CULTURE | 2019/02/08

おいしい・おトクでフードロスを削減。話題の「TABETE」を使ってラム肉タコライスを買ってみた

「お店で出る大量の食べ物の廃棄物を減らすにはどうしたらいいか」
これは筆者がまだ学生だった頃、某有名フードチェーンでバ...

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「お店で出る大量の食べ物の廃棄物を減らすにはどうしたらいいか」

これは筆者がまだ学生だった頃、某有名フードチェーンでバイト同士のミーティングをしていた時にマネージャーから受けた質問である。多く作りすぎないための工夫について問うている文脈にもかかわらず「アフリカで飢餓に苦しんでいる人に持っていったらいいと思います」と真顔で答えてしまった恥ずかしい思い出を持つのであるが、いまこのフードロスが大きな社会問題としてクローズアップされている。

2015年の国連総会ではSDGs(持続可能な開発目標)に関する12の目標の中で、2030年までに現在のフードロスを半減させると定められた。世界のスタートアップの中にはすでに取り組んでいるところもある。例えばデンマーク発祥のウェブサービス「Too Good To Go」だ。提携しているレストランで余った食材から作られるフードを割安に購入できるというものである。

日本にもまさにこれと同じチャレンジをしている企業がある。それがコークッキングである。

高見沢徳明

株式会社フレンバシーCTO

大学卒業後金融SEとして9年間勤めたあと、2005年にサイバーエージェントに入社。アメーバ事業部でエンジニアとして複数の案件に従事した後、ウエディングパークへ出向。システム部門のリーダとなりサイトリニューアル、海外ウエディングサイトの立ち上げ、Yahoo!などのアライアンスを担当。その後2012年SXSWに個人で参加。また複数のスタートアップ立ち上げにも参画し、2016年よりフリーランスとなる。現在は株式会社フレンバシーにてベジフードレストランガイドVegewel(ベジウェル)の開発担当。

フードロスになる予定だった食品を食べてみた!

コークッキングが運営する「TABETE」は飲食店で余った商品、あるいはおいしく食べられるが調理過程で捨てられてしまっていた食品を材料にして作られた料理を買えるサービスである。

TABETEへの出品に際しては、必ず「出品した理由」を記入する必要がある。商品の魅力はもちろん、なぜフードロスが生じたのか、店側はどうしたいと考えているのかといった想いやストーリーを示し、ユーザーに共感してもらったうえで購入してほしいという設計となっている。

利用はブラウザ・無料スマホアプリのどちらでも可能。各店から出品された商品を選択。引き取り時間を設定して決済したらあとは店舗に取りに行くだけ。「レスキュー」の言葉が示すとおり、購入するだけでフードロスの削減につながるのである。ちなみに店舗がコークッキングに支払う手数料は一般的な飲食店の食品原価が約30%であることから商品販売価格の35%(うち5%を子ども食堂の運営など社会貢献をする団体に対して寄付)に設定している。

TABETE導入店舗のひとつに、銀座は数寄屋橋の交差点に「めり乃 銀座店」というレストランがある。フードロス素材で作られたラム肉のタコライスが買えるという。コークッキングのサービスTABETEを使って予約したので受け取りに行ってみた。

見ての通り、美味しそうな弁当である。ひとくち食べてみたが、ジンギスカン特有の臭みもなく、シャキシャキのキャベツの食感も伴って何杯でも食べられる美味しさだった。これが700円。「おいしいお弁当を買ってオフィスで食べたい」と思っても、未だにコンビニ弁当やファストフードのテイクアウト以外の選択肢はあまりない。銀座でも状況は同じであり、そうした人たちにはありがたいサービスだろう。なお、めり乃では同様に横浜店、秋葉原店、新宿店でも導入を始めている。

CEO川越氏の目指すもの

コークッキングCEOの川越一磨氏

コークッキングのCEOを務める川越一磨氏は慶應大学SFC出身。学生時代に和食料理店でバイトしていたころから飲食業に関わる。大学ではまちづくりをテーマに研究しており、現地実習で山梨に移住していたことがある。現地でレストラン経営にも携わっており、飲食業の表と裏を経験したという。

卒業後に参加した「ディスコ・スープ」というイベントで「形が悪いため廃棄されてしまう野菜から作られたスープを飲みながら社会問題を考える」という取り組みに感銘を受ける。料理で社会課題を解決できないかという思いから起業を決意、コークッキングを立ち上げた。

飲食店のフードロスを安価で消費者に提供するというビジネスモデルは英国でフードロス問題に取り組んでいた「To Good To Go」に着目し、COOの篠田沙織氏と同様のサービスを日本でも展開できないかと考えたところからスタートしている。

サービスは2017年9月にβテストを開始。翌18年4月に正式ローンチをして以来、テレビ、新聞、雑誌・ウェブメディアとあらゆる媒体に登場し、19年1月現在では約8万人のユーザを集めている。

メディアでの紹介では「フードロスを削減するサービス」というソーシャルビジネス要素が全面的に出たものばかりではなく、例えばロケットニュース24の「ステーキを半額でゲット!! 飲食店の余った料理を格安で購入できるサービス「TABETE」を使ってみたら、コスパ以上の幸福感があった」という記事のように、「おトクなグルメ情報のひとつ」として扱われるケースも出てきた。

これについて川越氏は「我々は『食に適正な対価を払うべき』と考えており、決して安売り礼賛をしたいわけではありませんが、この記事もしっかりTABETEの企業理念を書いていただけているので嬉しく思います。『TABETEを使ったらおトクだったし、しかも社会貢献に繋がるらしいから良いよね』といった感想が一番嬉しいですね。フードロスを削減すると言ってもユーザーから『自分には関係ない』と思われてしまったらそれでおしまいですし、おいしい料理を食べたら結果的に課題が解決していた、という状態を目指したいですね」と語る。

「参加レストランの獲得」のためにキリンと協働

そんなTABETEの目下最大の課題は「参加店舗の開拓」だ。2018年12月末現在の登録店舗数は東京23区を中心に293店舗。毎月約30店ずつ増えているそうだが、受け皿となる飲食店の数が追いついていない。

TABETEのシステムは外部から見ると飲食店にとってもユーザーにとってもwin-winなものであるように見えるが、飲食店側からみると「本当に売れるかどうかわからない」「新たな業務を増やすことが現場の負担になってしまうのではないか」「そもそもTABETEへの参加が『廃棄が出てしまっていること』を周知することにもつながり、イメージダウンになってしまうのではないか」という懸念もあるからだ。

「フードロス」というキーワードは廃棄された食料を想起させ、非常にイメージが悪い。飲食店で働いたことのある人は誰でも知っている、残り物や賞味期限切れで捨てられる食料の問題である。ただ、形や色味が悪い(美しくない)だけ、もしくは加工した結果出てしまった、使わない部位などもフードロスになっているという事実もある。もちろん、実際に食べても何も問題ないものだ。

コークッキングは2018年に飲料大手のKIRINが主催するアクセラレータープログラムに参加し、見事113社の中からの6社に採択された。KIRINとタッグを組む大きな目的のひとつは、「飲食店に対する営業の強化」であり、この点の連携を日々進めている。

キリン株式会社 経営企画部 堀越早織氏にコークッキングをKIRINアクセラレータ2018で採択した理由を聞いてみた。

「2018年のKIRINアクセラレーターでは、酒類、飲料、医薬、バイオケミカル等の分野を中心にビジネスプランを募集したが、弊社が重視しているCSV経営の観点でもフードロス問題は重要と考えている。KIRIN単独ではこういった取り組みは難しいがコークッキングと連携していく形であれば何かできるのではないかと考えた」とのこと。

キリンホールディングス グループ 経営戦略担当の堀越早織氏(写真左)、キリンビバレッジ 営業本部 広域流通営業部 営業担当 課長の畠山廣敬氏(写真右)

今回の取り組みでKIRINと繋がりのある飲食店に対する営業連携を行う。フードロスの持つネガティブイメージの克服、店内オペレーションなど超えるハードルは多いが、KIRIN担当者としては成功を確信している。

フードロスは営業前から発生することも

さて、めり乃のラム肉タコライスに話を戻そう。フードロスといえば店舗閉店前後に出ると思われがちだが、実際は営業前からフードロスは発生している。飲食店では開店前に仕込みをすることから、この時点で使われない素材が出てきてしまうのだ。

めり乃がしゃぶしゃぶに使うラム肉は、仕込みの時点で塊の状態からスライスを行う。料理として提供する際には見た目にも気を使うため、切れ端のような肉はこの時点で廃棄してしまうことになる。

めり乃で提供しているラム肉。写真左の筒状に冷凍された状態からスライスしていく。

フードロスとなってしまっていたラム肉の切れ端。もちろん味は同じだ。

しかし、この肉も味は同じ。ニュージーランド産の柔らかくて臭みのないのが特徴のラム肉が味わえるのである。これらが無駄なく商品にできれば元手ゼロで売上がアップするかもしれない。

ラム肉タコライスの調理風景。使用しているキャベツやトマト、卵も元々別の料理用に仕入れてあったもの。

まずはTABETEの商品を食べてみて、それからフードロスについて考えてみる。いつもの食事がもっと意味深いものになる。かつて放送作家の小山薫堂が『一食入魂』というエッセイ集の中で「人生の食卓を一食たりとも無駄にしたくない」と書いていた。

なお、実際にフードロス弁当が出るかどうかは当日のロスの量次第なので、いつもTABETEに出品されるとは限らないようだ。また、めり乃の新宿店では弁当を出すとすぐに売れてしまうのでなかなか入手しづらいとか。このあたり新たな食の出会いを求めてTABETEを検索するのも楽しいかもしれない。ぜひ読者の皆さんにもTABETEを体験して頂きたい。


コークッキング