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今あえて振り返りたい。フジテレビデモ以降のネットコンテンツとしての「嫌韓」の変遷【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(3)
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  • 2019.08.29
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今あえて振り返りたい。フジテレビデモ以降のネットコンテンツとしての「嫌韓」の変遷【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(3)

トップ画像デザイン:大嶋二郎

中川淳一郎

ウェブ編集者、PRプランナー

1997年に博報堂に入社し、CC局(コーポレートコミュニケーション局=現PR戦略局)に配属され企業のPR業務を担当。2001年に退社した後、無職、フリーライターや『TV Bros.』のフリー編集者、企業のPR業務下請け業などを経てWeb編集者に。『NEWSポストセブン』などをはじめ、さまざまなネットニュースサイトの編集に携わる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)など。

韓国ネタを娯楽として消費。「嫌韓」から「嗤韓」へ

Photo By Shutterstock

2019年夏、日韓関係が戦後最悪とも言われる状況になっている中、日本のユーザーがネットに書き込む韓国に関する意見は、もはや「娯楽」のごとき状況になっている。私は8月上旬売りの「週刊ポスト」のコラムで、この様を「嫌韓」から「嗤韓」(しかん=韓国を嘲笑うこと)と評した。

韓国が次々と繰り出す対日のコメントや報復措置がことごとく「もっとやれww」状態になっているのだ。「まったく困らない」といったコメントも書かれるほか、韓国国内で文在寅大統領への抗議デモが発生すると、こんな反応になる。

「ムンムンにはあと2年間、反日政治を頑張ってほしい」
「余計なことをするな」

歴代の韓国大統領は妙なあだ名がつくことで知られているが、文氏が最も「反日的」であることから、このまま北朝鮮と韓国がくっつき中国・ロシアとの「レッドチーム」を作ることをそれなりの数の日本のネットユーザーが期待しているのである。この2カ月、文氏及び韓国政府、韓国市民による行為は「吉本興業の芸よりも面白い」とまで評されるほどである。ちなみに盧武鉉氏は「ノムタン」で、李明博氏は「あきひろ」で、朴槿恵氏は「クネクネ」である。

この17年ほど韓国にまつわるネットの論調を見続けてきたが、今回の反応は珍しい。かつては「怒り」として韓国ネタを見ていたであろう人々が、フッ化水素を含む3素材の輸出管理厳格化以降の2カ月、とにかく韓国ネタを娯楽として消費しているのである。それは、5ちゃんねるやネットニュースのコメント欄だけでなく、私がウオッチしている韓国関連話題に元々反応していたTwitterユーザーのこの6年ほどのツイートの変化を見ても感じられる。

「嫌韓」最大風速。2011年のフジテレビデモの影響

思えば「嫌韓」がもっとも激しく吹き荒れたのは2011年だろう。8月、俳優・高岡蒼甫(現・高岡奏輔)が、フジテレビに対して発した以下のツイートが発端だ。

正直、お世話になった事も多々あるけど8は今マジで見ない。韓国のTV局かと思う事もしばしば。しーばしーば。うちら日本人は日本の伝統番組求めてますけど。取り合えず韓国ネタ出て来たら消してます^^ ぐっばい。

これにより高岡は所属事務所を解雇された。だが、同様の考えを持つ人からは「愛国の義士・高岡を放逐したフジテレビを批判せよ!」とばかりに動き出し、8月7日に250人規模(諸説あり)のデモを実施。その後もネット上では21日の参加者を募る動きが発生し、当日は約5000人が参加したとされている。

私も当日現場を取材し、「NEWSポストセブンに記事」を掲載したので、この時のシュプレヒコールを同サイトから引用してみる。

「フジテレビは偏向報道をやめろ!」
「我々はK-POPなんて聞きたくない!」
「フジテレビは日の丸・君が代をカットするな!」
「フジテレビは放送法の違反をするな!」
「フジテレビは電波免許を返上しろ!」
「フジテレビは公共の電波を利用し、グループ会社だけが儲かる仕組みを作った!」
「フジテレビと番組スポンサーは同罪だ!」「我々はフジテレビスポンサーの不買運動を継続するぞ!」

この時期、ありとあらゆるフジテレビによる報道やイベントが「反日的」と断じられ、フジ叩きは加速した。いくつか例を挙げる。これの真偽についてはここでは論じない。あくまでもネットで炎上したもののみを挙げる。

・浅田真央が優勝した時は国歌を流さないが、キム・ヨナが優勝した時は流す
・浅田真央が転倒した時のパネルを使用した
・サッカーの「日韓戦」を「韓日戦」と表記した
・自社イベント「お台場合衆国」の冷やし系人気メニューNo.1が「冷やし韓国」
・『笑っていいとも!』の人気鍋ランキングで1位は20代~60代すべてで「キムチ鍋」
・『笑っていいとも!』でピザハットの人気ピザランキング1位が「プルコギピザ」
・高麗大学が日枝久会長(当時)に名誉経営学博士号を授与
・ドラマの小道具の写真週刊誌の表紙に「JAP18」という文字があった
・ドラマに登場したTシャツに「Little boy」という文字があった。これは広島に落とされた原爆の俗称。また、その後のシーンで太った男が着ていたシャツに「9」とあった。これは長崎に原爆(Fat man)が落とされた「8月9日」を表すとされた
・系列の東海テレビの昼の情報番組の「岩手県産のお米・ひとめぼれ3名プレゼント」企画の当選者3名が「怪しいお米 セシウムさん」になっていた

この動きはスポンサーにも及ぶようになる。フジテレビの大スポンサーということで、花王の不買運動が発生したのだ。花王のロゴである三日月の目を「吊り目」にし、韓国をイメージさせようとした。フジテレビのスポンサー企業である「反日企業」は続々とリストアップされ、不買が呼びかけられた。おいおい、日本人従業員が圧倒的に多い企業に対して何やってるんだ、オラ、といった指摘は通用せず「反日のフジに資金を出している時点で反日企業だ!」といった状況に。

デモ後に花王の株価が下がれば「勝利宣言」が出る。梅酒で知られるチョーヤがこうした動きの中、連ドラにCMが出なかった時は「反日企業・フジテレビからCMを降ろしたチョーヤは愛国者!」とばかりに拍手喝采。だが、実際は毎週流す契約ではなかったのだという。

他にも色々あったが、フジテレビ=反日、という図式は2011年に定着した。この頃、東日本大震災があったほか、サムスンや現代自動車の好調などもあり、多くの日本人が元気を失っていたのでは。さらに、震災後に韓国で行われたAFCチャンピオンズリーグ2011 の全北現代 vs セレッソ大阪の試合中、観客席に「日本の大地震をお祝います」の横断幕が掲出された。この年には韓国のK-POPグループ3組が紅白歌合戦に出場したことから紅白当日には「韓流紅白ぶっつぶせデモ」もNHKホールの外で発生した。

一周回って滑稽。ネットに渦巻く韓国に対する「怒り」

Photo By Shutterstock

これ以降の韓国に対するネットの「怒り」は無数といって存在する。だからこそ「2ちゃんねるとネット右翼(ネトウヨ)ウォッチング&その分析」というブログは以下の打順を組んだ。いずれも頓珍漢なのだが、「日本人は虐げられており、在日コリアンは特権を持ち、韓国は過度に日本を叩いている。我々は被害者だ!」といった感情が表れているようにも見える。以下、同ブログの2014年11月9日の記述だ。この「打順」というものは、インパクトが大な出来事を野球の打順のようにしてまとめることである。

1(中)免税店を在日特権と勘違い
2(二)韓信を韓国を信じろと読み大騒ぎ
3(遊)∋(集合記号)をハングルだと思い込む
4(三)ソウルフードを韓国料理だと思い込む
5(一)『Chosen by Voters』を朝鮮人の組織票だと勘違い
6(右)洋食屋パトラッシュを在日の犬肉屋だと勘違い&騒ぐ
7(左)華族を中国人だと思い込む
8(捕)朝日新聞本社に押しかけてカレーを安くしろと無関係の食堂にデモ
9(投)李田所にマジで釣られる

補欠1 SAPIO(小学館)に抗議するデモのウヨが小学館本社前で「「ネットと愛国」を出した小学館は謝罪しろ~!」とデモ(←「ネットと愛国」は講談社でSAPIO編集部は小学館本社でなく別のビルに存在)
補欠2 オーストリアが教科書に「東海」を載せたのでネトウヨがオージービーフの不買運動(←恐らくオーストラリアとオーストリアを勘違い)
補欠3 「従軍慰安婦に謝罪をすべき」との水木しげる氏に対して「戦争にも行ってないくせに」とネトウヨ暴言
補欠4 二桁×二桁の掛け算が出来ない20歳過ぎのネトウヨも存在 
補欠5 「2015年7月9日に在日コリアン強制退去」のデマに踊ったネトウヨが入管サーバをサイバー攻撃

一部説明が必要なものもあるが、これについては検索をし、一体どんだけ珍妙な騒動だったかを把握していただきたい。2014年の「4(三)ソウルフードを韓国料理だと思い込む」は、とある男性が「ソウルフード」の言葉とラーメンの写真をツイッターに公開したところ、日韓断行を訴えるIDが「ラーメンは日本の食文化です勝手に韓国料理にしないで下さい。貴方は在日朝鮮人ですか?盗人猛々しいにも程があります!」とツイートし、嘲笑された。つまり、“soul”と“Seoul”の違いさえ分からないバカだと思われたのだ。

この件については「釣り」の可能性はあるものの、当時の「とにかく韓国に関連するものをホメたら叩く」状況だったら「あり得るかな」と思わせるものだった。

こうした「嫌韓」「日本人は虐げられた民」的状況から今は韓国を徹底的に哀れみ、見下す状態になっている。これからも韓国関連の話題は日本のネットでは人気のコンテンツであり続けることは間違いないが、現在のネットを見ている方にも2011年の空気を知っていただきたい、と今回当時を振り返ってみた。思えば遠くへ来たものだ。


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