米アイロボット社の新製品「ルンバi7シリーズ」
伊藤僑
Free-lance Writer / Editor
IT、ビジネス、ライフスタイル、ガジェット関連を中心に執筆。現代用語辞典imidasでは2000年版より情報セキュリティを担当する。SE/30からのMacユーザー。著書に「ビジネスマンの今さら聞けないネットセキュリティ〜パソコンで失敗しないための39の鉄則〜」(ダイヤモンド社)などがある。
乱立するQRコード決済には購買データ獲得合戦の側面も
100億円キャンペーンで話題となったPayPayをはじめ、LINE Pay、楽天ペイ、Origami……と、まさに乱立状態になっておるQRコード決済。今月には、みずほファイナンシャルグループもJ-Coin Payをリリースし、7月ごろには、コンビニ系のファミマペイやセブンペイが参入するとみられている。
加熱するQRコード決済のトップシェア争いは、日本におけるキャッシュレス化を一気に加速するのではないかと期待されているが、各社がQRコード決済の導入を進める背景には、購買データの獲得合戦という側面もあることを忘れてはならない。
その重要性は、膨大な個人データの収集・活用によって躍進を遂げてきたAmazonやFacebook、Googleの例をみれば明らかだろう。
今や、ビジネスを勝利に導くためには、独自のデータをより多く集めることが欠かせないのだ。
次なる個人データ収集の主戦場はライフスタイル関連データか?
ますます激化する個人データ収集の潮流は、今後どこに向かっていくのだろうか。そんなことを漠然と考えていた時に、気になる記事を見つけた。
それは、ロボット掃除機メーカーとして知られる米アイロボット社のコリン・アングルCEOに、ITジャーナリストの西田宗千佳氏がインタビューを行った、BUSINESS INSIDER JAPANの記事だ。
日本で最新モデル「ルンバi7/i7+」の発表を行った同氏が、家の地図「ホームマップ」の重要性について言及。他の企業には作るのが難しい、同社にとって中核武器になる資産であると、その優位性を語っていた。
i7では、ユーザーがアプリを介して間取りや部屋の名前をホームマップに追記し、それを使って掃除を行うという。そのため、「子供部屋を掃除して」といった、従来のロボット掃除機には難しかった指示もこなせるようになっているという。
部屋の環境を学習・記憶するルンバi7
中でも注目すべきは、ホームマップの活用は初期段階にあるが、多くの家庭用機器を作る企業が興味を示しているという点だ。
アイロボット社製品が作成したホームマップを活用することで、GoogleやAmazonなどが製品化しているスマートスピーカーは、家のどこにデバイスが置かれているかを認識し、家全体をもっとインテリジェントにすることができることになる。例えば、「この部屋に電気をつけて」という命令にもちゃんと応えられるようになるというのだ。
確かに、家の地図であるホームマップが作成されれば、スマートスピーカー以外にも、空調機器、照明器具、調理機器、AV機器、防犯・防災機器など、その応用可能な分野はとても幅広い。IoT機器やスマート家電の普及が進む中、住まいのインテリジェント化を進める上で、中核となる技術基盤になるだろう。
住まいやライフスタイル関連のデータ収集が本格化する前に
しかし、セキュリティ対策の面から懸念すべき点もある。
気になるのは、作成されたホームマップデータの管理だ。アイロボットでは、データはクラウド上に置かれ、将来的には他社への提供や共有も考えているようだ。
ロボット掃除機業界を牽引するトップメーカーの同社であれば、万全のセキュリティ対策を施していることだろう。
だが、有望なデータの獲得に向けて、競合他社がホームマップ作成機能を有する類似製品を相次いで投入してくる可能性もある。
これまでも後発のロボット掃除機メーカーは、アイロボットの牙城を崩すために低価格製品で挑んできた。ホームマップ作成機能を有する類似製品でも低価格化が進めば、セキュリティ対策は疎かになってしまう恐れがある。
ロボット掃除機以外でも、家の中を自由に動き回れるペットロボットや生活支援ロボットなどであればホームマップを作成できそうだ。
ホームマップを基板として収集されるデータは、私たちが暮らす住まいやライフスタイルという極めてパーソナルなデータの集積になることが予想されるだけに、ほとんどの人は他人に知られたくないはずだ。個人を特定できる情報に紐付けられたまま漏洩することを考えると、ぞっとしてしまう。
セキュリティ対策が十分出来ない企業には、参入してもらっては困る領域なのだ。
また、データの活用方法についても不安を感じてしまう。
便利な暮らしを実現するために必要となる住まいのインテリジェント化は進めたいが、ライフスタイルに関するデータが丸裸になるのも避けたいというのが、一般ユーザーの心情ではないだろうか。
アイロボットが収集するホームマップデータの詳細は分からないが、当初は住まいの間取りや家具の配置ぐらいだったホームマップのデータが、人の導線や時間軸による記録などへと拡大していくことは十分考えられる。
そのデータを基盤に多様なサービスを提供する企業によって、収集されるデータの種類はさらに拡張されていくことだろう。
なにを渡し、なにを渡したくないのか。住まいやライフスタイル関連のデータ収集が本格化する前に、1人ひとりがじっくり考えておく必要がありそうだ。