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問題だらけの東京五輪、「正しい事後検証と改善」のために。失敗を教訓に変える組織に共通した「3つのルール」【連載】高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」(13)
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  • 2021.07.23
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問題だらけの東京五輪、「正しい事後検証と改善」のために。失敗を教訓に変える組織に共通した「3つのルール」【連載】高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」(13)

失敗を活かせる組織の原則

「失敗を活かせる組織」に共通するのは以下の3要素だ。

1.失敗をオープンにできる組織になっている(担当者を追求しない、システムの問題として考える)
2.データに基づき検証する(多くは当事者と別の検証チームができるか、F1のように検証がそもそも仕事になっている)
3.全体の問題として改善を考えること

この3つはセットでなければ意味がない。著者のマシュー・サイドはスポーツチーム、F1マシンのチームなど多くの組織を取材し、長年失敗から学べている組織には、共通してこうした原則があることを検証する。そこに本書の最大の魅力がある。

翻って我々の周りはどうだろう。新型コロナウィルスに対しても、オリンピックに対しても、政府などが多くの意思決定を行い、それに対しての論評も行われている。それらはどのぐらい、この3つの原則に紐付いているだろうか。

例えばオリンピック・パラリンピック開会式で使われる楽曲制作者の一人として小山田圭吾氏の名前が発表されたところ、過去に障害者にひどいいじめを行っていた(そして、どうやら当事者に対してはつぐなっていない)ため大炎上し、本人が役目を辞退した件が大きなニュースとなった。

過去なにか不祥事を起こしたミュージシャンでも活動し続ける自由はある。法治国家で私刑は避けられるべきだ。一方で辞退せざるを得なくなるような人物を選定した組織は改善が必要だ。果たしてどういうやり方で候補が出され、絞られ、依頼に至ったかのプロセスがオープンになり、今後のイベント運営に活かされることはあるだろうか。国や都が主催するイベントは今後も多くあり、改善をここだけで閉じるべきではない。

企業の例でも、北海道新聞の不祥事についての報告書が話題になった。問題の事象は、「北海道新聞の記者が旭川医科大学の学長選挙について潜入取材を試み、職員に誰何された際にも身元を明かさずにいたため不審人物として私人逮捕された」というものだ。

北海道新聞が発表した報告書に書かれていたのは

・実際に取材した記者に、「入構禁止」であることが知らされていなかった
・前日にも大学と取材陣の間でトラブルがあり、大学側がピリピリしていたことを知らされていなかった
・会議の場所に行けという指導はあった
・北海道新聞の取材ルール上もNGである、身元をはぐらかす、無断録音すると言った行為が社内で推奨されていた
・実際に取材した担当者に対する「指導の不徹底」が原因の一つとされている
・具体的に誰が誰にどういう責任のものにどういう指示を出したか、本来どうすべきだったのかについては不明瞭

といった、組織として問題があることが(この不十分な報告書でさえ)明らかなのに、問題点指摘も改善提案もなされないきわめて不明瞭なもので、「失敗を活かせる組織」でないことが明らかになった。報告書への批判も、組織としてのあり方を批判するものがほとんどだ。

一方で、『失敗の科学』の視点からみれば、これを新聞業界全体の問題(あるいは日本企業全体の問題)として捉える声をもっと大きくし、「担当の個人や企業でなく、業界全体としてシステムを改善していくにはどうすればいいか」を考えるべきだろう。今回のような、未来のためにならない失敗分析はこれまでもきわめて多いと感じる。

ほかにもGo To、緊急事態宣言のような政府の政策について、具体的にどのように実行され、どのように効果や悪影響があったか。同じ政策が再び行われる際、前回から何が検証され、なにが改善されたか。それは日本の組織が全体的に前進していくために必須の取り組みだ。

能力を伸ばし、社会を良くしていく上で

著者のマシュー・サイドは英タイムス紙の人気コラムニストで、「人間の能力開発」について説得力にあふれた書籍を何冊も書いている。出世作の『非才!』は、世間では人種や血統の問題とされる超人的な能力のほとんどが反復練習の繰り返しで身につくものであり、優れたマラソンランナーがアフリカの一部の環境の村から集中的に生まれてくる様子などを題材に、「特殊な能力は特殊な環境と反復練習が生む」と豊富な実例をもとに説明した快著だ。

マシュー・サイド自身が卓球の元イングランド代表オリンピック選手で、スポーツエリートの知人も多いことから、自分の通っていた卓球クラブから多くのライバルが生まれている(もちろん、血統は関係ない)ことを含めた多数のインタビューを行い、さらには娘をスポーツと関係ない音楽のプロとして育て、自身もオックスフォード大学の哲学政治経済学部を主席で卒業するなど、別の分野も含めて「能力は血統でなく、環境と努力で磨かれる」という主張は大きな反響を呼んだ。

本書『失敗の科学』は、これまで個人に注目してきたマシュー・サイドの目を組織に向けたものだ。オリンピック、新型コロナ対策、更には自分自身や自分の所属する組織をより良くしていく上に、本書の知見はすごく価値のあることだと思う。


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