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「日本はなぜ冷戦時代に繁栄できたか」から考える、イデオロギー対立の無意味さ【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(10)
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  • 2020.12.30
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「日本はなぜ冷戦時代に繁栄できたか」から考える、イデオロギー対立の無意味さ【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(10)

3:北欧人的な客観性が、「誰かをワルモノにしておしまい」ではない視点を生んだ名著

Photo by Shutterstock

著者のオッド・アルネ・ウェスタッド氏はノルウェー出身で、現在はイェール大学に在籍する歴史学者です。この本は20世紀の「冷戦の100年間」の歴史を、人類社会全体に渡るイデオロギー対立という軸で網羅的に描いた本です。

私たちは歴史を学ぶにあたって「非常に印象的なエピソード」だけに過剰に引っ張られてしまいがちですが、たまにこういう「ガチのガクシャさんが真剣に書いた本」を読むと、

・「そのエピソードの裏で隣の地域では何が起きていたのか?」
・「眼の前の対立の背後にある大きな勢力争いは何なのか」

を大きな視点で見直すことができます。

SNSで「鈍器」と呼んでいた人もいるぐらい分厚いですが訳文も超良いので(関係者の方お疲れさまです)、「入試に世界史の論述試験がある高校生」や、電子書籍がある英語版は非ネイティブ(ノルウェー人)が書いたぶん非常に読みやすいので、時間がある大学生が英語学習を目的にちょっとずつ読んでいくにも良いでしょう。

これはスウェーデン人のハンス・ロスリング氏が書いた『ファクトフルネス』が世界的ベストセラーになった時も思ったのですが、北欧人は欧米人の中でも「帝国主義争い」からは多少傍観的な立場でいたので、

「誰かをワルモノにして徹底的に叩いておしまい」

にならず、全体を俯瞰的に見て解決策を探そうという精神があるように思います。

20世紀の歴史は、それを語る人の立ち位置によって、

・「ヒトラーや大日本帝国」をワルモノにして徹底的に叩いておしまい

・「スターリンや共産主義の暴走」をワルモノにして徹底的に叩いておしまい

みたいな見方のどちらかだけで終わってしまうことが多く、

こういうのはどちらも「俺は悪くない、あいつらが悪い」と言っているだけ

であり、

問題の再発防止に全然役立ってない

わけですね。

これは「ヒトラーは悪くない」ということを言っているのではなくて、

「独裁者的な存在の暴走を生み出してしまうのは“あの保守派のクズども”だけにあるのではなくて、リベラルな自分たちにも十分そういう傾向は潜んでいるのだ」

ということを直視することが、「20世紀的なイデオロギー対立の病」を克服するために今必要なのだ、ってことなんですよ。

私はこれを「歴史認識問題の左右対称性」と呼んでいるのですが、今後の世界においてはこの「左右対称性」を直視した上で問題解決を考えていくことがあらゆる視点で重要で、その中では20世紀には「最高なこと」とされていた、ヒトラーやナチスは突然変異的な狂人だったのでこれを切断することから始めるという、「ドイツ型の歴史認識問題の解決法」というものがいかに欺瞞を含んでいて21世紀には余計に問題をこじらせているかも明らかになっていくでしょう。

4:資本主義VS共産主義が対立する中で発展できた国の条件

で、ウェスタッド氏による「イデオロギー対立という視点から網羅的に見た冷戦の百年」を読むとわかることは以下の三点なんですね。

A:ファシズムと共産主義と、“どちらの方がより残虐か”と言えば明らかに共産主義

B:しかし「共産主義勢力のような対抗馬がいない世界(南米とか)」におけるアメリカ型資本主義の暴走は酷い社会不安をもたらす

C:「2つのイデオロギー」が拮抗状態になる中で、ある程度民族的なまとまりでグリップできた国(日本をはじめとするアジア諸国)が繁栄した

まず「A:ファシズムと共産主義と、“どちらの方がより残虐か”と言えば明らかに共産主義」については、ホロコーストの残虐性を否定するわけではないものの、共産主義諸国で生まれた弾圧・失政による死者数と悲劇性はそれに比べてもとにかく凄まじいです。

「独裁者による虐殺数ランキング」でぶっちぎりナンバー1が毛沢東、次がスターリン、次にやっとヒトラーですからね。

『冷戦 ワールド・ヒストリー』の本文から引用すると(後編323ページ)、

そこにあったのは破壊と再建、熱狂と冷笑、そしてほとんど果てしなく流れ続ける血に染まった川だった。中国に生じたこれら一連の革命をなによりも特徴づけるのは、その残虐性である。
最近の推定によると、1920年代から1980年代の間に戦争と政治的な大量虐殺の結果として、7700万の中国人が自然死以外の死を遂げており、その圧倒的多数は他の中国人の手で殺されたものであった(※強調・下線は筆者によるもの)。

ここまで巨大な問題がある時、これを「個人的資質」とか「民族的傾向」のせいにしてしまうのは良くないですよね。

ヒトラーってヤツが残虐な人間だったからだ…とか、中国人はむちゃくちゃやる民族だから…みたいなのはそれこそ「差別主義」だし、

「あいつらが全部悪い、俺たちは全然悪くない」

という話にしかならない。

共産主義的に「市場」を否定すると、各人が自由に動き回ることで発生していたエネルギーを「誰か特定の存在」にものすごい権力を与え、強制的に統御しなくちゃいけなくなるわけです。

そうするとファシスト政権どころじゃない「権力の暴走」が起きて、移行期に何百万人、何千万人死ぬことも珍しくないし、移行期の大虐殺的なものが収まってからも、とにかく「お互いの自由を制限し続けないと成立しない」システムになっているので、必然的に秘密警察が暗躍する密告社会になってしまう。今でも北朝鮮ではボスの言うことを聞かないヤツを公開銃殺とか普通にやってますよね。

資本主義社会が生み出す不公正な格差といったものに戦いを挑む時、「共産主義の理想」って物凄く高潔なものに見えたりする瞬間もあるんですが、

実際やってみたらとにかく酷いことになった

が20世紀の歴史の教訓と言っていいと思います。

しかし!

しかし、なんですが、ここからが「歴史問題の左右対称性と向き合わねばならない」という話の重要なところです。

次のB:しかし「共産主義勢力のような対抗馬がいない世界(南米とか)」におけるアメリカ型資本主義の暴走は酷い社会不安をもたらすという教訓について、

19世紀末にはアルゼンチンは非常に豊かな国だった(日本だって油断していたら今後数十年であっという間に凋落してもおかしくないぜ)

…みたいなことを言うのが“日本サゲ言論”としてネットで流行した時期があったのですが、ウェスタッド氏の本を呼んでいて印象的だったのは、20世紀が始まった頃の南米は「今の印象」とは全然違う、かなり繁栄した地域だったことがわかります。

しかし20世紀の特に後半の政治的混乱が続いたために、国としての繁栄度で言えばアジア諸国の方がよっぽど上ですし、社会内部の経済格差も非常に大きい地域になってしまっている。

その原因は、

南米はソ連から遠くアメリカから近すぎたこともあって、アメリカが「過剰に共産化を恐れるがゆえに、反共軍事独裁政権を強力にサポートし続ける」のをバランスさせる対抗勢力が弱かった

ことがわかります。

巨大な格差問題を放置し、反対者を暴力的に弾圧する政権でも、「反共してくれる」ならアメリカがどんどんサポートしたので、社会的不正が放置されて政治的混乱だけが延々と続く地域になってしまった。

今でも南米では物凄い反米主義の国や人がいるんですが、そうなるのもわからんでもないな…という感じでした。

つまり、「歴史問題の左右対称性」と向き合うと…

C:「2つのイデオロギー」が拮抗状態になる中で、ある程度民族的なまとまりで現実をグリップできた国(日本をはじめとするアジア諸国)が繁栄した

という結論が導き出せるのです。さっき南米は「ソ連から遠すぎた」ことでバランスが崩れていたという話をしましたが、ヨーロッパや一部のアジアは「米・ソから等距離」だったので、「イデオロギー対立」は均衡していたわけですね。

結果として、「資本主義と共産主義」がお互いの極論をぶつけあって混乱するだけに終わらず、その均衡状態の中で「ある程度民族的なまとまり」で社会の一体感を維持できた国は第二次世界大戦後から20世紀後半にかけて繁栄できた。

西欧諸国や日本、そして「リトルタイガース」と呼ばれたシンガポール・香港・台湾・韓国などですね。

次ページ 5:「イデオロギーでイッちゃってる人」か「問題を直視している人」か

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