詐欺や窃盗、暴行など、日々巻き起こる事件の数々。大手メディアが追わない事件のその先を、阿曽山大噴火が東京地裁から徹底レポート。先の読めない驚天動地な裁判傍聴記を、しかとその目に焼きつけろ。これが法廷リアルファイトだ。
トップ画像デザイン:大嶋二郎
阿曽山大噴火
芸人/裁判ウォッチャー
月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。
文科省内の机の中から覚せい剤
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罪名 覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反
D被告人 無職の男性(44)
起訴されたのは3件。
1つ目は、今年5月27日頃に東京都内のD被告人の自宅マンションでフェニルメチルアミノプロパン(以下、覚せい剤)を含む水溶液を自分の体に注射で摂取した件。
2つ目は、5月28日にD被告人の自宅マンションで覚せい剤0.507gと乾燥大麻を含む植物細片1.052gを所持した件。
3つ目は、5月28日に東京・霞ヶ関の文部科学省で覚せい剤0.743gを所持した件。
文科省キャリアが覚せい剤を使っていて、職場の机の中に隠し持っていたということで大きく報じられた事件です。青少年の薬物乱用防止に取り組んでいる省庁に覚せい剤を持ち込むとは…。
D被告人が逮捕される約1カ月前には、文科省の斜め前にある経済産業省のキャリア官僚も職場で覚せい剤を隠し持っていたとして逮捕されたので、「霞ヶ関=覚せい剤」というイメージが固まった感じがありますかね。去年の年末には外務省職員も覚せい剤で逮捕されたニュースもあったし。
注目の裁判ということもあり、52席ある傍聴席は満席でした。ちなみに経産省の方の初公判は10席空いていたので、注目度はこっちの勝ち。
被告人は起訴状3つに対し、「間違いありません」と罪を認めていました。
検察官の冒頭陳述によると、D被告人は大学院を卒業後に地元の県庁で勤務。その後に文部科学省で働くようになったという。
2015年にはじめて覚せい剤を使い、2017年になると密売人から何度も覚せい剤を購入して使用していたとのこと。
そして、今年5月中旬。密売人から覚せい剤を購入し、5月27日に自宅マンションで使用して、残った覚せい剤はクローゼットの中に入れて保管。この時持っていた大麻はリュックの中に入れたという。
職場の机の方は、今年の3月か4月に購入した覚せい剤を保管していたらしい。
調べに対し、D被告人は「はじめて覚せい剤を使ったのは2015年で、2017年には常用していた。危険ドラッグを使ったこともある。仕事帰りに覚せい剤を使うこともあるので、職場に置いていた」と述べているそうな。
逮捕・起訴されたのは覚せい剤と大麻だけど、危険ドラッグにまで手を出していたとは。
検察官からの証拠は以上で、弁護人からは2つだけ証拠が提出されました。それは、今後の監督を約束する母親が書いた上申書と職場からの懲戒処分書。判決を待たずに仕事はクビになっているようです。
前科もなく、初犯なので誰かしら情状証人として出廷しそうなもんなのに、証人尋問はありませんでした。
職場イジメのストレスから逃避するため
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そして、被告人質問。まずは弁護人から。
弁護人「4年前どこで使ったんですか?」
D被告人「はじめては韓国です」
弁護人「違法ってわかってて、なぜ覚せい剤を使ったんですか?」
D被告人「旅先で気が大きくなってて、知り合いから誘われたということもありまして、断って嫌われたくないなと」
弁護人「では、日本で使うようになった時期は?」
D被告人「2年ほど前だと思います」
弁護人「なぜ日本でも使ったんですか?」
D被告人「その人が日本に来た際に使いました」
4年前に韓国で知り合った人が悪いヤツだったんでしょうね。なんとも、不幸な出会い。でも最終的には断ることもなく、自分の意志で覚せい剤を使ってたわけで、弁護人としてもその辺の動機について質問したんです。すると、衝撃的な事実が発覚してしまいました。
弁護人「2年前は使いたい気持ちもあった?」
D被告人「はじめて使った時は旅先の遊び心でしたが、2年前は職場で理不尽な扱いを受けていまして、それがきっかけです」
弁護人「理不尽って具体的には?」
D被告人「私は高校改革の担当部署で、打ち合わせのメールや会議の資料が私に送られてこなくて。上司からも部下からもまったく知らされず、でも対外的に私が答える立場でしたので、ストレスがたまって使ってしまって…」
どうやら職場でイジメにあっていたみたいですね。一応、イジメ防止対策を推進している省庁なのに。そして、何も知らないD被告人に問い合わせしてた人の立場って…。
そして、弁護人がこのニュースで最も気になる点を訊いてくれました。
弁護人「覚せい剤が職場でも見つかってるんだけど、職場でも使ってたんですか?」
D被告人「一切使っておりません」
弁護人「じゃあなぜ、置いてたんですか?」
D被告人「覚せい剤を入手してくれる知人と、一緒に使うこともあったんですが、お互い自前で用意しようねって言われてて、一旦自宅に取りに戻るのも。仕事が終わるのが遅いので職場に置いておきたいと」
さすがに文科省の中では使ってなかったようです。でも、残業が多くて仕事終わりが遅いことが、文科省内に覚せい剤という前代未聞の事件につながるとは。高校改革よりもやらなければいけない改革がありそうですね。
お詫びと反省も、意外な覚せい剤使用目的が発覚
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弁護人「逮捕されて、どう思いました?」
D被告人「これでやっとやめられるなって思いました」
弁護人「なぜ、やめられるんですか?」
D被告人「すべて話して、過去を精算して縁を切ろうと」
弁護人「取調べではすべてしゃべりました?」
D被告人「はい」
洗いざらい供述したから、冒陳の中で入手先とかの詳細が省略されていたのかもしれませんね。必要以上に追求しなくてもいいという判断でしょうか。
弁護人「今後違法薬物を使わないためにはどんな生活をしますか?」
D被告人「悪環境に近づかないために、仕事中心に規則正しい生活をしたいです」
弁護人「そのためにはどうしますか?」
D被告人「出会い系SNSで知り合った人の連絡先は消しましたし、裁判が終わったらケータイも変えます。あと、カウンセリングを受けて医師と家族と関係を築いていきたいと思います」
弁護人「病院は決まってるんですか?」
D被告人「裁判終わったら麻取の方が紹介しますと」
経産省の方は警視庁による逮捕で、本件は関東信越厚生局取締部による逮捕。ライバルとか仲悪いなんて噂もあるけど、麻薬撲滅のために競っている感じはいいことですよね。で、捕まえるだけじゃなく治療のための病院紹介というケアもしてくれてるんですね。
弁護人「今後、仕事は?」
D被告人「適度に仕事をこなしていきたいです」
弁護人「またストレスたまるのでは?」
D被告人「適度なストレスであればいいと思うので」
文科省では相当なストレスがあったという裏返しでもありますかね。
弁護人「職場に対して言いたいことは?」
D被告人「自業自得でこういうことになって、文科省の信頼を失墜させてしまい申し訳ないと思ってます」
と謝罪し、家族にも謝罪し、被告人質問は終了。無理して体壊すまで働いている人が国を支えているのかもしれませんね。もちろん覚せい剤に手を出す理由を正当化するものではないけど。
次は検察官からの質問です。
検察官「ストレスが原因だと。それだけですか?」
D被告人「もちろん、性的な楽しみも…」
という弁護人側からはまったく訊かれなかった質問から始まったんだけど、大麻所持の意外な理由が明かされたりした質疑応答の続きは次回。