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ADHD当事者が開発する「励ましAIフレンド」は、スマホ時代の現代病を救えるか?
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  • 2019.09.06
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ADHD当事者が開発する「励ましAIフレンド」は、スマホ時代の現代病を救えるか?

「ああ、もう死にたい」

という衝撃的な言葉を発したことがある人はどれほどいるだろうか?

文字で書けば、冗談なのかシリアスなのか全く区別がつかないだろう。もしかしたらテストで赤点を取ってしまって恥ずかしさの余り出した言葉かもしれないし、深刻な病なのかもしれない。

さて、ここにホログラムが話をするというAIフレンドがいる。ホログラムといえば真っ先に思い出すのがスターウォーズのレイア姫だ。R2-D2が投射したレイア姫のホログラムがルークに助けを求める映像を出すシーンはとても近未来的だ。

まずはこの映像をご覧頂きたい。

 これは日本人が創業したシリコンバレーのスタートアップ、HoloAsh社(が開発する「Ashlee(アシュリー)」という会話の相手をするホログラムのAIロボットだ。ひたすら会話の相手をしてくれる、SFに登場するようなキャラクターのようだ。現在開発中でリリースは2020年を予定している。

実際には、ホログラムは重要ではなく、そのインターフェースがもたらすアフォーダンスが重要であるという。

高見沢徳明

株式会社フレンバシーCTO

大学卒業後金融SEとして9年間勤めたあと、2005年にサイバーエージェントに入社。アメーバ事業部でエンジニアとして複数の案件に従事した後、ウエディングパークへ出向。システム部門のリーダとなりサイトリニューアル、海外ウエディングサイトの立ち上げ、Yahoo!などのアライアンスを担当。その後2012年SXSWに個人で参加。また複数のスタートアップ立ち上げにも参画し、2016年よりフリーランスとなる。現在は株式会社フレンバシーにてベジフードレストランガイドVegewel(ベジウェル)の開発担当。

AIと人間がセラピストになってくれるチャットボット「Nao」

Ashleeの説明の前に、HoloAshはスマホのチャットアプリを開発しているのでまずはこちらを紹介する。名前は「Nao(ナオ)」という。

最初に自分の今の感情を選択して、自分の今の気持ちをNaoに向かって話す。すると自動的に話した内容を書き起こししてくれる。このコメントをプライベートにするかオープンにするか選択でき、投稿毎に名前が変化する。アカウントというものが存在せず、すべて匿名であるので弱音が吐きやすい状況にしている。

Naoを通じてテストユーザーが音声入力した悩み相談を確認できる一覧ページ。公開にすると、他の匿名ユーザーから励ましのコメントをもらえることもある

ユーザーが発した言葉に対しては「プライミング」によって共感を得やすいような返答を行う。プライミングとは心理学用語で、先行情報を与えることにより、後続の情報の理解を容易にする効果のことである。例えば果物の話をあらかじめしておくと、次に「赤」と言った瞬間にリンゴやいちごを想像できるようなことを指す。マーケティングでも使われる手法だ。

HoloAshはユーザーの言葉に対し、「Oh, dear(大変だね)」「Take it easy(気楽に行こうよ)」のような言葉を返して次の話がしやすくなるような場を作り出す。ただ、会話をひたすらチャットボットと続けていても、心の通うコミュニケーションにはつながらない。そのため匿名の人間による応答もできるようになっている。

人間のとにかく気持ちや言葉を吐き出したい欲求にはAIチャットボットが対応して、ディープな悩み相談には人間が応答するという。当然ここもボイスチャットなので血の通ったコミュニケーションで相談者の心にじんわりくるようになっている。

「音声チャットにはテキストにない深いコネクションを感じることができる良さがある」

CEOの岸慶紀氏はそのように感じている。

Naoで集めたデータを将来的にはハードウェアにつなげたいとのこと。そうした中で現在開発中なのがホログラムとして投影する3Dのビジュアルアシスタントだ。上記の会話とは別にこんなふうに日常会話も行うことが可能である。

Ashlee: I'm always here and can hear your story! What happened to you?(私はいつもここにいて、あなたの話を聞きます。何かあった?)

利用者:I stayed in my bed all day. And I have not eaten anything today. I was working on a song.(1日じゅう寝てたの。今日は何も食べてないわ。ずーっと曲を作ってたの)

Ashlee: Are you composing your own song?(あなた作曲するの?)

利用者:Yes, I'm using GarageBand on my Mac.(ええ、MacのGarageBandを使っているの)

Ashlee: Cool! I wanna listen someday...(素敵!いつか聞いてみたいな)

利用者:lol u better not.(笑、オススメしないけどね)

こんな感じで会話をつなげてくれる。しかし、学習用のデータが圧倒的に足りていないため、抑揚なども含めた自然な会話の実現にはまだ改良が必要だそうだ。

一番辛い深夜でもカウンセリングが受けられるように

HoloAsh CEOの岸慶紀氏

岸氏自身、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の診断を受けている。目には見えないが、多くの人が発達障害だけでなく、メンタルに問題があり、こういった人が生きやすい社会を作るのがHoloAshのミッションだ。

世の中には「こうでなくてはならない」という思い込みが多く存在し、疎外感を感じる人が増えている。米国ではおよそ18%の大人が何らかの精神疾患を抱え、その中でも55%を超える人々は治療を受けておらず、大きな社会問題になっている。ソーシャルネットワークへの依存などが原因とも言われている。

ADHDの人向けのアプリだったHoloAshのプロダクトだが前述の通り、うつや精神疾患を抱えている人から悩みを身の回りの人に打ち明けられない人まで多くの人を救う可能性を秘めている。

会話のロジックに関して岸氏に聞いた。どのようにしてスムーズな応答につなげているのだろう?これはNLP(Natural Language Processing:自然言語処理。プログラミング言語などの人工言語と区別するかたちで日本語や英語など人間の言葉を「自然言語」と位置づけ、これをコンピュータが分析・処理するための技術)を用いたもので、Covolutional Neural NetworkとRNN、LSTMを応用したDeep Neural Networkを使用している。会話の中身は、Motivational Interviewと呼ばれるウィリアム・R・ミラーとステファン・ロルニックが開発した会話手法である「Motivational Interview」に関する論文を元に、AIエンジンを開発していった。

岸氏の理論によると、穏やかに会話を進められる応答の条件には

・共感の表現をする
・ギャップの理解
・議論は避ける
・自己効力感を上げる

といったものがあるという。これがユーザーのモチベーションを引き起こすのを手伝ってくれる。現在はこの応答パターンをひたすら学習させているフェーズで、テストユーザーに気軽に話してもらったり、日記代わりに使ってもらっているそうだ。

上記の病状を抱えている人にとっては深夜こそが最も症状の辛い時間帯で、その時間に相談に乗れるセラピストは少ない。そこで遠隔診療のセラピストが必要となるのだが、国を隔ててると文化の違いから本当の悩みを打ち明けにくかったりもする。HoloAshはこの問題の解決も目指している。

気になるマネタイズだが、Naoの時点では課金は実装されてない模様。データをある程度貯めたらNaoもしくはAshleeを搭載したデバイスの販売とサブスクリプションモデルを考えている。例えば、月次で会話内容を分析した結果のレポートを出したり、効果的な音楽を流してあげたり、キャラクターを追加できるといったサービスも考えられる。

ADHDの起業家が創る未来のセラピー

岸氏が何度も繰り返すキーワードに「Affordance(アフォーダンス)」というものがある。過去の経験によってそれに対する行動や考え方が結び付けられる、いわば固定観念とも思い込みとも言える認知機能のことである。ホログラムによるキャラクターはそれを見るだけで会話をするものだと人間はピンとくるわけで、かつそれだけしか行えないものでもある。機能が単純だから気が散らない。

これに対し、スマホによる遠隔診療が流行らない理由は様々なプッシュ通知が注意力を分散させ、弊害になっているからであるという。多くのことを並行処理的に行えることは人間の生活としては便利ではあるが、注意散漫・忘失の危険を増大させてもいるのだ。

岸氏は人間と機械の会話について面白いエピソードを話してくれた。知り合いから聞いた話だが、子供がAIチャットボットに盛んに話しかけるシーンに遭遇したとのこと。不思議に思って何をしているのか訪ねたところ、なんと英語のレッスンのためにAIに相手をしてもらっているところだったそうだ。もはや機械に人が話し掛けるという光景は珍しくなくなってきている。私達が初めて携帯電話で話す人を見たときは衝撃だった。それと同じく機械に向かって本音を話し談笑するという未来はそう遠くないのだ。


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