大が見え始めています。当機構グループはアメリカ穀物メジャー企業のうちの1社と提携し、メキシコで希少糖の大量生産を行うなど、欧米での市場展開基盤を盤石にしつつあります。また、韓国では大手食品メーカーの飲料商品がヒット商品となっている状況です。市場の拡大に伴い当機構にその一部が還元されるエコシステムを確立しており、その予算で新たなシード研究を行うという自走化に向けた動きが始まっています」(秋光氏)

医療や工業にも。多用性を秘めた希少糖の未来

日本ではいまだ糖質区分から除外されていない希少糖だが、利益率の高さや、幅広い分野で早期から進展させてきた研究成果により、食品以外の分野にも迅速展開できる希少糖研究の「Founder」ならではの有利性もあり、希少糖・香川大学のマーケットにおける重要性は揺るぎない。

「臨床試験の展開も含め、医療分野における希少糖利用への取り組みが始まっています。食品分野での研究実績から高い安全性が既に担保されており、進捗が期待されます。農薬や肥料など農業分野での研究開発が大きく進み、事業化が見え始めていますが、工業分野でも意外な利用法が提案されつつあります。コンクリートの凝固制御剤には多くの糖が使われていますが、凝固制御剤に使用される糖を希少糖に置き換えると、コンクリート片からの有害物質の漏出を軽減できる事も分かって参りました。食品展開で作った突破口を、さらに他分野利用に広げる段階で、今は過渡期です。ここで頑張って希少糖実用化モデルをしっかり確立させたいです」(秋光氏)

社会実装の実績を積み重ねている国際希少糖研究教育機構。今後はさらに希少糖の普及に尽力し、さらなる認知度の向上を目指す。

「食品利用では、研究からブランディング、マーケティングのフェーズに移行しています。砂糖に希少糖を混ぜることでもカロリーオフ効果は得られるので、砂糖の付加価値を向上させるノンカロリーの天然機能性素材として、製糖産業等とも連携して価値化向上を目指したいです。また、今後さらに様々な産業で希少糖の付加価値を上げることが重要です。そのために、地域の産業支援チームと連携して、糖を利用している産業を深く掘り探っていく予定です。現在、大学各部局との併任で74名の教授陣が、年間約50個の研究課題を同時進行しています。香川大学を拠点とする知財を地域で確保し、希少糖が日本の資源になるよう研究を続けていきます」(秋光氏)


香川大学 国際希少糖研究教育機構

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