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セグウェイジャパン社長が描く、人間とロボットの相関図【ブックレビュー】
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  • 2018.05.21
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セグウェイジャパン社長が描く、人間とロボットの相関図【ブックレビュー】

神保慶政

映画監督

1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏や南アジアを担当。 海外と日本を往復する生活を送った後、映画製作を学び、2013年からフリーランスの映画監督として活動を開始。大阪市からの助成をもとに監督した初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」は2014年に劇場公開され、国内主要都市や海外の映画祭でも好評を得る。また、この映画がきっかけで2014年度第55回日本映画監督協会新人賞にノミネートされる。2016年、第一子の誕生を機に福岡に転居。アジアに活動の幅を広げ、2017年に韓国・釜山でオール韓国語、韓国人スタッフ・キャストで短編『憧れ』を監督。 現在、福岡と出身地の東京二カ所を拠点に、台湾・香港、イラン・シンガポールとの合作長編を準備中。

http://y-jimbo.com/index.html

AIは何でも屋?

AI関連本ブームが巻き起こり、AI(と人類)の未来がどうなるかについて解説する本は多数存在するが、今回ご紹介する大塚寛『AIロボットに操られるな!』(ポプラ新書)は、「AIの使用目的を明確にし、使いこなすこと」に重きを置いて、人とAIがどのように共生すべきかを考察している。

タイトルにある「AIロボット」は、比較的身近な例を挙げるとGoogle Homeやルンバなどのことだ。Wi-Fi対応のルンバが、Google Home経由で人の声による音声指示を与えられると、その命令に従って自らの判断で動く。これが現在の代表的なAIロボットの活用例だ。

床掃除に特化したルンバが食器などの洗い物ができるかというと、現状はできない。利用者の中には「もっと便利な、掃除全般ができるAIロボットがいつか登場すればいいな」と願う人もいるかもしれない。だが、そうした“何でも屋”を望む姿勢は、本書で提唱されている「AIロボットと共存していく姿勢」に背いている。

そもそも、ロボットやそのテクノロジーは何のために存在するのか。大塚氏は定義が「なかなか難しい」と前置きしつつ、「ロボット」をこのように定義している。

「人間(社会)の“目的”をテクノロジーを駆使して最短でかつ効率的に実現してくれるもの」(P24)

本来テクノロジーとは人間の機能を拡張し、人間の負担を軽くするための手段であり、そうやって得た自由な時間を使って人間はイノベーティブなことをしたり、芸術を生み出したり、新しい仕事を生み出したりすることを続けてきました。(P6)

著者の大塚氏は、米国で開発されたセグウェイの日本での事業展開を手がけるセグウェイジャパンの代表取締役社長。「立ち乗り電動二輪車」などと呼ばれるセグウェイは、ロボットであるというのが著者の主張だ。セグウェイは人だけでなく、物も運ぶという目的のもとに進化を続けている。皆がロボットに対して上記の定義をイメージしていれば納得する可能性は高いが、まだまだロボットとしての認知は低く、規制緩和や法整備も追いついていないのが現状だという。

AIロボットが生み出す良いサイクルITEM

筆者を含む、この書評の読者の多くは技術者(AIロボットを創る側)ではなく、AIロボットの利用者だろう。最新のAIやロボット技術を知ることは、既存の業務の効率化、そして新しい仕事を産み出すことにつながる。例えば、一般レベルでもその技術発展が認知されている自動運転技術に関しては、長距離トラックの未来が語られている。

眠気と戦いながら何百キロ、何千キロもの距離を人間が運転し続けること自体にそもそもの無茶があったわけですが、歩行者のいない高速道路はイレギュラーなことが起きづらいので今の自動運転技術があれば問題なく走行できます。(P72)

こうすると、トラック運転手は仕事を失う。しかし、AIロボットをどのように使うかという目的がはっきりしていれば、手の空いた元トラック運転手たちをどのように活かすかという目的も思いつく思考的習慣はついているはずだ。本書では繰り返し、技術に対して「目的」を明確に持って発展させていくことが、AIロボットと人間とが共に存在を高めあっていく方法だと語られている。

すでに市販化されているオートネイルというロボット(サロン専用ネイルプリンター)があります。好きな画像を選んで指を固定すれば、ロボットが自動的にネイルを仕上げてくれるものです。おそらく女子高生にとってみればプリクラ感覚で楽しいでしょう。しかし知り合いの女性にいわせると、「ネイルサロンという空間で会話をしながら丁寧に爪を仕上げてもらうことに価値がある」とのこと。(P132)

オートネイルのロボットのAIは、残念ながら今のところそこまで自力で空気を読むことはできないが、顧客の意見を反映させ、その存在の目的をより明確にしていくことで進化していくはずだ。

また、実はセグウェイは「感覚的に乗れる」ということで男性よりも女性ユーザーに親しみを持たれやすいという。そのセグウェイの作り手ならではの視点で、この例以外にも書中では、男性と女性の「ロボット観」の違いにも触れられており、AIロボットを作る目的について理解を深められるようになっている。

目的さえ見失わなければ、AIロボットは「仲間」になる

怖れとは根深いもので、ロボットに抵抗感を持っている人のそれを取り払うことは一筋縄ではいかないだろう。たしかに、ロボット技術のさらなる発展と自動化の推進は、長距離トラックの例のように間違いなく人間の仕事を一定量奪うことになる。しかし、きたる日本の人口減少を考えると、その行く末のほうが恐ろしいかもしれない。超高齢社会と同時進行で多様化していく個々人のニーズに、事細かく答える技術が追いつかせていくことは、ひとつの広い意味での“目的”になるだろう。

盲導犬ロボット、なつかしい匂いを再現できるロボット、がん探知ロボット…本書で紹介されている未来の技術や構想を挙げればきりがない。たとえば声の分析によって、ストレスを目に見える形で表現しようとする試みが行われているという。

人のメンタルコンディションは副交感神経で脳と直接つながっている「声帯」に反映されます。そのため平時の声と比較することによって、気分がいいのか、落ち込んでいるのか、休息が必要なのか、といった定量化しづらい領域が可視化されるのです。いわばストレスを体温計のように測ることができるのです。(P113)

この技術によって、翌日の仕事を気にせず飲み会やデートが楽しめる「華の金曜日」のとある現象や、日曜の夜に憂鬱さを感じる「サザエさん症候群」に対して、すでに実証結果が出ているそうだが、その詳細は書中でご確認頂くとして、そうした技術がより具体的な目的のために利用される未来が形作られつつあるのだ。

マンガや映画の世界で見る自我を持った、主人公のパートナー、あるいは主人公そのものになり得るロボットは、現代のロボット技術では生み出すことができない。だが「人間が想像できることは、必ず実現できる」という格言通り、実現する未来は来るかもしれない。その時、現在最先端のロボットたちはただの家電にすぎない存在になってしまうかもしれないが、そうした物を人間が「想像した」という事実は残る。「想像できること」というのは、必ずしも技術に関してではなく、自分の生き方なども含まれているはずだ。AIを冷めた目線で見ている方にとっても、熱量をもって見ている方にとっても、本書はその温度を良い方向に変化させることができる一冊となっている。

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