CULTURE | 2021/07/16

「日本人は興味ないから後回し」という時代の終焉。日本企業でもいよいよ取り組みが始まる気候変動対策【連載】オランダ発スロージャーナリズム(35)

弊社で近々出版予定の「プラントベース×和食」をテーマにした雑誌。ベジタリアンやヴィーガンの子どもを持ち、子ど...

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弊社で近々出版予定の「プラントベース×和食」をテーマにした雑誌。ベジタリアンやヴィーガンの子どもを持ち、子ども向けの料理レパートリーが無くて困っている親御さんに向けて新しい料理レシピを紹介しようと思っています

2021年6月、オランダではある歴史的な裁判の判決が出ました。原告はオランダ在住の市民1万7000人と、その市民を代表したグリーンピースなどの環境7団体。そして、訴えたのは世界的大手石油企業のロイヤル・ダッチ・シェル。裁判は本社があるオランダのハーグの地方裁判所で行われました。

環境団体はダッチ・シェルの温室効果ガス削減の取り組みが不十分、パリ協定への取り組みが不十分だとして訴えたのです。そして、なんと結果はダッチ・シェルの敗訴。裁判所はパリ協定への取り組みが不十分で、かつこのことは人権侵害につながるとして温室効果ガス排出量を2030年までに19年比で45%削減するよう命じたのです(この結果に対して同社は控訴を予定しているとのこと)。

もちろん、ダッチ・シェルとしては、段階的に削減していくということで、温室効果ガス削減の取り組みも独自に行っていたのですが、それでは不十分だと判断されたのです。一企業の経営方針が司法によりノーを突きつけられた。市民の訴えが認められたということで、これは歴史的な判決と言われています。

そして、これは遠いヨーロッパで行われた裁判なので、日本には関係ないと思う方もいるかもしれませんが、世界で活躍するグローバル企業においては、そんな言い訳は通用しません。そしてもちろんグローバル企業だけがこうした状況に置かれているわけではありません。日本企業だって、そうあなたの会社が、「環境問題への取り組みが甘い!」と市民に突然訴えられる可能性だってゼロとは言えません。

日本でも三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、住友商事といった名だたる有名企業の株主総会で同様の株主提案が相次いでいます。とりあえずやってるフリをすれば良いCSRの問題から、もはや経営ど真ん中の問題になりつつあるのです。

こうした環境問題に対して企業が置かれた状況は非常に危うい状況です。そのことを理解している日本企業も増えつつあり、環境先進国オランダで活動する弊社にも少なくない相談が寄せられています。今回はその内容をご紹介していきたいと思います。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

「DXはSXのための手段」という価値観

アムステルダムで最もサステイナブルを代表する場所「De Ceuvel」。元汚染地帯にある廃船の上にコンテナを置き、土壌汚染からの影響を防ぎながら活用しているオフィス街です

日本ではDXが話題になっていますが、欧州、特に北ヨーロッパ、そしてオランダで今中心になっているのは「SX」です。デジタルトランスフォーメーションならぬ、サステイナビリティ・トランスフォーメーションと言われています。

オランダにおけるはDXは、どちらかというとSXのための手段という位置付けです。なので、手段であるDXの話が国民的なトピックになったりすることは稀です。

スタートアップから大企業まで業界の別け隔てなく懸命にSXに取り組んでおり、すでにソリューションとしてさまざまなSXの実践がなされています。何をもってしてサステイナブル先進国か?ということに関しては、多くの議論があるかと思いますが、少なくともアムステルダムは世界で一番初めに「サステイナブルな都市を目指す」と宣言した都市です。そうした経緯からSXの実例が豊富で、そのメソッドも多くあります。我々は、そうした実践例やメソッドを多く取り入れる、その実践者たちとのネットワークを日本企業にソリューションとして提供するということを数多くやっています。

アムステルダムのサステイナブル重点産業は建築、食・バイオマス、そしてコンシューマーグッズという3つを挙げています。これらの産業が取り上げられている理由は、二つあると思います。一つ目はそれらの重点産業こそが二酸化炭素排出量が多い産業である、ということ。まずは問題の大きなところから取り組む、という心意気の表れ。そして二つ目は、サステイナブルトランスフォーメーションは1社、あるいはいち業界ではできない、つまり一斉にみんなでシフトしなければ実現できないという特性に基づいていると思います。この3つの産業は、日本的に言うと「衣食住」。要は、全産業で一気にシフトしよう!ということの表れだと思います。

日本の素材や方法論も再注目される「街づくり案件」

では一体、具体的に日本からの相談案件はどういったものがあるのか?そして、我々がどういうことをしているのか?という実例を挙げていきましょう。

まず初めにご紹介するのはあるデベロッパーからの街づくり案件です。先述の通り、アムステルダムのSX重点産業に「建築」があります。もともとオランダの建築デザインは世界的な評価を受けており、多数の建築家が世界各国で活躍しているのですが、彼・彼女らがここ数年来取り組んでいるのは、ズバリ、サステイナブル建築。「壊されることを前提としたデザイン」に取り組むことで、素材の選定の仕方が変わり、接合方法の開発が行われ、リサイクル可能な素材のみにフォーカスが当たり、また「木造」がにわかに脚光を浴びたりもしています。その過程で、実は日本的な施工方法、素材なんかにも再注目。「焼き杉」、「茅葺」なんかも見かけます。

またオランダではビル内で使用するエネルギーを完全にゼロエミッションにする、あるいは100%循環型にする。場合により、余剰エネルギーを近隣ビルとシェアする。そして、近隣コミュニティでサステイナブルなエネルギー循環を行うなんてことも当然のように行われています。

これらのナレッジを、オランダの実践者とともに日本の街づくりでも活かすというのが今回のプロジェクトです。こういうことをベースに、人間が自然を好むという本能的欲求を前提としたデザインであるバイオフィリックデザインが発展したり、屋上緑化、リサイクルなどを通じて廃棄物を出さないゼロエミッション工法、太陽光発電などで電力を自給自足するオフグリット住宅などが発展したり、そうしたコミュニティ作りが進んでいたりします。もちろん、この分野のスタートアップが発展し、法規制、税制優遇措置なんかも新しい基準に基づいたものに変わります。

もしかしたら、この記事を読んでいただいている皆さんの中にも、近い将来「あ、ここで書かれていのはこの街のことか!?」なんて気づきがあるかもしれません。

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