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皆さんも、すでに実感しているのではないでしょうか?そうです。食品価格の高騰が止まりません。
帝国データバンクの調査によると、上場する主要飲食料品メーカー105社における、2022年の価格改定品目数は、最終的に2万822品目、値上げ率平均は14%にも上るそうです。今年2月に入っても「値上げラッシュ」に関するニュースが数多く報じられています。
もちろん高騰しているのは食品だけではありません。各種製品の生産や運搬などに不可欠な、エネルギー、燃料、素材などが軒並み値上がりしているため、ほぼ全産業、全商品の値上げが止まらないと言っても良いかもしれません。
しかし、ヨーロッパ在住の筆者はこの食品価格高騰の理由として説明されることが多い、新型コロナやロシアのウクライナ侵攻といった影響よりも、かねてから噂されている食糧危機の表れの方が大きいのではないかと捉えています。また、それは世界のフードシステムが限界に来つつあるということでもあります。
今回は高騰する食品価格の現状と、その対策を考えてみたいと思います。
吉田和充(ヨシダ カズミツ)
ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director
1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/
「世界のフードシステムが限界に近い」と言えるこれだけの理由
2022年の急激な円安は一旦収まったかのようにも見えますが、それでも1ドル130円前後と、円安基調は変わっていないようにも見えます。日本の場合、多くの食料を輸入に頼っているわけですから(2021年の食糧自給率はカロリーベースでは38%)、輸入食品(原材料や飼料も含む)の円安による価格上昇分はどこかで負担をせざるを得ず、これが生活者の負担としてもダイレクトに響いていると思われます。
では新型コロナや戦争が収まれば価格は元に戻るのでしょうか。しかし、一方でかねてからヨーロッパでは「80億人に達した世界人口を養える食糧生産のキャパが、そもそも地球にはないのでは?」と指摘され続けていました。
その前提に立ち、例えばオランダでは「今後、地球上の全ての人間を養うためには、圧倒的にタンパク質が不足する」という前提に立って、フードバレーなるイニシアティブ(何らかの方針を掲げ、賛同者がプロジェクトベースで活動するための枠組み)が活動しています。
ここには例えば、昆虫食、植物性プロテイン、ヴィーガンミートなどの研究や、マーケティングリサーチなどに取り組む、世界中の企業やリサーチセンター、大学、スタートアップなどが集まっています。また、室内農業、バーティカルアグリ(垂直農法)、アクアポニックスなどの新しい農業の形も幅広く研究され、取り組まれていたりします。
食糧生産の現場にも数多くの問題、しかも大問題が放置されています。なかでも気候変動は横綱級の問題ですが、それに勝るとも劣らない横綱、大関級の問題も山積みです。西と東だけではなく、北と南にも別れる必要があるほどです。
読者の皆さんの中には「いきなり『ものすごい危機だ』とまくし立てられても…」と戸惑う方もいらっしゃるかもしれませんが、台風などのようにじっと耐えて待つほかない“天災”ではなく、構造的な問題がそこにはあるのだということを理解いただきたいと思います。
例えば、長期にわたる化学肥料の過度な使用の結果、世界中の土壌が劣化しています。水不足という問題もありますが、保水できない土壌がかなり広がっており、アメリカではもはや食糧生産ができない広大な土地が生まれています。一方で、除草剤などへの耐性を持った雑草が猛威を振るっているエリアもあります。
食糧生産の現場で生じている問題は、こうした環境要因によるものだけではありません。ここ数年、そして2022年の化学肥料の価格の高騰は恐ろしいほどです。また家畜に関しては、環境面だけではなく、例えば餌である穀物の価格も上昇しています。穀物の輸送費や燃料費の高騰もあります。
日本においては、農業就労者の減少と高齢化の問題もあります。最近の猛暑やゲリラ豪雨などは、それまで育ててきた作物を一瞬でダメにするパワーを持っています。また、種の価格高騰もありますし、種苗市場がバイオメジャーに寡占されており、自家栽培ができにくくなっているといった問題もあります。
食の大量生産、大量消費はいつまでも続かない
実は「食糧危機はやがて必ず起こる」と10年以上前から警鐘を鳴らしていた書籍があります。アメリカのジャーナリスト、ポール・ロバーツさんの『食の終焉』(2012年 ダイヤモンド社 神保哲生翻訳)です。
数多くの丁寧な取材に基づいたこの書籍では、今の大量生産、大量消費を志向する食料供給システムはやがて破滅するだろうと書かれています。ちなみに本書の中で、鳥インフルエンザの原因や問題にも触れつつ未知の「伝染病」や「ウィルス」により、近い将来、社会は確実にダメージを受けると予想されていますが、新型コロナによるパンデミックを経験した我々は実際に何が起こったかわかっているはずです。そのダメージを少しでも減らすためにも、現在のフードシステムを早急に改善しなければならないとも書かれています。
いざ、食糧危機が始まった場合、日本は食品の輸入に多くを頼っていますので、自国内だけで食品の価格を決めにくく、価格は関税や輸入協定など国際的な枠組みの中でコントロールされてしまう側面があります。こうしたことを変更しようとする場合は、国際間の取り決めなので、かなりの時間を要するでしょう。
この観点からすると円安は大問題です。さらに国際的な比較の中では日本の所得がなかなか上がっていないという問題もあります。こうしたファクターが積み重なると何が起こるのか。皆さんもここ数年の報道で、マグロや牛肉、穀物などの「買い負け」に関するニュースを目にしたことがあるはずです。
環境的な側面から「生産ができなくなる」という問題もありますが、「価格が上がって買えなくなる」という方向からの食糧危機が起こり始めていると考えた方が良いかもしれません。
食糧危機のダメージを個人で軽減するための「6つの対策」
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さて、では実際に、どうやってこの食糧危機を回避するか?ということですが、残念ながら世界的に答えは見つかっていない、というのが現状です。
とはいえ個人単位で少しでもその影響を軽減すべく、推奨されている行動を以下に6つ挙げておきます。
(1)地産地消を心掛ける
そもそも物理的に「真冬に地球の裏側から運ばれてきたバナナを安価に購入できる」ということはあり得ません。誰かに、あるいはどこかにその負担がかかっています。この社会負担を少なくすることが、結果的には食品価格の高騰を防ぎます。地元で、それぞれのタイミングで採れたものを多く摂るようにしてください。価格的にも品質的にもそれが一番です。
(2)大量生産物の購入をなるべく控える
地産地消にも関係しますが、世界のフードシステムが「大量生産」を目指し、それゆえに破城が起こっているのが、今。例えば、少量多品種の地元農家を応援する、そうした農家とつながるなどを意識してみてください。とはいえ大量生産を目指すフードシステムに頼っている人も大勢いますし、筆者もその恩恵を多く受けています。この矛盾の解決は非常に難しい。
(3)生産者と直接つながる
食糧生産者と直接つながることは非常に大切になっていきます。仲介者を通さないでも食品が手に入る環境を作ってください。
(4)自家栽培を始める
庭のちょっとしたスペース、あるいはプランターでの室内栽培でも構いません。なんでも良いので、自家栽培を始めてください。理想的には、自家栽培したものを物々交換ができるコミュニティに所属することでしょうか。
(5)生産地、あるいはその近くに住む
地方では今でも普通に「隣の畑でできた大根をもらってきた」ということがありますよね。首都圏レベルでも候補地は数多くあると思いますので、食糧生産地やその近くに住むことを考えてみてください。
(6)肉食を控える
これは環境負荷をできるだけ減らすためです。実際に、オランダでは大豆ミートなどの代替肉の個人消費が増えています。フードバレーでは「肉食を止めた場合に、補うべきタンパク質をどうやって摂るか?」という研究が進んでいます。
今後、革新的な食糧生産技術や輸送技術が生まれて、一気に食品価格が下がったり、輸送方法が劇的に変わる、というようなことがない限り、今回の食糧価格の高騰は、おそらく一時的なものではなく恒常的なもので、今よりさらに上がることも考えられます。
弊社でも野菜作りを始めたメンバーがいますが、本格的に食糧危機に備えておく意味で損はないのではないかなと思います。筆者も、春からは野菜作りを始めたいと思っています。