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「3DデータWiki」「住宅が造れる超大型プリンタ」目前に広がる3Dプリンタの未来|原雄司(デジネル/デジタルアルティザン)【後編】
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  • 2018.04.14
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「3DデータWiki」「住宅が造れる超大型プリンタ」目前に広がる3Dプリンタの未来|原雄司(デジネル/デジタルアルティザン)【後編】

前編より続く)

前編の記事『「研究だけが事業になる」ラボ・ドリブン・ビジネスとは?』では、原雄司氏が2017年に立ち上げた『DiGINEL(デジネル)』と、『DiGITAL ARTISAN(デジタルアルティザン)』という2つの新会社による、3Dプリンティングにまつわるコンサルティングと人材育成という事業内容を中心にうかがったが、今回は同氏が現在進めている4つの新プロジェクトの構想を紹介してもらった。

いずれも業界や社会に大きなインパクトを与えそうなプロジェクトであり、これを受けて「自分の会社・組織でも何かできるかもしれない」と思った読者はぜひ原氏に相談してみて欲しい。

聞き手・文:米田智彦 構成・写真:神保勇揮

原氏が手がける新サービスその1・2 AIが選ぶテクスチャーライブラリ/3Dスキャンデータの修正サービス

―― 前回の記事では、デジネル/デジタルアルティザンそれぞれの設立の経緯を中心に話をうかがいました。今回は、両社および原さんがこれから何をしていくのかをお聞きしていきたいと思います。

原:まず直近では、デジタルアルティザンで2つのSaaS(Software as a Serviceの略でサースと読む。インターネット上で必要なサービスを従量課金制で利用できる仕組み)のサービスを準備中です。

まず一つが前回の記事でも少しお話しした、シボ(革に出るシワ)のパターンなどの「テクスチャーデザイン」のライブラリ提供とレコメンドサービスです。例えば自動車の内装にしても、「40代男性で、そこそこの所得で」といった嗜好の人に合ったデザインを、キーワードを入れることでAIが自動選択してくれるものを構想しています。

もう一つは3Dスキャンデータの修正サービスです。スキャナー自体はどんどん安くなっているんですが、それをCG用、CAD用にするというのは結構スキルが必要で、そのままでは利活用できないんですね。そうしたデータを入稿してもらえればスタッフが直してお戻しするという、そういったサービス内容です。これはいずれ“3Dデータのウィキペディア”のようなものにも発展させていきたいと考えています。

その3:3D造形データのウィキペディア

Fab3Dのトップ画面

―― それはどんなものなのですか?

原:ネット上で3Dプリンターに造形できるデータを全部公開していこうというものです。デジタルアルティザンの顧問にもなってもらった慶應大学の田中浩也教授らが富士ゼロックスと共同で3Dプリント用のデータフォーマット『FAV(ファブ)』を開発し、『3D図鑑プロジェクト」というプロジェクトを進めていて、『Fab3D』というサイトで公開しています。すでに100万点くらいのデータは集まっているんですが、これをもっと広げていこうというものです。

今あるデータでも、このぐらいのモノが作れちゃいます。

デジネル/デジタルアルティザンのプレゼンテーション資料より

―― ほとんど市販のフィギュアみたいですね!

原:これは日本で3Dプリンタなどを開発しているミマキエンジニアリングという会社が、フルカラー対応の3Dプリンタを開発していて、それで造形をしたものです。今後は『形状特徴検索』という「名称はわからないけれど、似た形のデータを検索したい」というニーズに答えられるものも開発し取り入れようと思っています。

―― 無料あるいは安価でデータが利用できるようになれば、プリンタの需要もさらに伸びていきそうですね。

原:はい。さらに企業との連携も進めていて、ヤマハ楽器さんがデータを提供してくれています。もうヤマハでしかメンテできないような昔の特殊な楽器のスキャンデータを公開することで、その楽器のパーツとかを作ってくれるような企業を募ったりもできるようになります。ある自動車メーカーさんからも、古い時代でもう実物が存在しないようなパーツや機械のデータを公開して出力して、新人教育に使えないかというオーダーが来ています。

データを提供するメーカーとしてもPRやCSR代わりになりますし、これを通じて新しい修理ビジネスみたいなものも生まれるかもしれません。これは2018年後半ぐらいに何らかのかたちで公開できないかと進行中です。

その4:仮設住宅も造れる世界初の超大型3Dプリンタ

デジネル/デジタルアルティザンのプレゼンテーション資料より

―― 話は変わりますが、ミスルトゥとの案件も進んでいるものがあるのでしょうか?

原:ミスルトゥさん以外からも出資を受けつつ、現在公表できるものできないもの含め、9つほどのプロジェクトに並行して携わっています。

そのうちの一つが、超大型3Dプリンタの開発です。アメリカではもう、据え付け型で4mくらいのものが作れるプリンタがあるのですが、出力したものを輸送するコストもかかるため、国内からサービスを依頼するメリットがないのが現状です。だったら日本製をつくろうよと。

今やろうとしているのは、仮設住宅なんかが造れる規模のもので、造形の速度も世界最速を目指しています。1時間に15kg分以上ぐらいの吐出量を目指しているるので、車のボディぐらいだったら半日以内で造形できるスピードを目指しています。

―― 例えば車ですと、今は人間の作業とロボットの作業とを組み合わせて製造しているわけですが、それが3Dプリンタに置き換わるということはどんなインパクトがあるものなんでしょうか?

原:初期投資や製造スピードの見立てが全く異なるものになります。そもそも工場設備を造るだけで多額の資金と期間が必要になりますし、クレイモデルの模型を造るにも1カ月ぐらいかかったりするわけです。開発・製造期間の短縮とコストカットが一気に進むというわけです。

またちょっと専門的な話になってしまうのですが、今の3Dプリンタはモノを整形するのに糸状の樹脂を使っているのですが、我々が開発しているプリンタは射出成形機とかで使っている、いわゆる一般のプラスチック成形品というのは米粒状のプラスチックを、材料を混ぜながら射出成形する、世界初のものを目指しています。材料を混ぜながら作れると「この辺りは軟らかく、ここから硬くなる」といった、材料変えながら造形できるんです。

造形の用途にあわせていくつかの機種を用意する構想なのですが、別のものでは金属用に3Dプリンティングした後、自動的に切削工具が出てきて、仕上げも全部やってくれるものもあります。だからその切削加工と、積み上げて造形する複合加工機になるので、これも世界初です。また僕は慶應義塾大学SFC研究所の研究員でもあるので、新しいデータフォーマットの策定も平行して進めています。

―― いわゆるオフィス備え付けの複合機みたいな感じになりそうですね。

原:そうですね。だから世界的にはびっくりすると思います。でも、これらは既存の技術を組み合わせただけなのですよ。ゼロからは発明できなくとも、0.1のネタを10にも100にもできる術があるということですね。

―― それはすごいインパクトですね。他の用途も含めて、需要がかなりありそうです。

原:はい。実はもう売り先はほとんど決まっています。ラボ・ドリブン・ビジネスの一番の基礎というのは、ある程度こちらでニーズをリサーチして何を研究・開発をするかを決めているので「こういうことができるならお金を出したい」という声ももちろん入手しています。

具体的には、もちろん出資してもらっているミスルトウはお客さんですね(笑)。他にも国内外のメーカー・団体から引き合いが来ています。まずはそれに対応できるよう、開発を進めています。

―― 具体的なニーズ、販売先が最初からわかったうえで研究・開発できるのは大きな安心感がありますよね。

原:そこが若手のスタートアップと違うところで、これまで培ってきたネットワークも使っていける強みがありますね。某自動車メーカーからは全世界の工場に配備したいという話も来ています。

先ほど「超大型3Dプリンタは家も造れるようにする」とお話ししましたが、もう一つのポイントはコンテナを使っているということなんです。メリットとしては、プリンタがコンテナにすっぽり収まるサイズなので運搬が圧倒的に楽なんです。コンテナを緊急災害時にトラックで運んでいって、そこで仮設住宅を造るということも可能です。

―― 民間だけではなく政府・自治体からもオーダーが集まりそうですね。

原:実は住宅関連で「エクストラボールド」という会社を2017年11月に設立しています。社員は僕1人だけですが。

具体的なプロジェクトももう動いているのですが、ある一区画を特区的なスマートシティとして、テスト的に新しい町を造ろうという話です。そのときに、仮設住宅もそうですが全部移動できる家にしようとか、そういう話もあるのですが、これで造ってしまえるという話で、出資するのでそれを1台つくってくれというのも、一応仕様に入っています。

事業としてはミスルトゥさんから100%で出資してもらって資金をプールし、3Dプリンタは国内のあるメーカー2社と共同開発で、ODMのかたちで依頼して進めていきます。

町工場で培われたノウハウがハードウェアスタートアップを救う!

―― ここまでお話をうかがってきて、これほど多くの、そして社会的インパクトがありそうなプロジェクトに同時並行で携われるバイタリティは本当にすごいですね。

原:今は9つのプロジェクトが並行していますが、なぜこんなことができるのかというと、例えば「量産や商品化後のビジネスは他の人、他の会社に任せる」だとか、そういう座組みををするようにしているので、開発や技術的なことだけに集中できるのです。

僕はこのモデルをいろんな人にやってほしいと思っていますね。日本の町工場は確かな技術がある一方でどんどん数が減っています。スタートアップの人たちは開発のパートナー探しとしていきなり中国に行くのではなくて、むしろそこにつながるべきだと思っているんです。そこの媒介役としてこのラボ・ドリブン・ビジネスをやる人たちがうまく町工場とつながって、ハードウエアのスタートアップの人たちを支援するとものすごく効果的なんじゃないでしょうか。

―― なるほど。プロトタイプモデルを作ってもらうとか、そういうことでしょうか?

原:プロトタイプだけではなく、小ロットの生産も可能なはずです。というか、今はもう100万単位で量産する製品ってそこまで多くないと思うんです。

―― 確かに、今のスタンダードは多品種少量生産ですね。

原:そうした風潮もあるので、今派手に話題になっているハードウェアスタートアップの中でも、量産関連のノウハウを持ち合わせているところは実はそう多くありません。そして発注単位が1万レベルでは中国の工場は相手にしてくれないので、試作品を経て製品を広く販売していきたいというフェーズでコストが合わなくなると思います。

だから僕は、町工場というより開発型の工場というか、企業とかの開発のお手伝いをするパートナーとしての位置付けに変わっていって、下請けではなくなるというのが日本のものづくりの進化の、次のステップだと思うのです。この部分をケアできるプレーヤーが増えないと、今のハードウェア系スタートアップのブームも駄目になってしまうのではないかなと。いわゆるウェブ、ネットでできるサービスで終わってしまう。ものづくりには移行できないということで、日本は遅れていってしまうのではないかと危惧しています。

―― そう考えると、原さんたちが今やっている取り組みをなんとしても成功させて、先鞭をつけばならないですね。最後に、今後の展望や中長期的な目標を教えてください。

原:そうですね、まず有言実行ではないですが、短期間、2年ぐらいで5つ以上の成果物を出そうと思っています。誰もが思い付きそうだけどそれをうまく組み合わせるとちゃんとビジネスになるよということを証明する、あるいは大手企業が自社だけでは考えられない・実現できないことを支援するということが目標です。

―― すごいスピード感ですね。

原:そうですね。もっとスピードは上げられると思っているので。それが一つと、あとはデジタルアルティザン、「デジタルとアナログ両方のものづくりに対応できます」という人材の地位も向上して、そういった職種になりたいという人たちを増やそうと思っています。

スタートアップ界隈では、ハードウェア系であってもプレゼンが上手いやつだけが勝ってしまう傾向にあるんですよね。そうではなくて、「トークは上手くないけど技術力はすごい人たち」の道筋もちゃんと立てるべきだと思っていて、そういった子たちを育てるというか、そういう資質のある子たちの職種をちゃんとつくるという意味で、デジタルアルティザンを一つの職種としてちゃんと普及させたいなと思っています。当面はこの2つを頑張っていきます。


株式会社DiGINEL

株式会社DiGITAL ARTISAN

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  • 映画『テルマ』10月20日公開
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