
- BUSINESS
- 2020.12.04
賛否両論ナイキCM「反対派は差別主義者」で片付けていいのか。思想が違う人を「ヒトラーだ!」と悪魔扱いするのはもう止めよう【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(9)
3:一周回って、むしろ「このCMに反発を覚える層をいかに自陣営に引き込めるか?」を考えるべき時代になってきているのでは?
Photo By Shutterstock
私はこのナイキ社のCMシリーズがアメリカ本国で始まった時から、「こういうのがカッコいいのは認めざるを得ないが、これが“無条件にいいこと”扱いされる社会って絶対良くないよな」と思っていました。
特に、私は黒人クォーターバックとして徹底的にオリジナルなプレイスタイルを切り開いたNFLのコリン・キャパニック選手が選手として好きだったので、彼が始めた「試合前の国旗掲揚時に膝をつくキャンペーン」には複雑な思いを持ちました。
なぜならこういうのは「劇薬」だからです。
確かにこういうことでもしないと、「そこにある差別」をちゃんと認めてもらえないのだ…という言い分は理解できなくもない。特にアメリカの黒人差別問題の根深さを考えれば、アメリカの場合はそうなのかもしれない。
しかし、一度こうやって「統合の象徴(国旗)」を否定しはじめると、その「問題を認識」した後、どうやって「解決」に向かえばいいんでしょうか?
結局ここで「劇薬」を使ってしまったら、警官が黒人に対して差別的な扱いをしてしまう問題に対して、
黒人差別をやめさせつつ、治安を守る使命はちゃんと果たせる警察改革とはどういうものか?
という、あらゆる立場の人の知恵を寄せ合って解決するべき問題に対して、
・ただただ警察だけを悪者にして敵視して、「警察予算を削減しろ!」と叫んだりする
だけになってしまったり、一方でよく指摘されているような、
・黒人の経済状況を本当に改善するために必要な、教育学区ごとの予算が全然違う問題…のような「難しい構造的課題」はほったらかしになっている
ような問題がある。
『ローリングストーン』誌に掲載された記事「オバマ前大統領、ネット上の過激な批判カルチャーを非難「世の中は変わらない」」でオバマ元大統領が言っているように、ただSNSで「敵」を作って石を投げつけているだけで「いいことをした」と満足をするような風潮で世界を変えることはできません。
こういう「過激なスローガンで政敵を攻撃するのに熱中するだけで、政治的解決からむしろどんどん遠ざかってしまう」のが世界的な「病」になってきつつある状況においては、
このナイキCMの文句なしのかっこよさ…を100%褒め称えることの危うさ
だって理解できるでしょう。
だからこそ「こういうCMを絶対やってはダメだ」って言いたいわけじゃなくて、問題提起として大事だとは思うけど、「反感を持つ層」だって当然出てくる課題だし、そういう人を徹底的に嘲笑するような仕草は、「善なること」につながるとは到底思えない、むしろ非常に醜悪な商業主義と言っても過言ではないと私は考えています。
次ページ:このCMに怒る層が「日本」に対して思い入れているもの