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本当にハリウッドはユダヤ人に支配されているのか? 【連載】松崎健夫の映画ビジネス考(2)
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  • 2018.08.13
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本当にハリウッドはユダヤ人に支配されているのか? 【連載】松崎健夫の映画ビジネス考(2)

映画界では昔から“ハリウッドはユダヤ人に支配されている”という噂が囁かれている。都市伝説のような趣さえもあるこの噂には、まったく根拠がないわけではない。例えば、イギリスからハリウッドに渡り<喜劇王>の称号を手に入れたチャールズ・チャップリンはユダヤ人であり、スティーブン・スピルバーグやウディ・アレンといった著名な監督も、ユダヤ系移民の血を引くというバックグラウンドを持っている。つまり、アメリカ映画界を代表する監督や俳優の家系がユダヤ系移民であるという共通点は、噂の根拠のひとつに挙げられることが多いのだ。

前回は、どのような経緯によってハリウッドでの映画製作が始まったのかを映画史を基に解説した。実は“ユダヤ人に支配されている”という説に対しても、ハリウッドの映画史を紐解くことで、事実を裏付ける背景が浮かび上がってくるのである。連載第2回目では、「本当にハリウッドには、ユダヤ人に支配されているのか?」について解説してゆく。

松崎健夫

映画評論家

東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ・映画の撮影現場を経て、映画専門の執筆業に転向。『WOWOWぷらすと』(WOWOW)、『japanぐる〜ヴ』(BS朝日)、『シネマのミカタ』(ニコ生)などのテレビ・ラジオ・ネット配信番組に出演中。『キネマ旬報』誌ではREVIEWを担当し、『ELLE』、『SFマガジン』、映画の劇場用パンフレットなどに多数寄稿。キネマ旬報ベスト・テン選考委員、田辺弁慶映画祭審査員、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー部門審査員などを現在務めている。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)ほか。日本映画ペンクラブ会員。

独占禁止法がMPPCを壊滅させた。

1910年代になって、アメリカ西海岸のハリウッドでは映画会社による撮影所が続々と開設されたが、その経緯の裏側にはMPPC(Motion Picture Patents Company)がアメリカ国内における映画の製作・配給・上映を独占していたことに対する反発があった。しかし、映画製作の拠点が東海岸から西海岸へと移ったことで、MPPCは次第に弱体化していったのである。

一方でハリウッドは、MPPC対して異を唱えていた<反トラスト派>の映画人の拠点ともなっていた。そのことは、MPPCの弱体化とは反対に、<反トラスト派>の勢力を拡大してゆくことにも繋がってゆく。

そんな中、1913年には、映画配給会社の経営者だったウィリアム・フォックスがMPPCに対して「独占禁止法違反である」と提訴している。アメリカでは1890年に制定された<シャーマン法>をきっかけに、不当な取引に対する制限と市場の不当な独占を禁止するようになっていたのである。

訴訟の結果、MPPCは1915年に敗訴となる。実はこの頃、独占禁止法のもうひとつの柱ともなっている<クレイトン法>が1914年に成立している。例えば<クレイトン法>では、いわゆる“抱き合わせ販売”の禁止を明文化。MPPCは、加盟した映画業者のみがフィルムを購入できるなどの権限を持っていたことを前回説明したが、それらの独占行為が法律に抵触したのである。つまりアメリカにおいては、1895年に始まった映画の歴史が、奇しくも独占禁止法の歴史とも重なっているのである。

エジソンは長編映画の製作・上映を敬遠した。

MPPCは発明王トーマス・エジソンが映画業界を管理し、利益を吸い上げるための団体でもあったが、彼らの製作する映画は<短編映画>だった。しかし、1910年代になると、海外(アメリカから見た外国映画)では<長編映画>の製作が始まっていた。ところがMPPCは長編映画の製作・上映に対して懐疑的だったのである。短編映画ならお客が何度も入れ替わり、新しい作品を何度も観に来る。ところが、長編映画は一日の上映回数が減り、撮影に手間と時間がかかるために製作本数が減ってしまうのだ。

実は現在でも、2時間を超える上映時間を持つ映画の上映が敬遠される理由は同じところにある。例えば、歴史的な大ヒットとなった『タイタニック』(97)は上映時間が194分もあった。3時間を超える大作に対して、当時は「上映時間が長過ぎて製作費を回収できない」という理由から、大ヒットするとは誰も予想していなかったのである。

日本で『タイタニック』が公開された1997年12月の冬休み興行では、同時期に『メン・イン・ブラック』(97)も公開されている。194分の『タイタニック』に対して『メン・イン・ブラック』の尺は98分。つまり『タイタニック』を1回上映している間に『メン・イン・ブラック』が2回上映できる計算になる。上映時間の長い映画を興行側が懸念するのも当然なのだ。

だが、ご存知のように『タイタニック』は、35億円の配給収入(※1)を記録した『メン・イン・ブラック』を悠に超える160億円の大ヒットとなった。これは一例でしかないが、観客の好みや作品の内容が伴えば、長編映画であっても集客を期待できるという好例だといえる。

(※1)35億円の配給収入:1999年までは興行収入ではなく配給収入のデータが発表されていた

ハリウッドの映画会社の創設者はユダヤ人だった。

MPPCが弱体化した理由には複数の要因がある。その中でも重要な要因のひとつに“映画のフィルム”の存在があった。それは、MPPCに対して映画向けのフィルムを供給していたイーストマン・コダック社が、独占契約を改訂したことがMPPC弱体化の発端だとも言われているからだ。

映画のフィルムが撮影で使用されるのは当然なのだが、現在のようなデジタル化によって上映素材がデータ化される以前は、上映おいてもフィルムが使われていた。つまり、長編映画になれば撮影するフィルムの量も上映するフィルムの量も増える。長編映画の製作・上映に二の足を踏んでいたMPPCに対してイーストマン・コダック社が背を向けたのも、時代の流れとして当然だったと言える。

MPPCの率いるエジソン系の映画会社が長編映画の製作に着手したのは1914年。まさに訴訟の真っ只中で「すでに、時遅し」だったのだ。これらをきっかけに、ハリウッドの映画産業は急成長。MPPCは1918年に廃業となり、エジソンの独占時代は終焉を迎えたのである。

MPPCを提訴したウィリアム・フォックスは、勝訴したその年に映画会社を設立している。それがFOX FILM CORPORATION、現在の20世紀フォックスである。その後も、1916年にパラマウント映画社、1923年にはワーナー・ブラザース社、1924年にはコロンビア映画社、MGMスタジオなど、現在もメジャー作品を手掛けている映画会社が続々と設立されている。

実はこれらの映画会社の創設者が、全員ユダヤ人なのである(※2)。1919年にはユナイテッド・アーティスツ社も設立されているが、その創立者のひとりは誰であろう、<喜劇王>チャールズ・チャップリン。つまり、現代に至る“ハリウッドはユダヤ人に支配されている”という事実は間違いではないのだ。しかしそれは、既得権益と闘った映画人によって成されたものであることを忘れてはならない。

(※2)これらの映画会社の創設者が、全員ユダヤ人:パラマウントのアドルフ・ズーカー、ワーナーのワーナー4兄弟(ハリー、アルバート、サム、ジャック)、コロムビアのハリー・コーン、MGMのルイス・B・メイヤー、さらには1912年に設立されたユニバーサル映画社のカール・レムリもユダヤ人である


出展:『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)
一般社団法人日本映画製作者連盟 過去興行収入上位作品

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