ウェブサイト、ECサイト、アプリなどの顧客体験を分析するサービスを提供するContentsquare(コンテンツスクエア)は、デジタル顧客体験(CX)の最適化に取り組む実践者たちが登壇するカンファレンス「CX Cicrle Tokyo 2023」を2023年6月に開催した。
本イベントにはAIからデジタルアクセシビリティ、検証まで、CX(顧客体験)戦略やイノベーションに焦点を当て、業界トップクラスのスピーカーが多数登壇した。
FINDERSでは去年11月に行われた「CX Cicrle Tokyo 2022」の書き起こし記事も掲載しており、今回もContentsquare Japanから記事提供をいただき掲載する(本記事は全8回中の7回目。記事一覧はこちら)。
本記事では、三井住友カード マーケティング本部 IT戦略部 部長の山田かおり氏、化粧品や健康食品などで知られるキューサイ EC販売部 CX企画グループ チームリーダーの岩﨑暖氏が、両社のデジタル顧客体験をいかに分析し、改善したかに関する事例紹介を行った。司会はContentsquare Japanの岡山奈央氏が務めている。
なお「CX Cicrle Tokyo 2023」の模様は無料配信されており、登録をすれば視聴が可能。視聴登録はこちらから
デジタルにおけるUX向上の取り組み
岡山:本日は異なる業態の2社を迎えて、4つのテーマでディスカッションをしたいと思っています。早速ですが、1つ目のテーマは、「デジタルにおけるUX向上の取り組み」です。
山田:三井住友カードは、三井住友銀行(SMBC)グループのクレジットカード会社です。さまざまなサービスを展開するなかで、IT戦略部は、SMBCグループの新たな個人向け金融サービス「Olive」を開発したり、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)とのポイント統合をしたりしています。
山田:なかでも、デジタルサービス、顧客とのデジタル接点に取り組んでおり、アプリやウェブサイト、メールやプロモーションなどを通じて、顧客体験を提供している部署です。
山田:私たちが最も要視しているのは、自社のKPIや経費削減よりも、顧客にいかに使い続けてもらえるかです。クレジットカードが利用された後、そのままずっと使用され続けることで、私たちの事業は成り立っています。例えば、引っ越しをした、住所変更をした、結婚した、名義変更をする、カードを紛失した……。そのようなときでも、いつでも違和感なくずっと使い続けてもらう必要があります。私たちのテーマは「フリクションレス」です。
ちょっとした違和感が蓄積されることによって、顧客はどんどん離れてしまいます。しかし、飛び抜けて素晴らしい体験をこの事業で提供できるかというと、それも難しいのです。ですから、違和感なく、ストレスなく、ずっと普通に自然に身近に使ってもらえることが重要です。
岡山:ありがとうございます。とりわけB2Cではさまざまなサービスに乗り換えやすいので、フリクションレスは重要なキーワードですね。キューサイさんはいかがでしょうか?
岩﨑:私たちのテーマは「ウェルエイジング」です。顧客に心の充実と体の健康とともに年齢を重ねてほしいと考えています。
岩﨑:ウェルエイジングを目指して現場が動きやすいように、会社としてのミッション、ビジョン、バリューを定義しています。ビジョンの1つに「お客さまをファンに」を掲げています。顧客にファンになっていただくためには、より良い顧客体験が欠かせません。感動をした、嬉しかった、そのような体験を通して、キューサイのファンになってもらえる機会を生み出していけると考えています。
岩﨑:より良い顧客体験やUIを実現するために、私たちはECサイトのリニューアルをしました。ストアコンセプトは「ウェルタイムストア」です。新しいECサイトでは、顧客とのコミュニケーションのスタンスを変更しました。以前は、前面に商品が出ていましたが、今は顧客に対して「あなたの生活や人生について話しましょう」というスタンスです。
岩﨑:商品のイメージも、プロダクトカットから、より生活のなかにあるイメージに変更しました。さらに、検索機能も充実させました。顧客が探したいものを探しやすくして、顧客体験を向上させたいという意図です。具体的には、インサイトワードで検索したり、シーズナルのアイテムを検索したり、より直感的なワードで検索ができるようになりました。
UX向上における課題とContentsquareの活用
岡山:では、続いて、2つ目のテーマは「UX向上における課題とContentsquareの活用」です。目指すところを実現するにあたっての課題と、課題に対してデジタル体験アナリティクスをどのように活用されているのかを教えてください。
山田:三井住友カードにおける顧客体験改善の取り組みは、2012年ぐらいから始まりました。それまではバナーの位置などは属人的に決定していたのですが、アクセス解析やABテストなどに取り組むようになりました。また、ウェブサイトに特化して、NPS(顧客ロイヤルティの指標)の調査を始めたのが2015年ごろです。
山田:「Have a good Cashless.」というスローガンのもとで、もっとキャッシュレスを身近に使ってもらえるように訴求し始めたのが2019年です。新しい商品やサービスも開発していく一方で、コスト測定できるところはしっかりしていくために、顧客接点デジタル化プロジェクトが2019年に立ち上がりました。これによって、よりデジタル化は加速しました。コールセンターのスタッフに直接顧客の声を聞いたり、顧客に1対1でインタビューをしたり、トランザクション調査をしたり、さまざまな取り組みを続けているところです。
しかし依然として、カードの利用で困った顧客がデジタル接点だけでは自己解決にたどりつけず、コールセンターに問い合わせするも電話がつながりにくいという意見も届いています。さらなるウェブサイトの改善やより深い顧客理解に努めたいところです。アクセス解析、利用者インタビュー、トランザクション調査などを通じて得られるのは、遷移数や離脱数のみです。顧客が何に注目して、どういう状況で離脱してしまったのかが全く分からず、分析をしても仮説の深掘りができません。
山田:そこで、より厚みのある分析に取り組むために、Contentsquareを導入することにしました。Contentsquareパートナーで導入・運用支援を提供しているギャプライズと一緒に分析した具体例として、カード入会画面改善の事例を紹介します。
山田:ページ上部に、名前や生年月日などを入力するフィールドがあります。全ての項目を入力した場合に、ページ下部の「次へ」ボタンが活性化されるつくりになっています。実はこのページでの離脱が多いこと、そしてページ内の離脱が多いエリアも判明していました。
Contentsquareを導入すると、住所のエリアで番地を未入力のままでページ最下部まで行って、「次へ」ボタンがクリックできないので、ページ上部にスクロールし、未入力項目に気づき、入力をしてから「次へ」ボタンをクリックしているユーザーが多いことが分かりました。これは私たちが使用していた従来のツールでは分かりません。このUIの影響で、10〜20%もの離脱が発生していることが判明しました。そこでスライドの赤枠部分で示したように、入力した住所をユーザーに確認する仕組みを実装し、9割のエリアにおいて、未入力のままページ下部に進むユーザーがいなくなりました。コンバージョンは約5%アップしました。
山田:私たちがこれまで把握できていなかった顧客の気持ちが少し分かってきて、社内のさまざまなメンバーに使用を促しています。しかし、私たちだけで分析をしても有効な示唆を得られなかったように感じています。例えば、デジタルマーケティングの知見がないメンバーも含んでいる私たちのチームだけですと、「このボタンが押されてない」というファクトに対して、「ボタンが押されてないのは、きっと目立たないから」という仮説を立て、「ボタンを赤くして目立たせたらどうか」という結果になってしまうんです。
こういった着眼点や仮説の乏しさを解決するために、100本ノックのように、期限を決めて、とにかく分析して、Contentsquareやギャプライズに提出して、場数を増やしていくことに取り組んでいる最中です。
岡山:ありがとうございます。まだまだ課題も多いということでしたが、今後、Contentsquareを利用する企業においても、同様の悩みに直面することがあるかもしれませんね。キューサイではいかがでしょうか?
岩﨑:キューサイでも、ECサイトリニューアル以前から分析に関する課題がありました。Google Analyticsやヒートマップなど、さまざまなアクセス分析ツールが存在します。しかし、それらのツールでは、ウェブサイトのどこを維持したらよいのか、どこを改善したらよいのかが分かりませんでした。示されている値の“原因”が分からないんです。そのために、改善策を練るのが難しかったり、その施策の根拠が弱いという問題を抱えていました。
岩﨑:Contentsquareを導入してから、ユーザー行動を可視化して分析をして、根拠を得ることができるようになりました。ECサイトのリニューアルをしたのは、2023年4月です。私たちにとって幸運だったのは、このサイトリニューアルの前にContentsquareを導入していたことです。旧サイトを分析することで、新しいサイトの構成を考えていく上での根拠や示唆を多く得ることができました。
例えば、トップページでは、ファーストビューを見た後に7割のユーザーが離脱していました。トップページに配置しているバナーが反応されにくく、スルーされていることもわかりました。そこで、離脱されてしまう前に次のコンテンツを見てもらうために、ファーストビューの下のすぐ視認できるエリアに情報ニーズが高いコンテンツを配置しました。そして、見られていないバナーを削除して、よりカートにたどり着きやすい設計に取り組みました。
岩﨑:ゾーニング分析やカスタマージャーニー分析などでビフォーアフターを比較するなど分析を進めていくなかで、3つのトピックスを発見しましたので紹介します。
岩﨑:まずは「ユーザーニーズを示す導線」です。我々のECサイトでは、旧サイトを分析した上で新サイトを構築したわけですが、公開後の稼働状況とのギャップの有無を分析しています。旧サイトのトップページで情報ニーズが高かったのは、サードビューにあったキャンペーンでした。
そこで、新しいサイトではサードビューのコンテンツをセカンドビューに配置することにしました。ところが、実際に稼働してみたらサードビューに移行したコンテンツのクリック率が上がったばかりか、セカンドビューに配置したキャンペーンよりもコンバージョン率が上がったんです。
岩﨑:2つ目は、リニューアルに際して追加した検索機能です。ここでの魅力度スコアは低いままであまり変わらず、追加した検索機能の価値を来訪者に十分に提供できておらず、改善の余地があることが分かりました。
岩﨑:一方で、クリック後のコンバージョン率は高いことが分かりました。ピンポイントでは、セカンドビューよりもクリック後のコンバージョン率が高くなった箇所もあります。ぴったりとマッチした顧客には、非常に高いコンバージョン率を発揮できる可能性があるようです。
岩﨑:また、ABテストにもContentsquareを使用しています。ABテストでは、トップページのセカンドグループとサードグループを入れ替えて検証しています。これは繰り返し試行錯誤しなければならないようです。Google Analyticsで比較したところ、途中経過でありまだ最終的な結論には至っていませんが、リニューアル後のオリジナルとパターンAでは、パターンAでのコンバージョン率が0.92%改善しています。
岡山:一般的には、ECサイトをリニューアルした際に、一時期だけでも売り上げが下がる場合がありますが、どうでしたか?
岩﨑:下がりませんでした。大きく上昇したわけではありませんが、下がると予想されたところから踏みとどまれた印象を持っています。セッション数など上がっている数値もありますが、まだ改善の余地が多くあるという状況です。
活用推進における運用体制の工夫
岡山:最後に、Contentsquareを運用している体制について、また運用していく上で工夫していることを教えてください。
岩﨑:三井住友カードの山田さんと同様で、キューサイでもギャプライズのチームと一緒に取り組みました。
岩﨑:ギャプライズからのアドバイスも参考にして、導入時には複数名の「Contentsquareマスター」を配置しました。その下に各メンバーが所属する体制になっています。各メンバーがトレーニングのなかで疑問が出てきた際に、それを解決する役割がマスターというわけです。また、Contentsquareを導入すること自体が目的ではなく、Contentsquareを利用した分析を定着させることが目的なので、各チームをリードするメンバーが必要という考えもありました。
私自身は導入担当として、マスターたちをフォローする必要があります。ギャプライズから、どのようにContentsquareを触りたいか定性的に決めましょうとアドバイスをもらいました。私の場合は、「メールを見るのと同じ頻度で、毎日Contentsquareを触る」と決めて、とにかく触りました。導入担当が詳しくなることは、マスター達の安心にもつながると考えていました。
岩﨑:続いて、全13回のトレーニングフォローミーティングを行いました。とりわけトレーニング開始の1回目から3回目に重点を置いて実施しました。4回目以降は個人差が出てきます。それらは個別対応としました。トレーニングの中で少しでも分からない点があると、それが利用のハードルになることがあります。そこをフォローすることを心がけました。
もう1つの取り組みは、チーム内のメール配信です。「Contentsquareニュース」と題して、トレーニングの告知をしていました。このメールでは「お客さまの声(行動)を見てみよう!」というコピーを考えて、冒頭に必ず記載しました。Contentsquareは、顧客の行動やアクションを可視化できるツールです。Contentsquareを見ることは、お客さまの声を見ること。それを参加者に伝えたいという思いがありました。
顧客分析を踏まえた今後の展望
岡山:顧客分析を導入し、さまざまなインサイトを得た上で、今後の展望についてどのように考えていますか?
岩﨑:キューサイでは、将来の展望として、「パーソナライズ」「融合」「ウェルエイジング・ナンバーワン・サイト」という3つを掲げています。まず、顧客分析をもっと深めて、一人ひとりの顧客に「パーソナライズ」された素晴らしい体験を提供していきます。そして、オフラインとオンラインやさまざまなモノやコトを「融合」して、顧客体験を設計していきます。また、ウェルエイジングのナンバーワン企業になることを目標としていますので、それを体現する新しい機能やサービスを提供していきたいと考えています。
山田:クレジットカードは、商品それ自体で差別化をするのが難しい業界です。「カートに商品が入って購入されたら売り上げになり、KPIが明確になる」というサービスではありません。カードをフリクションレスにずっと使い続けてもらうためには、ウェブサイトだけで完結するものでもありません。私たちは、さまざまな取り組みを通して、顧客のことをもっと深く知りたいと考えています。
その他にも、ナンバーレスカードやOlive、アライアンスでのポイント統合など、多くの取り組みがありますが、競合性が非常に高いものです。他社に追いつかれてしまう可能性がゼロではありません。しかし、デジタルで顧客がとにかく使いやすい、違和感なく使えるという点において、ひたすら改善を続けることは、他社に簡単に追いつかれるものとは思いません。改善には絶対の正解がありません。そして、続けていくことに意味があると考えているので、一生懸命、顧客体験の改善を続けていきます。