CULTURE | 2023/05/26

『岸辺露伴』はどのように「ルーヴル」へ行ったのか。プロデューサーが語る制作秘話

© 2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATI...

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© 2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

聞き手:赤井大祐(FINDERS編集部)  文・写真:舩岡花奈(FINDERS編集部)

2020年12月に、高橋一生を主演に放送された『岸辺露伴は動かない』。同作は、シリーズ累計発行部数1億2千万部超を誇る荒木飛呂彦のコミック『ジョジョの奇妙な冒険』から生まれた同タイトルのスピンオフ作品を原作にした実写ドラマとして大きな話題を呼んだ。

それに続き、2009年にルーヴル美術館とフランスの出版社・フュチュロポリス社によるBD(バンド・デシネ)プロジェクトの参加作品として描き下ろされた『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』が、ドラマ版の制作陣を引き継ぐかたちで映画化。2023年5月26日より公開となった。

少々複雑な成り立ちの本作を劇場公開に導いたプロデューサーの井手陽子氏。今回の映画化に至る経緯やプロデューサーの視点から見る制作裏話、そして映画作りの喜びを交えながら、“プロデューサー”として『ルーヴルへ行く』を実現するまでの道のりがどのようなものだったかを聞いた。

井手陽子(いでようこ)

アスミック・エース株式会社映画事業本部 編成製作部 プロデューサー

主な担当作品は「マエストロ!」「君と100回目の恋」「羊の木」「長いお別れ」「サヨナラまでの30分」「さがす」など。今秋「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」「アナログ」の公開を控えている。

運命的な出会いだった“若き露伴”

―― 『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』はどのような経緯で映画化にいたったのでしょう?

井手:私はもともと『ジョジョ』シリーズのファンで、露伴が登場する『ダイヤモンドは砕けない』も読んでいました。ある日、『岸辺露伴は動かない』のキービジュアルの高橋一生さんをひと目見て、「これは間違いなく“岸辺露伴”だし、原作ファンも喜ぶ作品になる」と直感したのがきっかけでした。

年齢も見た目も原作と全く同じではないけれど、荒木飛呂彦先生や『ジョジョ』の世界観を見事に実写に落とし込んでいましたよね。そして若い頃に漫画を読んでいた上司たちも同意見で、弊社としても、この作品に何か関われることがないか、と考えました。

P.I.C.S.より

―― 『ジョジョ』は近年アニメ版も盛り上がっていますね。

井手:漫画だけでなく、アニメを通してさまざまな世代のファンが増えていることは肌で感じていました。親子でファンという方も珍しくありません。当初はドラマ版をいわゆるODS(非映画作品を劇場で上映する形式)として総集編などの形で上映したら、世代を越えたファン同士、一つの場を共有することで盛り上がるんじゃないかと思い、渡辺一貴監督と土橋圭介プロデューサーにご相談にいったんです。

―― 最初から劇場版を作ろうとしたわけではないんですね。

井手:そうですね。ですが実は渡辺監督がドラマ版の制作を始める頃から『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』を映画化したいという思いを持っていたことを伺ったんです。私たちとしてはまずはODSでと考えていましたが打ち合わせを重ねる中で、劇場版にチャレンジしようということになっていきました。

© LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

―― 本作はドラマ版の世界観を強く踏襲した作品ですが、映画版ならではの魅力を教えて下さい。

井手:『岸辺露伴は動かない』は一話完結型で、毎回露伴が奇妙な体験に遭遇し、その謎に挑むというような作品ですが、『ルーヴルへ行く』は「黒い絵」の謎を追うことで露伴が自身の過去と対峙していくという物語です。ドラマ版を楽しんでいただいた後であれば、よりキャラクターのルーツに迫っていく面白さを感じていただけるかと思います。もちろんドラマ版を観ていない人にとっても、一つのサスペンス作品として楽しめるものになっています。

もう一つ、キャスティングにも注目いただければと思います。ドラマ版でおなじみの、岸辺露伴を演じる高橋一生さん、露伴の担当編集者である泉京香役の飯豊まりえさんはもちろんですが、『ルーヴルへ行く』から登場する俳優の方々も、これ以上ないハマり役ばかりだと感じています。

© 2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

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特に作品でも重要な位置づけとなる、藤倉奈々瀬役の木村文乃さんと若かりし頃の露伴を演じていただいた、なにわ男子の長尾謙杜さんは、二人以外には考えられないキャスティングだったと思います。木村さんの演じる奈々瀬という役は、すごく難しい役柄ですが、妖艶な雰囲気や露伴を振り回していく様も、原作の持つ魅力そのものが現れているのではないでしょうか。また、長尾さんは大のジョジョファンですが、実はキャスティングの相談をするまでそのことを知りませんでした。監督がイメージに合う人を画像検索でひたすら探し続け、たまたま見つけたからという(笑)。めぐり合わせという他ありませんね。

© 2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

他局の放送作品に出資した意外なテレビ局

―― 今作は実際にパリのルーヴル美術館で撮影されたとのことですが、この場所で撮影を行った映画作品はとても少ないですよね。

井手:はい、それほど多くなかったと思います。今作は、そもそもルーヴル美術館で撮らないと成立しない企画でした。なので撮影の許可が降りなければ作品は完成しません。どうにかして撮影許可を得ないといけませんでした。

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―― 交渉はどのように進めたのでしょう?

井手:制作プロダクションの1社であるNHKエンタープライズさんが交渉を担当していましたが、かなり大変でしたね。交渉の途中なのに「バカンスに入るから」と2カ月全く連絡が取れなくなってしまったりとか。でも担当の方の粘り強い交渉で、なんとか撮影許可をいただけました。これだけでなく、昨今の円安の影響などもプロデューサーとしては頭が痛かったです。

―― なるほど。映画制作にまつわるお金の管理はプロデューサーの大きな仕事の一つですね。

井手:制作費の調達を含めた予算管理はやはり重要な仕事です。本作はいわゆる製作委員会方式で制作費を集めているため、必要な予算を集めるために、出資社を見つけなければなりません。

―― 出資社はスムーズに集まったのでしょうか?

井手:出資営業をしていく中で、大部分は見えていたのですが、一部どうしても足りなかったんです。そうした中で、ご相談に行ったのがテレビ東京さんでして。

―― ドラマ版の放送局とは別のテレビ局からの出資というケースもあるんですね。 

井手:そう頻繁にあることではないと思います。ですが、多くの方がイメージするように、テレ東さんってテレビ局の中でも独自の考え方を持っているというか、ある種「面白さ」に非常にストイックな局じゃないですか。今回も「作品の面白さ」に期待していただき、快く応えてくださったんです。テレ東さんの存在はとても大きかったです。

「まだ間に合う」

© 2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

―― そもそもドラマ版のODS上映企画にはじまり、最終的にルーヴル美術館での映画撮影に至る。当初の予定や計画からズレながらも、ものづくり、ひいては仕事を完遂する楽しみはありましたか?

井手:映画製作の過程では度々大きなハードルが現れます。途中で止める理由を探そうと思えばいくらでも見つかるんです。でも、渡辺監督の「いつか『ルーヴルへ行く』を映像化したい」という思いや、もっと遡れば過去に原作の『ジョジョ』を読んで強く心を動かされた自分たちがいる。そういった思いを引き受け、スタッフみんなでもっと良いものにするにはどうすればいいのかを考えていくのは、とても楽しい仕事だと思います。

ーー ハードルも、ものづくりの過程の一つとして楽しむんですね。

井手:私の好きな言葉は2つありまして、一つは「一期一会」。絶対に一人では作ることのできない映画という形式だからこそ人との出会いはとても大切にしています。そしてもう一つが、「まだ間に合う」です。

―― 「まだ間に合う」。

井手:どんなピンチでも「まだ間に合う…!」って思うと大概のことは巻き返せるんですよね。根性論と言われればそうかもしれないし、ぶっちゃけ“開き直る”に近い感覚かもしれない。昔、仕事で「本当にヤバい…」みたいな状況になっていたときに、とある音楽プロデューサーの方に「困ってるの?いい言葉を伝授してあげるよ」と教えていただいたんです(笑)。

世間的なイメージとして「プロデューサーはお金のことばかり考えている人」と思われることもありますが、どんなプロデューサーでも絶対に「作品を良いものにしたい」という思いを持っています。やっぱりものづくり、クリエイティブは、時間があればあるだけ深堀りできる部分があります。ただ時間と予算には限界があります。そういった制約の中でギリギリまで良いアイデアを実現するためにも、クリエイターやスタッフの方々を信じて制作を行う上で、「まだ間に合う」は大切にしている言葉です。

© 2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

―― ビジネスと制作のちょうど中間的な位置にいるプロデューサーだからこそ伺えた言葉でした。では最後に改めて映画の見どころをお願いします。

井手:ファンの方々はご存知の通り、『ジョジョ』の世界には西洋美術の作品や思想からの引用などが無数に散りばめられています。そして今回、そんな西洋美術の殿堂とも言うべきルーヴル美術館を舞台に映画の撮影を行いました。『岸辺露伴』という作品にとっても、ドラマでは味わえない、なにか特別な時間が生まれたと感じています。

そして映画の美術の一部としての「ルーヴル美術館」を是非楽しんで貰えればと思います。館内に展示された作品や建物、柱一つとっても、CGでは再現することのできない、歴史の深みを感じ取っていただけるのではないでしょうか。キャストの方々や物語とともに、大きなスクリーンで観ていただけると嬉しいです。ぜひ映画館に足を運んでみてください。


『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 5月26日(金)全国ロードショー