CULTURE | 2021/01/21

コロナ禍だからこそできること 森山未來・満島ひかりらの協力を得て生まれた梅田哲也 イン 別府『O滞』【連載】「ビジネス」としての地域×アート。BEPPU PROJECT解体新書(11)

Photo by Yuko AMANO
過去の連載はこちら
構成:田島怜子(BEPPU PROJECT)

山出...

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新たな芸術祭の発明

『梅田哲也 イン 別府』で発表する作品『O滞(ぜろたい)』は、地図とラジオから流れる音声を手掛かりに市内各所を回遊する体験型の作品と、歴史ある映画館で上映する映像作品、会期が進むにつれ変化していくウェブサイトと、会期後に出版する書籍で構成されています。密を避けるため会期を通常よりも長めに設定しており、体験型作品と映画鑑賞は完全予約制です。

Photo by Yuko AMANO

体験型作品の地図に示されたエリアのうち、9カ所(2021年1月22日現在)で「ラジオ」と呼んでいる端末から俳優の森山未來さん・満島ひかりさんらによる音声が流れます。参加者は音声を受信できる場所を探し、エリア内を散策します。

受信のタイミングは端末によって異なるため、それを聞くために足を止める場所も人それぞれです。その時、自分の目の前に広がる風景と併せて音声を聞くことで、その場所が辿ってきた時間や、並行して存在するかもしれないもう1つの時間を体感することができるのです。

通常の芸術祭や展覧会は会期と会場が定められており、その期間にその場所に行くことでしか作品を鑑賞することができません。これまでの『混浴温泉世界』や『in BEPPU』も、1〜2カ月の会期を設け、市内に点在する複数の会場を回遊してもらうことで、期間限定の鑑賞機会を提供してきました。

先ほど、『梅田哲也 イン 別府』では場所や時間の概念から自由になることを目指すと書きましたが、今回も会期を設け、市内各所の会場を回遊するという点においては従来と変わりがないように感じるかもしれません。

しかし、この作品では会場には何も設置されておらず、風景そのものには何ら手を加えていません。会期が終わると撤去されてしまう従来型の展示と異なり、作品の重要な要素である風景は変わらず残ります。

Photo by Yuko AMANO

はたから見れば、この作品を体験している様子は、イヤホンやヘッドフォンを装着した人たちが散歩しているだけのように見えるかもしれません。

しかし、それはまるで場所に宿る土地の声に耳を澄ますような体験でした。

この作品は、端末さえあればいつでも体験できますし、音声を追加すればあらゆる場所が会場になり得ます。会場は現在も随時追加されており、別府市内のみでなく、隣接する由布市や海外にも広がっています。

さらに地図上には、音声の流れないエリアも会場として示されています。これらも併せて巡ることで、次第に音声の有無にかかわらず土地の声や異なる景色の存在を意識するよう、自分自身が変化していることに気づかされます。

会場の1つとなっている『鶴見園』は、80年ほど前に閉園した大遊園地の跡地ですが、現在は街中にポッカリとあいた藪です。そのほかにも、古井戸や別府温泉のすべての泉源となる地下水を蓄えた活火山の噴火口など、梅田さんが選んだ別府の特徴的な場所や、普段は人が立ち入らないような場所が地図上に示されています。

鶴見園 Photo by Yuko AMANO

活火山の噴火口(塚原温泉 火口乃泉) Photo by Yuko AMANO

これらの場所をロケ地として撮影した映像作品には、音声と同じく森山未來さんや満島ひかりさんらが出演しています。かつては“西の浅草”とも称され、劇場や映画館が多く立ち並んでいた別府で、現在唯一の映画館『別府ブルーバード劇場』で会期中週4日間上映しています。

写真左:満島ひかり 右:森山未來 Photo by Yuko AMANO

劇場での上映の様子 Photo by Yuko AMANO

この映像作品はほとんどがワンショットで撮影されており、役者だけでなくカメラマンや録音技師など、撮影に関わる全員が映像に写り込んでいます。

この映像作品に登場する人物たちもまた、土地の声を聴こうと市内を巡っているのかもしれません。自分自身の作品体験を重ね合わせ、そんなふうに感じました。

撮影風景 Photo by Yuko AMANO

体験型作品と映像作品に共通しているのは、目の前にある状況や情景のすべてを引き受けるという態度なのではないでしょうか。

『O滞』は、新型コロナウイルス感染症の影響で行動を制限せざるを得ない今、その状況を受け入れ、その中でできることを考え抜いた結果生まれた表現の形です。

制作風景 Photo by Yuko AMANO

この場所の過去、起こり得たかもしれない今、そして未来の可能性を想像するための入口が、『O滞』によってこのまちのあちこちに生まれています。

今後、オンラインイベントの実施や冊子の刊行も予定しています。会期が終了してもこの場所の風景は変わらず残りますから、会期終了後も土地の声に耳を澄ますことはできますし、ウェブサイトや冊子による体験はいつどこにいても得られます。

それぞれの置かれた状況の中で可能な方法で、ぜひ梅田哲也 イン 別府『O滞』を体験してみて下さい。


BEPPU PROJECTからのおしらせ

Photo by Yuko AMANO

梅田哲也 初の映画作品と複数エリアを回遊するプロジェクト

梅田哲也 イン 別府『O滞』開催中

2021年3月14日(日)まで、別府市内各所で個展形式の芸術祭『梅田哲也 イン 別府』を開催しています。

梅田哲也 イン 別府『O滞』は、地図と音声を手掛かりに数カ所を回遊する体験型の作品です。会場となるのは別府ならではの特徴的な地形や空間ばかりではなく、普段は人が立ち入らないような場所も含みます。また、同会場を舞台にした映画作品『O滞』も劇場公開します。さらに、会期が進むにつれ変化していく作品発表の場としてのウェブサイトの公開、会期後には同タイトル書籍も出版予定です。

開催概要
会期:2020年12月12日(土)~2021年3月14日(日)
※定休日:火〜木曜日(祝日除く)
申込方法:公式ウェブサイトの予約フォームまたはお電話にてご予約ください。
料金:無料(完全予約制)
会場:別府市内各所
ウェブサイト https://inbeppu.com

お問い合わせ先:混浴温泉世界実行委員会 事務局
〒874-0933 大分県別府市野口元町2–35菅建材ビル2階(NPO法人 BEPPU PROJECT内)
TEL:0977-22-3560 / FAX:0977-75-7012
E-MAIL:info@inbeppu.com
営業日:月~金 9:00~18:00(祝日は除く)

主催:混浴温泉世界実行委員会

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