EVENT | 2020/02/29

AIで完全無人の自動運転を実現。「かっこいい未来の農業」のビジョンを示すクボタの夢のトラクター「X tractor」

㈱クボタ提供
取材・文:6PAC
トランスフォーマーやロボコップを連想させるようなスタイリッシュなデザイン

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㈱クボタ提供

取材・文:6PAC

トランスフォーマーやロボコップを連想させるようなスタイリッシュなデザイン

無人トラクターを巡るライバル企業同士の戦いを描いて人気となったのが、2018年に放送されたテレビドラマの『下町ロケット』。実はこのドラマ中に登場するすべての農業機械の提供に協力したのが株式会社クボタだ。

農業機械メーカーとしては日本国内でトップシェアを誇る同社が、今年1月15~16日に京都市内で開催した製品展示会では、「X tractor(クロス トラクタ)」というコンセプトモデルを、同社創業130周年という節目に合わせて発表した。

まず驚かされたのは、トランスフォーマーやロボコップを連想させるようなスタイリッシュなデザイン。そもそもAIによる自動・無人運転を前提としているため「人が乗る」ということを想定しておらず、従来型のトラクターとはまったく異なるビジュアルだ。コンセプトモデルということで実際には走行不可なのだが、デザイン以外にも完全電動でエコ、四輪のクローラが変形して車高を最適な位置に調整できるといった特徴を持つ。

テレビドラマよりはるか先を見据えていた同社の広報担当者に話を伺った。

10年程度先の未来を想定したコンセプトモデル

㈱クボタ提供

まずは、無人トラクターの開発経緯について訊ねると、「X tractorは農業の未来像を描くうえで必要とされる、技術開発の一つの方向性として示されたもので、10年程度先の未来を想定しています。『下町ロケット』に登場した自動運転農機と見た目は異なりますが、作中で描かれた“無人運転”というコンセプトをもとに、一からデザインし直したものです。またプロジェクト開始の具体的な時期は差し控えさせていただきますが、無人運転農機の歴史は、2017年に発表したアグリロボトラクタ『SL60A』からスタートしています」とのこと。

X tractorはAI(人工知能)、EV(電動車両)、変形式四輪クローラといった最先端技術を搭載した無人トラクターのコンセプトモデルだが、商用化への障壁はどういったものがあるのか訊いてみた。

すると、「盛り込まれた技術の実現にはまだまだ高いハードルがあるのが実情ですが、挙げられている技術の中で、もっとも実現が近いのは電動化です。当社は今年1月、開発中の電動トラクタの試作機を公開しました。欧州をはじめ各国で環境規制の厳格化が進み、マーケットから寄せられる声に応えて発表したものです。またすでに発表している自動運転農機を例に取れば、公道を無人で走るにあたっての“法整備の壁”が大きな課題に挙げられており、行政と連携して整備していく必要があります。X tractorの実現にはまだまだ長い年月がかかりますが、市場から必要とされる要素技術を高めながら、一歩ずつ開発を進めていきます」と話す。

道路のセンターラインや膨大な地図データを頼りに走行する自動車と違い、農業機械の場合は田畑に目印となるものがないため、GPS衛星からの位置情報だけで走行経路を決める必要があるという。また、起伏や傾斜が多い田畑を走行するには高度な車両制御技術が求められる。加えて、「走行」のみ求められる自動車と異なり、農業機械には耕す・植える・刈り取るといった「作業」も行わなくてはならない。そのため、「走行」と「作業」を組み合わせる制御技術や、農作物と障害物を見分ける高度なセンサー技術が求められるとのこと。

人力(人が運転)との比較では生産性がどれくらい優るものなのか訊いてみたところ、「人力作業との単純な比較は難しいです。ただ従来行っていた一連の作業(トラクタを準備し、田畑まで移動させ、農作業を行い、倉庫に帰ってくる)をすべて機械が自動で行うため、その間に人は市場調査や情報収集など、より付加価値の高い農業経営を追求できるようになると想定しています。参考までに、アグリロボトラクタでは有人機と無人機を連携させることで、作業時間を約30%低減することができると試算されています」という答えが返ってきた。

X tractorは、日本農業の課題を念頭においてコンセプトをまとめたモデルだという。日本の農家がX tractorを導入することで、「農業の実作業に費やす時間が大きく減り、農業経営に注力することができるようになると考えています」と話す。それでも、「当社は売上高の約7割を海外市場が占めており、世界中の多様なニーズに対応できる技術・製品開発を日ごろから進めております」ということなので、実用化されればアメリカのような大規模農業にも対応できる大型モデルも開発されるのであろう。

「農業はかっこいい」、「農業の未来は明るい」ということを企業として伝えたい

ビジュアル面での訴求力が高いX tractorだが、このデザインには次世代農業を担う若い世代を惹きつけるという意味も隠されているのかという疑問が湧いた。同社の専務執行役員でトラクタ総合事業部長でもある富山裕二氏が、「“無人で動くトラクタ”というコンセプトを具現化したデザインですが、このコンセプト機を目にしたことをきっかけに、多くの方々に農業への興味を深めてもらえれば幸いと考えております。また特に若年層の方に向けては、“農業はかっこいい”、“農業の未来は明るい”ということを企業として伝えていきたいと思っています」と言うように、やはりそこには隠しメッセージがあったようだ。

富山裕二氏(専務執行役員 トラクタ総合事業部長)
㈱クボタ提供

X tractorのような最先端技術が詰まりに詰まったトラクターが実際に発売されるとなると、気になるのはその価格だろう。この点については、「具体的な金額は差し控えさせていただきますが、ご参考までに自動運転の技術水準が最も高いトラクタ(人の監視下で自動運転が可能)の価格は970万円(税別)からとなっています」との答え。

最後に同社がイメージしている「スマート農業を活用した日本農業の未来像」について富山氏に訊ねた。

同氏によると、「現在、日本の農業は就業人口の減少や高齢化という課題を抱えています。また、かつて“お腹いっぱい食べられること”が求められた時代を経て、“より美味しく”、そして“安心・安全”が求められる時代へと変化してきました。こうした日本の労働力の課題や消費者のニーズの変化に向き合いながら、より価値の高い作物を生産するためにはスマート農業が不可欠です。日本の食料自給率は低調のまま推移し、また世界に目を向ければ、今後ますます食料需要が増加することが予想されています。こうした課題にもスマート農業は貢献することができます。クボタはそのテクノロジーの進化を支えるとともに、農業を起点にしたより良い社会をつくること、農業の魅力をより一層高めることをめざしています」という未来像を同社は描いている。