EVENT | 2019/04/24

現役自動車メーカー社員がビジネス成功のカギを考察!「CREW」始動後、国内シェアリング・エコノミーの行方は?

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近年、人々の動向が「所有」から「共有」に移り変わり、シェアリング・エコノミ...

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近年、人々の動向が「所有」から「共有」に移り変わり、シェアリング・エコノミーという言葉をよく耳にするようになって数年が経とうとしている。不確実かつ予測不可と言われているこれからの世の中で、果たしてシェアリングは本当に私たちの暮らしを豊かにしてくれるのであろうか?

やまどじん

フリーライター

ミレニアル世代、東京都出身。父の海外転勤により帰国子女として育つ。エンジニアとして自動車メーカーに就職し、グローバルに商品開発を幅広く担当。関心の高いテーマは、「イノベーション」「交通」「教育」など。

移動のためのシェアリング

身近でシェアリング・エコノミーの事例としてよく目にするのは、カーシェアリングやシェアサイクルがある。カーシェアリングは、1970年代にスイス都市部で自動車の維持が難しかったことから、車両を共有する概念が始まったことが起源と言われている。その後、1997年には国がカーシェアリング事業に乗り出し、各種整備を進めた。

結果、現在スイスは世界一のカーシェアリング普及率を誇り、人口当たりの会員数は約1.3%である。一方、日米に至っては、約0.4%程度。ただし、2020年に向けて、国内の市場規模の伸び率は4~5倍になると見られており、ベンチャー企業や大手メーカーも参入している状況だが、この普及率だけで見ると、カーシェアリングが主流のライフスタイルになるのは難しい。

一方で、シェアサイクルはより身近な存在として活用の場を見かける。都内のちょっとした移動や観光地での利用で広がりを見せている。このシェアサイクルだが、実は中国が2016年からスタートした「Mobike」や「ofo」が、短期間で爆発的に広がった事例がある。その数なんと、最大登録数約2憶人、登録台数3000万台……! 中国都市部の事情として、渋滞や大気汚染緩和のために政府主導で自動車の登録規制が行われており、庶民が容易に自動車を購入できないことも拍車をかけた。

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勢いに乗り、中国のシェアサイクルはさらに拡大すると思いきや、2018年にはあえなく失速。売りにしていた乗り捨てサービスによって、大量の不法投棄や故障車が放置されてしまい、対応に追われて経営が回らなくなったのだ。事の顛末がいかにも中国らしい。

シェアサイクルは、乗り捨てできなければ普及しないと言われていて、この乗り捨てによって生まれる車両の偏りは業界では当然の課題だ。坂のある地域では坂の下に自転車が集まり、観光地では有名な美術館に集まってしまうなどの問題の解決が必要とされていた。

昨今のカーシェア、シェアサイクルの様相を見ても、人々の「好きな時に好きなところに自由に移動したい」という欲求は、根源的なものだと実感する。それでは、どのような要素がシェアリング・エコノミービジネスを成功させる上で重要になってくるのだろうか。まずはインターネットが普及していない過去の事例から考えてみる。

実は昔からあった!身の周りの「シェアリング」

実はシェアリング・エコノミーという言葉がなかった昔から、人・モノ・スペースを共有することは日常的に行われてきた。たとえば、他人と裸の付き合いをする銭湯がいい例だ。かつて銭湯には公衆浴場ならではのルールが生まれ、銭湯をきっかけに人々はつながり、コミュニティが広がった。これを気持ちよく利用する重要なポイントは、誰が使っても不快にならないようなルールと信頼関係であろう。

これを現代にあてはめてみると、インターネットを使ったシェアリング・エコノミーというのは、見知らぬ相手への信頼をどのように構築するかがカギになると考えている。

シェアリング・エコノミーとは異なるが、このような信頼構築で成功している身近な例としては、野菜のECサイトが思い浮かぶ。消費者が安心して購入できるように、生産者の顔や農家の様子、野菜に込めた想いなどを共有している。消費者は、生産者の姿勢に共感することで購入に至っており、2020年度には、通信販売の売り上げが生協の売り上げを逆転すると言われるほどだ。

こうしたことからも、利用者から信頼を得るために、まずは共感を得て、気持ちよく利用できる仕組みを作るのが、今後のシェアリング・エコノミービジネスの拡大に向けて重要な要素になることがわかる。

それでは、今後のシェアリングの広がりについて考えてみよう。

新たなシェアリング・エコノミー「CERW」が登場し、今後の動向は?

すでにシェアリングは、車や自転車といった「モノの共有」だけでなく、民泊に代表される「スペースの共有」、さらには、特殊なスキルを持った人の「体験の共有」、クラウドファンディングのような「資金の共有」にまで広がっている。この中でも特に、「体験の共有」は先ほど述べた共感を得るためのもっとも重要な要素ではないだろうか。実際にAirbnbは、宿泊場所の共有だけではなく、ホストそれぞれのスキルを活かした「体験共有ツアー」をサービスとして提供しており、人気を集めている。

このような考え方に近いサービスが、カーシェアリングでも生まれている。その代表例が、ドライブ体験を共有するサービス「CREW」だ。これは2015年に、経産省の「始動NEXT INNOVATOR」というプロジェクトから生まれたもので、従来のただのモノの共有から、ドライバーのドライブ体験を共有できる新サービスとして関心が高まっている。

経産省が次世代イノベーションのキーパーソンを育成するプログラムで支援する、ドライブ体験の共有ができるサービス「CREW」。近くを走る誰かの車をスマホで呼んで同乗したり、マイカーに誰かを乗せたりすることができる。

既存のタクシー産業を守るために、Uberの国内への完全参入を抑制している日本が、経産省のプロジェクトとして「CREW」を選抜し、支援しているという点で、このサービスが世の中に出たことは非常に興味深い。「CREW」は国内発のサービスだが、スタートアップへの投資が他国と比較すると非常に小規模な日本としては、国が既存の枠組みに捕らわれず、積極的にベンチャーを支援していく強い意思の表れであろう。

「CREW」は、あくまでも趣味のドライブ体験を共有するという意味で、支払いは運賃ではなく、実費(ガソリン代・高速道路料金に加えてプラットフォーム手数料)+謝礼という形で任意に支払われるシステムを採用しており、謝礼は0円から設定可能だ。タクシーとは異なるサービスということではあるが、サービスが拡大すれば、いずれタクシー産業との対立は避けられないであろう。個人的には、タクシー業界がこのようなサービスを運用することで双方の問題点を解決できるのではないかと考えている。

いずれにせよ、シェアリングビジネスの成功のカギとなるのは、共感される体験と信頼性の構築を組み合わせて、新たな価値を生み出すこと。あらゆる異業界が組み合わさることで、今後のさらなるシェアリング・エコノミーの広がりに期待したい。