文:赤井大祐(FINDERS編集部)
業界を横断して取り組みが進む「コンテンツ認証イニシアチブ」
近年、画像や動画編集の技術が大幅に向上したことで、ネットで見かけるあらゆるコンテンツが“本物”なのか、編集を施した“フェイク”なのか、区別できないレベルにまで到達している。同時に個人レベルから国家関係レベルまで、編集技術があらゆるスケールで問題を起こす火種となっていることはもはや誰もが知るところだろう。
今回紹介する「コンテンツ認証イニシアチブ (以下CAI)」 は画像や映像を悪用したフェイク情報の拡散を防ぎ、デジタル認証を通じてコンテンツの権利を守るためにAdobe、Twitter、New York Timesの3社の主導によって立ち上げられた組織である。
この取り組みを推し進めるべく、Adobeが2022年10月開催の「Adobe MAX 2022」にて発表したのが、「コンテンツクレデンシャル機能」だ。端的に言えば「その写真はどこから来たのか」「その写真はどんな編集がされているのか」を確認できるものである。
例えばPhotoshopを使って2枚の写真を合成して、1枚のjpgファイルとして書き出す。それをTwitterなどのSNSにアップしたとしよう。SNS上でその画像をたまたま見かけた人は、当然画像が合成かどうか見た目で判断するしかない。ここまでが従来だ。
だがPhotoshop上で「コンテンツクレデンシャル機能」をオンにした状態で編集した画像であれば、先程のようにSNS上でたまたま見かけたという人がその画像をPhotoshopや、CAIのVerify(認証)サイトに読み込ませることで、「どの画像を使って」「どのように編集を施したか」を履歴として確認できる。
Verifyにてデモ画像(上)を検証すると、使用された画像と、そこにどのような編集が施されたかが表示される。制作ツールや制作者だけでなく、紐付けられたSNSアカウントもわかる
こういった取り組みを現在、カメラなどのデバイスメーカーやそれを支える半導体メーカー、ソフトウェアベンダー、メディア企業、ソーシャルプラットフォーム、クリエイター、学術研究機関、人権団体など800を超える組織が参加する団体となって進めている。
カメラ内でメタデータとして情報を付与
2022年12月13日に、カメラメーカーであるニコンがCAIとの取り組みとしてのコンテンツ認証のデモをAdobeと共に行った。
デモでは同社のフラッグシップ機、Nikon Z9に専用のファームウェアをインストールしたデモ機を使って実施された。このZ9によって撮影された写真には、撮影者、撮影日時、使用機材、場所、著作権者といった情報が、C2PA(※CAIから派生した履歴情報に関する技術の標準化団体で、ここで使われる技術はオープンソースとして公開されている)の基準に沿った形で付与される。
Nikon Z9
デモではZ9を使ってその場で会場を撮影。撮影データをphotoshopへと読み込み、Adobe Stockからダウンロードしたクマの写真とともに合成しpngとして書き出しをおこなう。そしてそのデータをVerifyサイトへとアップロードすると、それぞれ使用された画像と編集ツール、編集内容などが表示される。
カメラ→編集ツール→認証サイト、と、異なるデバイスやプラットフォームを通過し、ファイル形式が変わってもなお認証情報を保持することができている。そしてAdobe Creative Cloud上へ認証情報が保存されるため、改ざん等の検証がしやすい仕組みとなっている。
Z9で撮影した合成前の写真。撮影ツールとしてカメラの機種や予め登録された撮影者情報が表示される
見づらくて恐縮だがVerfiyサイトでの様子。左の赤枠には使用されたアセット(画像)が、右の赤枠には使用ツールや編集内容が表示される
課題点もまだまだ残されている。そもそも端から悪用しようという人がコンテンツクレデンシャル機能を利用することは考えづらいため、現状ではあくまでフェアユースを前提に、「こういう画像を作りました」という作業内容を証明できる情報を提供するための使い方までしか想定できない。もちろん「コンテンツクレデンシャル機能を使っていない」ことがフェイク画像であると疑う一つの判断材料にはなるが、これはこれで「機能を使ってないからこの画像はフェイクだ」と難癖をつけられるような新たなトラブルの種ともなりうる。
また撮影データを付与する際、カメラに搭載されたCPU上で暗号化などの計算処理を行うため、ハード側にもある程度のスペックが求められ、Z9へのファームウェアの実装時期も未定とのことだ。現状カメラメーカーでCAI及びC2PAに参加しているのはニコンの他、ライカのみであることに加え、スマートフォンへの搭載なくして現実的な問題へのアプローチとはなりづらいだろう。
とはいえまだまだ普及し始めであることに加えて、今後あらゆるデジタルデータの認証が可能となるよう取り組みを進めているということだ。あらゆる「フェイク」に対抗していくためには地道にアクションを重ねていくしかないだろう。