ロックバンド・くるり主催の野外音楽イベント「京都音楽博覧会2019」が2019年9月22日に京都・梅小路公園で開催。今回は17年ぶりに再結成したNUMBER GIRLの出演でも話題になった。
京都音博は環境保全への取り組みも積極的で、今回はリユースカップと公演の芝生整備を目的に目標400万円のクラウドファンディング サービス「Readyfor」で実施。目標金額が期限内に集まらないと全額返金となる、All or Nothing というルールで行われた。結果的には目標を上回る439万8000円の支援が集まった。
京都音博のTwitterを前日まで見ていて、達成できるのかどうか勝手にハラハラしていたが、最終日にどんどん支援が集まり、結果はめでたく上記の通りとなった。
これは多くの人たちがくるりや京都音博の「良さ」に共感した結果だと思う。個人的に京都音博に参加したことがあるが、芝生でビールやドリンク片手にライブを聴ける、良い意味での「ユルさ」が最高だった。
では改めてファンを支援に導いたその「良さ」って何なのか? 今回はそれを確かめるべく、クラウドファンディングのリターン(支援のお返し)の1つ「京都音博の裏側に前日に潜入!」ツアーに同行してみた。見えてきたのはくるりと京都音博の持つ「懐の深さ」だった。
文:平田提 写真(前日リハーサル):黒川直樹
写真(音博当日):井上嘉和 Pics by Yoshikazu Inoue
京都音博前日に、くるりのリハーサルを見学
京都音博はJR京都駅から徒歩15分の位置にある梅小路公園で2007年の第1回から毎年開催され、今回で13回目を迎える。2019年にはJR嵯峨野線・梅小路京都西駅が開業し、そこからなら徒歩3分で着く。
くるりのベストアルバム『TOWER OF MUSIC LOVER』のジャケットにもなっている京都タワーはJR京都駅すぐ。
梅小路公園は京都市民の憩いの場となっており、当日も子供連れのファミリー層が遊具で遊んだり、京都鉄道博物館のおみやげコーナーを物色したりする人が多くいた。梅小路公園からは電車もよく見える。ステージ左手に水族館のイルカが飛び、右手に新幹線が横切る、そんなフェスはなかなかない。
京都音博2019の「京都音博の裏側に前日に潜入!」は、くるりの演奏リハーサルの様子を見られる支援コースだった。Readyforのキュレーターによるお礼と案内が終わると、会場入りが始まった。
支援者は14名、1名許された同伴者も合わせると25人前後の人たちが参加していた。
繰り返し使える、ドリンク用のリユースカップ。クラウドファンディングのリターンの1つ。環境を意識した取り組みだ。
会場の設営はほぼ終わっていたものの、卑近な例なら文化祭の前日を思い出すような、心地よい緊張感を感じた。
音響、照明その他のスタッフのみなさんがリハーサル中も走り回っていた。
参加者が会場の指定された位置に並び終わると、くるりのフロントマン・岸田繁さんからクラウドファンディングの支援者にお礼の挨拶があった。
支援者にお礼を伝える、くるりのリードボーカル・ギターなど担当の岸田繁さん。
クラウドファンディングの支援者の皆さん。岸田さんの挨拶に聞き入っていた。
くるりの生演奏10曲をたった数十人で聴く
各楽器の音出しと音響の確認のあと、実際に翌日の京都音博2019で演奏するくるりのセットリストの通し演奏リハーサルが行われた。
ギター・ボーカルの岸田さん、ベースの佐藤征史さん、トランペットのファンファンさんのくるりメンバーの他、ドラム、ヴァイオリン、サックス(他)、キーボードなども含む9人編成だった。
通しリハーサルは『ワルツを踊れ』収録の「スロウダンス」でゆったりと始まり、続いてラップが印象的な「琥珀色の街、上海蟹の朝」で盛り上がり、ギターや口笛・コーラスが楽しい「キャメル」で聴いていた支援者全員が一つになった感があった。
4曲目の変拍子のとにかく「変態的な」曲「Tokyo OP」では曲の面白さと技術の高さが存分に楽しめた。
以降「JUIBILEE」「ばらの花」と名曲が続き、「ブレーメン」「ブルー・ラヴァー・ブルー」では弦楽器編成の音の厚みが最高に出て支援者もみな立ち上がっていた。
名曲「ばらの花」のときは、ファンみんなが目を輝かせていた。
アルバム『アンテナ』の1曲目の「グッドモーニング」でしっとりした後は、くるりメンバー3人でもう一度「キャメル」を演奏してリハーサルは終了となった。
リハーサルは16:30~19:00頃まで続いた。最後は拍手で締めくくられた。
セットリストは以下の通り。
1.スロウダンス
2.琥珀色の街、上海蟹の朝
3.キャメル
4.Tokyo OP
5.JUIBILEE
6.ばらの花
7.ブレーメン
8.ブルー・ラヴァー・ブルー
9.グッドモーニング
10.キャメル(くるりonly)
当日のセットリストはAppleMusic、Spotifyなどの各種音楽ストリーミングサービスでプレイリストとして聴くことができる。
音博のクラウドファンディングはなぜ支援されるのか?
リハーサルとは言えたった数十名だけでくるりの生演奏が聴けるなんて、確かに得難い体験だ。でもチケット代とは別で支援するというのは結構な思いがないとできることではないと思う。
そこでリハーサルが終了した後、参加者の皆さんにその思いを聞いてみた。
ある男性になぜ支援したのか聞くと「第1回から音博に参加してるんですけど、僕は初回でくるりのことを知ったんです。それ以来ファンになって。きっかけを与えてくれた音博にはずっと続いて欲しい。そう思って支援しました」と答えてくれた。
ではその京都音博ならではの良さって何なのだろう? 今度は別の参加者の女性が意見を聞かせてくれた。「京都の地元に根付いているのが良いですよね。落ち着いて芝生に座って聴けるのも良い。あと、終わったあとにこんなに会場がきれいなフェスって他にないんじゃないですか? 帰るときみんながゴミを拾ったり、そういう取り組みが良いなと思います」
「デビュー以来くるりのファン」という男性は「クラウドファンディング終了の1日前に目標額金額がギリギリ達成してないことをTwitterで知りました。少しでも助けになれば、と」語ってくれた。
岸田繁さんからのコメント
京都音博2019当日、ギターを弾き歌うくるり・岸田繁さん。
京都音博主催のくるり・岸田繁さんからもこのリハーサル後に以下のコメントをいただいた。
「面白い音楽なら何でもあり」な京都音博の懐の深さ
京都音博当日のくるりのステージ。
岸田さんのコメントにもあるように、京都音博は日本の若手バンドや海外の注目ミュージシャンの他に、大御所の歌手・音楽家も参加するのが特徴だ。
岸田さんは、くるり結成20周年を記念してバンドの歴史を語り尽くした書籍『くるりのこと』の中で音博についてこう語っていた。
そして第3回で演歌歌手・石川さゆりが登場し「津軽海峡・冬景色」を歌い出したときから状況は変わったと言う。それだけの誰もが知っている「本物」が登場すると、会場の一体感もより増し、周辺からの騒音のクレームも例年より少なくなったそうだ。
それぞれが信じる音楽、そこへの信頼の確度がしっかりしている「本物」が集まるのが京都音博なんだろう。「このバンド好きな人はこれも好きなんだろうな」とか「この商品を購入した人はこちらも見ています」とか、そういう昔からあるフィルターバブルや偏見を容易に超えていく人選。
台湾のシンガーソングライターCrowd Lu(クラウド・ルー)とかフランスの歌手・TETEとか、これまでの京都音博に参加したミュージシャンを、僕も今でもずっと追いかけて聴いている。
本物の音楽なら何でもあり。そういう、懐の深さが京都音博の良さじゃないか。
根幹にあるのは、くるり自体の懐の深さ
カメラマンさんに取材当日「くるりの良さってぶっちゃけ何ですか?」と聞かれ、僕は「ずっと変化し続けてるところ、じゃないですかね」と答えた。
京都音博2019当日のくるりメンバー、佐藤征史さん(写真上/ベース他)とファンファンさん(写真下/トランペット他)。
ノイジーでエレクトロニックかと思ったら、日本なのかアイルランドなのか分からない懐かしい風景が浮かぶ民族音楽調の曲になったり、ウィーンでレコーディングした管弦楽のアレンジになったり……くるりはアルバムごとに、あるいは楽曲ごとにアプローチを変えてきた。でも、聴き手として変わらないのは「次のくるりはどんな音楽を作ってくれるのか」という期待だ。「面白い音楽を作るために変化しつづける」という変わらない思いがくるりの根幹にあるんじゃないかと思う。
古今東西のいろんな音楽の影響をその音楽に反映し、変化し続けるこのくるりの姿勢が、京都音博の「懐の深さ」につながっているんじゃないだろうか。
そしてくるりが提供してくれる場なら、安心して身を委ねられる、参加して楽しいと分かる。そういう信頼感が今回のクラウドファンディングの支援者の皆さんの聞いても確実に存在すると分かった。
ここで新しい音楽を知り、あるいはここから新しい音楽が始まる。そういう期待感に溢れたイベント、京都音博がより広がり続いていくのを楽しみにしている。