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安い!そしてカッコイイ!ハイテク「義手」の開発合戦
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  • 2018.07.11
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安い!そしてカッコイイ!ハイテク「義手」の開発合戦

『メタルギアソリッド』シリーズのスネーク、『デウスエクス マンカインド・ディバイデッド』のアダム・ジェンセン、『鋼の錬金術師』のエドワード・エルリックといったアニメやゲームのキャラクターに共通するものと言えば何かおわかりだろうか。ピンときた人は相当ポップカルチャーに詳しい人だろう。そう、これらのキャラクターは皆、義手や義足といった「義肢」を装着しているのだ。

ロボット工学やAI分野の研究・開発スピードが加速していることと連動し、我々の想像以上の速さで義肢分野も進化を遂げている。人間の能力をテクノロジーで強化する、「人間拡張(Human Augmentation)」なる言葉を最近良く耳にした人も多いのではないか。欧州や北米といった、いわゆる先進国の大学や企業が単独または共同で、最先端の義手や義足の研究・開発競争に邁進している

文:6PAC

イギリスの『ヒーロー・アーム』はスタイリッシュなカバーも開発

まずは欧州の状況から見ていくとしよう。イギリスのブリストルに本社のあるスタートアップ、オープンバイオニクス社は『ヒーロー・アーム(Hero Arm)』というスタイリッシュなデザインの3Dプリンタ製義手を、イギリス国内でのみ販売している。

筋肉が発する電気信号を読み取り、実際の手のようにモノを掴んだりできる筋電義手(バイオニック・ハンド)と呼ばれる『ヒーロー・アーム』の重さは150グラム以下と軽量だ。対象年齢は9才以上で、価格は約5,000ポンド(約73万5,000円)で、日本では最低でも150万円以上すると言われているため、その半額といえる。補綴診断を受けたユーザーは自分の体に合わせて、サイズや色をカスタマイズできる。

カスタマイズ用のカバーは119ポンド(約1万7,300円)~399ポンド(約5万8,000円)という価格帯で発売されている。驚くことに、冒頭で紹介した『デウスエクス~』のアダム・ジェンセンモデルの義手まで取り揃えている。

オープンバイオニクス社のHPより

アメリカでは国防総省の影もちらつく

一方、北米では大学主導で研究・開発を進める事例が目立つ。ジョージア工科大学のギル・ウェインバーグ教授のチームが研究・開発を進めるのは、楽器の演奏を可能とする筋電義手。音楽家でもあり、新しい楽器の発明家でもある同教授の専門は音楽テクノロジーだ。事故で右腕を失ったため、同大学から筋電義手の提供を受けているジェイソン・バーンズ氏がピアノを演奏する動画を、2017年末に公開している。

義手が映画『スター・ウォーズ』のルーク・スカイウォーカーが装着したものに似ていることから、「Skywalker Hand」というタイトルが動画に付けられ話題となった。「Skywalker Hand」は超音波技術によって、義手ユーザーの指の動きをセンサーで感知して動かすという仕組みだ。

また、米国防総省から長年に渡り、豊富な資金援助を受けているのが米メリーランド州のジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所だ。

ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所のHPより

同研究所では、筋電義手からさらに1歩先を行った、義手ユーザーの脳と連動してユーザー自らの意志により指や手を動かすことができる義手の研究・開発を進めている。2005年に左手を失い、同研究所から義手の提供を受けているジョニー・マシーニー氏が、自らの意思で『アメイジング・グレイス』をピアノ演奏する動画が最近公開された。

日本でもスタートアップや大学が活躍

日本ではexiii(イクシー)というスタートアップが『ハックベリー(HACKberry)』という筋電義手を2015年に発表している。設計図をオープンソースで公開しているので、3Dプリンタを使えば誰でも安価に筋電義手を自作できる。

また、今年に入り、横浜国立大学、電気通信大学、国立成育医療研究センター、東海大学医学部付属病院、NPO法人電動義手の会が共同開発した「学習機能を有する筋電義手」が、厚生労働省義肢補装具等完成用部品の指定を受けたと発表。これにより、国産の筋電義手としては初めて購入・修理にあたって自治体の補助金が受けられるようになった。

* * *

義手の研究・開発を進める企業の方向性は、エンターテイメント寄りであったり、軍事寄りであったりと、それぞれが違う方向を見ているので興味深い。ただ、これまでのテクノロジーの歴史を振り返ると、インターネット、携帯電話、GPSなど本来軍事用の技術だったものが、民生に転用されるケースが多い

ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所などは、出資者である米国防総省のリクエストに応えるための兵器化が最終的な目標だったりするのではないか。人間の思考で操れるロボット兵器、身体を欠損しても戦闘を継続できるパワードスーツなど、古今東西のSF作品で登場したさまざまな方向性がありえるだろう。

戦場で負傷した兵士に義肢を支給する制度のためだけの研究・開発であったら、もしかしたら国防総省は出資していなかったかもしれない。そう考えると、これまでアニメやゲームといったポップカルチャーの中での話だったものが、本当に現実となる日がもうすぐそこまできているのかもしれない。

もしこれからの未来に、ロボットや人間拡張兵器が軍の主力を占めるのだとしたら、まさにディストピアかアポカリプスといったところだろうか。


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