CULTURE | 2023/11/16

おしゃれな若者も近所のお年寄りも、 初来店のお客さんでも同じ会話で盛り上がる カフェ「MIA MIA」

聞き手・文:舩岡花奈(FINDERS編集部)写真:グレート・ザ・歌舞伎町

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2020年、オーストラリア・メルボルン出身のアリソン・ヴォーンさんと、妻で建築家の理恵さんが東京・東長崎にオープンしたカフェ「MIA MIA」。朝8時から開店すると近所に住む常連や遠方から来た人々で賑わう。

理恵さんが手がけたという築50年のブティックを改装した店内は、スタッフとお客さんとの間に境界線がない。キッチンと客席を仕切るのは低いカウンター席のみ。カウンターを含め、客席は店内中央に自然と体が向く作りになっており、利用客同士の会話も生まれやすい。また、コーヒーマシン近くの窓では、バリスタと外席を利用するお客さんや、通りすがりの地域住人との会話の場となっている。そんな特徴的な店内デザインは2023年グッドデザイン・ベスト100にもノミネートされた。

空間のレイアウトも手伝って、店内から店の周辺にかけて独特の一体感が生まれている。スタッフは、通行人ともフランクに挨拶を交わし、これから仕事に行くというお客さんには店内にいる他のお客さんも一緒に「いってらっしゃい」と送りだす。常連も初めてきたお客さんも、老若男女、誰一人として別け隔てなく迎え入れるその姿勢には、思わず「また来るね」と言ってしまうような居心地の良さがある。

どのように誰にとっても居心地の良い店作りをしているのか、また、店を起点に生まれるコミュニティづくりで大切にしていることを同店のオーナーであるヴォーンさんに伺った。

アリソン・ヴォーン

オーストラリア、メルボルン出身。東京・東長崎のコーヒーショップ〈MIA MIA(マイア マイア)〉、ギャラリー〈I AM〉のオーナーを務める。また、日本のコーヒーカルチャーを世界に発信するライター、モデルや音楽プロモーターとしても活動。

カフェはお客さんやスタッフと気軽に話せる「社交」の場

―― MIA MIAはスタッフとお客さん、地域住人など店に関わる皆がフラットにコミュニケーションを取っていて、同時に、初めて訪れる人も疎外感を感じづらいように思います。どのようなことを意識しているのでしょうか?

ヴォーン:なによりも地域のコミュニティや住んでる人たちのための場所を作りたかったんです。だから若い人から年配の人まで、みんなが共存できるような場所になれば良いなと考えました。実際MIA MIAには若いおしゃれなお客さんもいれば、73歳の常連の方もいます。

近所に住む常連の安藤さん(左)とヴォーンさん(右)
笑顔が素敵なヴォーンさん(右)とMIA MIAスタッフ(左)

―― だからスタッフの方はどんなお客さんに対してもフランクに話しかけるんですね。

ヴォーン:そうですね。僕の故郷であるオーストラリアのメルボルンでは、カフェは社交の場です。みんな毎朝仕事前にカフェに寄ってバリスタの方と会話をしながら一日のエナジーをもらうんです。他にもいい仕事が決まったとか、恋人と別れたとか、嬉しい報告や相談ごとを行きつけのカフェでバリスタに話す文化があるんです。バリスタだけでなく、顔見知りの常連さん同士も多くて、みんなの情報交換や交流の場になっているんですよね。

なのでメルボルンでは個人店のほうが根強い人気があって、それこそ日本でいう居酒屋くらいたくさんあります。だからコミュニティとして機能しにくいチェーンはあんまりうまくいってないらしく、例えばメルボルンにはスターバックスが7店舗しかありません。

―― 日本とはカフェのあり方が違うんですね。

ヴォーン:だけど求められているものは日本でも同じだと思いますよ。実際2011年の東日本大震災のときは、行きつけのカフェにすごく人が来ていて、みんなどうすればいいかわからないときには情報交換しにきていたんですね。カフェは元々そういう機能を果たす場なんです。

だからどんな町にも、コミュニケーションが生まれる場は必要。最近は、お店でも全くコミュニケーションを取らない時代になりましたよね。注文はタッチパネルで、支払いもキャッシュレスでピっとするだけです。カフェやレストランでも自分のスマホやパソコンのなかに閉じこもっています。

日本では相手に迷惑をかけたくないから、極力関わらないですよね。電車の中でも目も合わせない。ですが、どんな時代でも場所でも人と人の関わりはとても大切だと思います。それは日本でもオーストラリアでも同じ。どんな人でも一人で生きることはできないですよね。友達や恋人、家族、地域といった周りの人たちと生きています。ビジネスもひとりでは何もできません。

初来店のお客さんも、いつの間にかMIA MIAの輪の中に

―― MIA MIAの運営にあたって大切にされていることはありますか?

ヴォーン:何よりもお客さんと会話することです。「あれ、はじめましてですよね」とか「この前来てくれたよね」とかお客さん一人ひとりに向き合って、細かい部分も覚えていたり気がつくことが大切です。

台湾旅行に行ったとき、ミシュランの星付きレストランや素敵なバーでも、話しかけられたのは1回か2回くらいしかなかったんです。「どこから来たの?」「旅行なの?」みたいな会話があれば、何か生まれたかもしれないですよね。機械的に接客されても、お店やその場にいた人と交流は生まれないですし、その場所に僕が行っても行かなくても変わらないなと感じたことを覚えています。

常連さんも、新しく来てくださったお客さんも関係なく、一人ひとりお客さんと会話することでお互いを知ることができて、情報交換ができますよね。そういった交流から新たに生まれるコラボレーションでさらにお客さんと楽しいことをしたいんです。

店先のベンチでお客さん同士、自然と会話が生まれる

ヴォーン:今日(取材の当日)も初めてお店に来た台湾のお客さんがいたんですが、「どこに住んでますか?」とか「何をしている人ですか?」「旅行ですか?」みたいなことを聞いていくうちに、彼がコーヒーを7年間学んでいたプロのバリスタだということがわかりました。だから「じゃあラテを淹れますか」という会話が生まれて、その場でコラボレーションが生まれたんです。

店内でラテを淹れる初来店のお客さん。店内はサプライズな出来事に大盛りあがり

―― お店のお客さん以外にもフランクに話しかけたり、挨拶をしていますよね。

ヴォーン:挨拶することは全部の基本だと思ってます。日本でも学校で一番最初に習いますよね。挨拶することって簡単に聞こえるのに、実際に町を歩いても誰も挨拶しないですよ。なかなか出来ないことなんです。

毎日店の前を掃除していると、だいたい同じ時間に同じ人が通るんですね。そうやって毎日顔を合わせる人に対して挨拶しないのは失礼だと思ってます。もちろん、通りかかる人全員に挨拶するまでは、ちょっとやりすぎですけど。

―― それはお店を営業しているから意識されているんですか?

ヴォーン:自宅の周辺でもしていますよ。スーパーの店長さんとかは仲良しなんです。別にみんな友達にならなくてもいいし、コラボレーションしなくてもいいんですけど、挨拶し合えたり、顔見知りであれば、もし家で子どもが待ってるのに地震や事故で帰れない、ということがあってもお互いに頼りあえます。何かあったときの繋がりが大事な居場所になると思うんです。

――お店のオープンは2020年ですが、3年という短い時間で地域に根付くことができたのはなぜでしょうか?

ヴォーン:お店の中だけじゃなくて、外に立って挨拶するんです。どんな人が通ってるかなとか、MIA MIAのオフィス兼週末にアトリエとしても運営している「I AM(アイアム)」のほうにはブックポストを作って、そこを起点にコミュニケーションが生まれたり、野菜を育てたりしています。そういう地域の人を見ながら、何があればこの人たちは嬉しくなるかなみたいなことを、ちゃんと拾って考えています。

僕は、お店が上手くいっているかの指標に数字はみないようにしています。今日100杯作りましたとかドーナツ何個売りましたという数字を気にしすぎるとパニックになるというか、変になるんです。大切にしているのは、リピートしてくれるお客さんがいるかどうか。リピートしてくださる方がしっかりいれば、問題ないなと思います。逆に少ないなと感じたら、何か変えてみようとか、お客さんが喜ぶことってなんだろうとか考えます。

MIA MIAにはポイントカードがあって、コーヒー1杯でスタンプ1個。60杯飲むとカードが全部一枚分すべてのポイントが埋まります。全部埋めてくれた常連さんには、メールアドレスを聞いてMIA MIAで行われるイベントや展示の情報をお送りしています。まだ3年目ですが、想像以上に多くの人が常連さんとなってくれて、私も驚いています。

訪れる人の驚きと喜びの体験をどうつくるか

毎週水曜日、6時55分から行われているラジオ体操。早朝にも関わらず多くのお客さんが集まる
オーストラリアでは定番のスプレッド「ベジマイト」が塗ってあるチーズトーストにホットコーヒーが付いてくるモーニングセット。

―― 開店前にラジオ体操をやったり店内で音楽ライブをやったり、イベントも積極的に行われていますね。

ヴォーン:普段はコーヒーを飲む場所だから、毎日の営業もすごく大事です。でも街にも常連さんにも新しいお客さんにも、新しい刺激を提供することで元気になってもらいたいんです。たとえばアーティストの山瀬まゆみさんにはTシャツを作ってもらったり、陶芸家のイイホシユミコさんにはお店にオリジナルでカップ作ってもらいました。この前はミュージシャンのYeYeさんのライブも開催しました。普段はフジロックとかに出る方なので、こんな小さい場所でライブをやらないんです。もちろんファンもたくさんいる方ですが、この日のライブのお客さんは半分くらいMIA MIAの常連さんでした。ラジオ体操も近所のお客さんが出勤前に参加してくれています。週に一回、朝の6時55分からで、すごい早い時間なのに中には1時間とかかけてくるお客さんもいます。

こういったイベントやアーティストのコラボレーションを通して、カルチャーやアート、音楽を取り入れ、東長崎という街や、ここに集まるお客さんが普段は経験できないことを提供できるかなと思います。とにかく、イベントでお客さんや来てくださったゲストの笑顔がみたいんです。

だからイベントのプランニングにはめちゃくちゃ時間をかけます。皆さんにとって絶対に忘れられないイベントになるように工夫もするんです。それは僕の大切な仕事の一つです。

―― どんな工夫をするんですか?

ヴォーン:たとえば、海外からアーティストを招いてライブをやったときは、ゲストが日本に来てハマったストロングゼロをプレゼントしました。タトゥーを彫ってしまうくらいストロングゼロにハマったらしくて(笑)。サプライズでライブ会場にいる全員分のストロングゼロをプレゼントして、みんなで飲みながらライブを見ました。

ラテアートの世界大会で1位になったRORAさんという韓国人のバリスタの方のイベントでは、RORAさんが一人ひとりにラテを入れてくれるんですが、注文を韓国語じゃないとダメってルールにしたんです。だからみんな並んでるときに一生懸命覚えるんです(笑)。

目の前で世界一のバリスタがコーヒーを淹れてくれる体験なんてなかなかないし、RORAさんも日本のお客さんが韓国語でコミュニケーションをとってくれるのは嬉しい。結局一日を通して200人くらいのお客さんが来ました。

オンラインで出来ることが増えて、様々な形のビジネスがあると思いますが、人が集まる場所だからこそできる経験はどんなものなのか、どうやってその経験を作れるのかよく考える責任があると思います。

―― MIA MIAに人が集まる理由がわかったように思います。

ヴォーン:コーヒーは社会の中で誰でも気軽に、安全に来れる場所を作れると思っています。地域の人でも遠くから来た人でも、若い人もお年寄りも、子供と一緒でも大丈夫。お金のない大学生とかでもコーヒーなら払えますよね。レストランやビストロとはまた違う、カフェにしかできない役割があると思うんです。