Photo By Shutterstock
国連の特別報告者は今月22日、巨大IT企業GAFAのひとつとして知られる通販サイトAmazon.comのジェフ・ベゾスCEOの携帯電話がハッキング被害を受けたとされる問題で、サウジアラビアのムハンマド皇太子が関与した可能性があるとする報道声明を発表。重大な懸念を表明すると共に、関係機関による迅速な捜査の必要性を訴えた。
伊藤僑
Free-lance Writer / Editor
IT、ビジネス、ライフスタイル、ガジェット関連を中心に執筆。現代用語辞典imidasでは2000年版より情報セキュリティを担当する。SE/30からのMacユーザー。著書に「ビジネスマンの今さら聞けないネットセキュリティ〜パソコンで失敗しないための39の鉄則〜」（ダイヤモンド社）などがある。
携帯電話への攻撃にはスパイソフトが用いられた
AmazonのCEOの携帯電話をサウジアラビアの皇太子がハッキングするという、にわかには信じ難いニュースだったが、その発信元が国連だというのだからフェイクではなさそうだ。なぜ、そんなスパイ映画顔負けの疑いが生じたのだろうか。
朝日新聞の記事「アマゾン創業者の携帯ハッキング、サウジ皇太子が関与か」によると、その発端はベゾス氏が20年以上連れ添った妻と離婚するきっかけにもなった、米タブロイド紙による愛人関係の暴露記事にあったようだ。
ベゾス氏は、タブロイド紙関係者から脅迫を受けていたため、専門家を雇って、情報が漏れた経緯や動機について調査を実施。その結果、2018年5月に皇太子からメッセージアプリのWhatsApp経由で動画ファイルを受け取った数時間以内に、携帯電話から大量のデータの不正な引き出しが始まったことが判明したという。携帯電話のハッキングには、サウジアラビア当局が過去にも使用したことのあるスパイソフトが用いられていた。
皇太子がこのようなハッキング行為に加担した可能性を指摘する背景には、ベゾス氏が所有する米ワシントンポスト紙に、謀殺された記者、ジャマル・カショギ氏がサウジアラビア政府に批判的な記事を寄稿していたことがあるとされる。同国の大使館はこれらの報道を全面否定し、「疑惑は馬鹿げている」とコメントしているが。
あなたの携帯電話も狙われているかもしれない
ベゾス氏の携帯電話がハッキングされ、保存されていた機密情報や個人情報が漏洩してしまったのは、同氏が世界的企業の経営者だったからで、私たち一般ユーザーには関係のないことだと考えがちだが、油断は禁物だ。
ブルームバーグの記事「ベゾス氏のハッキング問題は携帯の脆弱さを露呈－フェイスブック幹部」によれば、ベゾス氏の携帯電話がハッキング被害を受けたとされる問題について、Facebookのバイスプレジデントであるニコラ・メンデルゾーン氏は、「スマートフォンのOSに根本的な脆弱性がいくつかあること」が今回、浮き彫りになったと指摘している。
ということは、誰もがハッキング被害に遭う可能性があるということだ。
実際に昨年11月には、「携帯が乗っ取られた、怖い」と語っていた岐阜県の会社員の武藤友加さんが勤務先に出社後行方不明になり、日本テレビのワイドショー「スッキリ」で取り上げられている。
ご家族によれば、失踪前に、SNS上でトラブルになって何者かにスマートフォンを乗っ取られてしまったと訴えていたという。精神的にも追い詰められ、スマートフォンを通して誰かに監視されている、会話を聞かれている、位置情報もバレていると怯えた様子で友人に語っていたようだ。
残念ながら、今月に入り武藤さんは川で遺体で発見されている。詳細は警察により伏せられているので、事件性があるのかどうかは分かっていないが、携帯電話のハッキングが悲劇に繋がった可能性も否定できないだろう。
最後に、ベゾス氏への攻撃で用いられたような、マルウェアによる携帯電話の乗っ取りを防ぐ方法を解説した、キヤノンマーケティングジャパンが運営するウェブメディア「マルウェア情報局」の記事「スマホのマルウェア感染はどうすれば防げるか？」を紹介しておこう。ここではAndroid端末向けの対策とされているが、「OSやアプリを常に最新バージョンにアップデートする」「不審なメールやSNSで紹介されているURLはクリックを避ける」などiOS端末と共通する内容も多いので、iPhoneユーザーにも参考になるだろう。