Forbesによると、若者に人気のアプリ「Tik Tok(ティックトック)」を運営する中国のIT企業「Bytedance Technology(バイトダンス・テクノロジー)」が、新たな資金調達によって8兆円(700~750億ドル)企業になろうとしているという。これが成功すれば、現在、世界で最も企業価値の高いスタートアップ企業である「Uber(ウーバー)」の680億ドル(7.5兆円)を抜いて一躍トップに躍り出ることになる。(※1)
中国のIT企業というと、潤沢な資金力を背景に積極的に海外進出を進めている印象があるが、そのほとんどはハードウェア系の企業で、ソフトウェア分野で世界規模の成功を収めた例はまだ少ない。特に、日本における成功は困難とされている。Tik Tokは、その数少ない成功例の1つだ。
(※1)Forbes JAPAN「Tik Tok運営の中国企業、企業価値「8兆円」でウーバーを突破か」。
文:伊藤僑
Tik Tokは中高生に人気の高い動画共有サービス
日本でも中高生を中心に人気を集めているTik Tokだが、ビジネスユーザーの間ではピンとこない人も少なくないようなので、少し解説しておこう。
Tik Tokは、15秒のショート動画を撮影し、加工して投稿することができる動画共有サービスだ。楽曲に合わせて歌うフリをする“口パク動画”(リップシンク動画)が人気を集めている。
振り付けがシンプルで、誰にでも簡単にクールな動画を作成できることが人気の秘密と言われ、TwitterやInstagramでシェアされることも多い。なので、Tik Tokユーザーでなくても、目にする機会は少なくない。

App Storeの「Tik Tok」紹介ページ。
「女子中高生と動画サービスに関する調査」(プリキャンティーンズラボ・2018年5月)の結果を見ても、Tik Tokの人気の高さが分かる。
「動画を視聴したことのあるSNS」では、LINE(中学生75.1%、高校生54.2%)、Twitter(中学生50.5%、高校生63.8%)、Instagram(中学生40.9%、高校生52.8%)に次いで人気が高い(Tik Tokは、中学生46.8%、高校生25.5%)。特に中学生ではInstagramを上回り、Twitterに迫る勢いだ。
「動画を投稿したことのあるSNS」でも、LINE(中学生46.2%、高校生31.0%)、Instagram(中学生23.1%、高校生36.5%)、Mix Channel(中学生24.0%、高校生16.2%)、Twitter(中学生23.7%、高校生38.0%)、Tik Tok(中学生17.5%、高校生5.9%)という順位。やはり中学生からの支持が高い。
これまで日本では支持を得ることが難しいと言われてきた中国企業の開発・運営するSNSが、ここまで人気を集めるようになったのは何故なのだろうか。
Tik Tok成功のカギは日本市場に合わせた緻密な戦略
香港・フェニックステレビは「Tik Tokはなぜヒットしたのか」というコラムの中で、成功の理由について、「日本市場でサービスを展開する際に、日本文化への理解も深い人材を確保し、大きな権限を現地の責任者に与えたことが考えられる」としている。(※2)
また、マーケティング面でも日本の特性を活かした戦略を展開。日本人に馴染みのある楽曲を導入したり、恥ずかしがり屋の日本人でも取り組みやすい、複数で踊る簡単なダンス、手の動きだけで踊れるダンスをプッシュするなど、工夫を凝らしている。
日本市場のルールにのっとった上で、テレビ局や芸能事務所に何度も足を運んで良い関係を築いてきたことも大きかったようだ。
(※2)レコードチャイナ「日本で成功するには「態度」が必要、中国のTik Tokは現地に溶け込み人気に―中国コラム」。
日本・中国だけでなくアジア各国でも大流行
2016年に競合サービスであった「musical.ly」を買収しTik Tokに統合したことで、今やユーザー数は1億人を超えると言われるTik Tok。その人気は日本・中国だけに止まらず、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン、マレーシアなど、アジア圏に広がり、各国のApp StoreやGoogle Playで1位を獲得している。
世界規模の視野で考え、地域視点で行動する「グローカルな世界戦略」を展開する同社の勢いは、今後ますます加速していくことだろう。
Bytedance TechnologyはTik Tokの他に、2億6,800万のユーザー数を誇るニュースアプリ「今日頭条(Jinri Toutiao)」や、月間アクティブユーザーが5億人に達するTik Tokの中国国内版「抖音(ドウイン)」(Musical.ly含む)、2,000万人が利用するジョーク共有アプリ「Neihan Duanzi」などを運営しており順風満帆に見える。
ただ、同社のジョーク共有アプリ「Neihan Duanzi」が中国政府の怒りをかって一時配信停止に追い込まれるなど、中国政府の方針次第でアプリの運営に影響が出ることも考えられるので、不安材料がないわけではない。