©ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会
2019年4月からフジテレビ系で放映され、Netflixでも配信されているアニメ『キャロル&チューズデイ』。
本作の舞台は人類が火星に移住してから約50年後の近未来で、生活の隅々までAIやロボットが浸透。ヒットチャートを賑わせる音楽はすべてAIが作詞作曲しているという世界の中で、17歳の少女、キャロルとチューズデイが自作自演の楽曲を引っさげて音楽業界のスターダムを駆け上がっていく、という内容だ。
アイドルアニメが百花繚乱な中でも意外と珍しい“音楽(業界)もの”だが、それ以上に特徴的なのが、音楽ファンが見れば全員が全員驚愕するであろうほど豪華な楽曲提供アーティストの顔ぶれだ。劇伴はカナダ出身のマルチプレイヤーで、今年のジャパンツアーでは坂本慎太郎や中村佳穂とも共演を果たしたMockyが担当。そのほか、楽曲提供陣は詳しく解説しているとそれだけでこの記事が終わってしまうので一部の名前の列挙に留めるが、フライング・ロータス、サンダーキャット、コーネリアス、Nulbarich、cero、ベニー・シングス、スティーヴ・アオキ、アイリック・ボー(キングス・オブ・コンビニエンス)、D.A.N.、ジェン・ウッド、テイラー・マクファーリン、アリソン・ワンダーランドなど、オーバーグラウンドのヒットメーカーから気鋭のインディまで多彩なメンバーが参加しており、フォーク、ロック、ドゥーワップ、メタル、エレクトロニカ、R&B、EDMなどなど、楽曲のジャンルもさまざま。ハリウッド映画ですらここまで豪華な、かつ多くのアーティストを集められるケースは稀なのではないだろうか。サンダーキャットが(実名そのままの登場ではないにしろ)6弦ベースを弾きながらライブするアニメが存在するだなんて!
今回、率直に「どうやったらこんな凄まじい企画が実現できたんですか?」という話を聞きたく、あえて監督および原作を手掛けた渡辺信一郎氏ではなく、プロデューサーとして渡辺監督とともにアーティスト交渉を手掛けたフライングドッグの西辺誠氏にその内幕をうかがった。
取材・文・構成:神保勇揮
西辺誠
株式会社フライングドッグ音楽制作部 ディレクター
「艦隊これくしょん -艦これ-」「ドメスティックな彼女」「蒼き鋼のアルペジオ」「風夏」「私に天使が舞い降りた!」など、数多くのアニメ作品の音楽プロデューサーを務め、今作品では作品プロデューサーだけでなく、音楽プロデューサーも兼務している。
世界に配信する作品だからこそ、楽曲も世界水準に
西辺誠氏
―― 最初に、西辺さんが『キャロル&チューズデイ』でどういったことを担当されているのか教えていただけますでしょうか。
西辺:本作では、僕が所属しているフライングドッグが製作委員会の幹事会社にあたるので、プロデューサーとして制作全体の管理・調整を担いました。加えてフライングドッグはレコード会社でもあるので、僕は音楽のプロデューサーも兼任して、渡辺信一郎監督がやりたいことを具現化するためのサポートもしております。
―― 楽曲提供アーティストたちの交渉も担当されていたということですね。
西辺:そうですね。今回はいろいろな依頼のパターンがあって、直接アーティストにアプローチしているケースもあれば、特に海外のアーティストはいろいろなレーベルや音楽出版社が絡んでいることもあるので、まずは日本の「サブパブリッシャー」といわれる出版社にアプローチして、そこから海外のパブリッシャーに連絡し、事務所など本人につないでもらうというパターンもありました。今回は特に、ほぼ主要なメーカーさんにご協力頂いております。
―― 『キャロル&チューズデイ』はアニメ制作会社のボンズ20周年、フライングドッグ10周年記念作品ということですけれども、どんな経緯で一緒にやることになった、あるいは『キャロル&チューズデイ』をやろうとなったということも教えていただけますでしょうか。
『キャロル&チューズデイ』の物語は、地球生まれの孤児でアルバイトをしながら路上ライブを続けるキャロル(画像左)と、ミュージシャンになるために家出してきたお嬢様・チューズデイ(画像右)が、火星の首都アルバシティで出会うところから始まる。
西辺:フライングドッグ社長の佐々木史朗と、ボンズの社長である南雅彦さん、そして総監督である渡辺信一郎監督が長年交友がありまして、三者で“音楽”をストーリーの主軸において全世界に向けた音楽アニメ作品をやろうという企画が3、4年前に立ち上がりまして。弊社ではこれまで『マクロス』シリーズや、ボンズさんであれば『交響詩篇エウレカセブン』など、物語内で音楽が重要な役割を果たす作品は手掛けてきましたが、ここまで“音楽(業界)もの”をやったことはありませんでした。渡辺監督は自身でも非常に音楽に精通していることもあり、それぞれの良いところを持ち寄って作品を作ろう!となりました。
―― そんなに前からあった企画だったんですね。では具体的に、本作の超豪華アーティストたちをどうやって口説いていったのかをお聞きしていきたいと思います。
西辺:本作では渡辺監督が原作・シリーズ構成も担当しているのですが、物語のメインの舞台となるアルバシティがニューヨークをモデルにしていたり、今作品は日本も含め全世界へむけた作品ということもあり、歌は全て世界共通語である英語をメインにやろう、そして作品をワールドワイドに仕掛けていこうということになりました。それであれば楽曲提供者も、シンガーも、国内外問わずアーティストに参加してもらわないことには話にならないと。
最初にシリーズ構成はありましたが、その後は「本読み」と言われる脚本会議と音楽制作を同時進行しつつ進んでいきました。
――それは他のアニメ制作でも同じような流れなのでしょうか?
西辺:はい。ただ、ここまでライブシーンや挿入歌が多い作品はほぼ無いということもあって非常に特殊な作り方をしていて、例えばストーリーを考える中で、「ここは音楽シーンがあった方がいいだろう」ということが決まっていたとします。でも、その時点では曲がまだ存在していないこともあって。なので「こういうシチュエーションだから、こういう楽曲がほしい」という楽曲発注をアーティストにしつつ、逆に完成した曲を聴いてストーリーが変わっていった部分もあります。
本作はそもそもがチャレンジングな取り組みだったこともあり、楽曲をアーティストに依頼をするにあたって「最初からこのアーティストはオファーしても無理だろう、と決めつけてアプローチしない」ということはしないとは決めていました。なので最終的にはOKしてくれたアーティストの10倍ぐらいにアプローチをしていますが、それでもここまでのアーティストを集められたのはかなり奇跡的だったと思います。
難しい条件下で強力な後押しとなった渡辺監督と「ジャパニメーション」のブランド力
―― 音楽オタクがラインナップを見れば、全員が「マジかよ!」って驚愕する面々ですからね(笑)。各所で公開されている渡辺監督のインタビューを読むと、劇伴を担当したMocky、そしてアニメオタクとしても有名なフライング・ロータス(ちなみに渡辺監督は今年リリースの新作『Flamagra』でも1曲MVの監督を手掛けている)、サンダーキャットなどは『カウボーイ・ビバップ』『サムライチャンプルー』といった過去作品を観ていて、トントン拍子に打ち合わせが進んだ、という話が印象的でした。
渡辺監督が手掛けたフライング・ロータス「More (feat. Anderson .Paak)」のMV。フライング・ロータスとは、2017年にネットで公開されたアニメ『ブレードランナー ブラックアウト 2022』でもコラボしていた。
西辺:そうですよね(笑)。交渉していて印象的だったのは、もちろん、渡辺監督の名前が世界的に広まっていたことに加えて、アニメにおける「キャラクターソング」(※)の概念を珍しがって「面白そうだからやってみたい」と言っていただけたり、「普段はこういう依頼を断っているんだけど、日本のアニメ作品に参加できるならぜひやってみたい」と言っていただけることもあり、嬉しい誤算が続いたということもあります。
※キャラクターソング:本作は音楽ものなので各キャラクターのライブシーンの挿入歌としての扱いになるが、一般的にはアニメ本編で流れない、キャラの魅力を歌にしたような楽曲が主要キャラの数だけ制作されて担当声優が歌唱し、CD販売されたりファン向けライブイベントが開催されたりすることが多い。
―― 「依頼をする中でこんなエピソードがあった」というところもぜひ聞いてみたいです。
西辺:出せないエピソードばっかりですけど(笑)。断られちゃいましたが○○(日本でも単独ドーム公演ができる超大物バンド)にも依頼してみたりとか。
―― えええええええっ!(笑)。
西辺:あとはグラミー賞も獲った某ダンスミュージックユニットは、たまたま来日公演があるということで、監督と一緒に楽屋まで話に行ったこともありました。企画内容を話して曲提供をしてもらいたいキャラの絵を見せたところ、「是非やってみたい!」と言って頂けたんですけど、制作スケジュールの折り合いがつかなくて残念ながら実現しませんでした。
加えて「どうもメンバーにアニメ好きがいるらしい」というアーティストにも積極的にあたっていったんですが、某ヒップホップグループにもアプローチしたところ楽屋にまでは行けて。
―― ここまで名前が挙がったアーティストが、全部フジロックでもサマーソニックでもいい時間帯にデカいステージに出演するような面々ばかりです(笑)。
西辺:そうなんです(笑)。それでも「ぜひやってみたい」とは言ってもらえたんですけど、やっぱり制作スケジュールや条件面など。折り合いがつかなくて。
というのも、アニメ制作はスケジュールがタイトで、全作業が完了するのが放送日間近ということもあり、本人が完成したアニメーションを前もって確認することも出来ず。あとは、条件面の部分でも色々なハードルがあります。特に海外に関しては、そもそもキャラクターソングという概念の説明から始まり、映像のシンクロフィー(映像に音楽を同期させる際の使用料)などクリアしなければいけないことが多数ありまして。
―― ワールドツアーで世界中を飛び回っている面々ばかりですし、スケジュールが確保できるというだけでも凄いことなのに、さらにその条件で依頼しなければいけないのは大変ですね。
西辺:ただ、そうした事情を汲んでくれるアーティストが予想以上に多かったのが心強くもありました。例えば本作に参加してくれているスティーヴ・アオキさんはたまたま日本に行く機会があるということで直接話ができたんですが、すぐに「ちょうどデモ段階の曲があるんだけど聴いてみる?」とその場でiPhoneで鳴らしてくれて。「めちゃくちゃ良いです!これでお願いします!」とお話ししたところ「あとはマネジメントに話しておくから!」とほぼ即決してもらえたりだとか。
他にも、レーベル、マネジメントが難色をしめしても、アーティスト本人が後押ししてくれて参加が決まったケースも多かったです。
「現実世界とのリンク」へのこだわり
―― 本作は大量の豪華アーティスト陣もさることながら、いま・ここの現実世界とのリンクも特徴的です。Instagramやサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)がそのまま登場したり、「AIで社会がこう変わりそうだ」とさかんに議論される近未来観に基づいた都市や生活風景の描き方、ケンブリッジ・アナリティカ(※)をモデルにしたと思しき怪しい人物が登場するなど、現代のアクチュアルな問題がこれでもかと詰まったストーリーにも引き込まれます。
※ケンブリッジ・アナリティカ:Facebookから不正に入手した個人情報データを用いてターゲティング広告を配信し、2016年の米大統領選や英ブレグジット投票に影響を与えたとされる選挙コンサルティング会社。2018年に廃業。
西辺:世界観のデザインにはロマン・トマ、ブリュネ・スタニスラスというフランス人デザイナーの方々が携わっておりますし、近未来を舞台にしたフィクション作品ではありますが、現実世界との接点はあった方がよりリアリティが出るのではないかと。よくYouTubeをもじって「MyTube」みたいなパロディの描き方をしたりするじゃないですか。でも海外配信を前提とするならディテールはそのまま出したいよね、という話になって、これもまた交渉してみたんです。ちなみにInstagramの画面をそのままアニメに出す交渉にも1年弱ぐらいかかっています。
―― 結構な努力が必要ですね。
西辺:Instagram社にデザインと脚本を都度見てもらいながら交渉をする、という結構大変なことをやっておりますが、英語版のアカウントでは、アニメ本編でキャロル&チューズデイがやっているインスタと連動して投稿していることもあり、約12万人のフォロワーがついていて。日本だと「聖地巡礼」の文化がありますけど、実在のモノ・コトとフィクションであるアニメの世界やキャラクターがリンクしているのって、海外の方々もただアニメを観るだけに留まらないフックになると思うんです。
ちなみにこの画像は、実際に1話でキャロチューの2人が作ったばかりの公式アカウントに投稿している
毎回こだわっている演奏シーンではチューズデイのギターはGibson、チューズデイのキーボードはNordとタイアップをしつつ、16話ではキャロル&チューズデイがSXSWに出演していることと連動して、本当にアーティストとしてキャロル&チューズデイ(Vo.NaiBr.XX&Celeina Ann)が来年SXSWに出演出来たらどんなに面白いだろうということで、実は画策しています。
―― キャロルとチューズデイの2人が行く先々で出会うアーティストたちにも実在アーティストのモデルがいそうですが、顔や格好をそのまま寄せるのではなくて、むしろ基本的に隠しているぐらいの感じですよね。
西辺:そうした裏設定は渡辺監督もインタビューなどでもあまり話していないですし、僕らも言わないようにしているんです。そこはファンの皆さんの間で「こうなんじゃないか、ああなんじゃないか」という会話を楽しんでほしいですね。
作中の背景や美術の文言は世界観に合わせて英語で統一しているんですが、適当な文字の羅列ではなく全部意図がある文言が記されています。例えば13話に出てくるキャロチューとブライテストレコーズの契約書は実際のアーティスト専属契約もとにちゃんとした文章が書かれていますし、10話でシベールからチューズデイのスマホに大量に送られてくるメッセージも、「もうメッセージは送らないね」「ごめん、また送っちゃった…。だって好きなんだもん」「本当にごめん…」みたいな病んだ女の子の“あるある”な文面になっています(笑)。
各アーティストへのオーダーは「結果的にほぼしていない」
―― それはすごい!もう一周見返したくなりますね。そんな中で、楽曲提供をする各アーティストたちにはどんなオーダーを出されていたのでしょうか?
西辺:実はそこまでガチガチなオーダーって出してないんですよ。
―― えっ、そうなんですか!?
西辺:はい。先ほども申し上げたとおり、ストーリーが確定していない中でも曲を発注しなければいけないという制作の都合上、「このキャラが、こんなシチュエーションで歌う曲です」「キャロチューの曲はハモる部分を入れてください」ぐらいの大枠を決めているだけで、アーティストの個性を重視したオーダーが大半でした。
―― その割には各話ともにかなりマッチしているというか、作品の舞台がニューヨークをモデルにしていることもあって「あなたが考えるアメリカのヒットチャート音楽を作ってください」というようなオーダーをしているのかなと想像していました。
西辺:もちろんそういうオーダーもありますが、例えばキャロル&チューズデイのコンビとして最初に演奏シーンが入る「The Loneliest Girl」は、キャロチューの出会って最初の楽曲であり、今作品の指標とも言える曲だったので、作詞・作曲者のベニー・シングス(第1クールのED曲「Hold Me Now」なども担当)が来日ライブで訪れる際に、実際に渡辺監督とベニーで細かい打ち合わせをさせて頂きました。2人の歌を担当するナイ・ブリックスとセレイナ・アンの日本での初顔合わせ日に、初めての曲をレコーディングする、という監督のアイデアも功を奏したと思います。
曲先行の楽曲に関しても出来上がったデモを聴いてみると、不思議と歌詞まで後から決まったストーリーとリンクしてたりする場合もあって、本当に奇跡的な楽曲もあったり。
―― 出来上がった曲がストーリーに影響を与えることもあったりとか?
西辺:ありましたね。例えば5話でキャロチューが初めてのライブで演奏した「Someday I'll Find My Way Home」(この曲も作詞作曲はベニー・シングス)のシーンでは、最初はチューズデイの兄のスペンサーを出す予定では無かったんですよ。
―― ミュージシャンになるために家出して出てきたチューズデイを連れ戻そうと、街中を探し回っているお兄ちゃんですね。
西辺:はい。渡辺監督が完成した楽曲と歌詞のイメージから、スペンサーがチューズデイの生き生きと歌っている姿を見て、声をかけずに帰ってしまうというシーンを着想され、ストーリーも変わってしまうセッションのような制作が刺激的でした。
―― 何も知らない視聴者からすると、あまりのシンクロっぷりに緻密な計算がなされていたんだろうなと思ってしまいますね(笑)。それでいて、取材時点では最新話だった16話のライブシーンでキャロチューが歌う「Day By Day」は小気味良い2010年代風ソウルでカッコいいな、海外勢の曲かなと思ったら「ceroの高城晶平さんじゃん!」という驚きがあったりもしますし。あの曲もほとんど既存のcero風味が感じられない、新しい作風で良かったです。
西辺:「Day By Day」は16話で初登場するフローラと、元マネージャーのガス(今はキャロチューのプロデューサー兼マネージャーを担当している)がキャロチューのSXSWでのライブ会場に走って向かう間に演奏される曲ですが、やっぱりそうした細部を事前にお伝えできていないわけです。
フローラ(画像左)はかつて火星を代表する歌姫として活躍していたが、ある出来事がきっかけで業界から姿を消し、ホームレス同然の生活をしていたところにガスと再開する
16話に登場するフローラにはモデルとしている実在アーティストがいるんですが、彼女が歌う「Give You The World」(※)を発注する時も「こういうキャラなんです」という大まかな概要しか説明していません。高い自由度の中で楽曲を制作していただき、それを渡辺監督がストーリーと画で彼女の人生とシンクロさせていくんです。
※Give You The World:作詞作曲はエヴァン・"キッド"・ボガートとジャスティン・グレーの共作。エヴァンはこれまでにビヨンセやマドンナ、リアーナやブリトニー・スピアーズなどの曲を手掛けた売れっ子作曲家・プロデューサー。
渡辺監督は今も昔もかなりの数のライブに通う音楽マニアですし、監督・渡辺信一郎、そして音楽マニアの渡辺信一郎という2つの自分を初めてリンクさせて、本腰を入れてアニメ×音楽にチャレンジされていますし、相当気合いの入った作品になっていると思います。
現実世界でもSXSW出演やグラミーノミネートを狙いたい
―― ここからは作品の海外展開、ビジネス展開みたいなお話をうかがっていきたいと思います。作品の海外配信はどんな風に行われるのでしょうか?
西辺:Netflixでは8月30日に190カ国で1クール分の12話が配信されて、12月ぐらいに2クール目が配信される予定になっていますが、まだ配信前にもかかわらず海外からは大きな反響を頂いています。
本編の配信だけでなく、すでにOP・EDテーマ曲や劇中歌を収めた『VOCAL COLLECTION』シリーズもSpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスに配信していますし、音楽も世界中をほぼ網羅できている状態です。これまでは基本的に日本国内のマーケットだけを見ていたのが、世界を見ると数十億人規模に広がる可能性があるわけで、これがどういった結果をもたらすかによって、今後のアニメーションの仕掛け方が変わってくるのかなということはすごく楽しみです。これから海外に向けてどう仕掛けていくかについて、現段階でもいくつかの伏線を張っています。
―― 海外のアニメ未見の音楽ファンでも、「フライング・ロータスやテイラー・マクファーリンなどの新曲も収録」なんてニュースが流れたら「とりあえずSpotifyでチェックせねば」みたいな感じになる気がします。
西辺:そうですね。10月初旬で日本での放送は終わりますが、実際に音楽の反響が非常にいいという話も聞こえてくる中で、時間差で海外からの盛り上がりも出てくるとより面白いことになるんじゃないかと思っています。
―― 全世界のマーケットを視野に入れられるようになると、アニメビジネスの収益構造の考え方も変わってくるのでしょうか?
西辺:昔のビジネス構造はBlue-rayなどの映像パッケージ売上が中心だったのですが、スマホで誰でも簡単に配信映像が観られるようになった現在においては、昔のような売上を期待できなくなったのは事実ですし、他の作品でも海外配信収益を狙っていくといった動きが増えています。
本作について言うと、世界共通言語である英語詞の音楽があり、実際に世界中どこでも音源を理解し、ライブができるということが最大の強みだと思っています。
―― まずは日本でのライブ第1弾として8月11日に原宿クエストホールでの公演がありましたが、チケットは昼夜2公演とも即完売だったみたいですね。
原宿クエストホールでのライブの模様。途中、キャロチューのライバル・アンジェラの歌を担当するアリサの楽曲を実演するコーナーもあり、YouTube Liveで世界に配信された
西辺:おかげさまで沢山の方に集まっていただきました。次は10月6日に品川のステラボールで2ndライブを予定しています。最初のライブでは、1クールのストーリーと連動させて、ギター・キーボード中心のミニマムなセットで行いましたが、2ndライブでは2クール目同様、バンド編成でより大きな会場でと、この現実世界でもストーリーを感じさせられるような展開にしていきたいですね。
『キャロル&チューズデイ』のライブシーンではミュージシャンのプレイを実写映像で撮影し、それをアニメとして作画していることもあって、ギターやキーボードの運指に至るまでかなり精巧に表現できていると自負しています。単にアニメを観て終わりではなく、また「アニメで流れていた曲が生ライブで聴けた」で終わりでもなくて、ビルボードにチャートインするとか、グラミーにノミネートされるだとか、そういったところまでいければこんなに嬉しいことはありません。
―― ちなみに、これから本編はどんな風に展開していくのでしょうか?
『キャロル&チューズデイ』の世界ではヒットソングのほとんどをAIが作っているという、クリエイターからすればディストピアにもみえる中で、キャロチューの2人は自分たちで作った生演奏の音楽でやっていく姿がすごく純粋でキラキラしていて、彼女たちの存在は闇の中の光のようなものなのだ、というお話だと思っています。その光が何を照らすのか、是非お楽しみにして頂ければ幸いです。
―― 『キャロル&チューズデイ』は、1話から毎回ずっと「この物語のクライマックスに“奇跡の7分間”が訪れる」というナレーションが流れていますが、いよいよそれがどんなものなのかが明らかになってくるのでしょうか。
西辺:はい。これからはキャロルとチューズデイだけでなく、アンジェラなど周りを取り囲むキャラクター含め毎話目が離せない内容になっていきますが、“奇跡の7分間”は、今までこんな描写は絶対無かったし今後もあり得るかわからないぐらいのとんでもないことになっているという自信がありますし、是非多くの方に最終話まで完走してほしいです。
―― あのアーティスト陣を揃えるだけでも日本アニメ史上初で今後もほぼ不可能そうな感じですが、最終話でさらにとんでもないことになるんでしょうか?(笑)。
西辺:なると思っています(笑)。そして、5年後、10年後、その先も楽しんで頂ける作品になれば嬉しいです。是非ライブにもお越しくださいませ!