ITEM | 2018/06/11

大量の仕事を「3分」でこなしきる極意【ブックレビュー】


神保慶政
映画監督
1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏...

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神保慶政

映画監督

1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏や南アジアを担当。 海外と日本を往復する生活を送った後、映画製作を学び、2013年からフリーランスの映画監督として活動を開始。大阪市からの助成をもとに監督した初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」は2014年に劇場公開され、国内主要都市や海外の映画祭でも好評を得る。また、この映画がきっかけで2014年度第55回日本映画監督協会新人賞にノミネートされる。2016年、第一子の誕生を機に福岡に転居。アジアに活動の幅を広げ、2017年に韓国・釜山でオール韓国語、韓国人スタッフ・キャストで短編『憧れ』を監督。 現在、福岡と出身地の東京二カ所を拠点に、台湾・香港、イラン・シンガポールとの合作長編を準備中。

大事なのは仕事を速くこなすことではなく、減らすこと

働き方改革の是非が問われるようになって久しい。「改革しよう!」と言われると、システムを抜本的に変えていくような規模の大きさをどうしても感じてしまい、そうした方向性への関与そのものを躊躇してしまう人も多いだろう。

岡田兵吾『すべての仕事を3分で終わらせる 外資系リーゼントマネジャーの仕事圧縮術』(ダイヤモンド社)は、それとは真逆のミクロな視点で、自分の心の持ちようから働き方を再考することを読者に提案する。

著者は日本だけではなくシンガポール・アメリカを拠点に業務・ITコンサルタントなどのキャリアを重ね、現在はマイクロソフトシンガポールのシニアマネージャーを務めている。資源を自給できないシンガポールでは、経済成長を果たすべく世界中から人材を登用する実力主義が浸透している。題名にある通り、仕事を「圧縮」するという視点も、そうした環境で著者が磨きあげていったものだ。

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仕事のスピードを上げるには、3つの方法が有効です。

「仕事を減らす」という内容が二度繰り返されていることから自明の通り、本書では作業スピードをアップすること(仕事の効率化)よりも、どのように仕事量を減らすことが可能かという方法論に焦点があてられている。

ある日、どうしてもこの日だけは頼むと部下に残業をさせた著者は「次残業させたら辞める」と迫られたという。日本での残業に対する常識は通用しない。そうした環境下において、まずは「3分」という時間で集中して「やるべきタスクやこなす順番がすぐに思い浮かべられるか否か」を判断する。すぐできることはその場でやってしまう、リサーチが必要だったり時間のかかりそうな作業はそのための期限設定や取るべきアクションを決めておくなど、どのように仕事を「圧縮」することが可能かどうか著者は考えを深めていったのだ。

仕事を減らすのに大事なのは、一旦全部やってみること

書中のデータによると、シンガポール人夫婦の共働き率は2015年時点で84%だという。彼らが働き詰めの生活を送っているかというと、実際そうではないようだ。

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たとえば、ハーバード大卒でマイクロソフトシンガポールにて最年少ディレクターであった私の元上司は、1日600通を超えるメールをさばいて部署をマネージしながらも、定時には帰っていました。しかも子どものお迎えをして、一緒に夕飯を食べて、寝かしつけていました。(P41)

一見超人的な才能の持ち主のように思えるかもしれない。しかし、逆説的なようだが、このように色々なことを効率よくやってのけるコツは、量を度外視して、やりたいと考えていることを全て始めてしまうことだという。仕方なくやらなければいけないことではなく、「やりたいこと」である。そうすると良いサイクルが生まれ、無駄が自然と省かれていくというのが、著者の考える「圧縮」のロジックである。

布団圧縮袋のように既存のものに体重をかけて容積を縮めるのではなく、時には失敗をして経験を積み、心の中に良いサイクルをつくることで「圧縮」が可能になる。そして、それを重ねることによって、3分という時間もまたどんどん濃密な時間になるのだ。

自分のサイクルに他人を巻き込んでいくこと

個人が生み出すポジティブなサイクルは、自然と他人をも巻き込んでいくものだ。締め切りギリギリになってラストスパートをかけるのではなく、3分のサイクルをもって最初から全力で追い込みをかけていく。そうすると、他者にする提案も異なってくる。

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ミーティングや打ち合わせの場合は、事前に自分が提案したい検討案を用意します。大切なのは、可能な限り多く用意することです。

二者択一でもなく「松・竹・梅」のような形で、最低三案用意することを著者は推奨する。この場合も、「三案用意しなければいけない」ということではなく、「自然と三案思い浮かぶ」というようなマインドセットをどのように保つことができるかということを、本書は話題にしている。

もちろん、著者も努力無しでそれが最初からできたわけではない。シンガポールで働き始じめて1年半経ったタイミングで、仕事だけでもキャパオーバー気味な中、さらにMBAに通い始めた著者は、仕事もプライベートも涼しい顔で充実させて過ごしているクラスメートに衝撃を受け、恥を忍んでその秘訣を聞いたという。

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「プライベートでのタスクも作業として考える」というスタンスは、仕事とプライベートは別なものとして考えた場合、非常に冷淡なものに思えてしまうかもしれない。しかし、プライベートも仕事も全て自分が生み出すサイクルの内にあるという理解をすれば、上記のマインドセットの温かみを理解することができるだろう。

3分ごとに決断の機会があるような仕事のしかたを目指す

ここまで、本書のタイトルにある「3分で終わらせる」という言葉について、額面通りにではない形で読み取る思考方法をご紹介した。つまり、著者が伝えたいのは「3分であらゆる仕事を片付ける方法」ではなく「3分ごとに決断が必要なようなエキサイティングな仕事を、自分とまわりの人々で作っていく方法」なのだ。

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これは私がメンターに教わった言葉ですが、「人は自分が思っている以上に、ちゃんと見てくれている。だからこそ、人のためになる行動をとっていれば、たくさんの助けを受けることができる」のです。(P190)

自分をうまくコントロールできると、他人の力をうまく借りられるようになる。効率よい仕事方法を模索中の方も、自分のスタイルがある程度確立しているという自身がある方も、ぜひ本書から3分という時間の長さに考えを巡らせてみてほしい。