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文:岩見旦
年齢や障害の有無、性別、国籍などを問わず、すべての人が利用できることを目指したユニバーサルデザイン。誰でも持ちやすいように胴体の部分に凹みが作られたペットボトルや、シャンプーとリンスを触っただけで区別できるようにギザギザがついたボトルなど、私たちの身の回りにも溢れている。
このユニバーサルデザイン、フォントにも存在していることを知っているだろうか。
「これなら読める! 俺はバカじゃなかったんだ……」
タイプデザイナーの高田裕美さんは、支援者の方から聞いた話として、ディスレクシアの子どものエピソードを、自身のTwitterに紹介した。ディスレクシアとは、知的には問題はないものの、読み書きの能力に著しい困難を持つ発達障害(学習障害)だ。
ある時、支援者がディスレクシアの子どもに、高田さんのデザインしたフォント「UDデジタル教科書体」を見せたところ、これまで読めなかった文字を読むことに成功。その子どもは「これなら読める! 俺はバカじゃなかったんだ……」と、支援者とともに泣いて喜んだという。
高田さんは、劣等感を感じさせてしまうような書式環境について申し訳ないと感じるとともに、このフォントに巡り合ったことへの感謝を述べた。「障害は人がもっているのではなく、社会にある」ということを実感したという高田さん。
読みやすさを徹底的に研究したユニバーサルデザインのフォント
高田さんのデザインした「UD教科書体」とは、ロービジョン(弱視)、ディスレクシア(読み書き障害)に配慮した、読みやすさ徹底的に研究したユニバーサルデザインのフォントだ。
通常の教科書体のような筆書きの楷書ではなく、硬筆やサインペンを意識し、手の動きを重視。書き方の方向や点・ハライの形状を保ちながらも、太さの強弱を抑えたデザインとなっている。
UDデジタル教科書体 R/M/B/H
ユーザー評価に基づく、ユニバーサルデザインのフォントを科学的に検証している慶應義塾大学の中野泰志教授の実験により、「UD教科書体」は可読性に優れていることが実証されている。専門家もお墨付きのフォントだ。
デザインの力が世界を変える
3日に投稿された高田さんの上記のツイートは、現在2万リツイートを記録。「かなり見やすいフォント」「想像以上に読みやすくて良かった」「資料づくりに取り入れたい」などのコメントが寄せられた。
また、障害を持った家族がいる人からは「フォントを変えることで子どもの中で何か変わるなら、うちも試す価値はすごく大きいと思った」といった意見が挙がった。
文字を読むといった、私たちが日常特段気をとめていないところにハードルを感じている障害者が多数存在する。デザインの力でそのハードルを除く仕事は、非常に社会的意義があり、今後さらに求められるのではないだろうか。