ITEM | 2018/11/26

「孫正義の24時間を有意義に使い切れ」と言われたら、あなたはどうする?【ブックレビュー】


神保慶政
映画監督
1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏...

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神保慶政

映画監督

1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏や南アジアを担当。 海外と日本を往復する生活を送った後、映画製作を学び、2013年からフリーランスの映画監督として活動を開始。大阪市からの助成をもとに監督した初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」は2014年に劇場公開され、国内主要都市や海外の映画祭でも好評を得る。また、この映画がきっかけで2014年度第55回日本映画監督協会新人賞にノミネートされる。2016年、第一子の誕生を機に福岡に転居。アジアに活動の幅を広げ、2017年に韓国・釜山でオール韓国語、韓国人スタッフ・キャストで短編『憧れ』を監督。 現在、福岡と出身地の東京二カ所を拠点に、台湾・香港、イラン・シンガポールとの合作長編を準備中。

歪んでいるけれど理に適った、孫正義の時間感覚

三木雄信『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごい時間術』(ダイヤモンド社)は、孫正義の秘書を務めた経験を持つ著者が、プレゼン・PDCA・プロジェクトマネジメント・数値化仕事術といったトピックに続き「時間」に焦点をあてた一冊だ。

タイム・イズ・マネー。孫正義の考えも基本は同じで、お金や人はその気になれば増やすことはできるが、時間は例外だと熟知していた。20代半ばで秘書になった著者は、「孫正義の24時間を使い切ること」を仕事として課され、そのために50年先の目標を共有されていたという。

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ソフトバンクが時価総額10兆円規模の企業グループに成長できたのは、孫社長が「人生50年計画」をブレイクダウンして1年単位の計画に落とし込み、それを着実に実行してきたからに他なりません。(P25-26)

孫正義が「山の絵」を書いて、長期目標の重要さを著者に示した時の記憶は本書には綴られている。山の頂上が目標で、どの山に登るかまず決める。次はどのようにすればそこを目指すことができるか考える。長期目標と短期目標を設定し、逆算と修正を重ねながらそこへの最短距離をつきつめていく。そのため、スケジュール管理には独特の特徴があったそうだ。

1.予定の固定化にこだわらない(何をしないかだけは明確に、臨機応変に組み替えられるようにする)

2.マイルストーンに集中する(今やれば成長できる点を押さえる)

3.発表経営で外部に締め切りを宣言する 

これらを徹底していくと、急にアポを断ってしまうこともしばしばで、そこは秘書泣かせかもしれない。しかし、そのキャンセルも本人にとっては至極論理的思考の結果なのだ。

体内時計を細かく刻むと、大きな目標へ跳躍できる

「わかること」と「わからないこと」を瞬時で判断する能力も、時間活用術に大きな関わりがある。わからない場合は一人で悩まずにすぐ他人の力に頼る。一見、他力本願のように思えるこの孫正義の方針は、他人の時間をもらうという「時間論」に基づいている。M&Aも、ソフトバンクにとっては他人がかけた時間を買うこと、つまり頼ることと同義なのだ。そのため、会議でのNGワードは「検討中」だったという。

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孫社長にとって仕事とは、「10秒以内の判断の積み重ね」です。
そしてミーティングは、「判断材料をそろえて意思決定する場」という位置づけです。
よってソフトバンクの会議では、「検討中です」は禁句です。(P55-56)

現代人はおびただしい選択肢があふれる中に生きている。そして孫正義は一般人よりさらに多量の、しかも重大な選択が続く中で生きている人物だ。「10秒ごとの決断」のリズムの中に生きている彼が毎朝車の中で手元に用意していたのは1枚のイシューリスト(著者が作成したもの)で、スケジュール管理は最小単位15分という時間の区切りでなされていたという。

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仕事のスケジュールを組む時は、「15分」を最小単位とする。
これが時間を効率化する秘訣です。
最初から30分や1時間単位で予定を組むと、無駄な時間を含む可能性があります。(P142)

より細かにこだわるならば、時計の表示はデジタル表記ではなく、パッと見て時計が移動するのが見えるアナログ時計がおすすめだという。15分という一般的に見れば細かな時間をしだいに大きく感じるようになり、そして大きな目標に向かって時間が手助けしてくれるようなリズムが刻めるのだ。

自分の時間をあげること、他者の時間をもらうこと=ビジネス

「細かな時間」は日常にしばしば訪れる。ついスマホを開いてしまいがちなそんな時間も再検討する必要性があることを本書は示してくれる。

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ミーティングで議論が白熱し、孫社長が押され気味になると、突然「トイレ行ってくる!」と言って部屋を出ます。
そしてトイレから戻ると、また猛然と反論し始める。
これがよくあるパターンでした。
どうやら考えを整理したり、思考を切り替えたりするために、トイレタイムを使っていたようです。(P203)

トイレにまで仕事を持っていくべきか否かは賛否が分かれそうなエピソードではあるものの、ダラダラとやってしまいがちな仕事が「時間のギミック」によって短時間で片付く、あるいはなくせる可能性がある。これは著者が現在経営しているコーチング英会話学校・トライズのメール返信に関する方針でも活かされている。

他の業務に集中している最中なのに、緊急性のあるメールのヘッダーが画面端に現れ、集中力が発揮されていた「時間」を途切れさせて返信しなければいけない。そんな経験がないだろうか。著者は、メールをやりとりする相手とメール送受信のルールを合意しておくことによって、そのリスクを根本からなくせることを証明している。

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受講生と契約する際の約款に、「平日の正午、12時までに来たメールは、当日対応します。それ以降のメールは、翌営業日に対応します」と明記しているので、コンサルタントがメールに返信するのは午前中までです。
あらかじめ受講生と期待値をすり合わせているので、仕事に差し支えることは何もありません。(P217)

このルールが生む出すリズムは、自社だけでなく相手側にも伝播する。なるべくメールを一回で完結させようと自社も相手も心がけるようになるのだ。これもまた、間接的にいえば「時間」をやりとりしていることになる。

貨幣が形を変えているように、時間もまた形を変えている。実質的には、他人の時間をもらうこと、そして自分の時間を相手に渡して貸しをつくることが可能なのだ。そしてそのやりとりは「時間術」を把握していればうまくなる。著者が孫正義から学んだ貴重な経験を、むちゃぶりを返すだけに使うのはもったいない。本書を読んで、読者の皆さんそれぞれの「すごい時間術」活用法を発見してほしい。

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