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EVENT | 2019/12/30

連続起業家・hey佐藤裕介が語る「カルチャーとビジネス」。ニッチな趣味や綺麗事こそが「稼げる」ようになる時代の到来

12月14日(土)・15日(日)の2日間にわたって、「「お金」の今とこれからを考える」をコンセプトとした、アーティストに...

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12月14日(土)・15日(日)の2日間にわたって、「「お金」の今とこれからを考える」をコンセプトとした、アーティストによる展示とトークセッションからなるイベント、SCOPE「UNTOUCHED──お金(の未来)を手さぐる」展が、表参道のBA-TSU ART GALLERYにて開催された。

同イベントは、非常にざっくり言えば「お金に関する事業を展開する会社とクリエイターたちが、一緒になってアートやデザイン視点で『お金』を批評的に考える」という考えのもとで開催されている。

イベントを主催するのは、小規模事業者向けECサービス「STORES.jp」、モバイル決済サービス「Coiney(コイニー)」の運営会社が経営統合し、2018年に誕生した事業持ち株会社・ヘイ株式会社に所属するメンバーと、音楽イベントの企画運営や自主出版の制作、企業のブランディング・コンサルティング、リサーチなどを手掛ける合同会社CANTEEN(コアメンバーには完全自主出版のインディペンデント・マガジン『Rhetorica』の発行などをに携わるレトリカの遠山啓一氏、Maltine Records主宰のtomad氏などが名を連ねる)の2社に所属するメンバーたち。開催費用もhey代表取締役社長の佐藤裕介氏らがポケットマネーで出しているという。

「ビジネスマンにもアート思考(アートの素養)が必要だ」と、さかんに言われるようになって久しいが、単に企業側がクリエイターにお金を渡して「カルチャーっぽさがあるイベント」をしてもらうのではなく、スポンサー企業の事業にも何らかのフィードバックとなりうるような「何か」を対等な立場でクリエイトし、見つけていこうとする実験的な試みだ。

今回、2日間にわたって6つのトークセッションと、「お金」をテーマにした5つのアーティストによる作品展示を行われたが、その中でも2日目の最終トーク「カルチュラルアントプレナーの時代がやってくる――「経済」と「文化」を再びつなげるために」の内容をお届けする。

このセッションでは経済的利益を追求することと、新しい文化を生み出す、あるいはそれを支援することのバランスを取りながら事業に邁進する起業家を「カルチュラルアントプレナー(文化起業家)」とし、先日上場を果たした株式会社ツクルバ共同創業者の中村真広氏と、hey代表取締役社長の佐藤裕介氏による「文化とお金の関係」をテーマとした対談となる予定だった。しかし中村氏がインフルエンザのため急遽欠席となってしまい、モデレーターを担当する株式会社インクワイア社代表のモリジュンヤ氏による公開インタビューのようなかたちとなったため、本稿では以下、佐藤氏の一人語り形式として編集をしている。

文・構成・写真:神保勇揮

佐藤裕介

ヘイ株式会社 代表取締役社長

2008年、Googleに入社し、広告製品を担当。2010年末、COOとしてフリークアウトの創業に参画。また、株式会社イグニスにも取締役として参画し、2014年6月にはフリークアウト、イグニス共にマザーズ上場。2017年1月、フリークアウト・ホールディングス共同代表に就任。エンジェル投資家としても活動。

お金よりも「知識の有無」がビジネスの成否を決めてしまう時代

会場では「お金」をテーマにした5つのアーティストによる作品展示を行われた。写真は判子や、(VR上で正装した状態で行われる)土下座など、進化するテクノロジーの裏側で、失われゆく契約と信頼の慣習を表現した、Rhetorica『マネー・オーパーツ』

僕は24歳でGoogleを退職して以降、いくつかのスタートアップを立ち上げ、今日のトークテーマである「カルチュラルアントプレナー」とは間逆な感じで、資本市場の中で上場企業経営を4~5年ぐらいやってきました。去年2月にheyを設立してメインの事業としてやっています。

heyは個人・スモールチーム向けECサービス「STORES.jp」、実店舗向け決済サービス「Coiney(コイニー)」の運営会社が経営統合し、2018年に誕生した事業持ち株会社で、個人とか中小企業の皆さんに対してテクノロジーを提供して、できるだけ楽しく継続的に自分の商売を続けていけるようする取り組みをしています。というのも、今は「お金よりもテクノロジーを用いた問題解決方法を知っている方が価値がある」とすら言えてしまうと思っているからです。そうした確信を得るに至った、強く心に残っているエピソードがあるのでご紹介します。

僕はとあるマッサージ屋さんにずっと通っています。すごく上手で向上心もある人で、お客さんに対する対応も良い方です。施術が終わって次回の予約を取る時に「自分のお店のウェブサイトがやっとできた」と嬉しそうに報告してくれて、「すごく信頼できる友達にデザイナーを紹介してもらって安くやってもらったんだ」と言っていたんだけど、200万円かかったそうです。

これは本人が満足しているからいいんですが、もし自分にプログラミングスキルがまったくなかったとしても、例えばWixでドメインを取ってあとはクラウドワークスとか、カメラマンさんをマッチングするサイトなんかを使って、10万円以内で作れるなと思いました。でも、その彼は銀行から制作費として200万円を借りて作っている。

大手チェーンなら、営業が向こうから勝手にやってきて「こんなことできます、あんなことできます」って色々教えてくれると思うんですが、そのお兄さんには来ない。結果としてテクノロジーの知見がないというその一点のみにおいてものすごい生産性の差が出ちゃっている。こうしたことを知っているか知らないかという話が、「本業でもっと頑張って売上を立てよう」という努力で覆せないレベルの差になっているし、テクノロジーが発展すればするだけ「知らない」「使えない」というだけで淘汰されてしまいかねない。そういう中小・個人の味方ってこれまで銀行だったけど、「200万円借りれたけれど、結果的にあまり上手な使い方ができなかった」ということが起こるわけです。

であれば、お金の代わりにテクノロジーを提供できないかと思ってこの事業に参画したんです。この会場にいる皆さんでもポチポチっとスマホをいじってもらえれば2~3分でECサイトが作れてしまう。あとはリアル店舗、あるいはコミケやポップアップストアなどのキャッシュレス決済対応も、端末を1台借りればそれでできます。

メガショップよりも中小・個人を掴めるプラットフォームが伸びる

写真左がhey代表取締役社長の佐藤裕介氏、写真右がモデレーターを務めた株式会社インクワイア代表のモリジュンヤ氏

とはいえ、僕らはボランティア精神で、大企業より弱いとされる存在をサポートしたいと思っているわけではありません。個人・中小にはむしろこれからすごく伸びるチャンスがあると思っているんです。今は歴史上もっとも多様化が進んでいる時代だと思っていて、同時に2010年代はパーソナライゼーションや機械学習の大きな進化があって、ネットを使えばニッチな趣味をもつ個人同士がよりつながりやすくなって、ニッチでも強いこだわりを持って商品をする人がビジネスとして成り立ちやすくなったと思っています。

SNSとスマホが普及するにつれて、世界中がつながりすぎてしまいました。80年代のフィンランドハードコアが大好きな中学生は、昔はクラス内で「オレは音楽に詳しい」と威張れていましたが、今は誰でもネットで世界最強クラスに詳しい人に出会える時代です。上を見始めるとキリがない。

そうした環境で多くの人にとって重要なことって、世界一になることじゃなくて自分たちの中でだけ「これいいよね」という独自のコード(振る舞いの規範・基準)でコミュニケーションを取れるコミュニティをいくつ作れるか、いくつ所属できるかだと思うんです。たとえば「このティッシュ、めっちゃ可愛い!」と言って大はしゃぎしてるグループ、今の時代はこの態度こそが大事だと思います。「これが私たちの間では良いということにしよう」という感じで気分良く消費しようというものがないと辛すぎる世の中になっているんじゃないかと思うから。

STORES.jpでは「僕にはよくわからない」と思うものほど売れている。そしてそういう商品の方がコミュニティの熱量が高い。コアファンは数十人から100人ぐらいの間で、月商何百万円みたいなショップオーナーさんが多い世界です。100億円売れるセラーが生まれる可能性はかなり低いと思うけど、ある種、独自価値コードを生み出せるコミュニティさえ作れれば生業が続けられるようになっている。

そうした強いこだわりをもって「わかる人にわかってほしい」というものづくりをしているショップオーナーさんたちを僕らは「ライジング・セラー」と呼んでいるんですが、そうした人たちは「お客さんになってもらう」ではなくて「見つける」という表現をよくしています。誰かの考えを変えようとはしない。それをどうやって効率的に探していくかという工夫のほうが大事だと考えているんです。

STORES.jpに同じような方向を目指している「BASE」というサービスがあります。BASEも私たちと同様に流通総額が急激に伸びています。挑戦する人のハードルをとにかく下げて、アクティブなセラーさんを増やす方がビジネスの成長につながるんです。ナイキとかシュプリームも1つのモデルを大量に売るより、多品種を少しずつたくさん売るモデルになってるのと同じ。そのほうが経済的にも筋が通るんじゃないかと思うんです。アメリカのEC市場は年11%ぐらい伸びてるんですが、その上から1000社の売り上げが年10%ぐらい伸びている。一方全体の3分の1ぐらいの数を占めてる中小プレーヤーは年30%ぐらい伸びています。こっちを支援することは、経済性という観点でも社会的な意義という観点でも意味があると考えています。

「ビジネスの場」で忌避されることもあった「良い行い」こそが投資家に評価される

川崎和也、津久井五月、太田知也、佐野虎太郎「表参道絹行──織物によるお金の“再発明”」。SF作家やファッションデザイナーなどが協働したパフォーマンスアート作品。日本でもし貨幣のほかに織物でできた「糸幣(しへい)」とそれを生産する「絹行(けんこう)」が存在し、糸幣をともなった物は貨幣では買えず、糸幣製品同士としか交換できないもうひとつの経済システムが存在する時代があったら…という世界を描き、会場では実際に糸幣製品(織物)を織っていた

ただ当然、そうした中小ストア向けのECサービス、決済サービスを展開するプラットフォーマーの僕らとしては、投資家と交渉して資金調達したり、会社の規模を1000人、1万人と増やしたりしていく中で、当然「ティッシュかわいいよね、この良さがみんなわかるよね」のノリだけでは社内マネジメントが通用しなくなってくるわけです。

僕がGoogleにいた頃の従業員数は2万人だったんですが、それらの理念がちゃんとファクトとロジックに基づいて10個ぐらいの「考え方」のルールセットが設定されて、権威化していた。Googleには非常に多くの国からの出身者・人種がいて、抽象度が高い言葉は解釈の幅も広いのでグローバル企業は運営できません。たぶんheyもそのうちそういうあり方が必要になると思います。

「日本はハイコンテクストの国」みたいな言い方がよくされますが、スタートアップにとってハイコンテクストな議論が最も重要なのは創業時です。例えばYouTubeの動画再生中、25秒に1回の割合で広告を見せれば確実に今より利益が上がる。その施策実行時の短期的なユーザーの離脱率も悪くないとする。でもユーザーエンゲージメントが利益の最大化より大事なはずで、このようなときにどう企業として行動するかというラインは最初に時間かけて考えるべきです。ただ、「一番重要な価値判断の基準は何か」という設定が異なるとデータもロジックも意味をなさないわけで、シンプルな1個か2個のルールで判断されるべきです。Googleも「ユーザーを大事にすること」以外はわりとノールールでしたし。

そして「一番重要な価値判断の基準をどう設定するか」ということに関連して、日本を含む世界中のビジネスシーンで「共感」の重要性が高まっていることをこの2年ぐらいで痛感しています。例えばheyを創業するまでの採用活動では「連続起業家とGoogle 出身者がつくったスタートアップ!」みたいな謳い文句が効いてたんですけど、今はマッチョな物言いが本当に効かない。他社でもあまり上手くいってないんじゃないかと思います。社会的な価値、意味みたいなものを共感されやすい形で上手く伝えていかなきゃいけない。

先日、hey副社長でコイニー代表の佐俣奈緒子がnoteで「ユーザーのためになる投資をもっとしたいので、オフィスの引っ越しするのをやめました」という記事を書いたんですが、引っ越しするしないは他人からすればどうでもいい話なはずなのに、これまでで一番読まれた記事になった。まさにそういうことだと思います。

海外投資家向けのIRに行くと、例えば年金のような資金を預かるファンド運用担当者が「SDGsについてどう考えているのか」とすごく積極的に聞くようになってきています。個々人の考え方が変わっていけば、投資家のあり方も変わってくるんです。だから良い行動に価値を見出す人がもっと増えれば、世の中はさらに良くなるはず。

文化とお金、クリエイターとビジネスパーソンの関係

齋藤恵汰「【総額100万円】10万円を色々なものと交換してみた」。ライブの演出やアーティストマネジメントなどを手掛ける渋都市のメンバーたちが、小学生から社長まで「10万円と交換してもらえるもの」を聞いてまわり、実際に交換したモノを展示した。また、その模様をYouTuber風の編集を施した映像作品として制作し上映している。The Breakthrough Company GOの三浦崇宏(古賀崇洋の湯呑み)や、サンキュータツオ(例解国語辞典)、ラッパーの晋平太(自身が使ったメモ帳とペン)などが参加

今回のテーマである「カルチュラルアントプレナー」とは何か、ということを僕はきちんとわかっていないものの、ビジネスに「カネ儲け」以上の価値を置いて商売する人に必要なのは、絶対に「持続的であること」を第一にしなければならないということです。当たり前ですがリターンを出せないものは続くはずがないんです。ビジネスの世界のルールをどうやって理解し、適応し自身を位置づけるかという技術やそれを伝える言葉を持たなきゃいけない。

逆にビジネスサイドの人たちに言いたいのは「商品やサービスの利用価値を越えた、文化的な貢献ができないビジネスは成り立たなくなってきている」ということです。いくら便利で安くても買われない、応援されない、採用できない。もちろん、こうしたことには「ここまで学べれば一生OK」という終わりはありません。ビジネスがうまくいってる時に限って「これが本当にやりたかったのか」と逡巡したりとか、やりたいことをやれている時に「でも今はお金稼げてない」みたいな焦りがあったり、みたいなことが行ったり来たりするものです。

Googleでも中国から撤退する・やっぱり再進出するとか、米軍のドローンにAI技術を提供することを受けて社員が集団辞職するみたいなゴタゴタや二転三転が少なからずありますが、常に内部では「行為Aをすると結果どうなるのか」という激しい議論が展開されていると思うんです。物事は白か黒か、0か100かみたいなハッキリ決まるものだけではないですし、灰色とか20だけ関わるみたいなかたちもあったりする。そして、昔決めたことは永遠に同じじゃなくて、変わっていけばいいと思っています。自分の過去の発言を振り返ると「なんであの時あんなこと言ったんだ。バカなんじゃないか」と後悔することも多いですが、それでも前を向いて進んでいくしかないと思います。

4つの質疑応答

トーク終了後、質疑応答タイムが設けられたが、これらの内容も今回のテーマにおいて重要な発言が多数含まれていると感じたため、一部内容を改変してお届けする。

Q:ビジネス側にとっての、アートとの付き合い方についてお聞きしたいです。最近ではIT企業が先進的なデザインや、アート的な手法を取り入れて未来を展望しようというような事例が増えています。一方で数年前には、Googleがディストピアな未来予想を描いて「どうすれば避けられるかをみんなで考えよう」という取り組みをやっているという話も聞いたことがあります。

佐藤:僕は芸術の専門家ではないけれど、僕がアートの価値のひとつだと思っていることの一つは、「パーセプション(認識)を変えること」だと思っていて。何か新しいものを提示するっていうよりも、今あるものを別の視点で見てみようという提示の仕方です。ミケランジェロを囲っていたパトロンは「彼がどういう風に世界を見ているのか」が知りたくてお金を払う。今回の展示で僕が期待していたこともそうだし、このイベント全体でもそうだけど、何かひとつのプラスを通じてコンセプトに対する見方みたいなものをどう変えてもらえるかというのが大事だと思っています。

Q(モリ氏によるもの):スタートアップが「この会社は何を信じてどこに向かっていくのか」ということを定義していく中で、言葉で定義しすぎちゃうと余白が少なすぎて耐久性もあまりなく、思考があんまり膨らまないから、ある程度余白を残しつつ共有できるものを議論しているケースが最近は多いなと感じています。どの会社もCIとかロゴ、ビジョンやミッションを制定しているけど、たぶんそれだけだと「余白を残しつつ価値観を共有する」という意味では弱いと思っていて、そういう時にアート、展示みたいなものがあると一定の幅の中で自分たちが持ちたいと思う余白、「ここは自分たちで考えながらやっていって良いんだ」ということも共有できるのかなと。

佐藤:Twitterなんかは脳みそをすごく動物的にしていくじゃないですか。短い文字列の中でそれだけを切り取ってやり取りする仕組みなので、連続的な文脈とか行間を読むみたいな行為と真逆の立ち位置にある。メルカリが「Go Bold」という標語を設定した時に、その中でもアリ/ナシのいろんなグラディエーションがあるわけです。でもすごく単純化して「大胆なら何でもOK」となると、経営者は困るじゃないですか。僕らも運営上言葉で定義することを色々やっているけど、すごく気をつけていますね。それが唯一の杖みたいな感じになっちゃうと極端な解釈をする人も出てきてしまうから。抽象的な媒介物を通じて価値観を色々考えてもらう機会は確かにあってもよさそうだなと思います。

Q:コミュニケーション、あるいは広報テクニックとしての「共感」的なもののベターな使い方について教えてほしいです。投資家がSDGsや社会貢献的なもの、多くの人が共感できるものを評価しはじめている動きは確かにいろんなところで聞く一方で、全員が全員それをやろうとすると、受け取る側もそれはそれで「いい話疲れ」が起きちゃうんじゃないかという気もします。もっと極端になると「綺麗事ばっかり言ってるヤツらがムカつくから、俺はトランプに投票してやる」みたいな態度を取る人も少なくありません。

佐藤:共感っていうのは「いい話」だけではもちろんなくて、例えば今のTwitterでバズってる人たちはすごく上手なんですけど、自分を下げる・落とす能力がどんどん高まっているっていうか、自分で泣いちゃわないギリギリのラインまでは自分のことを下げてるんです。「こんな良いこと言ってますけどうんこ漏らしました」とか(笑)。僕らがオフィス引っ越しませんでしたみたいな話も、むちゃくちゃ単純化すれば「カネが足りないから豪華なオフィスに引っ越しませんでした」という話で、そういう下げ要素があるコンテンツは共感されやすいと。

「いい話」が増えすぎるともちろん食傷気味になるし、疲れちゃうというのもよくわかる。嘘くさい話もいっぱいあるから、自分たちを善人として打ち出しすぎないやり方っていうのは大事なのかなと思っています。かわいそうと思ってもらえない対象への支援が減ってしまうことでもあるし。そこはクリエイティブの力が必要だと思います。僕らは社内で「チャーミングであれ」ということを言ってるんですけど、それは「正義」とはちょっと違って、悪人ではないけれどマヌケではある、みたいなものが今の世間の温度感とか時代性でいうとコンテンツに必要な要素なのかなと思っています。

そして同時に、今のネットは本当に「愛と正義と誠実のインターネット」なんですよ。僕が中3の頃に2chができて、そういうネットを懐かしむ人はたくさんいる一方で、今は「愛と正義と誠実のインターネット」なので、ちょっとでもアレな発言というのは致命傷になってしまう。そこは企業活動という意味ではめちゃくちゃ明確に線引きしないとヤバいし、実際にこれだけオープンにつながりきった社会では、必要な配慮であり姿勢でもあります。

Q:私は小さなベンチャー企業を経営しています。佐藤さんが会社の価値を語る時に、採用面接の場と、投資家向けの業績報告会とでは使う言葉の種類が違うと思うんですが、どう使い分けているんでしょうか?

佐藤:もちろん、僕自身が会社のメンバー、未来の仲間になってくれそうな方々に語りたいメッセージはたくさんあります。ただ投資家の皆さんはそれだけ聞いて、共感して投資する人はほとんどいません。なぜなら彼らは誰かのお金を預かって投資するという構造があるので、どうしても彼らには彼らの責任が存在するからです。なので自分の伝えたいことと投資家に対する言葉そのものは100%一致する必要はないと思っています。

では投資家の人たちは何を聞きたいと思っているか。今は金融緩和がかなり長い期間続いていて、市中にはお金がすごくたくさん流れているので、みんなめちゃくちゃお金が余ってて、投資家はできることなら1社でも1円でも多く投資したいと思っているんですよ。「頼む…!この会社、投資できるところであってくれ…!」みたいな感じで。そうした投資家の多くが共通して聞きたい数字とか事業の状況があると思うので、「自分の事業でいうとどういう表現になるんだっけ」いうことに徹底して寄せるようにしています。最悪、投資家から事業内容に対する共感は全く得られなくても、投資機会としてこの会社は素晴らしいと思ってもらえれば、お金に色はないし、僕らのポリシーの中で使われる。そういう意味では彼らがどういうルールのもとで行動しているかを考えることが重要かなと思う。

ただもちろんこれはケースバイケースで、起業家のキャラクター次第だとも思います。だから僕はちゃんと翻訳するようにしているし、それをやらなくても愛されて支援される人も確かにいます。